保健事業における個人情報の保護及び利活用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300028A
報告書区分
総括
研究課題名
保健事業における個人情報の保護及び利活用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山英二(神戸大学)
  • 岡山明(岩手医科大学)
  • 玉腰暁子(名古屋大学)
  • 衞藤隆(東京大学)
  • 杉森裕樹(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成15年個人情報保護法が成立して、保健事業の分野における個人情報の取扱について検討することを目的とした。保健事業は医療とは異なり、他人数の健康に関する情報が取り扱われ、その情報も対象者の心身に関する情報や生活環境に関する個人のプライバシーに関わる情報が多く、その情報を医師以外にも多くの関係者が関わる特徴を有している。本研究では、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健において個人情報の取扱の現状を整理するとともに、「保健事業における倫理指針」(案)を検討するとともに、疫学研究が保健事業を利用する際に必要とされる保健事業者と学術団体との契約書の締結内容について検討を行った。
研究方法
各研究者は、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健における保健事業内容を個人情報の入手経路、保管、定型的(事業内)利用、試行的(事業外利用)、開示請求について整理を行った。個人情報保護法の法的視点から、個人情報保護の扱い方について整理した。
結果と考察
丸山分担研究者は、個人情報保護の法的側面から、個人情報保護の規定としては、①インフォームドコンセントの要件として、訂正取得と取得に際しての利用目的の通知などが求められている。また、個人情報の保護措置として、安全管理措置、従業者の監督、委託先の監督が求められている。本人開示と第三社会時に関しては、本人からの請求に対して特別な条件を除いて、開示および訂正請求権を認めている。第三者提供への制限については、特定の条件以外は提供が禁止されている。特定の条件の一つとして、公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときとしている。保健事業における個人情報としては、法令に基づく事業であれば事業の内容・目的を本人に通知または公表しなければならない(場合によっては,本人が事業を受けない機会を保障すること)。また法令にも戸塚以内で実施される保健事業では事業を実施する前に,その内容・目的を本人に通知または公表し,本人に事業を受けない機会を保障しなければならない。いずれの場合も,個人の保健情報の利用について,当該保健情報の取得・保存方法も含めて,それに関わる情報を公表しなければならない。個人情報の保護としては、資料の保存に際しての適切かつ整然と管理することと保健事業の目的が終了した段階で資料を適切に廃棄しなくてはならない。保健事業者は、担当者に対して必要かつ適切な監督を行わなくてはならない。本人開示・訂正請求に際して適切に対応しなければならない。第三者提供については、人の保健情報を第三者に提供する場合には,当該保健情報を匿名化するか,または,当該第三者提供に関わる情報を公表し,本人に第三者提供を拒否する機会を保障しなければならない。ただし,第三者提供が人体試料の提供を含まない場合で,公衆衛生の向上のために特に必要がある場合については,第三者提供に関わる情報の公表のみで足りる。個人の保健情報の目的外利用も同様とする。衞藤分担研究者は、母子保健分野における個人情報午後について検討を行い、母子保健法(以下、法)にかかわる個人情報が含まれる文書の例としては、母子手帳交付・再交付申請(法第16条)、母子栄養食品支給申請(法第14条)、保健指導票交付申請(法第10条)、妊娠届(法第15条)、精密健康診査受診票交付・再交付申請(法第13条)、精密健康診査交付申請(母子保健法施行令、以下施行令)、新生児訪問指導出生通知書(新生児訪問希望書) (施行令)等があげられていた。母子保健
情報固有の取扱を定めている自治体は現時点で存在しなかった。また、情報公開に際して、母子保健事業の二次情報の公開に限定していた。取扱に関しては、公文書管理に準じていることが明らかになった。
吉田主任研究者は、学校保健における個人情報取扱についてまとめた。学校保健では学校保健法による事業と教育指導要領に準じたもの、それ以外に血中脂質や貧血検査などが行われていた。学校長が保健事業の責任者として、通知公表と承諾が行われていた。取得に際しても、取扱に十分に配慮されていた。保存保管については学校毎に保存場所が異なった。利活用に際しては、学校行事などで安全管理上個人情報が共有されることがあった。発表に関しては、事例発表会として校内や市町村で行われるが、公務として取り扱われていた。健診計画は職員会議で説明が行われ、教職員一同の認識の徹底が行われていた。杉森分担研究者と森研究協力者は、産業保健が他の保健事業の相違として、事業者が安全配慮義務を有しており、その中で労働者の健康情報を直接利用することが法的に求められている。産業保健領域で個人情報保護に関わる裁判所判例を整理して、情報の取得、開示、第三者提供毎に整理した。岡山分担研究者は、地域保健で行われる保健事業に基づき疫学的活用を行う際に必要となる手続きについて整理を行った。学術団体が疫学研究活動で市町村に対して契約書や覚え書きを締結することで、個人情報保護の精神に基づき円滑に疫学研究が行われる。契約書の項目として、①適正な管理、②再委託の禁止又は制限、③秘密保持の義務、④委託された事務以外への使用の禁止、⑤複写及び複製の禁止が挙げられた。契約書としては、表題、全文、本文/条項、作成通数所持者、作成年月日、当事者の表示が挙げられた。玉腰分担研究者は、地域保健で取り扱われる個人情報について整理を行い、特に結核関連事業として結核患者登録、医療費公費負担、入院届け、患者票・診査会、退院、定期病状調査、登録除外に関わる個人情報の整理を行った。また、精神疾患関連事業として入院に関する文書、関連事業として保健所や保健センターで扱われる文書を整理した。以上の各分野における保健事業の整理をもとに、「保健事業の実施にかかる倫理指針案」を作成した。この案では保健事業の倫理指針の適応範囲を法令に基づく事業と予算措置事業として癌検診、学校保健での血中脂質検査や貧血検査、母子保健での先天性代謝異常スクリーニングも含めて議論した。保健事業者が遵守すべき事項として、個人情報の保護に必要な体制を整備すること、科学的根拠の明示、倫理的配慮の周知、担当者の監督、委託先の監督、保健事業などの公表を挙げた。また、疫学研究に際して保健事業からの情報提供を得るためには、適切な契約書の締結を行うことが個人情報保護法の趣旨に即した保健事業を介した公衆衛生の向上に対する評価と科学的根拠の提供が可能になることが期待された。
結論
保健事業は個人の健康管理のみでなく、社会全体に関わる公衆衛生の向上に有用な事業である。保健事業を通して取得される情報は個人情報保護の趣旨に準じて適切に管理されるとともに、公衆衛生の向上を目的に利活用が図られるべきである。そのために必要な保健事業者と学術団体との契約書の案を提案した。

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