上肢における筋骨格系障害の診断と防止に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201419A
報告書区分
総括
研究課題名
上肢における筋骨格系障害の診断と防止に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
平田 衛(独立行政法人産業医学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 垰田和史(滋賀医科大学)
  • 井奈波良一(岐阜大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
頸肩腕障害など、上肢における筋骨格系障害の診断と防止に役立ち得る客観的な指標を確立することを目的にして、頸肩腕障害患者、症状所見はあるが患者には至らない亜臨床者、健常者について、(1)病態別の筋組織内における血液の動態のパターンを明らかにする、(2)神経生理学的指標の測定、などをおこなった。(3)これらの調査をおこなう対象の確保とその前段となる自覚症状ならびに労働条件を明らかにする目的で、ある消費生協従業員における頸肩腕に関する自覚症状と温湿度の調査や労働条件の変化などを調べた。
研究方法
1.病態別の筋組織内におけるヘモグロビン量の動態。1)対象 文書による検査の説明をおこなった後に同意書に署名した38人(男18、女20)を対象とした。そのうち研究開始当初の15人については、測定機器の測定条件、測定部位、測定深度の検討をおこなった。以後の23人(男性9、女性14、平均年齢41歳)について病態別の筋組織内におけるヘモグロビン量の動態の解析をおこなった。2)方法 15人の検査の結果、次の測定条件を定めた。被験者の頸肩腕部の自覚症状を聴取し、頸肩腕障害の健診方法による検査ならびに経験ある医師が同部位の触診をおこなった。被験者は安楽な姿勢で肘掛け椅子付きの椅子に5分以上着座した後に立位で1分間の両上肢を水平挙上させて、10分間の休憩を挟んで2回おこない、右側僧帽筋の表面筋電位ならびに筋組織内ヘモグロビン動態を測定した。測定位置は第7頸椎棘突起と肩胛の中点から内側2cmとした。筋組織内ヘモグロビンはレーザー組織血液酸素モニター(Omeaga Monitor BOM-L1TR)を用い、皮膚表面から1.5cmの筋組織内の酸素化ヘモグロビン(O-Hb)、脱酸素化ヘモグロビン(dO-Hb)量を測定した。2.神経生理学的指標の測定。1)対象 1.の検査に協力を得た、頸肩腕障害患者10名、亜臨床者10名、健常者9名に先行して検査をおこなった頸肩腕障害患者5名を対象とした。2)方法 指および手首の感覚神経伝導速度SCVと誘発脳波の一種である事象関連電位P300(聴覚、視覚刺激)をおこなった。3.消費生協労働者における頸肩腕に関する自覚症状と温湿度の調査。1)対象 ある消費生協に働く1048名に質問紙を配布し、解析可能な回答を942名から得(回収率89.9%)、解析に供した。8月下旬に低温ピッキングラインなどの気温、相対湿度を測定した。
結果と考察
1.病態別の筋組織内におけるヘモグロビン量の動態。対象者男女各1名からは解析可能なデータを得られなかったが、他の21名について解析が可能であった。上肢挙上に関わるヘモグロビン動態を安静着座時の値から増加、減少、不変の3反応型に分類し、被験者の自覚症状、触診所見別に検討した。触診における無所見者ではO-Hb、dO-Hbともに増加型を、筋硬結あるいは筋硬結に筋圧痛が加わった有所見者では不変ないしは減少反応型を認めた。病態別の筋組織内におけるヘモグロビン量の動態については、筋触診所見によりはヘモグロビンの動態が異なり、挙上動作でヘモグロビンが減少する者の出現率は、正常者で最も低く、ついで筋硬結だけがある者、最も高いのは筋硬結に圧痛が加わった者であった。しかし、例数が少なく、今後筋所見や自覚症状との関連について検討する必要がある。2.神経生理学的指標の測定。各項目に人数の違いがあったが、示指の橈骨皮神経分枝の感覚神経伝導速度のみ3群間で有意であり、健常者と患者、患者と亜臨床者との間に有意差が認められた。SCVの健常者の平均値から2標準偏差を引いた値を基準値とした時に、橈骨神経の示指のSCVでは患者7名、亜臨床者3名が基準値以下であった。中枢神経に関する症状がある者の
うち半数以上がP300の暫定基準値を超えていた。神経生理学的指標の測定においては、SCVとP300は患者や亜臨床者における神経機能をある程度反映すると考えられた。しかし、これを明確にするにはより多くの被験者における調査が必要と考えられた。3.消費生協労働者における頸肩腕に関する自覚症状と温湿度の調査。「肩が痛い」は女性の51.4%、男性の37.5%に、「頸が痛い」は女性の43.5%、男性の34.2%にみられた。女性における上肢の自覚症状の有訴率は男性に比べ高く、低温ピッキングライン従事者の「肩がこる・だるい」、「頸がこる・だるい」の有訴率は事務職に比べ有意に高かった。低温ピッキングラインでは摂氏17度前後であるのに対し、レジ付近24度前後、事務室28度台、出庫仕分け作業場31度前後であった。この結果から、「肩が痛い」や「頸が痛い」の有訴率は、女性で半数前後とかなり高いことが明らかになった。繰り返して自覚症状調査が有意義であることが明らかになった。症状が強いものについて、頸肩腕障害に関する健康診断項目を実施し、併せてレーザー組織血液酸素モニターを用いて筋組織内のO-Hb、dO-Hb量を測定し、可能ならば神経系の機能を調べる対象として適当であると考えられた。
結論
上肢を側方挙上させて筋組織内ヘモグロビンの動態をレーザー組織血液酸素モニターにより調べたところ、筋触診所見によりヘモグロビンの動態が異なり、挙上動作でヘモグロビンが減少する者の出現率は、正常者で最も低く、ついで筋硬結だけがある者、最も高いのは筋硬結に圧痛が加わった者であった。橈骨神経の示指のSCV低下が患者および有所見者に多く認められ、中枢神経症状がある者のうち半数以上が事象関連電位P300の暫定基準値を超えており、SCVとP300は患者や亜臨床者における神経機能をある程度反映すると考えられた。筋組織内ヘモグロビンの動態と神経機能への影響を明確にするにはより多くの被験者における調査が必要と考えられた。生協に働く労働者の多くに頸、肩の痛みの訴えがあり、これらは経年的には増減するものの労働条件により大きく変化することが明らかになり、反復した自覚症状調査が有意義であることが明らかになった。

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