外来機能および看護職の役割とその効率性評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300034A
報告書区分
総括
研究課題名
外来機能および看護職の役割とその効率性評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
岡谷 恵子(社団法人 日本看護協会 専務理事)
研究分担者(所属機関)
  • 数間恵子(東京大学大学院医学系研究科)
  • 桑原弓枝(東京大学医学部附属病院)
  • 高橋雪子(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インスリンを使用していない2型糖尿病の外来患者を対象に、前年度の調査結果から効果的と考えられた外来看護支援体制を実際に病院に導入し、ランダム化試験によりその効果、効率を検証すると同時に、並行して糖尿病患者を対象とする外来看護相談プロトコールを作成した。
研究方法
本研究のデザインは、単施設での2群の非盲検ランダム化試験である。
ランダム化試験では、東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)の糖尿病・代謝内科外来(以下、糖代内外来)に通院中のインスリンを使用していない2型糖尿病患者から対象者を募集し、適格であった患者から研究参加への同意を書面で取得した。
研究対象者は、2とおりの看護支援(支援A、支援B)に67名ずつランダムに割り付けられた。支援Aは、糖尿病看護認定看護師1名が、専任で、対象者の糖代内外来受診日には毎回、プライバシーが配慮された専用の場所で、1回30分以上の時間をかけて、個別に相談を実施する看護支援体制であり、本研究のために作成した相談用のプロトコール(後述)に沿って実施される。一方、支援Bは、現行の東大病院の外来医療体制に基づき、外来に勤務する看護師が、診療の補助業務のかたわらで、相談の場所にとらわれず、対象者の希望に応じて個別に相談を実施する。いずれの看護支援も、同意取得日より1年が経過する日まで継続される。
対象者に対する経過観察は、同意取得日から開始し、同日から1年が経過した日以降で最初の糖代内外来の受診日まで継続する。効果評価におけるEndpointは、HbA1CとHRQoLとした。HRQoLはSF-36日本語版とPAID日本語版を用いて測定した。また、支援A群の対象者については、療養行動変容の自己評価と、支援Aについての満足度を、研究者らが作成した自記式の質問項目を用いて測定した。
効率評価におけるEndpointは、相談の回数・所要時間と糖尿病の療養・管理に要する費用(看護支援に関連した費用、直接非医療費を含む)とした。看護支援に関連した費用は、それぞれの資源が利用されるごとにその記録をとり、単価を乗じて算出した。直接非医療費は、自記式調査票および対象者への聴取により調査した。
本研究の看護支援は、効果の発現にはある程度の時間を要すると考えられること、また、薬物による介入に比べて安全性が高いと考えられることから、1年間の看護支援期間中は中間解析を実施しない。したがって本稿では、両群のベースライン時点での対象者特性、2004年2月末日までのHbA1Cの推移、および2004年2月末日までに半年後の受診日が経過した対象者のデータから、支援A群の対象者による療養行動変容の自己評価、支援Aについての満足度、相談の回数・所要時間、糖尿病の療養・管理に要する費用を記述した。
相談プロトコールの作成は以下の手順によった。まず、支援Aを担当する認定看護師が、看護相談の原則、相談手順、相談で扱う領域と方法などの原案を作成し、外来での糖尿病看護経験の豊富な看護師2名と共同研究者3名が検討を重ね、プロトコール案〔ver.1〕を作成した。認定看護師はプロトコール案〔ver.1〕に従って支援A群の対象者67名へ看護相談を実施し、手順などの詳細を修正したプロトコール〔ver.2〕を作成した。さらに、設置主体の異なる医療機関に所属し、外来看護相談を実施している糖尿病看護認定看護師3名に、プロトコール〔ver.2〕の他施設での適用可能性についての意見を求め、プロトコール〔ver.3〕(以下、看護相談プロトコール)とした。
結果と考察
ランダム化試験のベースライン時点での対象者特性は、群間で統計的な有意差は認められず、両群の比較可能性が示唆された。また、2004年2月末日時点では、研究計画からの逸脱は許容範囲内であり、順調に研究が進捗していると考えられる。
支援A群では、研究開始後のHbA1C値の変動が大きく、最終的には平均に回帰している傾向があるが、支援B群では全体的に値が漸増している傾向が認められた。しかし、現時点ではどちらの支援がHbA1Cの改善に効果があるかを判断することは難しく、最終的な結論には、研究終了後の統計解析の結果を待たねばならない。当初の計画通り、1年後まで引き続いて今後の経過を観察していく必要があると考える。
療養行動変容の自己評価についての質問項目のすべてで、肯定的な回答が半数以上を示し、療養行動変容に対する支援Aの効果が示唆された。ただし、「よりよい生活行動をとることができるようになった」との回答の割合は、他の項目に比べ低めであり、今後の支援方針に重要な示唆を与える結果であると考える。
支援Aに対する満足度については、ほぼすべての質問項目で肯定的な回答が9割以上を示し、支援Aに対する対象者の満足度は高く、対象者の受け入れがよい看護支援方法であると考えられる。
支援Aでの面談時間の平均は、1人1回あたり26.7分であった。これは看護相談プロトコールで定めた1回30分以上という基準よりやや短いが、明確な時間予約枠を設けることでそれぞれの面談に十分な時間を確保できる可能性がある。一方、支援B群で相談が実施されたのは、研究開始以前から定期的な相談・指導が行われていた対象者1名のみであり、新たに相談が開始された支援A群の対象者とは単純に比較ができない。また、支援Aにおける相談の所要時間は、ベースライン時のHbA1Cが高値であるほど長くなる傾向が見られた。これはHbA1Cが高い患者に対しては、生活全般の情報収集から生活改善の実行可能性の判断、生活改善プランの明確化、生活改善プランが実行されているかの判断、といったプロセスに、より時間が必要であったためと考えられる。相談の回数が進むにつれ、1回の面談に要する時間が短くなっていく傾向が見られ、認定看護師が看護相談プロトコールに則った相談に習熟していったことが考えられる。
糖尿病の療養・管理に要する費用については、支援A群と支援B群とで約1万円の差があり、群間差のほとんどは、相談担当看護師の人件費で説明された。支援A群における看護支援に関連した費用は9,880円であった。一方、1回30分以上の相談を4回行った場合、診療報酬(在宅療養指導料)に準拠した算定額は6,800円であり、診療報酬では外来での看護相談活動が十分に評価されているとは言えない。直接非医療費にはほとんど群間差はなかった。支援Aにおいては対象者に物品の購入を薦めることはほとんどしておらず、歩行など手軽にできる生活習慣改善が行動目標となることが多かったためであると考えられる。
今回作成した看護相談プロトコールは、糖尿病看護に精通する複数の看護師による検討を加えて修正したものであり、汎用性が高いと考える。しかし、現状の医療施設における外来看護相談体制および看護師の背景などによって、以下の場合には適用に限界があると考える。1.現状では、外来看護師が専任で看護相談に対応する状況が少なく、予約制で対応すること、30分以上の時間を確保すること、同一の看護師が継続して対応すること、といった条件が確保されない場合。2.専用の個室またはスペースを準備して対応することができない場合。3.相談を担当する看護師の、臨床経験、糖尿病看護経験、糖尿病看護相談経験が少ない場合。
結論
インスリンを使用していない2型糖尿病の外来患者を対象に、前年度の調査結果から効果的と考えられた外来看護支援体制を実際に病院に導入し、ランダム化試験によりその効果、効率を検証すると同時に、並行して糖尿病患者を対象とする外来看護相談プロトコールを作成した。ランダム化試験においては、134名の患者を支援A、支援Bの両群に割り付け、現在実施中である。現時点では、どちらの支援がHbA1Cの改善に効果があるかの判断は難しく、最終的な結論は研究終了後の統計解析の結果を待たねばならない。支援Aの対象者への療養行動変容についての質問では、肯定的な回答が半数以上示され、支援Aの効果が示唆された。また、支援Aの対象者の満足度は高く、対象者が受け入れやすい看護支援方法であると考えられた。看護支援に関連した費用は、支援A群で支援B群より半年間で約1万円高かった。一方、直接非医療費にはほとんど差がなかった。外来看護相談プロトコールは、担当看護師が原案を元に支援A群への看護相談を行い、患者の変化を査定しつつ修正を加えた。さらに他の医療施設で外来看護相談を実践している糖尿病看護認定看護師複数名にヒアリングを行い、プロトコールの内容および他施設での適用可能性を検討した。これらの検討過程を経て、インスリンを使用していない2型糖尿病患者のための外来看護相談プロトコールを作成した。一定の限界はあるものの、汎用性は高いと考える。今後も支援を継続し、研究開始から1年間が経過した後に効果、効率についての最終的な評価を行う予定である。

公開日・更新日

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