食事・栄養指導の実態と効果分析に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300026A
報告書区分
総括
研究課題名
食事・栄養指導の実態と効果分析に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
松田 朗((財)日本医業経営コンサルタント協会)
研究分担者(所属機関)
  • 森脇久隆(岐阜大学医学部)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
  • 中村丁次(神奈川県立保健福祉大学)
  • 川島由紀子(聖マリアンナ医科大学病院)
  • 杉山みち子(神奈川県立保健福祉大学)
  • 小山秀夫(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療サービスの質の向上と効率化に、栄養食事指導体制の充実は、生活習慣病の重症化および要介護状態の予防を介して大きく寄与することは国際的に認識されている。この場合、入院時早期の食事栄養指導によって栄養リスクを軽減することが必須であるが、わが国ではその効果分析が体系的に行われてこなかった。そのため、入院時栄養リスク患者の診断、科学的論拠に基づいた入院時栄養食事指導の実施ならびに計画、病床への管理栄養士の適正配置など、食事栄養指導上の体制が未だ整備されていない。本研究は、診療報酬における栄養食事指導の適正な評価について明らかにするための先行的調査として、公的病院連合加盟357病院における栄養食事指導の実態調査からその問題を明確化することを目的とした。
研究方法
財団法人厚生年金事業振興団7病院、社団法人全国社会保険協会連合会57病院、社会福祉法人恩賜財団済生会79病院、日本赤十字社91病院、全国厚生農業協同組合連合会123病院の357病院を対象施設とした。施設調査(施設概要、栄養食事指導件数と内容、治療食件数・内容、栄養管理体制など)の協力を得られた217病院(60.8%)、ならびに入院患者の栄養管理票記入協力の得られた122病院(34.2%)に調査票を送付した。対象者は、平成15年11月10日(月)~16日(日)の連続した1週間(土日含めて)の入院患者のうち、産科、小児科、眼科、精神科を除外し、調査説明にインフォームド・コンセントの得られた全入院患者であった。栄養管理票は、入院患者の入院ならびに退院近時の栄養管理に関する項目(入院近時の栄養状態、裏面は退院時近時の栄養状態、入院期間の指示箋、栄養食事指導の件数と内容、栄養補給法など)に、診療録、検査値、栄養食事指導指示箋など既存の患者記録からの転記を依頼した。但し、記録がない場合は全て「不明」とし、調査日より1か月後に未退院の患者は「未退院」とした。
統計解析にはSPSS(Vers.12 for Windows)ならびにSAS systems(Vers. 8 for Windows)を用いて行い、検定はχ2検定、Kruskal Wallis検定、Gamer-Howell検定を行った。平均在院日数と栄養管理関連要因との関連にはロジスティック分析(強制投入法、ステップワイズ法)を用いて検討した。施設調査は一般病院について病床数別、ならびに栄養管理体制の整備状況別に単純集計し、入院患者の栄養管理状況については栄養リスク者頻度、年齢別の栄養リスク者と栄養管理、手術の有無別の栄養リスク者と栄養管理、栄養リスク者に対する栄養管理の実施状況、栄養リスク別栄養管理による効果評価などについて解析した。倫理と情報に対する配慮は、国立保健医療科学院倫理委員会(承認番号NIPH-IBRA#03015)の管理下において行った。
結果と考察
1)回収状況:施設調査は協力承諾を得られた217病院中214施設(98.6%)から回収し、入・退院時の栄養管理票は合わせて4,708票が回収され、有効回答個票(最終解析対象データ数)は入院時4,142人(87.9%)、退院時3,621人(76.9%)であった。2)栄養食事指導件数と治療食件数の実態:一般病院152施設(71.0%、平均病床数375床、平均外来患者数は17,802人/月、平均入院患者数は9,920人/月、平均在院日数18.9日)の入院時栄養食事指導件数は平均10.2件/月/100床、集団栄養食事指導は平均3.7件/月/100床、外来栄養食事指導は11.0件/月/100床、在宅患者訪問栄養食事指導は平均0.3件/月/100床であった。一方、診療報酬上の加算対象の治療食は、平均2,294食/月/100床提供され、治療食提供患者数に対して栄養食事指導は4分の1程度の実施と推算された。また、経管栄養のための濃厚流動食は平均180食/月/100床提供されてはいるものの、入院時栄養食事指導は殆どされていなかった。入院時栄養食事指導の内容は、糖尿病が平均14.4件/月/100床、次いで腎臓病7.0件/月/100床、高脂血症2.2件/月/100床、術後食1.1件/月/100床、肝臓病0.8件/月/100床であった。治療食提供患者への糖尿病の栄養食事指導は治療食数を若干下回ったが、その他の治療食数に対しては栄養食事指導がほぼ実施されていた。3)診療報酬上非加算の栄養食事指導件数と内容:診療報酬上非加算の入院時栄養食事指導件数は平均6.3件/月/100床であり、その内容は、100床当たりでは食欲不振1.2、低栄養状態0.5、褥創0.4、摂食・嚥下0.4件/月など、入院患者の低栄養状態に関するものであった。低栄養状態(protein energy malnutrition, PEM)は、入院患者の最大の栄養問題と国際的に認識されているが、わが国の一般病院での低栄養状態への対応は、診療報酬算定外の栄養食事指導として実施されているためその対応件数は、1ヶ月100床当たり数件にすぎないことは問題であった。4)栄養管理体制と栄養食事指導:栄養管理構成項目(栄養スクリーニング、栄養アセスメント、栄養ケア計画、再アセスメント、栄養管理表作成など)全てが実施され栄養管理体制の整備された病院における100床当たりの栄養食事指導件数は、栄養管理項目を実施していない未整備の病院の約3倍に増大していた。さらに、栄養管理体制が整備された病院では、低栄養状態に対応するための非加算の入院時栄養食事指導件数が、加算の対象となる栄養食事指導件数を上回り未整備の病院の6.7倍に増大した。このことは、今後の診療報酬制度は栄養管理体制の整備を誘導しつつ、低栄養状態を診療報酬の加算対象として設定する必要性を示していた。5)栄養管理体制と管理栄養士:栄養管理体制が整備された病院では、管理栄養士1名の栄養食事指導件数は52.0件/月/100床と概算され、400床の病院では管理栄養士1人が10.4件/日の栄養食事指導を提供し、管理栄養士1人当たりの栄養食事指導料は270,400円/月と推算された。しかし、入院時栄養食事指導は包括的な栄養管理体制の一環であれば、管理栄養士の業務時間は、栄養指導の正味の時間(現在の診療報酬では最低15分)が相当するのではなく、包括的な栄養管理に要する業務時間の総計として算出(杉山らの先行研究では1.7時間と推計)される。6)平均在院日数と栄養管理体制:栄養管理体制の整備された病院の平均在院日
数は、未整備の病院に比べ約4日間短く、平均在院日数の減少には栄養管理項目数、すなわち栄養管理の整備が関連していた。このことは、米国などでの栄養管理体制は平均在院日数の減少に寄与するというポジティブな先行研究成果を確認するものであった。7)入院患者の入院時栄養スクリーニング実施状況:低栄養状態の栄養スクリーニング項目である血清アルブミンは60.3%、身長・体重は70.9%であり、耐糖能異常(HbA1c)は14.4%と低い実施率であった。8)入院時栄養リスク者頻度:高血圧35.5%、肥満26.7%であり、PEMリスク(血清アルブミン値3.5mg/dl以下)は23.7%、中性脂肪29.6%、他の脂質関係の栄養リスク者は20%弱であった。9)高齢入院患者(65歳以上)の栄養リスク者頻度:高齢入院患者は高血圧41.0%、PEMリスク30.0%、腎機能障害18.0%の頻度が高く、一方、65歳未満群では高コレステロール血症23.1%、低HDL血症26.1%、肥満30.3%と生活習慣病関連リスクが高かった。10)手術の有無別栄養リスク者頻度:手術症例では高血圧35.9%、肥満27.6%が高いが、PEMリスク12.7%、腎機能障害である高BUN血症8.5%、高クレアチニン血症5.7%は非手術群に比較し低かった。11)栄養リスク者への栄養管理業務実施状況:栄養リスク者への栄養管理業務は、栄養リスクのない者に比べ有意に多く実施されていた。しかし、PEMリスクに対する栄養状態の評価・判定9.7%、栄養ケア計画書の作成12.5%、栄養ケア・栄養食事指導10.6%、再評価4.4%と実施率は低かった。12)栄養リスク者への栄養管理効果:入院時から見て退院時の栄養リスク指標の改善の有無を比較したところ、栄養ケア計画書作成者、栄養ケア・栄養食事指導実施者において、肥満者のBMIおよび中性脂肪が有意に低下した。同様に、高HbA1c者では栄養状態の評価・判定を実施された群で有意な低下を認めた。しかし、PEMリスク者では、各栄養管理業務の実施の有無によって有意なアルブミン値の変動を認めなかった。これは、現在の短縮化された平均在院日数のもとではアルブミンなど半減期の比較的長い栄養リスク指標を用いることが適正ではないと考えられる。また、PEMリスクで腎機能障害がある場合には積極的なタンパク質補給ができない点、栄養管理の内容が各施設で異なっていることなど、効果を評価する際にはさらなる検討が必要であると考えられた。栄養管理の効果を適正に評価するためには、①栄養管理の適応症例の特定、②標準化された栄養管理に関するマニュアルの作成とその実行、③評価時期の適切な設定、④栄養リスク指標の適切な使用など、今後検討が必要であると考えられた(なお、当該研究報告書では、次年度の介入研究のために米国、英国におけるエビデンスに基づいた栄養食事指導ための参考指標についても検討し報告している)。
結論
わが国の一般病院における栄養食事指導の実態は、これまで必ずしも明らかではなかったが、本研究は、公的病院連合加盟の一般病院の栄養食事指導件数やその内容の実態を初めて提示したと言える。その結果、入院患者のPEMリスク者は約24%(高齢患者では約30%)に観察されたが、このような栄養リスクのスクリーニング等の栄養管理体制の整備は十分に行われておらず、栄養食事指導は、診療報酬の対象とならないことが問題として明確化された。入院患者の低栄養問題の解決には栄養管理体制の整備が推進される必要があり、ひいては平均在院日数の短縮化に寄与することから、今後の診療報酬制度改訂にあたっては、当該研究成果を科学的根拠として、病院内の包括的栄養管理体制の構築・推進を念頭において取り組まれる必要がある。次年度はモデル病院において、栄養管理の適正な評価手法とその実践活用のあり方を検討し、さらに、手順や診療目標設定において従来標準化されてこなかった食事栄養指導体制を科学的根拠に基づいて改変した場合の、より効果的な食事栄養指導体制に対する適正な診療報酬上の評価を検討する。

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