医療機関類型ごとの外来診療の実態把握と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300025A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関類型ごとの外来診療の実態把握と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
伏見 清秀(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の医療水準は、医療技術の著しい進歩などにより、国際的にみても高い水準に達してきており、また全国的にみても同水準の医療を国民が享受できるようになってきている。しかし、今後、さらに質の高い外来医療を確保するため、施設類型別に診療内容等を把握・分析するとともに、こうした分析が、診療内容の質の向上や効率化に有効か、病院経営の合理化に役立つか、病院機能を評価する際の枠組みとしてどのように活用できるかなどについても必要なデータを収集し、併せて分析を行う必要がある。
診療報酬体系の見直しの議論においては、これまで外来医療の報酬上の評価が焦点となってきた。2002年12月に公表された診療報酬体系の見直しに関する厚生労働省試案においても①大病院については専門的な外来診療の機能等を評価し,②診療所及び中小病院については地域住民の初期診療等のプラプライマリケア機能等を重視した評価を進めるとの方向性が打ち出されている。しかしながら、診療報酬評価を検討するために必要な、大病院、中小病院、診療所のそれぞれで行われている外来診療の実態及び相互の医療連携について十分に把握されてこなかったのが現状である。
わが国の場合、医師費用と病院費用の明確な区別がないという問題はあるものの、入院と外来が国レベルで同じ診療報酬体系で評価され、しかも傷病名と診療行為に関する情報が含まれたデータがすべて保険者に提出されているという、他の国には見られない特徴がある。従って、このような情報をもとに外来機能の評価を行う方法論を開発することが可能であり、またそのような方法論は入院・外来を同様の基準で評価できる可能性を含んでおり、国際的にも画期的なものになると考えられる。
そこで本研究においては大病院、中小病院、診療所のそれぞれで行われている外来診療の実態及び相互の医療連携について把握するために、現行の診療報酬情報を活用し、またアンケート調査等も含めて外来機能評価の方法論を開発し、そのような分析結果をもとに地域レベルで質の高い医療を国民に提供するための医療連携のあり方やその方法論を整理し、わが国の医療の質の向上と効率化に資することを目的としている。
研究方法
本研究は3年計画で実施する。初年度は、第一に医療サービス提供の類型化による外来機能の評価方法の検討として、社会医療診療行為別調査の個票データからリレーショナルデータベースを構築し、診療行為の発現パターン、医療機関毎の診療区分別平均医療費割合等の視点から医療機関の機能の分析を試みた。平成13年の社会医療診療行為別調査個票の使用許可を取得し、診療行為パターンの解析を行い、41万件のレコードを集計し診療行為大区分別の出現の有無のパターンで分類した。これらをさらにABC分析、主成分分析、クラスター解析などにより、出現パターンを集約した。
第二に、ケースミックスによる医療機関外来機能の差異の検討を行った。先行研究において、患者調査の患者票傷病名ICD10コードを2002年に本邦で開発された診断群分類システムであるDPC(Diagnosis Procedure Combination)に割り付けることにより、個々の患者の複雑性等を評価出来ることが明かとなっている。DPCは臨床医学の観点と医療経済的観点から疾患をグループ分けし、医療機関の機能評価や医療マネージメントを行うためのツールで、平成15年度からは特定機能病院の診療報酬の包括評価に利用されているものである。本研究では、この先行分析をさらに推し進め、外来再診患者のDPC主要診断名から医療機関の外来患者特性(外来ケースミックス)を推測する方法を検討した。先行研究で明らかとなった疾患別、医療機関種別患者数の状況を、医療機関種類別にDPCの575疾患分類の患者数のとして、初診、再診患者数別に再集計し分析を試みた。さらに、医療機関の外来特性の評価の検討を進めるために、DPC分類を活用して医療機関の外来機能の評価に応用可能な指標の開発を試みた。
第三に、外来診療行為の技術水準の評価による外来機能の評価方法の検討を実施した。特定機能病院、teaching hospitalsで実施頻度が高い診療行為を高度専門技術、専門技術、一般技術と定義し、その分布に基づく医療機関外来機能の評価を試みた。初年度は、医療技術水準のことなる医療サービスの提供状況から医療機関の機能を評価する方法について文献的に情報を収集し、また、社会医療診療行為別調査調査票の小分類別診療行為の医療機関別実施割合から、医療サービスから医療機関の外来機能を評価するための指標を検討した。
次年度以降、病診連携を行っている医療機関からのヒアリング調査、機能評価のためのアンケート調査、諸外国の外来診療における包括評価に関する文献調査等を行う。集計結果等の公表に際しては、個々の医療機関等が明らかとならないように配慮した。
結果と考察
第一の医療サービス提供の類型化による外来機能の評価方法の検討では、診療行為の発現パターン、医療機関毎の診療区分別平均医療費割合等の視点から医療機関の機能の分析を試みたところ、個々の患者の診療行為の発現パターンとしては、基本診療のみの型、検査を主とする型、投薬を主とする型、リハを主とする型など特徴的なパターンが明らかとなり、これらのパターンの医療機関における出現状況が、医療機関の特性を反映している可能性が示された。診療行為区分による医療費データから外来機能、入院機能に応じて、診療所、病院等の施設に応じた様な医療機関類型の検討が可能であることを明らかとした。
まず、平成13年の社会医療診療行為別調査個票から診療行為パターンの解析を行った。41万件のレコードを集計し診療行為大区分別の出現の有無のパターンで分類したところ、「投薬のみ」、「指導+投薬」など1663パターンの出現が確認された。これをABC分析、主成分分析、クラスター解析などにより、①「指導」・「在宅」、②「検査」・「画像」、③「投薬」・「注射」、④それ以外、それぞれの項目の点数発生の有無により16(2の4乗)パターンに集約した。それぞれのパターンの発現割合は下表のようになった。表中「0」は出現無し、「1」は出現ありを示している。
(「指導」・「在宅」)と(「投薬」・「注射」)が同時に出現するパターンが最も多く、次いで(「投薬」・「注射」)のみ、(「指導」・「在宅」)と(「検査」・「画像」)と(「投薬」・「注射」)
が同時に出現するパターンとなり、投薬・注射とくに投薬を中心とする我が国の外来診療のパターンが明らかとなった。なお、本分析では、院外処方、院内処方とも同等に評価されている。
これらの集計結果と基に我が国の医療機関の外来診療を医療機関種類別に比較する検討を試みた。医療機関特性区分は以下の16区分とし、複数の区分に相当する医療機関は上位の区分にのみ含めた;
1:特定機能病院、2:大学病院、3:臨床研修、4:国立病院、5:公立病院、6:公的病院、7:社会保険病院、8:公益病院、9:医療法人・個人等400床~、10:医療法人・個人等200~399床、11:医療法人・個人等100~199床、12:医療法人・個人等50~99床、13:医療法人・個人等~49床、14:精神病院、15:結核療養所、16:診療所。
この特性区分毎の外来診療行為パターンを集計したところ、診療所や小規模病院では投薬を中心とした行為パターンの発生が比較的多いのに対して、特定機能病院等の高機能病院では検査を中心とした行為出現パターンの発生が多くなっていた。しかし、個別の医療機関毎のぱらつきも比較的大きく、統計的な検証を進めるためには、行為パターンの集約、医療機関特性別分類の再検討を進めていく必要があると考えられた。また、個々の医療機関の外来機能の評価に応用可能な診療行為発生パターン分類方法の開発が必要であると考えられたため、次年度以降、この検討を進めていくこととした。
第二のケースミックスによる医療機関外来機能の差異の検討では、まず、医療機関種類別にDPCの575疾患分類の患者数の状況を、初診、再診患者数別に集計し分析を試みた。575程度の疾患分類は、大きな集団レベルで疾患の分布状況、医療資源の必要度の状況等を把握するには適当であると考えられた。そこで、医療機関の外来特性の評価の検討を進めるために、DPC分類を活用して医療機関の外来機能の評価に応用可能な指標の開発を試みた。先行研究において、DPC分類による複雑性(重症度)、効率性、稀少性等の方法論が示されており、本研究ではこのうち外来診療の評価に応用可能と考えられる複雑性と稀少性の指標の有効性を検討した。なお、DPC疾患分類毎の複雑性指数、稀少性指数は先行研究で求めたものを利用した。具体的には、医療機関種別の複雑性指標は、DPC疾患分類毎の在院日数の全医療機関平均値と当該医療機関種別内平均値の比率を、当該医療機関種別のDPC疾患分類毎患者数で加重平均したものであり、稀少性指数は、DPC毎の患者数割合の逆数の常用対数を当該医療機関種別のDPC毎の患者数での加重平均したものとした。再診患者での集計結果は下表のようになった。
再診患者において、受療患者数が圧倒的に多い診療所が複雑性、稀少性の指数が低く、一方、特定機能病院等の教育機関の疾患稀少性指数が非常に高い特徴が読み取れた。中規模医療機関は疾患複雑性が比較的高いことは予想外であったが、比較的複雑性が高く評価される外傷、脳梗塞等がこれらの医療機関の外来においては比重が高いことなどが影響している可能性がある。一方、稀少性に関しては、特定機能病院等での特徴的に高く、これらの医療機関が外来に置いて稀少な疾患の治療を担当している事が示された。全体的には、外来稀少度がやや特徴的である以外は医療機関の特性差異があまり認められておらず、我が国医療の外来機能の未分化を端的に示している可能性がある。しかし、複雑性の評価に置いては入院医療の在院日数等を指標にしているため、外来機能の評価にそのまま応用出来るか、在院日数が複雑性の評価に妥当であるか、特に急性期医療の評価に限定して評価する必要があるのではないか、また、医療費との関連性を評価する必要があるのではないか、など多くの点について次年度以降検討を継続することとした。いずれにせよ、効率的なディジーズマネジメントのあり方が注目されてきている現状において、医療機関の外来機能の評価は今後ますます重要になってくると考えられ、この点でDPC575分類を活用した外来機能の評価をさらに進めていくことが有用であることが示唆されていると考えて良いであろう。
第三に外来診療行為の技術水準の評価による外来機能の評価方法の検討では、社会医療診療行為別調査調査票の小分類別診療行為の医療機関別実施割合から、医療サービスから医療機関の外来機能を評価するための指標を検討したところ、特定の手術、画像診断、検査等が特定機能病院等で非常に高いことが明らかとなり、次年度以降、これらの指標を組み合わせて、外来医療サービスの技術水準を推定し、医療機関毎の外来機能の評価を検討した。
結論
診療行為から捉えた医療サービス提供の類型化による外来機能の評価方法の検討によって、診療行為の発現パターンに基づく医療機関の機能類型化の可能性を示唆する所見が得られた。また、ケースミックス理論を用いた外来機能評価の検討では、地域における受療患者数の動向、受療患者の疾患分布から見た医療機関の機能評価の可能性等が示唆された。外来診療行為の技術水準に基づく評価では、提供される技術の難易度等から外来機能が評価出来る可能性が示された。次年度以降、これらの検討を進めるともに文献サーベイ、医療機関へのアンケート調査等を並行して進め、外来診療の評価方法等を検討していく必要があると考えられた。

公開日・更新日

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