中小規模事業場の健康支援に関連する政策・施策・サービスの連携に関する研究-最適支援システムの構築を目指して-(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300009A
報告書区分
総括
研究課題名
中小規模事業場の健康支援に関連する政策・施策・サービスの連携に関する研究-最適支援システムの構築を目指して-(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
錦戸 典子(東京大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井澄子(東京都府中小金井保健所)
  • 飯島美世子(NPO法人保健科学研究会)
  • 田口敦子(東京大学大学院医学系研究科)
  • 中田光紀(独立行政法人産業医学総合研究所)
  • 平田衛(独立行政法人産業医学総合研究所)
  • 北條稔(太田地域産業保健センター)
  • 前田一寿(NPO法人ジョブ・ストレスケア・ジャパン)
  • 松田一美(社会保険健康事業財団)
  • 三好ゆかり(国民健康保険中央会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、中小規模事業場の健康支援に関連する各種の政策・施策・サービスを体系的に整理・分析するとともに、それらを利用する事業場側のニーズや組織風土を分析し、より利用しやすい新たな支援システムモデルを構築して、その効果を実証的に検討することを目的としている。本年度は、主に次の5点の検討を通して、現在の中小規模事業場の健康支援システムに関する課題の分析と今後の方向性を提示することを目標とした。①先行研究の検討、②現行サービスの整理、③新たな課題の検討、④利用者側のニーズや組織風土の把握、⑤今後の政策・施策・サービスのあり方の検討
研究方法
【①先行研究の検討】中小規模事業場の健康支援に関連する文献のうち、「中小事業場」等のキーワードで、最近5年間に発表された和文献を医学中央雑誌web版を用いて検索し、その中から原著論文、研究報告を選択した。これらに関して、研究のタイプ別に分類し、知見をまとめた。また、各都道府県産業保健推進センターの調査報告書のうち、タイトルに該当キーワードがあるものを検索し、産業保健活動の指標となると思われる項目に関して、該当するデータを抽出・整理した。【②現行サービスの整理】現在、中小事業場向けの健康支援対策として展開されている各種のサービスを、労働衛生機関、医療保険機関、地域保健機関、事業場外サービス機関ならびに経済・産業関連等機関別に記述・整理した。【③新たな課題の検討(質問紙調査)】都内および近県の特定地域の中小規模事業場従業員約3000名を対象として、健康状態や生活習慣、ストレス状況に関する横断的質問紙調査を実施し、ケガと睡眠、およびメンタルヘルスに着目して分析した。【④利用者側のニーズや組織風土の検討(インタビュー調査)】都内の中小規模事業場の安全衛生担当者を対象に、事業場の安全衛生体制づくりに関する意識・職場風土、健康支援サービスへの要望、等について半構成面接を実施した。その結果を逐語録に起こし、研究目的に沿って語られているフレーズを抽出し、内容分析の手法に準じて整理した。また、典型的な事例に関して、事例検討を行った。【⑤今後の中小事業場の健康支援に関する政策・施策・サービスのあり方の検討】これらの研究結果を踏まえて、現行の健康支援システム上の問題点を克服、ならびに利用者側のニーズや組織風土に合致する新たな支援システムモデルを、グループ討議により検討した。
結果と考察
【①先行研究の検討】文献検索の結果、21文献が抽出され、次の6タイプに類型化された。内訳は、「産業保健活動に関する実態調査」、「作業環境関する実態調査」、「小規模事業場の健診結果に関する調査」、「事業主や従業員への意識調査」、「地域産業保健センターに関する調査」、「その他」であった。質問紙による実態調査が殆どであり、今後はもっと利用者側に立ったニーズ分析や、それに基づく新たな支援システムの検討、モデル介入研究などの実証研究が必要であると考えられた。また、産業保健推進センターの調査報告のうち、中小事業場を対象にしたものが22件検索された。一般健診の実施率に関しては全体的にかなり高いものの、特殊健診の実施率や作業環境測定の実施率に関しては実
施率の低い地域も見られ、産業保健推進センターの周知率や、地域産業保健センターの周知率に関しても改善の余地が大きいことが示された。【②現行サービスの整理】本研究により、中小規模事業場の産業保健活動を支援するサービス機関は、厚生労働行政に基づいて設置された支援機関のほか、医療保険者が実施している保健事業や民間が設立したサービス支援機関など、多種類の機関が存在することが明らかとなった。しかし、構造が大変複雑であり、その情報は事業場担当者だけでなく保健医療スタッフにも大変わかりにくく、またサービスの絶対量が不足している一方で特定事業場への重複サービスも見られるなど、様々な問題点があることが示唆された。今後は、広範囲にわたる支援機関を把握し各々の特徴を理解できるように、利用しやすい情報提供ツールの開発が必要であることが示された。【③新たな課題】中小規模事業場を対象とする質問紙調査からは、労働者の事故によるケガが不適切な睡眠習慣と関係している可能性、ならびにメンタルヘルスの状況が大規模事業場よりも深刻でその要因として中小事業場独特の組織特性が関与している可能性が示された。【④利用者側のニーズや組織風土】製造業の安全衛生担当者へのインタビューの結果、中小規模事業場の置かれている経済状況の苦しさに由来するストレスや、難聴などの環境起因性の健康障害、高齢者や独身者の増加による生活習慣病などが健康課題として挙げられ、これらへの対策が必要と考えられた。健康・安全に対する考え方に関しては、職人気質からくる仕事優先の雰囲気や、少しぐらい具合が悪くても医者に行かないといった傾向がある反面、健康についての不安は常にあり相談したいという声も聞かれた。健康診断は受けているものの事後指導が殆ど行われていないことや、安全面の対策に比して健康面の対策が遅れている現状も語られた。今後の要望としては、気軽に受けられる医師や保健師による巡回健康相談、国の助成の強化、健康支援サービスの情報伝達・手続きの明確化・簡素化、などが挙げられた。【⑤今後の政策・施策・サービスのあり方】本研究成果を総括して、中小規模事業場の健康支援に関する次の6つの理念・方向性が得られた。1) 職業起因性の健康課題に関する一次予防対策の強化(メンタルヘルスを含む)、2) 健康支援サービス情報へのアクセス向上対策、3) 気軽に相談できるシステムづくり、4) 地域資源と連携した生活習慣病対策の推進、5) 自主的取り組みの推進とそのための支援スキルの強化、6) 中小規模事業場の組織特性やニーズに沿った支援。以上の理念を踏まえ、総合的情報提供ツールの開発と提供、事業場の主体性を引き出す支援ツールの開発、および多角的な支援を実施・コーディネイトできる保健師の育成プログラムの開発、などの支援モデルを検討中である。
結論
中小規模事業場の健康支援を巡るこれまでの経緯と現状の課題を多角的に分析した結果、現行の支援サービス体系が複雑で連携がないため利用者にとって大変アクセスしにくくなってしまっている点など、克服すべき課題を明らかにすることができた。今後は中小規模事業場の組織特性やニーズに合った支援システムモデルを構築し、その介入評価研究ならびにそのための基盤整備に向けた検討を行っていく予定である。

公開日・更新日

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