社会保障における少子化対策の位置づけに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300006A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障における少子化対策の位置づけに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
勝又 幸子(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 阿萬哲也(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高失業率の続く今、子育て時期の女性が正規雇用者として再就職をする機会はきわめて限られている。正規雇用者ではなくパート・タイムなどの非正規雇用者として働く人が増える中、不安定な就労形態におかれていることで保育所などの公的サービスの受給が制限され、家族の協力に頼らざるを得ない状況が生まれている。特に経済的に厳しい家計にあって保育費用を節約するために、親世帯からの支援・協力が重要な役割を果たしてきた。近年、祖父母世帯から孫のいる子世帯への協力は、直接及び間接的な経済的「私的移転」として注目されつつある。本研究では、このような私的移転の実態を社会調査で明らかにする。さらに私的移転を補完する役割を持つ公的移転のより効果的な方法を、調査の結果から模索したい。社会調査とは別途、分担研究者による政策研究を行った。そこでは「次世代育成支援対策」の定義を明らかにし、国の政策全体の中での位置づけ、さらには社会保障制度との関連性等について分析した。
研究方法
初年度(平成15年度)は、0~6歳の孫のいる高齢者世帯を対象にして、2年目(平成16年度)は0~6歳の子どものいる世帯を対象として、協力的移転の実態調査を郵送法で実施する。15年度は時間的制約から結果の分析にまで進めることが不可能なので、先行調査「第1回家庭動向調査(1993年)」の個票データを使った研究を行った。先行調査はこの調査の調査票作成に参照した全国調査である。
結果と考察
(1) 成人子への育児支援からみた世代間関係:本研究は、「第一回全国家庭動向調査」の個票に依拠して、現代日本社会における親世代から子世代への育児支援を、サポートを受ける子世代の状況、特に配偶者(夫)の育児サポート力に焦点を当てて分析する。同時に支援を提供する母親の育児サポート力、支援を受ける妻本人の育児ニーズ、親子間の距離についても考察を試みる。育児支援全体を見た場合、夫妻どちらかの親から優先的に支援を受けている妻は85%、どちらの両親からも優先的に支援を受けていない妻の割合は15%であった。分析の結果、親の育児サポート力と配偶者の育児サポート力が妻本人の育児ニーズよりも、親からの育児支援を受ける上で大きな影響を及ぼしていることがわかった。母の育児サポート力では、母の健康度、居住形態、母のこども数の影響が大きい。具体的には、母の健康状態が良好であり、単身・親夫婦のみで居住している場合には、子へ支援を提供しやすい傾向にある。また、母のこども数(妻の兄弟姉妹数)が少ないほど、支援を提供しやすい。裏返せば、少子化は、育児支援提供者としての母親の役割を増大させる方向に働く。配偶者の育児サポート力では、夫が常勤であり、帰宅が遅く、育児参加程度が低いほど、妻が親へ支援を求める確率が高かった。親子間の距離は、成人子が親へ育児支援を求める上で、大きな規定要因である。親子間の距離は時間にして1時間を境に、距離が遠のくほど妻が親へ支援を求める確率は減少する。育児支援を内容別に分析すると、親が成人子に支援を提供するか否かは、育児ケアの内容によって影響を与える要素が異なっていた。育児相談という情緒的なケアにおいては、母親の健康程度より母の年齢が影響する。母の年齢が高齢になるほど、妻が母を育児相談相手に選ぶ確率は低下していた。また、情緒的支援にもかかわらず、親子間の距離が遠ざかるほど、相談相手となる確率は低下していた。第一子出産時の妻の世話という短期的、且つ、ある程度予測のつくケアに関しては、母の健康状態と居住形態、夫の学歴、就業状況、帰宅時間、育児参加程度が関係していた。この支援に関しては、距離の影
響は認められなかった。第一子が一歳になるまでの平日昼間の世話という長期的なケアでは、距離と妻の就業状況が主な規定要因であった。最後に、妻が病気時のこどもの世話という突発的なケアに関しては、親の健康状態、居住形態、こども数、距離、そして配偶者の帰宅時間、育児参加程度が有意な影響を及ぼしていた。この支援に関しては特に距離の影響が強力であった。一貫して、親子間の距離と配偶者の育児サポート力が、親の成人子への育児支援を大きく規定していた。
(2)少子化と世代間支援の実態:別居成人子・配偶関係・兄弟の影響について:別居子の性別にみた支援状況の集計によると、おおむね、世話的支援は娘に対して手厚く、息子に対しては生活費や住宅資金といった経済的支援が多い傾向が読み取れた。息子に対しては、1人目も2人目も「なし」が16%程度あった。さらに、配偶関係別にも区分してみると、未婚子では男女とも「生活費」「買い物」「食事/洗濯」といった項目の選択率が高かった。有配偶子は、結婚によって全般的に子どもへの支援状況が高くなる傾向が認められるが、一概に男性有配偶子より女性有配偶子への支援が非常に手厚いとは言えず、孫関連の支援以外は男女であまり差がみられなかった。支援項目を世話的支援、孫支援、経済的支援に分けて○のついた数をカウントし、支援スコアとして集計した。「世話的支援スコア」では、男性子より女性子の支援スコアが高く、女性子の中では、未婚子より有配偶子の方が高い。「孫支援スコア」では、明らかに女性有配偶子への支援スコアが高い。「経済的支援スコア」では、男性の有配偶子への支援スコアの高さが目立った。他の別居子や同居子がいるかどうかでカテゴリ分けした集計では、男性子では、世話的支援スコアと経済的支援スコアにおいて、一人っ子の場合、他のカテゴリより平均値が高かった。男性子では、他に別居子はいるが、同居子がもういない場合、支援スコアが高い傾向がみられた。女性の場合は、カテゴリ間であまり差がみられなかった。
(3) 生前贈与の実態と動機: ○ 若い世代ほど、親から経済的援助を受ける確率が高い。○経済的援助を限ってみる場合、“親から成人子へ"という援助パターンが多く、逆に“子供から親へ"というパターンが少ない。○兄弟姉妹の多い世帯ほど、親から生前贈与を受ける確率が低い。生前贈与の動機について、○子供世帯の所得および持家の有無が土地・住宅資金贈与および生活資金援助の受給確率に有意な影響を与えていることから、「利他的動機仮説」が整合的であると考えられる;一方、○結婚資金援助の行う確率が親への世話的援助の有無と大きく関わっていると同時に、子供世帯の所得や持家ダミーの影響をとくにうけていないことから、結婚資金援助は主に「交換動機仮説」によって説明できると思われる。このように、生前贈与を種類に分けることによって、贈与に関する動機の違いをみることができた。同時にすべての生前贈与をまとめて分析している多くの先行研究で、なぜ贈与の動機に関する意見が矛盾しているのかを、ある意味で説明をつけるてがかりになると思われる。
(4)別居子への住宅資金援助と親の住居との関係:親から子どもへはさまざまな移転が行われている。遺産の規模やその動機についてはこれまで多くの研究が行われている。しかし、その多くは二世代間での移転を対象としている。そこで住居に関する三世代の世代間移転について、親から実物資産として継承した場合と金融資産の形で住宅所有を援助してもらった場合とで、子どもに対する住宅資金援助という金融資産での移転に違いがあるのかについて分析を行う。また子どもが遠距離に住んでいる場合、一時的な支援を除けば、経済的支援が中心になると考えられる。そこで住宅資金援助についても、親と子どもとの住居の距離が関係しているかどうかについても検討を行う。親から別居子へ住宅資金援助について以下の2つの仮説について検証を行う。仮説1:「住居に関して親からなんらかの援助を受けた場合は、子どもに住宅資金を援助している。」仮説2:「親の住居からの距離が、住宅資金援助を行うかどうかに影響している。」1993年の「第1回全国家庭動向調査」の個票データを使用し、40歳以上の有配偶女子で別居子のいる人のうち、使用する変数についてすべてデータが得られた1296人を対象として、住宅資金の援助を行ったかどうかを被説明変数とするロジット・モデルで分析を行った。親から別居子への住宅資金援助に影響を与えているのは、父親の収入、別居子の性別(男性)が正、親の土地に建てた自分たちの家に居住していること、別居子との住居との距離が15分以上60分未満であることが負の影響を与えていることが明らかとなった。そして仮説1は否定され、祖父母世代からの相続は、孫世代への住宅資金援助には影響を与えていないことが明らかとなった。また仮説2については、親の住居からの距離が、住宅資金援助を行うかどうかに影響していることが明らかとなった
結論
平成15年度においては、実施した独自調査の分析に至っていないため、限られた結論しかえることが出来ない。しかし、先行調査においても、すでに親子関係や性別、家族成員関係、居住距離、親の所得などにより私的援助関係には差異があることが明らかになっている。我々が平成16年度に行う成人子世帯調査とあわせて、親子世帯間の私的援助関係の条件と傾向がより鮮明に出る結果を導き出すことだろう。平成16年度の報告に期待してほしい。

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