市場化・IT化・ソーシャルネットワーク化による福祉施設・在宅サービスのシステム化(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300042A
報告書区分
総括
研究課題名
市場化・IT化・ソーシャルネットワーク化による福祉施設・在宅サービスのシステム化(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
丸尾 直美(政策研究フォーラム・尚美学園大学)
研究分担者(所属機関)
  • 川野辺裕幸(政策研究フォーラム・東海大学)
  • 梅澤昇平(政策研究フォーラム・尚美学園大学)
  • 尾形裕也(九州大学大学院)
  • 真下英二(尚美学園大学)
  • 的場康子(第一生命経済研究所)
  • 下開千春(第一生命経済研究所)
  • 和泉徹彦(千葉商科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
福祉ミックス論と福祉分野の市場化・IT化論は盛んになってきたが、そのコンセプトを自治体の高齢者福祉・医療分野に具体的にどう適用するべきかを研究することを目的とする。現行の公的サービスの加えて、市場化・IT化・ソーシャル・ネットワーク化を通じて介護サービス・センターと要介護者間、福祉施設・在宅サービス間および医療と介護サービス間の情報システム化をどのような方法で行えば、利用者の福祉あるいは満足度を高めつつ、サービスを効率的にできるかを研究することを目的とする。 政策の目的あるいは価値基準は、(1)効率的であること、コストが安くつくこと、(2)公正であること、(3)利用者の満足度が高くなることである。
研究方法
(1)研究会の開催:文献による調査研究を整理して、定期的に開催する研究会で研究プロジェクト参加者の研究報告を受けて討議する。(2)海外の福祉研究者、とくに福祉政策における市場化・IT化の専門家による特別講演。(3)国内の福祉施設の先駆的事例について、運営者と利用者へのヒアリング調査。(4)福祉施設・在宅サービスの市場化・IT化に関わる海外の先駆提示例の調査研究。(5)全国3,199の地方自治体の福祉政策担当者への市場化・IT化の状況と政策優先順位に関するアンケート調査。(6)地方議員に対する福祉政策の市場化・IT化の政策優先順位に関するアンケート調査。
結果と考察
(1)前半の研究会では、欧州における介護施設のIT化・市場化動向の事前調査、訪問地域・施設の選定と質問項目の作成を行い調査に備えた。また、地方自治体の福祉担当者、および地方議会議員を対象としたアンケート項目の設計を行った。後半の研究会では、海外調査のまとめに加えて、アンケート集計結果の分析を通じたわが国における在宅および施設サービスのIT化、市場化、ソーシャル・ネットワーク化の現状と政策展開上の問題点の解明がテーマとなった。(2)4人の海外の福祉研究者から、イギリス、スウェーデンおよび欧州の高齢者介護の理念と政策、市場化の動向と数量的な成果の把握、日本との国際比較等について特別講演を受け意見交換を行った。また、イギリスの福祉政策研究者を招いたワークショップも行った。(3)IT化の進んだ国内のケアハウス運営者および利用者へのヒアリング調査を行い、利用者の満足度と福祉サービス供給費用との関連、問題点などを探り、介護施設の効率的な運営形態とIT化の関係を検討した。また、福祉政策におけるIT化を推進している地方自治体へのヒアリング調査を行い、その実体と問題点を検討した。(4)スウェーデンでは、福祉サービスの広範な市場化を実現したナッカ市の高齢者福祉施設タリスガーデンを訪問し、IT化が設備、マンパワーのコストダウンと関係者の満足度を共に向上させている事情を聴取した。さらに、ストックホルム北西部のヤールフェラ市を訪問し、マンパワーのコストダウンの方策として、提供する介護サービスの種類に応じたホームヘルパーと民間サービスとの使い分けについて聴取した。イギリスでは、福祉政策研究者に国際的な福祉政策研究の現状について聴取し、本研究計画のテーマである、福祉施設および在宅サービスの市場化・IT化・ソーシャル・ネットワーク化の国際比較に関して意見交換をした。以上の海外研究調査の成果は『改革者』2003年12月号に特集を組んで発表した。(5)全国の地方自治体における高齢福祉関係者3,199名
を対象にしたアンケート調査(有効回答数1501、有効回収率46.9%)では、市場化・IT化の導入状況と有効性、今後の政策の優先順位を中心にした回答を得、回答傾向と自治体の人口統計学的特性等に関する分析を行った。(6)地方議員244名を対象にしたアンケート調査では、福祉政策における重点施策とITの導入の優先順位を中心にした回答を得、回答傾向と自治体の人口統計学的特性等に関する分析を行うとともに、地方自治体の回答傾向との対比を行った。
結論
市場化には馴染まないと言われていた福祉サービスだが、公的供給による非効率性や画一性、非柔軟性といった政府の失敗が明らかになるにつれて市場化の必要性が認識されるようになってきた。一方で、主としてIT化による情報化と消費者情報の普及、第三者機関による福祉サービスの質に関する客観的評価の発達、情報弱者である福祉サービス受給者を支援するスポンサー機能をもつ組織の発達等が、市場原理の導入の可能性を拡大することになった。市場原理を導入して、その長所を生かすためには、公的計画原理でやる部分と市場原理で行なう部門を分離することが必要である。経済の市場化が進み、福祉サービスも市場化されIT化が進むことは、効率と便利性の観点から好ましいが、市場は利己心を前提としており、IT化もしばしば高齢者が求める人間的ふれあいを軽視するおそれがある。公的計画原理で行う部門と市場原理で行う部門に加えて、福祉サービスにボランティアやNPO等を活用したソーシャル・ネットワークを張り巡らせることで、効率・公正・人間性を両立させる公的部門、営利部門、インフォーマル部門の福祉ミックスを実現することができる。これに加えて、従来の福祉国家のフロー中心の所得再分配型の福祉政策に、資産ベースの福祉政策を付加することが必要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-