慢性期入院医療における包括的評価指標の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300017A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性期入院医療における包括的評価指標の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 泰(国際医療福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大河内二朗(産業医科大学)
  • 大内東(北海道大学工学部)
  • 松田 晋哉(産業医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今回の研究の目的は、慢性期入院医療における包括的評価指標の開発することにある。、急性期以降(亜急性期~慢性期)の医療は、疾患の治療から臓器の機能不全から発生する障害を補うことへと比重が推移してくるので、亜急性期~慢性期の医療あるいはケアの評価には、“医療に関する情報"と機能低下より発する“障害に関する情報"の両者を評価する必要がある。
筆者らは急性期以降の医療やケアの評価に、ICF(国際生活機能分類)を利用を検討している。ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health: 国際生活機能分類)は、人間の「生活機能と障害」の分類法として、2001年5月、世界保健機関(WHO)総会において採択された障害を区分するための理論的な枠組みである。筆者らは、更にICFの障害を3層に分け捕らえる考え方に着目し、その中の一番下の層である身体機能を介して、疾病(ICD)と第二層の生活レベル、第三層の社会参加の障害(ICF)を結びつけることを目指している。しかICFは膨大な数のコードの集合体である、現在のところ現場においてあまり活用されておらず、また研究もあまり行なわれておらず、各項目の発生率、再現性等の基本的な評価に関する論文は、未だ発表されていない。このようなICFに関わる基礎データがなければ、これから進めようとするICFを用いた急性期以降の指標の開発に大きな支障をきたすことが予想される。そこで今年度は、ICFの主要な項目の障害の発生率、現場のスタッフが更なるアセスメントを必要とする項目はどのようなものであるか、項目毎の発生率はどの程度であるかなどを調べることとした。
研究方法
ICFの主要な項目の再現性を調べるために、一人の高齢者に対し、二人の評価者が一週間以内の異なっときに評価を行うという形で調査を行った。2回評価を行えた対象者が761名、1回しか調査を行えなかった対象者が22名で、合計1550回の調査が行われた。調査項目は、(評価者情報)4質問、(対象者の基本情報)70質問、(対象者の状態像)14質問、(対象者のICF身体機能)85質問、(対象者のICF活動と参加)152質問であり、調査に際し全対象者の本人または代理人の文章による調査への同意を得ている。
調査対象者は男性189名(平均年齢77.5歳)、女性598名(平均年齢83.6歳)であり、医療施設内で入院中の対象者が8.6%、施設入所中の対象者が71.5%、在宅での対象者が18.0%)という構成であった。
結果と考察
ICFの判定結果の一致率は、身体機能全体では、重み付けカッパの平均が0.43、重み付けをしないカッパの平均が0.39、区切りを0-1においた場合のカッパが0.45であり、中位程度の一致率を示した。活動と参加全体では、重み付けカッパの平均が0.56、重み付けをしないカッパの平均が0.38、区切りを0-1においた場合のカッパが0.48であり、重み付けカッパで高い値を示した。全体的に見れば、どうにか使用にたるだけの再現性があることを確かめることができた。また今回の調査では、ADL関連の項目の多い活動と参加「第5章 自己管理」やIADL関連の項目が多い「第6章 家庭(調理・家事)」の項目は非常に高い再現性を示すが、一部再現性の極めて低い項目も存在することを確かめた。
ICFの身体機能には8つの章が、活動と参加には9つの章があるが、章毎により各項目の特性が大きく異なることを確かめた。例えば身体機能の「第7章:神経筋骨格と運動に関連する機能」は、障害が発生しやすく、アセスメントの必要性は高いが、再現性は低い項目が多い。逆に活動と参加の「第3章:コミュニケーション」は、障害の発生度は低く、アセスメントの必要性も低いが、再現性は高い。
障害の発生度が高い項目の多い章は、身体機能の「第7章:神経筋骨格と運動に関連する機能」、活動と参加「第4章の運動:歩行と移動」と「第6章 家庭(調理と家事)」であった。アセスメントの必要性の高い項目の多い章は、身体機能の「第7章:神経筋骨格と運動に関連する機能」と活動と参加「第4章の運動:姿勢の変換と保持」であった。さ再現性の高い項目の多い章は、活動と参加「第5章の自己管理」であった。
今回の調査では、各項目の障害されている程度を尋ねている。障害の程度には、「(1)できる、できない」という要素と、「(2)できない場合、どの程度困るか」という要素が、関わっていると思われる。更に、「b250味覚」、「b850毛の機能」などは、味覚が低下することが多く、また髪も薄くなることが多いので、障害の割合は決して低くないと予想していたが、障害発生度が低かった。これは、味覚が低下したり、髪が薄くなっても、第三者からは機能が低下しても生活にあまり支障をきたさないと判断された場合が多いからと思われる。よって今後ICFを用いて高齢者の判定を行なう場合、ADL的なできる・できないの判断と、障害の程度を判定することの違いを判定者に認識してもらうことが重要になってくる[JO1]。このほか、調査者がより判断しやすいものが、障害度が高く評価する傾向があることを、今回の調査結果は、示唆している。
今回の調査では、障害の程度を尋ねた後に、更なるアセスメントを必要とする項目であるかという質問を行っている。アセスメントが必要と判断されるには、(1)障害の程度という要素と、(2)障害が発生した場合にどの程度困るかという要素が関連する。たとえば、動物の力による交通手段の操作(馬に乗るなど)、あるいは車を運転するという動作は難易度が高く、ほとんどのケースが「4:全く機能が障害されている」という最も高い障害の判定を受けているが、アセスメントを必要とすると判定されたケースは、非常に少ない。このように障害の発生度が高い(できないケースが多い)ことが、必ずしもアセスメントの必要であることと直結しないことを認識しておくことも重要である。
今回の調査は、少なくとも高齢者ケアの分野では、おそらく世界で初めてのICFの使用に関する大規模調査である。国内のみならず海外でも、ICFに興味を持っている研究者や現場スタッフは多いが、その多くは、ICFをどのように使うべきがわからず戸惑っている。世界中のICFの使用者(潜在的な使用者も含め)にとって、今回の調査結果が、有用な基礎データになることを期待している。今回のICFの基礎データを、論文やインターネットなどを介し、公表する準備を行っている。
結論
ICFの主要な項目の障害発生率や再現性を調べるために、761名の状態の安定した高齢者に対し、二人の評価者が一週間以内の異なっときに評価を行うという形で調査を行った。その結果、
(1)章により、障害発生率、アセスメントの必要と思われる項目、再現性が大きく異なり、章毎にあるいはさらに細かな区分ごとにコードの使い分けを必要とすること
(2)「0:機能障害なし」、「2:中程度の機能障害」、「3:重度機能障害」、「4:完全な機能障害」という尋ね方でも、重み付けカッパ値が0.4を超え、またADLやIADL関連の項目は0.6を超え、ICFの信頼性(再現性)は、ある程度保たれている
という成果を得た。
[JO1]このほか、調査者がより判断しやすいものが、障害度が高くでるという可能性も指摘できるのでは?

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