政策評価における実績評価のあり方に関する研究-評価指標の見直しと評価結果の活用方法の検討を中心に-

文献情報

文献番号
200300018A
報告書区分
総括
研究課題名
政策評価における実績評価のあり方に関する研究-評価指標の見直しと評価結果の活用方法の検討を中心に-
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
田村 誠(国際医療福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田敬(東京大学)
  • 池田俊也(慶應大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省は、「厚生労働省における政策評価における基本計画」を平成14年3月に決定した。そして、平成14年度から、実際の評価が順次なされた。しかし、評価は始まったばかりであり、当然のことであるが、さまざまな問題が見受けられる。そこで本研究では、医療を中心とした業績評価の評価指標を見直すこと、および、業績評価結果の取り扱いについての考え方・方向性を検討しようとするものである。本年は、これまでに設定された評価指標を見直し、各種厚生統計や海外事例も参考にしながら、施策目標との合致度等の観点からあるべき評価指標を検討する。
研究方法
2003年度は実績評価見直しの基本的な視点を整理する目的で、以下の4つの調査・検討を行った。1つは、実績指標候補を探るために厚生統計データを整理し、一覧を作成した。2つめは、他の中央省庁の政策評価・実績評価システムを調査し、厚生労働省と比較した。3つめは、米国および英国の実績評価システムを整理し、わが国に参考となる点を整理した。4つめは、医療システム・政策評価の学術研究をレビューし、わが国の実績評価に参考となると思われる評価指標を整理した。
結果と考察
他の中央省庁の政策評価・実績評価システムの調査、厚生統計データの整理、英米の実績評価システムの調査等を行い、実績評価見直しの基本的な視点として以下の5点の結果を得た。
①目標値の設定
わが国の他省庁の実績評価においても、米国の実績評価においても、評価指標に目標値を設定し、それに対してどの程度達成できたかを評価している例が多い。それに対して、厚生労働省の実績評価では、目標値を設定しているものは多くなく、目標値を設定することは大きな課題の1つである。目標値の設定方法については、農林水産省のものが参考になった。目標値が設定されていないことと関係しているとみられるが、厚生労働省の実績評価の結果分類は、「目標を達成した」、「目標をほぼ達成した」、「達成に向けて進展があった」の3段階となっており、もっとも悪い場合でも「達成に向けて進展があった」であり、実績指標の評価結果には問題がある。
②一般の人にわかりやすい指標の設定
政策評価の目的の一つは、アカウンタビリティの向上である。ところが、厚生労働省の実績評価指標は一般の人に判りにくいものが多い。他省庁の例では、国土交通省が「低床バスや福祉タクシーの導入割合・数」など、米国の例では「全国的に1年あたりの臓器提供者の数を5%増加させる」など、直感的に判りやすいものが比較的多くみられる。所管業務の性格にもよるであろうが、厚生労働省でもよりわかりやすい指標作成を目指すべきである。
③アウトカム指標の設定
実績評価では、アウトプット指標よりも、アウトカム指標を用いるのが望ましいと一般にされている。他省庁や英米に比べると、厚生労働省の評価指標はアウトプット指標が多い。例えば、国土交通省では「国民1人あたりの平均宿泊旅行回数」や「住宅に対する評価(満足度)」などの指標を設けているし、英国では「心バイパス手術後30日以内の死亡(/10万人)」や「大腸癌生存率」などの指標がある。ただし、医療の質評価の場合には、アウトプット指標のほうが望ましい側面もある。その理由は、①アウトカムに比べると、診療のプロセスや目標値(ほぼ100%)について合意が得られやすい、②アウトカム・データの場合は、さまざまな議論のある「リスク調整」が必要であるが、プロセス指標の場合は基本的にはそれが必要ない、③なぜ望ましいアウトカムになっていないかを探るよりも、なぜ重要な診療プロセスが行われていないかを探るほうが、提供者にとっては容易である、などである。
④新たなデータ源の検討
より充実した評価指標を設定するためには、新たなデータ源が必要となる。とくに医療の質評価のデータは、既存の官庁統計からはなかなか得にくく、米国等で行われているように、新たにデータ収集をする仕組みを検討する必要がある。米国では、例えば、MCBS(Medicare Current Beneficiary Survey)という16000人のメディケア受給者に対するパネル面接調査を行ったり、CMS(Center for Medicaid and Medicare Services)による医療の質指標調査(急性心筋梗塞患者の退院時にβブロッカーを処方しているか、など)を行っている。
⑤政策実施と評価指標との関連性の検討
実績評価では、政策の効果を評価指標の動きで把握することが基本的な前提となっている。しかし、学術的な政策評価研究をレビューした限りでは、そこにはタイムラグの存在や、政策実施規模の限界的な影響などを考慮すべきとみられ、今後は、政策実施と評価指標との関連性についての検討が求められる。
結論
他の中央省庁の政策評価・実績評価システムの調査、厚生統計データの整理、英米の実績評価システムの調査等を行ったところ、実績評価見直しの基本的な視点として、「目標値の設定」「「一般の人にわかりやすい指標の設定」「アウトカム指標の設定」「新たなデータ源の検討」「政策実施と評価指標との関連性の検討」の5つが浮かび上がった。

公開日・更新日

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