化学物質の自主管理推進のための支援システムの開発と産業現場での展開(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201422A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の自主管理推進のための支援システムの開発と産業現場での展開(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大前 和幸(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
  • 武林亨(慶應義塾大学)
  • 田中茂(十文字学園女子大学)
  • 西脇祐司(慶應義塾大学)
  • 野見山哲生(信州大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,化学物質の自主管理推進について,指針等の労働衛生行政上の施策を産業衛生現場で具体化させるために必要な支援システム・支援ツールを開発・評価し,最終的に,化学物質の健康障害予防のために,労働安全衛生マネージメントシステムの一環として実際の現場で有効に機能する自主管理システムを構築することを目的とする.そのため,自主管理に必要な支援ツールの開発,産業現場での自主管理に基づくリスクアセスメントの実施,効果的なリスクマネージメント.リスクコミュニケーションの手法の検討を行う.
研究方法
(1)化学物質自主管理を推進する支援ツールの開発(「化学物質安全衛生情報シート」の開発).支援ツールとして,化学物質管理に必要な情報を網羅したシートの開発を行うにあたり,まず,化学物質自主管理において重要な役割を果たす労働衛生保護具の有効利用に必要なポイントについて検討した.さらにこれらに結果に基づき,化学物質管理に必要な情報を網羅した「化学物質安全衛生情報シート」を,産業現場での使用頻度の高い有機溶剤類23物質(有機則,特化則対象)について作成した.(2)産業現場におけるリスクアセスメントの実施.現場においてリスクアセスメントを実施,その結果をフィードバックして効果的なリスクコミュニケーションの在り方を検討するため,研究協力依頼可能な事業場で化学物質のリスクアセスメントを実施することとした.第一のターゲットとしたのは,変異原性物質として,健康障害を防止するための指針等でも管理に注意が喚起されているジクロロメタンに関する曝露アセスメントである.個人曝露濃度の測定に加え,生物学的モニタリング指標としての血液中・尿中ジクロロメタン,血液中・尿中ホルムアルデヒド測定法の確立を行った.本代謝系には,代謝酵素の遺伝子多型が関与している可能性が高いことから,文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」および慶應義塾大学医学部倫理委員会規定に則って研究実施計画を策定,慶應義塾大学倫理審査委員会で審査を経て承認を得たのち,遺伝子多型の測定条件についても検討を開始した.リスクアセスメントの第二のターゲットは,古くから職業病の原因物質となってきた有機溶剤である二硫化炭素の曝露者集団である.先行して実施した疫学研究により,比較的低濃度の二硫化炭素曝露と脳MRIによる無症候性脳梗塞所見との間に 関係が示唆されたので,コホート調査に参加した事業場のうち本研究に協力可能な一事業場に協力を依頼し,脳MRI検査による健康リスク評価を実施した.
結果と考察
化学物質自主管理において重要な役割を果たす労働衛生保護具の有効利用に必要なポイントについて検討した結果,保護マスクの利用においては,有機溶剤用活性炭吸収缶の破過とマスク装着時のフィットネス(漏れ)が,保護手袋の利用においては,透過性が重要であることが明らかとなった.そこでこれらに結果に基づき,有機則,特化則対象23物質について,化学物質管理に必要な情報を網羅した「化学物質安全衛生情報シート」を作成した.このシートには,①作業環境管理,作業管理,健康管理のいわゆる三管理,応急措置,教育,爆発等の危険性,関係法規などから構成する,②内容に,出来るだけ具体性を持たせる,③有害性情報は,急性症状と慢性曝露による記述を分ける.また,情報がある場合には,曝露濃度との関連についても記載する,④定性的情報である発がん性,変異原性,妊娠リスク,生殖毒性,感作性,皮膚吸収性については,情報そのもののあり・なしも含めて記載する,⑤作業環境管理については,局所
排気設備の性能要件を記載する,⑥作業管理については,単なる「保護手袋」や「呼吸用保護具」との記載を避け,浸透性や破過をふまえて有効と考えられるものを出来るだけ具体的に記す,⑦現場での曝露評価の際に役立つよう,管理濃度に加え,許容濃度,生物学的許容値についても記載する,といった特徴を持たせた.血液中・尿中ジクロロメタンの測定については,ヘッドスペースGC/MS法を用いた生体試料中のジクロロメタン定量法を確立した.その検出下限値は血液及び尿いずれも3ng/mlと十分に高感度であった.また,現場での実施しやすさを検討するため,尿検体中の保存性についても検討し,採尿後ただちに密栓・冷蔵すれば,翌日まで尿中ジクロロメタン濃度の低下はほとんどないことが明らかになった.血液中・尿中ホルムアルデヒド測定法については,o-ペンタフルオロベンジルヒドロキシアミンを用いて誘導体化し,ヘッドスペースGC/MS(HSGC/MS)法を用いて定量する方法を確立した.二硫化炭素曝露者における脳MRI検査については,当初は,本年度およそ50名の協力を予定していたが,事業場側の都合により,33名の協力を得て実施した.
結論
本年度は,化学物質自主管理を推進する支援ツールの開発と,産業現場における効果的なリスクアセスメントの実施に必要な測定法の開発・健康指標の測定を行った.「化学物質安全衛生情報シート」は,産業現場における化学物質の安全衛生管理に必要な情報を網羅した情報ソースであり,また,職場におけるリスクコミュニケーション・ツールとしても使用可能な媒体である.今後は,このシートを実際の産業現場で使用してその使い易さについて検討するとともに,今年度の研究により労働衛生保護具の有効な利用のための基礎データが依然不足していることが明らかとなったので,この点を補うための基礎的実験を実施し,より有用な安全衛生情報シートに改良,作成の予定である.また,これらを活用するために必要な化学物質自主管理システムの事例把握と自主管理推進上の問題点の把握についても検討する.また,今年度実施したジクロロメタン曝露を評価するための生物学的曝露指標の測定方法の開発等の成果に基づき,産業現場での自主管理に基づくリスクアセスメントとリスクコミュニケーションを実施する予定である.

公開日・更新日

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