若者の将来設計における「子育てリスク」意識の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300043A
報告書区分
総括
研究課題名
若者の将来設計における「子育てリスク」意識の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山田 昌弘(東京学芸大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年ニューエコノミーの影響によって、若年男性の現在の雇用自体が不安定となり、また、将来の雇用や収入の「予測」が立てにくくなる。更に、若年女性の就労条件も悪化する。その結果、子どもを産み育てながら豊かな生活を送ることに「不安」を感じる若者が増えたことが、近年の少子化・深刻化の原因ではないかという仮説の実証を目的とする。
研究方法
本年度(平成15年度)は、大規模な質問紙調査を実施した。大都市部の東京練馬区と地方都市で農村部が多く残り、研究協力の得やすい青森県弘前市にに調査地点を設定した。調査の目的から、子育て期にあたる25-34歳の若者に対象を設定した。
調査内容に関しては、若者の職業状況と結婚の条件、予定する子ども数、将来の生活設計意識、親子関係、社会意識、政策への期待、妊娠先行型結婚への評価を項目として用意し、調査票を作成した。調査内容作成に当たっては、平成14年度のインタビューによる若者調査の結果を参考にした。
青森県弘前市においては、羽淵弘前大学助教授のもとに、ランダムサンプリングを行い、9月から10月にかけて、弘前大学学生を調査員として、1000サンプルの訪問留め置き調査を行い、444人の有効回答を得た(回収率44.4%)。東京都練馬区においては、調査を輿論科学協会に、調査依頼、回収を委託した。12月に実施され、1200サンプルに対して、609票の有効回答を得た(回収率50.8%)。調査結果に基づき、研究協力者と共に若者の実態、意識をを分担して分析した。
結果と考察
①実態として、若年男性の職業は不安定になっている。職が不安定な男性は、結婚相手として選ばれにくい。②たとえ、雇用が安定している男性(夫をもつ女性)でも、将来の雇用や収入の面の見通しがたたず、将来生活に不安を感じる人が多くなっている。将来生活に不安を感じている既婚者は、追加予定子ども数が少なくなっている。③女性の就労状況も不安定であり、男性の雇用や収入の不安定化を補うものになっていない。また、家庭の経済責任は夫であるという意識が依然強い。④子育てにかけたいと思っている費用、手間は高水準である。①-④の結果、結婚生活や子育て生活にリスク意識(人並みの生活が出来なくなる危険性)を感じている若者が増えている。その結果、結婚や出産を先送りする傾向が強まり、少子化が深刻化する。今回は、大都市(東京練馬区)と地方(青森県弘前市)を比較し結果、次のような知見を得た。⑤大都市では、雇用状況が比較的良好で、収入の高い男性は多いが、生活費が高く、共働きがしにくい。一方、地方では、生活費が安く、親同居率が高く、共働きがしやすいが、男性・女性共に、雇用状況(賃金、正規雇用比率)は悪い。その結果、東京では、雇用が安定している男性の夫婦と、未婚の男女との格差が大きい。一方、地方では、結婚への敷居は低いが、既婚者の生活の不安定度は高い。大都市部と地方では、少子化対策のあり方を変えた方がよい。
結論
若者の職業の不安定化が進んでいる。非正規雇用につくものだけでなく、正規雇用につくものであっても、将来の雇用や収入に対して不安を抱いている。その結果、フリーターに象徴される不安定な雇用に就く男性は結婚の見通しがまったく立っていない。特に、生活費用がかかる大都市部ではその傾向が強い。女性も十分な収入をもった男性に出会う確率が低下するために、結婚しにくくなる。それは、依然として、男性が一家の生活の稼ぎ手であるという意識が残る上に、女性の就業状況も男性以上に悪化しており、夫婦共働きで相当の収入という見通しも立たなくなっているからである。結婚している夫婦も、将来の生活の見通しに対して悲観的になっている。その結果、追加して子どもを持とうという意欲が減退している。
若者に対する今回の調査結果によって、若者の就業状況の不安定化と少子化の進行にに一定の関連性があることが確認された。更に、少子化の原因は、経済・社会状況の変化によって年々変化し、地域の特性によって異なり、単一の原因を設定できるものではないことがわかった。今後、時代変化や地域特性に対応した若者の生活状況の研究を進めていく上での貴重なデータになったと確信している。
調査結果より、少子化対策は、若者の経済基盤の強化、それも、将来にわたった生活設計を可能にするものでなくてはならないことが帰結される。啓蒙活動等を通して、若者の経済基盤対策の重要性を強調できる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-