移植医療の費用負担・財源調達システムの構築に関する研究

文献情報

文献番号
200300032A
報告書区分
総括
研究課題名
移植医療の費用負担・財源調達システムの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
上塚 芳郎(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 赤澤公省(医療経済研究機構)
  • 坂巻弘之(医療経済研究機構)
  • 空閑厚樹(医療経済研究機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
移植医療については、これまで腎移植等個別の移植医療についての経済学的な研究はあるが、移植医療全体のシステムについての費用負担のあり方などについての研究はあまり実施されていない。
そこで、本研究では、将来にわたる移植医療の円滑な実施を確保するため、現行の費用負担、特に移植医療に固有の「あっせん・コーディネート費用」の負担の現状を調査し、その結果を踏まえ、将来にわたる移植医療の円滑な実施を可能とする財源調達システムのあり方について検討を行い、政策提言を行う。
研究方法
(1年目研究)研究一年目においては、以下の調査・研究を実施した。
①停止下における腎移植のあっせん・コーディネートの費用についての調査。
②骨髄移植におけるあっせん・コーディネートの費用についての調査。
③脳死下の移植医療に係る医療費、コーディネート費用について、海外の状況の調査。
心停止下における腎移植のあっせん・コーディネートの費用(①)に関しては、平成14年度に実施された全症例を調査対象とし、担当した移植コーディネーターへのアンケート調査および臓器提供病院、移植施設への訪問調査を実施した。なお、本調査は、症例記録「臓器提供者情報経過記録」を基礎資料としているがコーディネーターの記憶に頼らざるを得ない面があるため、対象を直近年度に限定した。
骨髄移植におけるあっせん・コーディネートの費用(②)に関しては、ドナー発生からのコーディネーション費用に関してはすでに財団法人骨髄移植推進財団による調査がなされている(移植までの期間短縮に関する指標調査2002年12月実績)。しかし、実際のコーディネーション業務の多くはボランティアの活動に支えられており、その実質的な活動内容についての体系的な調査はなされていない。そこで既存の公開されている資料を用いながら、現在ボランティアによって担われている業務を含めてコーディネーションに要するコストを調査した。
海外の状況の調査(③)に関しては、フランス(EFG)、イギリス・アイルランド(UKトランスプラント)における移植コーディネート団体の公表データを収集し、また渉外担当者に対して資料請求を依頼することで調査を進めた。またフランスでの海外調査を行い、以下3点について調査を行った。
・コーディネーションの実態について(フランスでの移植事業体(EFG)を訪問調査)、・移植医療費の実態について(Caisse de L'Assurance Maladie(疾病金庫)を訪問調査)、・移植医療の医療機関での実施体制について(サンテティエンヌ大学地域大学病院センターを訪問調査)
(2年目研究)一年目の研究成果を踏まえ、二年目にあたる本年度研究においては以下の調査・研究を実施した。
①死下臓器移植(多臓器)における移植コーディネーションコスト調査、
②脳死下臓器移植における臓器摘出病院のコスト調査、
③骨髄移植におけるコーディネーションコスト調査、
④イギリス、フランス、韓国における移植医療費用負担の現状を調査した。具体的には、
①に関しては、臓器移植ネットワークへ調査協力を依頼し、2001年以降に実施された9症例を調査対象として、あっせん・コーディネートコストを調査した。②に関しては、昭和大学病院(11例目)、新潟市民病院(17例目)、鹿児島市立病院(29例目)に調査協力を依頼し、上記医療施設における臓器摘出に伴う提供病院側のコストを調査した。③に関しては、前年度の調査結果を基に、骨髄移植推進財団に調査協力を依頼し、移植コーディネーションプロセスの確認と、各プロセスにおいて発生するコストを調査した。④に関しては、前年度の調査結果を基に、医療保険制度の相違点を概観した上で資料を作成した。なお、韓国の移植医療については現地調査を実施した(調査期間:2004年3月3日~3月8日 調査機関:ウルサン医科(Dr.Koo:生命倫理学、Dr.Kim:法医学)、国民日報(Dr.Cho:論説委員)、KMDP(Mrs.Nha:KMDP国際コーディネーター)、KONOS(Mrs.Lee:Konos調整部副部長、Mrs.Eom:Konos調整部部長)、漢南聖母病院(Mrs.Chun:移植コーディネーター、Yang M.D.:移植医))。
倫理面への配慮
すでに臓器摘出・移植が実施されているため、個々の患者についての同意取得は行わず、データの提出については個々の医療機関での原則に基づくこととし、集計に当たっては、個人名が特定されることのないよう十分注意を払った。
結果と考察
移植医療におけるコーディネート費用については以下の点が明らかとなった。
・心停止下における腎移植のあっせん・コーディネート費用について:コーディネートに要した日数の中央値は2.2日、関わったコーディネーター人数の中央値は4名、延べ投入時間の中央値は103時間44分だった。コーディネートに要した日数の最頻値は1日以上2日未満(14件)、コーディネーター人数最頻値は4名(25件)、延べ投入時間の最頻値は60時間以上80時間未満(13件)だった。あっせん・コーディネートに要した人件費(1件あたり)を「1.あっせん・コーディネートに要した人的資源投入量」を基に計算した結果は、中央値が46万4,044円、最大値が330万4,339円、最小値が 7万9,047円、最頻値が30万円以上40万円未満(19.3%)であった。また人件費以外の経費は、1件あたりの平均を算出した結果、コーディネーター派遣旅費が9万615円、緊急車輌費(リース料、駐車場費、燃料費)が20万9,929円、通信費が7万9,487円であった。人件費、経費を合計した移植コーディネーションの1件あたりのあっせん・コーディネート費用は、中央値が84万4,074円、最大値が368万4,370円、最小値が45万9,078円、最頻値が60万円以上70万円未満(22.83%)だった。
・脳死下におけるあっせん・コーディネート費用について:コーディネートに要した費用試算は中央値が2,233,482円(24例目)、最大値は2,961,076円(21例目)、最小値は1,513,701円(19例目)だった。試算根拠としたコーディネート時間は、a)あっせん対策本部および提供施設で要した時間、b)評価委員会・術後フォローに要した時間、c)総時間(a)+b))とに分けて調査し、結果は中央値a)552分、b)62分、c)614分、最大値a)714分、b)100分、c)814分、最小値a)416分、b)100分、c)516分だった。
・脳死下における臓器提供病院のコスト負担について:新潟市民病院(17例目)における提供病院における試算コストは1,499,905円だった。試算根拠とした病棟での投入コスト(1,088,951円)は医師、看護師、医療技術士の移植症例における投入時間を調査し(医師:113時間、看護師:133時間、医療技術士:72時間)人件費単価をかけて算出した。その他のコストは、手術室コスト(367,062円)、検査室コスト(3,271円)、画像診断室コスト(37,398円)だった。
・国際調査(韓国調査について):韓国での脳死からの臓器移植件数は移植法制定(2000年)後、64件(00年)、52件(01年)、36件(02年)である。移植コーディネーションは厚生省管轄のKONOSが担当しており、年間予算は1,100,450,000ウォン(約1.1億円)である。また移植病院には腎臓またはすい臓移植の場合患者から400万ウォン、医療保険(公的)より1600万ウォン支払われる。
結論
本調査研究の結果、心停止下における腎臓移植および脳死下における多臓器移植実施にあたりコーディネート業務に投入されているコストが明らかとなった。また脳死下における臓器摘出にあたり臓器摘出病院で投入されているコストが明らかとなった。以上の調査・研究結果を基に将来にわたる円滑な移植医療実施のための財源調達システム構築が必要であることが明らかとなった。

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