後期高齢者における家族・地域の支援機能の変化と公的支援の活用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300030A
報告書区分
総括
研究課題名
後期高齢者における家族・地域の支援機能の変化と公的支援の活用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 弘子(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 直井道子(東京学芸大学)
  • 小林江里香(東京都老人総合研究所)
  • 杉原陽子(東京都老人総合研究所)
  • 深谷太郎(東京都老人総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「介護の社会化」を提唱する介護保険制度の導入は、高齢者の家族の支援機能が変化してきた結果であるとともに、同制度の導入で公的支援が身近な選択肢となることにより、家族の支援機能をさらに変化させる原因ともなり得る。したがって、高齢者の私的支援の問題に焦点を当てた研究の緊急性・必要性は高い。とりわけ、保健福祉ニーズが高く、今後絶対数や人口に占める割合の増加が予想される後期高齢者を対象とする研究の必要性はきわめて高い。本研究は、1987年から継承している全国高齢者の長期縦断調査と、1999年に開始した後期高齢者調査の追跡調査を、介護保険制度導入後の2002年に実施することにより、(1)私的支援の提供者としての家族(特に子ども)の機能の実態とその多様性をもたらす要因、および(2)健康悪化に伴う私的支援・公的支援の活用と支援間の相互関係の検討を行うことを目的とする。さらに、子どもとの同居率の低下など高齢者の家族形態が変化してきている現状を踏まえ、(3)高齢者と地域との関わりについても検討する。
研究方法
本研究は、1987年より3年ごとに実施してきた全国高齢者の長期縦断調査のデータベースを基盤としている。2002年10月には、1987年からの対象者にとっては6回目(追跡調査としては5回目)、1999年に追加された70歳以上の対象者にとっては初めての追跡調査を実施した。訪問面接調査の対象となったのは、過去5回のいずれかの調査に1回以上協力した人の中から死亡者を除いた対象者である。調査については、実施前に東京都老人総合研究所の倫理委員会より許可を得た。専門の調査員による本人への聞き取り調査を基本とするが、重い病気等で本人に調査できなかった場合には、家族等に代行調査を行った。本研究事業の中で焦点を当てた73歳以上(2002年当時)に限ると、本人調査は2,012名(回収率70.9%)、代行調査までを含めると2,392名(84.3%)より回答を得た。2003年度は2002年調査までを含めたデータベースを分析し、課題を検討した。
結果と考察
(1)私的支援提供者としての子ども:a)子どもへの資産提供と子どもからの支援(情緒的・手段的サポート、介護への期待、実際のADL援助)の関係を検討した。不動産に関しては相続した子から支援を受けるという交換関係が見られたが、その効果は限定的であり、金融資産についてはそのような関係は見られなかった。以上の結果は、子への資産提供は介護への期待とは別の動機や規範により行われている可能性を示しており、現段階では、公的な介護サービスの拡充が、ただちに資産の提供先の転換(子どもから介護サービスへ)をもたらすとまでは言えない。b)子どもの特性による違いについては、介護への期待には、親との距離の影響が強く、長男であることもその子への期待を高めていた。距離の条件が同じなら、娘夫婦のほうが息子夫婦よりも介護者として期待されているが、現実には息子との同居が圧倒的に多く、全体としては息子夫婦に期待する割合は娘夫婦と同程度であった。現在の後期高齢者の間には長男と同居してその子に介護を期待する傾向が根強いものの、子どもとの同居率が低下した場合には、介護における娘の役割が増す可能性を示唆している。
(2)私的・公的支援とその相互関係:介護保険制度導入前後の調査(1999、2002年)を比較した結果、a)高齢者の意識および現実の介護場面において介護者に占める在宅サービスの割合が有意に増加しており、私的な介護基盤が介護サービスに代替されつつあるものの、私的介護基盤への依存傾向が依然として強く代替は一部に過ぎない、b)介護保険制度の導入によって要介護高齢者の心理的適応が促進されていることを示唆する結果が得られ、介護保険制度が、必要なときにサービスを利用できるという安心感を提供している可能性がある。さらに、女性が低所得に陥るリスクを1999年と2002年の2時点間で分析した結果、a)夫との死別がそのリスクを15倍程度も高めており、国民年金の給付水準が夫の死亡時における低所得リスクの軽減に十分ではないことが明らかになった。b)収入の低い女性の多くは親族などに生活費を負担してもらっており、依然として、私的な経済的支援が重要な役割を果たしていると言える。
(3)地域との関わり:縦断データに基づき健康のリスク要因としての社会関係や社会活動を分析し、a)15年間の健康変化から、15年後の健康保持に影響しているのは、男性では社会活動グループへの参加など、女性では自尊感情、抑うつなどであり、男性は退職後のネットワーク再構築、女性は配偶者と死別後の生活適応を容易にする自己確立が、機能的健康の維持の課題であることが示唆された、b)3年間の追跡調査から、家事や地域での奉仕活動などの生産的活動は社会への貢献となるだけでなく、ADL障害や認知障害、死亡のリスクを軽減する介護予防効果が認められた。ただし活動時間と健康との関係は非線型で、1日8時間までは活動時間が長いほど健康への効果が高まるものの、それ以上だと効果が弱まる可能性が示された。
結論
後期高齢者の縦断調査の分析により、以下の知見が得られた:1)高齢者が不動産を提供した子から支援を受けるという交換関係の成立は限定的である、2)親との距離や、長男であることが子に対する介護者としての期待に影響していたが、距離の条件が同じなら、娘夫婦のほうが息子夫婦よりも介護者として期待されている、3)介護保険制度導入により、意識面、実際の介護場面ともに私的な介護基盤が介護サービスに代替されつつあるが、依然として私的介護基盤への依存が強い、4)国民年金の給付水準が夫の死亡時における低所得に陥るリスクの軽減に十分ではない、5)独居高齢者については、公的支援を考慮に入れた健康悪化時のサポートシステムの確立が急務であると同時に、健康を悪化させないための取り組みが必要である(2002年度の結果に基づく)。本研究は、地域でのグループ参加や奉仕活動などの生産的活動が、健康維持にも有効であることを実証した。

公開日・更新日

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