病院ボランティアの導入とコーディネートに関する普及モデルの開発とデモンストレーション(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300021A
報告書区分
総括
研究課題名
病院ボランティアの導入とコーディネートに関する普及モデルの開発とデモンストレーション(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
信友 浩一(九州大学大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 安立清史(九州大学大学院人間環境学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
4,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本調査研究の目的は、以下の5つの研究開発をめざすものである。①病院ボランティアの導入にあたっての標準的なモデルの開発および研修プログラムの開発、② 病院ボランティア・コーディネーターの標準的なモデルの開発および研修プログラムの開発、③病院ボランティア導入による医療サービス、患者サービス向上効果の測定および評価プログラムの開発、④病院とボランティアとの協働モデルの開発、⑤病院のボランティア受け入れシステムの総合的開発 からなる。①病院ボランティア導入にあたって、外来、作業室、病棟、事務局、ホスピス・緩和ケア病棟、など活動場所や内容ごとに様々な活動があって標準的なモデルがない現状にたいして、全国の病院ボランティア活動を行っている実態の把握をもとに、標準的な病院ボランティア活動のモデルを開発し、全国の病院ボランティアの導入を考えている病院にたいして提供する。②病院ボランティアの成功の秘訣であるボランティア・コーディネートの標準的なモデルを開発し、全国の病院ボランティアの導入を考えている病院にたいして提供する。あわせて研修プログラムも開発する。③ 病院ボランティア導入によって、病院側にはどのようなプラスメリットが生じるのかを測定・評価するプログラムを開発する。また、患者サービスの向上にどの程度寄与するの
かも測定・評価するプログラムも開発する。④ ボランティアと病院とがどのように協働していくべきなのかに関するあり方のモデルを開発し、病院とボランティアとが協働しやすくするマニュアルを作る。⑤ 全国の医療機関にむけて、病院ボランティアの受け入れと協働に関する総合的なプログラムとマニュアルを開発してボランティア受け入れシステムのモデルを構築することを目的とする。
研究方法
九州大学大学院医学研究院の中にワーキンググループを形成し、調査の枠組みを形成する。病院ボランティアを導入している全国の病院へアンケート調査を郵送調査法により実施した。どのような場所(外来、作業室、病棟-どのような病棟なのかの詳細、ホスピス・緩和ケア病棟、など)での活動なのか、活動受入までの経緯、ボランティア委員会の状況、ボランティア活動評価にあたってのプレ調査項目、などを入れて実施した。コーディネート調査では、コーディネーターの状況(兼任か専任か、専門性の背景-看護職か事務職か等、活動経歴や属性)、コーディネート内容の把握(コーディネーターとして行っている活動の詳細)、コーディネートにあたっての問題や課題(病院やボランティアとの関係での問題や課題など)を調査した。また平行して、日本全国の先進的な病院ボランティア活動を視察し、ボランティアおよびコーディネーターへのインタビュー調査を行い、コーディネートのあり方の実態や、問題や課題の把握を行った。
結果と考察
アンケート調査結果から、病院ボランティア・コーディネーターは全国の病院で導入されはじめているが、約8割がボランティアも含めたなんらかの職業と兼任していることがわかった。その平均年齢は51.4歳、4分の3が女性で、全体の約7割がなんらかのボランティア経験を持っていた。
次に、病院ボランティア・コーディネーターの活動についてのべる。活動年数の平均は4年2ヶ月であり、ごく新しい立場であることがわかる。そのため、病院ボランティア・コーディネータの位置づけは、それぞれの病院において異なっており、コーディネーターとしての役割についての明確な定義は存在しないということがわかった。また、活動内容は、ボランティアの受け入れから教育、メンタルサポート、病院との調整、記録など、非常に多様であった。
3番目に、ボランティア・コーディネーターとして、何らかの研修や講習は、大きく3つの団体によって行われていたが、日本ボランティア協会によるものが多く、また、「病院」に特化したものはそこのみであった。どのようなガイドラインや研修、講習が必要だと思うかという質問に対して、医療に関する専門知識を得たいという回答が多くよせられていることから、「病院ボランティア・コーディネーター」に関する研修や講習は必要だと思われる。
最後に、病院ボランティア・コーディネーターの意識について述べる。病院ボランティア・コーディネーターの多くが感じている不安や課題に、人間関係に関するものがあげられた。特に兼任のコーディネーターは、他の業務との調整や、時間の不足などがボランティアとのコミュニケーション不足につながることを不安に思っていた。
結論
現在、全国の病院にボランティアは導入されつつあり、コーディネーターの役割は必須である。しかし、病院ボランティア・コーディネーターに関するガイドラインや指針はいまだ存在せず、多くのコーディネーターがそれを求めている。今後、医療現場やボランティア活動の発展のためにも、そのモデルの開発は早急であり、重要である。
病院ボランティア活動や病院ボランティア・コーディネーターが全国に普及していくために、より調査研究が必要だが、病院ボランティアやコーディネーターによって、どのような効果があるのかを、数値化できなくてとも、様々なアスペクトから言語化して表現していくことが必要になるだろう。病院ボランティアが入っている病院と、入っていない病院との違いを明確に示すことなどが調査研究課題となる。
また、大阪大学医学部などで導入されているように医療教育へのボランティアの導入も必要になるのではないか。すでに大阪大学では、客観的臨床能力試験などにボランティアが模擬患者などとなって活躍しているし、卒業後研修などにも関わって医療教育の風通しをよくすることに貢献している。
このように病院ボランティアや病院ボランティア・コーディネーターの役割は、ますます重要になってきているが、コーディネーターの人材は不足している。導入したくても導入できない病院が多いはずだ。コーディネーターの教育・研修だけでなく、人材バンク的な役割も必要になっている。
また、ボランティア規約の作成から始まり、ボランティアの募集、ボランティア教育から導入まで、ひとつのシステムとして病院に導入できる仕組みづくりも必要になるはずだ。現在は、個々の病院からの問い合わせに対して、日本病院ボランティア協会が個々に答えたり、個々に関わったりしているが、これらの需要に総合的に対応できる基盤整備と仕組みづくりが必要になるだろう。そして、質の高い病院ボランティア・コーディネーターと病院ボランティア活動とを総合的にプロデュースしていくモデル的な役割が、日本病院ボランティア協会のような全国組織には求められているのではないか。
病院ボランティア活動に関しては、リスクマネジメントや、医療システム全体への投げかけの必要など、医療制度への投げかけやソーシャルアクションなども必要になってくるはずだ。
「病院ボランティアの導入とコーディネートに関する普及モデルの開発とデモンストレーション」が必要な理由がここにある。

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