介護予防対策の費用対効果に着目した経済的評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300016A
報告書区分
総括
研究課題名
介護予防対策の費用対効果に着目した経済的評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
新開 省二(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 川渕孝一(東京医科歯科大学)
  • 藤原佳典(東京都老人総合研究所)
  • 渡辺修一郎(桜美林大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成17年の介護保険制度の抜本的見直しに向け、いくつかの重要な厚生分野で早急にエビデンスを出しておく必要がある。「介護予防」はその一つである。はたして、介護予防対策は、高齢者人口に占める要支援、要介護高齢者の割合を減少させ、介護保険や医療保険の安定的運営に寄与しうるのであろうか。本研究は、その課題に答えるべく介護予防対策の費用対効果に着目した経済的評価を行うことを目的としている。われわれは、平成12年度から新潟県与板町、平成13年度から群馬県草津町で、地元自治体と共同して地域包括的な「介護予防推進システム」を立ち上げてきた。また、両地域ではこれまで2年に一度の間隔で、65歳(あるいは70歳)以上の高齢者を対象とした悉皆的な健康調査が実施され、それぞれ約1,500人と約1,000人の高齢者について生活機能の自立度が把握されている。そこで、本研究では両町をモデル地域として研究を行う。本年度は、両地域において介護予防対策の充実をはかりながら、費用対効果の分析に必要な、事業範囲の確定、効果指標の選定、データベースの作成を行う。さらに、健康調査を実施し、健康情報の継続した入手を行う。これらはすべて、次年度以降の介護予防対策の費用対効果分析に必須となる基盤的作業と位置づけられる。
研究方法
1.介護予防推進システムの構築:草津町において70歳以上の高齢者を対象とした「介護予防健診」とその報告会の開催およびハイリスク者を対象とした3つの介護予防教室(転倒予防、痴呆予防、低栄養)を開催する。また、与板町においてはこれまで整備されてきた介護予防推進システムの充実(参加者や開催地域の増加など)につとめるとともに、平成16年度の「お達者健診」の導入に向けた準備を行う。
2.費用対効果の分析に向けた準備:1)介護予防事業の明確化 両町で取り組んでいる介護予防事業の範囲を特定し、これら事業に参加した高齢者の名簿を作成する。2)介護予防対策による効果指標の設定 介護予防対策の効果は、当該地域の高齢者人口に占める要支援・要介護高齢者の割合の減少、介護保険新規申請者の平均年齢の上昇にあらわれる可能性がある。また、要支援・要介護高齢者は、介護保険給付のみならず医療保険給付も多いと考えられ、介護予防対策により介護保険や医療保険給付が安定的に推移する可能性もある。これらを想定して介護予防対策の効果指標を設定し、それに必要なデータを入手する。3)データベースの整備 過去の健康調査データと平成12年~平成15年度の老人医療および介護保険給付データをリンケージするとともに、個々の介護予防事業への参加状況も入力し、分析データセットを作成する。4)健康調査の継続 草津町において、平成13年度の健康調査(70歳以上の全高齢者1,039人)を対象とした訪問面接調査に引き続いて、本年度も同年齢の高齢者1,151人を対象とした訪問面接調査を実施する。
3.データベースを用いた研究:草津町における2回の健康調査(平成13年度と本年度)のデータを用いて、現在、介護予防事業の対象とされている「閉じこもり」、「易転倒性」、「低栄養」、「生活機能低下」が、要介護状態のリスク要因であるかどうかを分析する。さらに、同町のデータベースを用いて、生活機能の自立度別(自立、要支援、要介護)に前後1年間の医療費あるいは介護給付費の平均値(中央値)を算出し比較するとともに、人口推計および年齢階級別の要介護者出現率をもとにして、医療費および介護給付費の将来推計を行う。
4.個人情報の保護について:本研究計画は事前に東京都老人総合研究所倫理委員会の審査に付され承認された(15財研究第870号)。また、分析データについては、草津町および与板町がこれまでの健康調査と老人医療費・介護給付費のデータをレコードリンケージし、連結不可能匿名化処理(個人氏名・住所・生年月日が消去され,本人の同定ができない)した後、研究所側が文書による使用許可を得た。
結果と考察
1.介護予防推進システムの充実:草津町における介護予防推進システムにおいて、70歳以上高齢者を対象とした「にっこり健診」(介護予防健診)の受診率は45~50%であり、報告会への参加率は受診者の40~50%であった。ハイリスク者向けの3つの介護予防教室(転倒予防、低栄養予防、痴呆予防)はそれぞれ5回から17回開催され、一回あたりの参加人数は20~30人であった。与板町においては、次年度の介護予防健診の実施に向けて関係機関と協議を重ねた結果、基本健康診査の内容を69歳以下と70歳以上で分け、後者は老年症候群の早期発見・早期対応を目的としたものとし平成16年6月15日~19日の5日間で実施することになった。次年度は、両町における介護予防事業への参加人数を増やすとともに、与板町の介護予防健診の実施に注力したい。
2.費用対効果の分析に向けた準備:1)介護予防事業の明確化 介護予防事業の範囲を、①ハイリスク者のスクリーニングと事後指導(「介護予防健診」と報告会)、②個別の介護予防事業(転倒・骨折予防[転倒予防教室や地域の茶の間]、痴呆予防[痴呆予防教室や地域の茶の間]、咀嚼力低下・低栄養予防[低栄養予防教室、訪問指導(保健、栄養、歯科)、]、閉じこもり予防[訪問指導、地域の茶の間、いきいきサロン、コミュニティデイ]、③老人保健事業のうち広義の介護予防に含まれる事業(健康教育、健康相談、訪問指導、機能訓練など)とする。これら事業に参加した高齢者の名簿を作成し、データセットへの入力を開始した。2)介護予防対策による効果指標の設定 地域全体としての効果指標は、高齢者人口に占める要支援・要介護高齢者の割合、70歳時健康余命、介護保険新規申請者の平均年齢とした。個々の介護予防事業の効果指標は、要支援・要介護状態となるまでの期間、介護保険を申請するまでの期間、老人医療および介護保険給付費とした。3)データベースの整備 これまでの健康調査データと老人医療および介護保険給付に関わるデータをリンクし、データベースの構築を進めた。また、本年度の健康調査は、草津町に在住する年齢が70歳以上の全高齢者1,151人(平成16年3月31日現在)を対象に訪問面接調査を行い、1,008人から回答を得た。データはすでに入力され、データベースの一部を構成している。
3.データベースを用いた分析:『介護予防チェックリスト』を用いて評価された「閉じこもり」、「易転倒性」および「低栄養」のいずれもが、初回調査時の性、年齢、老研式活動能力指標得点を調整しても、2年後の要介護状態の新規発生を有意に予測していた。また、草津町においては、男女ともに自立から要支援・要介護へと自立度が低下するにつれ、医療費、介護給付費ともに大きく増加することが示された。年齢階級別の要介護の出現率が今後も一定であるとすると、10年後の同町の老人医療および介護給付費は共に約1.6倍に増加する。逆に、要介護者の出現率をすべての年齢層で一律に半減させることができれば、10年後の老人医療費は1.2倍に、介護給付は10%減に、それぞれ抑制することが可能であると推計された。自立を維持し、重症化を先送りすることが、高齢者の医療・介護コストの低減につながることが明示された。これら二つの研究は介護予防対策の重要性を強く示唆するものである。
結論
二つの研究フィールドにおいて、地域包括的な介護予防推進システムの構築をはかりながら、介護予防対策の費用対効果の分析に必要な、事業範囲の確定、効果指標の選定、データベースの作成を行った。また、2年に一度の悉皆的健康調査を高い精度で実施することができた。これらはすべて、次年度以降に予定している介護予防対策の費用対効果分析を行う上で必須であるデータベース作成の基盤となるものである。また、本データベースを活用した研究からは、介護予防事業の根拠を明示することができた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-