男性の子どもの価値観と出産・育児に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300020A
報告書区分
総括
研究課題名
男性の子どもの価値観と出産・育児に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
辻 明子(早稲田大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎文子(清泉女学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
1,118,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今日の急激な出生率の低下を個人レベルで見ると、人が理想としている子どもの数より少ない子どもの数しか生み育てていないことが指摘されている。これは、女性にだけ子育てを任せる現状では、心理的にも社会的にも負担が大きくこの点を考慮に入れた結果、少ない子どもを生み育てるという選択につながっているものと考えられる。このような現状を打破するためには、男性の育児への「主体的」な参加が不可欠であると考えられる。
男性に対しても育児休業制度など制度的には育児に参加が可能な環境がととのいつつあるが、なぜ大多数の日本の男性はこうした行動に移行しないのであろうか。女性の育児負担の軽減に男性の育児関与は欠かせなくなってきており、また今日のカップルの子育ては男女で相談し合意し行われることがあることから、出産にいたるカップルの意思決定に関しても、男性の子どもへの価値観は非常に興味深い研究対象といえる。
このため本研究では、男性の、子どもをもつことや育児に関する意識について調査し、育児参加への動機づけを高める要因について検討することを目的とした。
本研究は3年計画であり、初年度にあたる今年は2年目及び3年目の布石となる研究を中心に行うこととした。
本年は、まず、男性の出産や育児への意識をたずねる質問紙調査をおこなうこととし、調査票の開発をおこなった。主な先行研究を参考にし、調査項目を作成し、未婚男女のサンプル(首都圏の大学生男女)に対しプレ調査を行った。この調査は、研究3年目に計画している大規模調査のプレ調査としての意味合いがあると同時に、未婚者に対する調査として単体でも取り扱えるように設計を組んだものである。
また、既婚者で子どもをもつことが現実的である場合の、子どもに対する意識を調べるため、20代から30代の既婚/未婚の男性5名に対し、インタビュー調査を行った。本年度のインタビュー調査は、研究2年目のグループインタビュー調査のパイロットスタディーである。インタビュー調査では、質問紙調査の内容を補足するとともに、平成17年度実施予定の大規模調査へ向けての、質問項目の検討資料とすることを目的とした。
研究方法
1.文献研究
子どもの価値や出産・育児に関連する先行研究(心理学社会学人口学)を洗い出し中でもコアとなる文献について検討を加えた。その結果East-West CenterのVOC研究(F.Arnold ら1975、T.Iritani 1979)で行われたカップルに対する「子どもの価値」調査、および柏木ら(柏木・永久、1999)で行われた女性に対する「子生みの理由」調査を参考することとした。
2.未婚者に対する「子どもの価値観と出産・育児に関する調査」アンケート調査
調査の対象:早稲田大学所沢キャンパスに通う早稲田大学の大学生及び大学院生
調査の時期:2003年(平成15年)12月22日(月)および2004年1月20日(火)に実施
調査の方法:大学キャンパス内にて配布・回収を行った
調査項目:基本属性/子どもや家族に関する項目/育児休業制度に関する項目など
倫理面への配慮:本研究の調査の実施にあたっては早稲田大学人間科学部研究倫理委員会において審査をうけ早稲田大学倫理規定等の基準を満たすものと確認され、プライバシーの保護の厳守等倫理面での十分な配慮を行った。
3.「子どもの価値観と出産・育児に関する調査」インタビュープレ調査
インタビューの対象:20代から30代前半の男性 5名  (内訳)30代 既婚 子どもあり  2名、30代 既婚 子どもなし  1名、30代 未婚 子どもなし  1名、20代 未婚 子どもなし  1名
インタビューの時期:2003年12月から2004年3月にかけて
インタビュー方法:調査者と1対1で半構造化面接形式でインタビュー調査を行った。所要時間は1人当たり、約1時間から1時間半であった。インタビューの内容は、録音し記録した。
インタビュー項目:基本属性/子どもの数について/育児環境・育児への意欲について/周囲からの影響について/子育ての負担感と充実感について/育児への参加条件についてなど
倫理面への配慮:インタビューにさきがけ、インフォームド・コンセントを行い、協力への同意を得た。
結果と考察
1. 文献研究
主要な先行研究である、East-West CenterのVOC研究(F.Arnold ら1975、T.Iritani 1979)で行われたカップルに対する「子どもの価値」調査及び柏木(柏木・永久、1999)で行われた女性に対する「子生み理由」調査を参照し、本研究におけるアンケート調査項目の選定を行った。これをもとに「子どもの価値観と出産・育児に関する調査」の調査票を作成した。
2.「子どもの価値と出産・育児に関する調査」アンケート調査
20代未婚男女(学生対象)に「子どもの価値と出産・育児に関する調査」のアンケート調査を実施した。1112部の調査票を配布し、うち786部を回収した。回収率は70.06%、有効回答率は70.03%であった。
アンケート調査の結果から、20歳前後の学生で、将来結婚したいという希望を持つものは82.9%(女性83.1%、男性82.6%)と多く、男女の差は見られなかった。
また、将来子どもが欲しいか、という設問に対して、83.4%のものが「ほしい」と回答しており、この回答にも男女差は見られなかった(女性83.6%、男性83.1%)。欲しい子どもの人数は、「2人」という回答が64.4%と一番多く、次に「3人」という回答が27.8%、であり、3番目に回答者の多かった「1人」の3.5%を大きく引き離していた。
さらに、主体的な育児への意欲をたずねた結果、83.0%のものが「主体的に育児をするつもり」と回答しているが、この設問においては、男女の差が見られた(女性93.3%、男性73.5%)。しかしながら、男性は女性よりも20ポイントほど回答率が低くなっていたものの、約4分の3近くのものが、「配偶者と同等かそれ以上の育児分担をする」つもりであるという結果は、決して育児への意欲が低いというわけではないことが明らかになった。
3.「子どもの価値と出産・育児に関する調査」インタビュー調査
現在インタビュー調査のデータは、プロトコルおこしの作業を行っており、データの分析は16年度に行う予定である。このため、ここではインタビューを行った際の感想や気になった点について報告する。
30代の男性では、既婚/未婚ともに、子どもを持つことに対して、ある程度の現実的な考え方を示していた。たとえば、子どもの数については、それぞれに抱えている事情のためもあるが、1人いれば満足しており、多くても2人いればいいと考えていた。また、30代の男性の子育てへの参加意欲については、状況が許せば参加したいが、状況を積極的に変えるような働きかけについては、否定的であった。育児休業制度についても、積極的にとることは考えていなかった。
結論
20歳前後の未婚の男性へのアンケート調査の結果、この世代の若者の、結婚や子どもを持つこと、子育てへの参加意欲は決して低いわけではないことが明らかになった。しかし、インタビュー調査を行った30代の男性の回答によると、欲しい子どもの数や育児への参加意欲は、アンケート調査対象者男性よりも低下していることが推測できた。
質的であり、サンプルも限られているインタビュー調査の結果と、量的で多くのサンプルの平均的回答であるアンケート調査の結果を単純に比較することはできない。しかし特に男性においては、10年の世代差や就業経験、結婚生活の中で、育児参加への意欲が低下していく可能性が指摘された。つまり、20代から30代にかけて、男性の育児参加意欲を低下させる要因を突き止めることで、少子化対策へ男性側からの有効なアプローチ手段を発見できる可能性がある。
しかしながら一方では、20代から30代にかけての変化は、本研究においては世代効果として現れたものであるのか、あるいは時代効果であるのか、確定はできない。
今回大量観察調査の対象となった20歳前後の人々(1980~1984年生まれが中心)の日常生活へのコミットメント具合は、その上の世代の人々の同じ年頃の頃と比べると異なっている点がある。例えば、男子学生であっても自炊、昼の弁当作りといった事柄を行うことは特別でなくなりつつあるようである(インタビュー調査から)。こうした「日常生活」に対する積極的な関与が強いのは、今回大量観察の対象者達が、男子も家庭科を受けるようなカリキュラムになっていることも関係しているのかもしれない。いずれにせよ、今の20歳前後の若者の子育て・暮らし方に関するより深い分析が重要となろう。
このことをふまえ、次年度以降の調査では、30歳前後の就労経験のある男性に加えて、20歳前後の学生も対象にインタビュー調査を行い、生活意識等、育児参加意欲に関連すると思われる世代的特徴についても、検討する必要がある。また長期の検討課題として、今20歳前後の若者が将来において子育てを含めた「新しい暮らし方」を選んでいくのかどうか、注意深く観察を続ける点を挙げておきたい。

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