産業保健活動の効果指標及び健康影響指標に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201415A
報告書区分
総括
研究課題名
産業保健活動の効果指標及び健康影響指標に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
和田 攻(埼玉医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 矢野栄二(帝京大学)
  • 川久保清(東京大学)
  • 山田誠二(松下産業衛生科学センター)
  • 栗原伸公(埼玉医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、わが国の産業保健活動は、労働安全衛生法およびそれによる各種の法令、規則ないし指針等に基づいて、きめ細かく実施されており、成果も著しいものがあるが、その実施率、ないし各事業場での産業保健活動が有効になされているか、またはその結果として働く人々の健康保持と増進に役に立っているか、を具体的に評価し、それを更なる産業保健活動にフィードバックさせる手法とその実践は行われておらず、折角の産業保健活動の努力の成果は不明で、事業者の産業保健活動に対する理解と協力、産業保健関係者の業務に対する情熱と実践、および働く人々の自主努力、協力および意欲の喪失につながっている。
本研究は、この点を解決すべく、わが国の産業保健活動の有効化、効率化および働く人々の健康増進に資するべく、有用で使い易い指標を確立するものである。
本研究には、従って、現在行われている産業保健活動の努力の成果を明確化し、事業者の産業保健活動に対する理解と協力を導き、産業保健関係者の業務に対する情熱を喚起し、働く人々の自分自身の健康に対する自主努力や産業保健活動に対する協力をもたらすとともに個々の意欲を高める効果が期待される。その結果、本研究は、産業保健活動の実効性、効率性を著しく高めるであろう。さらに、本研究で得られる指標は、産業保健活動の現在に役立つのみならず、産業保健活動の将来の発展のために様々な有益な情報をフィードバックさせるための、大変有用なツールとなることも期待される。
このような観点から、本年度はまず、以下のテーマについて研究を行った。1.職域定期健康診断の有効性について、主に文献によりその評価の視点をまとめ、それにより各検査項目を評価すると共に、改善の方向性を考察した。また、過重労働など作業態様に関連した健康影響指標を探索する目的で、健康診断に際して集められた、検査結果、自覚症状、生活調査項目を解析した。2.国内外の文献検討により、事業場の健康づくり支援環境評価の項目を、我が国の事業場における重要性・実現可能性の観点から整理した。産業保健活動を評価指標となる産業保健活動項目を検討するために、産業保健活動を健康管理、作業環境管理、作業管理、労働衛生教育、総括管理の五大課題、および管理、予防、発展の三つの段階に分けた総計15のマトリックスから、それぞれ産業保健活動の評価指標となる項目を抽出し、検討を加えた。4.これまで国内外で様々な分野・職種の人から個別に提案されてきた、産業保健活動の効果指標を文献的に調査、抽出し、それら指標を医療の質評価の為の指標分類を応用して、分類、整理した。
研究方法
本年度はまず、産業保健活動の効果指標及び健康影響指標に関して、各分担研究者が先に述べた各テーマについて研究を行った。研究班は定期的に会議を行い、主任、分担研究者全員参加のもと、毎回それぞれのテーマについて討議を行った。最後に、主任研究者を中心に、全体としてまとめを行った。なお、倫理面への配慮としては、産業保健の現場から得られた情報については、個人、事業所名をID番号化し、名称を用いないなどの手段により、厳重に管理するとともに、本研究終了後には検証に必要な最低限のものを除き全て破棄する予定である。
結果と考察
①職域定期健康診断の有効性について、主に文献によりその評価の視点をまとめ、それにより各検査項目を評価すると共に、改善の方向性を考察した。これに産業保健活動の健康影響指標を得る重要な一手段としての職域定期健康診断について、多くの示唆が得られた。詳しくは分担報告書および別冊資料を参照していただきたい。また、過重労働など作業態様に関連した健康影響指標を探索する目的で、健康診断データを解析したところ、健康診断の検査項目には作業態様の健康影響指標として適当な項目は見いだされず、自覚症状についても、明確な関連は得られなかったが、健康関連生活行動項目は過重労働との関連が深かった。こうしたことから、今後はこれらの領域を中心に、健康影響指標や産業保健活動効果指標として適切な指標を探索または開発することが必要と思われた。② 事業場の健康づくり支援環境評価票を作成し、評価した支援環境と事業場の健康関連行動との関連を検討するため、まず国内外の文献をもとに既存の環境評価項目を整理し、それを我が国の実際の事業場に当てはめて修正した。その結果、米国のHeart Check、オーストラリアのCHEWをもとにして、わが国に適した事業場の健康づくり支援環境評価票が作成できる可能性が示され、同時にそのための検討課題を明らかにした。③産業保健活動を評価指標となる産業保健活動項目を検討するために、産業保健活動を『健康管理』、『作業環境管理』、『作業管理』、『労働衛生教育』、『総括管理』の五大課題に分類し、分類した各々の課題を「管理」、「予防」、「発展」三つの段階に分け、総計15のマトリックスにした。それぞれのマトリックスの要素について、産業保健活動の評価指標となる項目を抽出するとともに、「法的項目の遵守」の段階、「安全衛生配慮義務」の段階、「リスクアセスメント」の段階での評価にわけ、それぞれの段階における職務の産業保健活動の評価指標について検討を加えた。④ 産業保健活動を客観的かつ有用な効果指標を開発することを目的として、本年度はまず国内外で産業保健に係わる様々な分野・職種の人々から提案されてきた効果指標について文献調査を行い、それら各指標を病院医療の質に関する評価で行われている手法を応用して整理した。すなわち、全ての効果指標を、「構造」、「過程」、「結果」の3分類、「活動」、「利便性」、「顧客
満足度」の3分類、「作業環境管理」、「作業管理」、「健康管理」、プラス「健康教育」および「共通項」の5分類、つまり3×3×5分類によって、三次元的に整理し、検討を加えた。その結果、これら各項目の簡略化の為の手がかりと検討課題が明らかとなった。
以上述べた本年度の各研究成果によって、産業保健活動の効果指標及び健康影響指標の開発に向けての土台が形成されつつあるものと考えられた。本年度の研究を踏まえ、今後はこれをさらに進めて、有用で、実際の産業保健活動現場で使いやすい実用的な指標の開発とその確立を目指していきたいと考えている。
結論
本研究は、わが国の産業保健活動について、その実施率、各事業場での活動の有効性、さらに働く人々の健康保持と増進に対する有用性、を具体的に評価し、フィードバックさせる手法を開発するために、わが国の産業保健活動の有効化、効率化、さらに働く人々の健康増進に資するべく、有用で使い易い産業保健活動の効果指標および健康影響指標を確立するものである。
本研究の初年度として、本年度は、文献調査、および実態や要望などの実地調査を行うとともに、理論的構築とその実践可能性について検討した。ここで得られた結果は、次年度以降に予定される有用で使い易い産業保健活動の効果指標及び健康影響指標の開発のための研究に大いに役立つものと考えられる。

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