少子化社会における妊娠・出産にかかわる政策提言に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300015A
報告書区分
総括
研究課題名
少子化社会における妊娠・出産にかかわる政策提言に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
福島 富士子(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 小林秀資(長寿科学財団)
  • 三砂ちづる(国立保健医療科学院)
  • 飯田史彦(福島大学経済学部)
  • 竹内正人(葛飾日赤産院)
  • 角田由香(久留米大学文学部、医療経済学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
安全で、女性と赤ちゃんの双方にとって良い経験で、かつ、出産施設にとって経済的にも経営的にも、みあうような、そして施設と地域が継続して女性と子どもをサポートしていけるような出産ケアについての政策提言を目指す。
研究方法
①4地域における継続ケアの実態調査を調査員によるヒアリングにより行った。②4地域における継続ケアの実態調査をデータとして出産施設の経営戦略について分析を行なった。③1モデル地域を選択し、地域における母親支援のあり方について母親および支援者を対象に半構造化面接による聞き取り調査を実施した。④出産ケアサービスの需給と競争メカニズムについて文献サーベイを実施した。
結果と考察
結論
①産婦のデマンドに基づいた多彩で先駆的な妊娠、出産サービスの類型を検討するために、全国の4地域での妊娠、出産、出産後サービスについての訪問実態調査を実施した。行政が主導する形で出産サービスの提供を行っている三重県熊野保健所の例では、紀南病院に「紀南母子すこやかルーム」という母子保健事業の拠点を作り、また、紀南病院産婦人科医師、三重大学小児科医師、開業の産科医師、助産師、保健師で継続ケアの話し合いを持ち、連携のためのシートを作成するなどの具体的な行動をとっていることが明らかとなった。東京都地域周産期母子医療センターに認定されている葛飾日赤産院においては、リスクマザーに対する医療的なフォローに加えて、母親学級など産前、産後と母子と関わる機会は多彩であるが、医療機関としての運営がスタッフの業務において最優先となる為、部門間の意志疎通のための時間的余裕が作りづらく、継続ケアのための地域との連携も今後の課題となっている。一方、開業産科医院としての岡山県の三宅医院においては、産科を核にして母子と一生関わりのもてる医院を目指し、小児科、歯科、不妊治療などの併設へと多角化している経緯を持ち、サービスの受け手となる母子の満足を目標とする経営方針をすべてのスタッフに徹底させる経営手法をとりいれている。最後に、福岡県の春日助産院では、検診の他にマタニティヨーガ講座、お産教室、正しい食のあり方について学ぶ食事会などの女性の身体の講習会や育児相談などのイベントを低価格で主催し、母子との接点を作っている。また、女性への継続的なサポートについては長期的な視野を持ち、ワーキングマザーへの支援を目的に社会福祉法人を設立し、3ヶ所で保育園を経営している。
②妊娠から産褥期の母親のニーズと医療機関・町村の母親支援の現状や課題について明らかにし、今後の地域における母親支援のあり方について検討することを目的に母親および支援者を対象に、半構造化面接による聞き取り調査を実施した。地域における支援体制として、以下の6項目が必要であることが示唆された。すなわち、i)医療機関と町村保健センターの役割意識、ii)医療機関と町村保健センターの連携(ケースの連絡・他機関の紹介)、iii)継続的なケア(母親を妊娠・出産・産褥・育児と続いていく存在であることを認識し、各機関との連携によって途切れないように支援を行うこと)、iv)ボランティアからの支援、v)民間等による支援、vi)保健所のアセスメントやマネジメントの役割。である。
③少子化社会において出産の動機付けを与える機能を持つことのできる産婦人科医院・助産院の経営戦略を①で調査した医療機関をモデルに考察した。医療機関の大半は「満足促進要因も不満促進要因も共に多いため、判断材料が無い施設」、「満足促進要因も不満促進要因も共に無いため、判断材料に迷う施設」の2種類が多いようである。各施設の経営者は「不満促進要因の解消」ばかりに力を入れて「無個性」な施設にしてしまうよりも、「致命的な不満促進要因は改善するが、むしろ不満促進要因は後回しにしても、まずは強力な満足促進要因となるような差別化を実現し、個性化をはかる」という戦略で臨むべきことが明らかとなった。差別化には理念とイメージによる差別化、物的側面における差別化、人的側面における差別化、人事管理による差別化、治療とサービスによる差別化、マーケティングによる差別化などがある。行政サイドはこれらの差別化において成功している先端事例について医療施設経営者・従事者に対して情報を幅広く提供し、適切な競争状態へと導くことが期待されていると思われる。
最後に、サービスの供給者となる医療施設側で質を考慮した価格設定・競争が行われている実態が見い出されにくい状況の中、生産コストと各区設定との関連を明らかにすべく④日本における出産ケアサービスの需給と競争メカニズムについて文献サーベイを実施した。助産師による出産ケアサービスはサービスを消費した妊婦側の満足度は高く、妊婦の「肥満群における体重抑制」において助産師による保健指導が効果を及ぼしているという分析もあり、異常分娩に至るリスクを軽減し、医療費を削減する外部的効果があるという報告もある。助産師による出産ケアサービスが購入する需要サイドのみならず、社会全体にも便益をもたらす外部性を発揮することが近年の研究で検証されてきており、日本の医療保障システム、診療報酬制度の下でどれだけ医療費の削減効果を持つのか、実証研究が待たれる。また、時間で相対的に賃金の高い医師がサービスを生産するケースと長時間で低賃金の助産師がサービスを生産するケースとの費用比較分析が今後の課題であるが、同費用であるという分析が出れば、価格同額の下で低費用の助産師の労働力投入により収益を確保する、または価格を下げて消費者を増やすことで収益をあげることが考えられる。今回の文献サーベイによると、助産師によるサービス生産の費用構造はどのようになっているのか、人的資源・物的資源の量的・質的側面をともに考慮した分析例はなかなか見あたらず、サービスの供給サイドである施設運営者に経営センスが求められていなかった背景が浮かび上がった。同時に、需要サイドにとってもケア・サービスの質・量によってどのような便益(安全性、自然さ、快適性など)がもたらされるのか、十分な情報が伝達されておらず、サービスの選択が困難な状況も明らかとなった。

公開日・更新日

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