確定拠出年金制度の運用実態に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300054A
報告書区分
総括
研究課題名
確定拠出年金制度の運用実態に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正雄(社団法人生活福祉研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 石田成則(山口大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
11,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
確定拠出年金は、従来の確定給付年金とは基本的に異なる制度内容・運営方法がとられていることから、制度の定着と適正な運営を早急に実現していくには、新たな見地からの基礎的な調査研究が必要であり、本調査研究は、運営管理機関サイドからではなく、加入者サイド・実施企業サイドからの制度運営への取り組みの実態を把握するためのものである。わが国では、国民が投資に慣れていないといわれており、どのような投資教育が行われているか、また、それによりどのような投資行動をとっているかを調査し、何が投資行動を決定させているかを研究することには、緊急の課題となっている。また、各企業等で実施されている投資教育の評価を分析・研究することにより、今後の加入者の年金資産の円滑な形成に資することが可能となる。
研究方法
確定拠出年金の実態とその課題を探るために、実施企業と加入従業員・個人に対して、アンケート調査を行った。このアンケート調査の趣旨は、確定拠出年金の導入実態を把握することであり、導入された年金プランの概要、投資教育や資産運用等の状況のほか、実務面に関する意見や要望などについて、実態調査を行った。実態調査は対象により、導入・実施企業に対する調査と、加入従業員・個人に対する調査に分けられる。企業調査では、原則として、全ての導入企業を対象としている。これに対して、個人(加入者)調査では、企業型加入者を年齢別に1,200人(対象100社程度)抽出し、また個人型加入者についても同様に400人ほど選んでいる。
結果と考察
回答数は、企業151社(回収率33.2%)、個人327人(27.3%)であった。まず、確定拠出年金導入前と導入後の投資教育について、その実施機関を比較すると、導入前教育については、「運営管理機関」83%が「自社」48%を上回っているが、導入後(新入社員)教育については、逆に「自社」66%が「運営管理機関」32%を上回っている。これを昨年度調査と比較すると、導入前教育について、「自社」の割合が低下し、「運営管理機関」の割合が急増している。これまでの投資教育に関する運営管理機関の経験・実績を、企業が積極的に利用していこうとする意向の表れと考えられる。次に、投資教育効果の把握状況については、「把握している」23%、「今後把握する予定である」35%であるのに対して、「把握する予定はない」37%となっており、「把握している」企業群では、圧倒的に確定拠出年金の退職給付に占める割合が高い。今後、確定拠出年金の退職給付に占める割合が高い企業では、投資教育効果の把握とそのフィードバック体制の構築が促進される可能性がある。また、「把握している」企業群では、平均掛金額も高く、またリスクをとった運用商品構成になっていることも判明した。投資教育の内容にも依るが、投資教育を充実させるとともに、その成果を把握する体制を確立していることが、加入従業員の積極的投資行動に結びつくことも考えられる。企業型加入者に関する調査を、昨年度調査と比較すると、まず投資教育の全ての内容、「制度内容」「資産運用方法」そして「運用商品」について、確実に理解度は上昇している。コールセンターの利用割合については1割から2割に、ウェッブ・サイトの利用割合については5割から6割に、上昇している。統計解析結果をみると、説明会の開催回数、時間または投資教育方法の選択など、企業側の働きかけよりも、性別や加入形態(一律加入、希望加入の別)などの個人属性により、運用商品の理解度が決定付けられている。また、確定拠出年金の掛金月額や導入後の退職給付に占める割合も直接的な影響をもっていない。一方で、投資教育の実施機関毎に運用商品に対する理解度
が異なることや、ウェッブ・サイトの利用経験者はやや理解度が高いこと、等が示された。さらに、運用商品選択においても、性別や既存の退職給付制度のあり方、そして加入形態などの、従業員の個人属性、企業属性の重要性が示唆された。ただし、個別の運用商品についてみれば、ウェッブ・サイト利用状況のほか、掛金月額や退職給付に占める確定拠出年金の割合なども選択行動に影響していると思われる。また、運用商品に関する理解度も、預貯金比率や債券比率を引き下げる一方、株式投資信託比率を引き上げる要因として作用している。
結論
わが国では、米国などに比べ国民が投資に慣れていないといわれており、どのような投資教育が行われているか、また、それによりどのような投資行動をとっているか、何が投資行動を決定させているかを把握する必要性があり、各企業等で実施されている投資教育の成果を分析・確認することにより、今後の加入者の年金資産の円滑な形成に資することが可能となる。そのため、全般的な投資教育成果の把握とそのフィードバック体制の整備や、ウェッブ・サイトの利用経験を高める工夫を凝らすこと、等が求められる。そして、確定拠出年金をめぐり労使間の情報交換が活発化されることにより、「非課税限度額の引上げ」、「マッチング拠出」、「脱退一時金のあり方」、「過去の企業年金資産の個人型への移換」そして「加入者対象者の拡大」といった課題が解決される必要がある。

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