年金制度の長期的な制度体系のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300010A
報告書区分
総括
研究課題名
年金制度の長期的な制度体系のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
(財) 年金総合研究センター
研究分担者(所属機関)
  • 宮武剛(財団法人年金総合研究センター)
  • 大沢真知子(日本女子大学)
  • 小野正昭(株式会社みずほ年金研究所)
  • 駒村康平(東洋大学)
  • 中里幸聖(財団法人年金総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、平成16年の年金制度改正を、恒久的に継続可能な年金制度構築のための第一ステップと位置づけている。その上で、各テーマに沿った海外年金制度の横断的な検証と、国内外既存調査のサーベイによる論点の整理を通じ、経済と社会の過渡期にも柔軟に対応できる、次世代(平成16年の次期改正に向けた)年金制度と社会構造のあり方の研究を目的とする。
研究方法
1年目に当たる本年度においては、環境変化の不確実性に柔軟に対応することができる、恒久的に安定した制度構築の条件を明らかにするため、海外年金制度の横断的な調査と、既存調査のサーベイを通じた研究を行った。具体的には以下の通り。
①基本的な論点(テーマ)としては下記のもので取り組んだ(順不同)。これらについて、わが国の年金制度の経緯と、海外の状況調査(文献・実地)を踏まえ研究を進めた。なお、海外制度の調査は国の枠にとらわれずにテーマに沿って横断的に実施した。
○拠出建てと給付建て
○1階と2階の構造
○賦課と積立の比重
○税財源の投入方法
○公的年金と企業年金・個人年金の組み合わせ
○公的扶助と年金との関係(最低保障水準等)
○雇用形態の多様化への対応
※実地調査は英独の年金改革について実施。
②上記研究結果を前提として、制度改正の定量的なイメージを把握するために、現行制度・所得比例一本方式等の簡素なシミュレーションを実施し、現行制度との所得階層別の影響度合を比較した。
なお、海外調査、個別文献調査、既存研究サーベイを検証・研究し、定期的な全体研究会、有識者ヒヤリングを適宜開催して進行した。全体研究会は計9回実施した。
結果と考察
平成16年の年金改正案を制度の安定化への再出発として評価した上で、現行体系の長所、短所や年金改正案の持続可能性を歴史的な論争、制度の現状と先行き、主要先進国の年金改革との比較などを通じ検討した。
この検証の結果、長期的な年金制度の最大課題は「新しい働き方」「新しい生き方」に対応可能な設計・運営であるかどうか、つまり制度の若い担い手たちの信頼を得ることである、との結論を得た。
雇用の流動化・多様化は、非典型労働者の激増、被用者と自営業者間の移動、経営者・運営者と被用者・従事者の未分化傾向などをもたらした。これらの働き方は、自営業者らの国民年金、被用者の厚生年金・共済年金という枠組みでは納まり難くなっているように思える。個々人のライフスタイルも激変し、とりわけ女性の高学歴化、社会進出に伴う自立志向は、未婚・非婚、既婚・離婚、育児・介護による離職・再就職などを問わない柔軟かつ平等な制度設計と運営を必要とし、被用者年金制度の個人単位化を促す動向へ繋がっている。
さらに、平成16年の年金改正案では国民年金に多段階免除を設け、支払い能力への配慮を加えている。
これらを踏まえた上で、本研究では、一定の条件で①現行制度、②定額給付の基礎年金廃止・所得比例一本化、③基礎年金の国庫負担分なしの所得比例、④国庫負担分を最低保証給付に充てたうえ所得比例、⑤2段階ベンドポイント方式という5通りのシミュレーションを試みた。その結果、中間所得層における世帯別(第2号被保険者と保険料支払い義務のないパート収入にとどまる第3号被保険者)の所得代替率を概算すると、①現行制度が最も高く、以下は④最低保証付き所得比例と⑤2段階ベンドポイントは同程度、②所得比例一本化、③国庫負担なし所得比例の順になった。さらに分配の不平等度を示すジニ係数で見ると、②と③の不平等性が高く、以下は⑤、④、①の順であった。中間所得層の給付水準や平等性について現行制度の相対的な高さが裏付けられた。
本年度の研究により、わが国の年金制度の過去と現状、平成16年年金改正案と近未来像、スウェーデン、ドイツ、イギリス等の年金改革との比較、などが整理された。これらにより、平成16年の年金改正を早期に実施した上で、さらに長期的な課題としてどのような事項が必要なのかが明らかになった。また、シミュレーションの結果、所得代替率やジニ係数などの尺度では、中間所得層の給付水準や平等性について現行制度の相対的な高さが裏付けられた。
これらの結果、本研究の目的である「経済と社会の過渡期にも柔軟に対応できる、次世代(次々期改正に向けた)年金制度と社会構造のあり方」の基本的論点、課題、おおよその方向性が整理された。
結論
制度の安定化のために、平成16年の年金改正は早期に終了した上で、さまざまな「時代の要請」に応え、かつ実現可能性の高い日本独自の長期的な年金制度のあり方を探る必要がある。本年度の研究では、そのための基本的論点、課題、おおよその方向性を明らかにすることができ、長期的な年金制度の最大課題は「新しい働き方」「新しい生き方」に対応可能な設計・運営であるかどうか、つまり制度の若い担い手たちの信頼を得ることである、との結論を得た。次年度は、これらについてさらに検討を深め、具体的なあり方を明らかにしていくことになる。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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