文献情報
文献番号
200201412A
報告書区分
総括
研究課題名
労働者の自殺原因に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
織田 進(産業医科大学 産業医実務研修センター)
研究分担者(所属機関)
- 東 敏昭(産業医科大学 産業生態科学研究所・作業病態学)
- 津久井 要((財)労働福祉事業団海外勤務健康管理センター)
- 中村 純(産業医科大学医学部・精神医学)
- 寺尾 岳(産業医科大学医学部・精神医学)
- 西村良二(福岡大学医学部・精神医学)
- 吉村玲児(産業医科大学医学部・精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
9,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成8年、異常な長時間労働による自殺について、被告会社に損害賠償を命ずる判決が最高裁で下された。その後、平成11月9月14日、心理的負荷による精神障害等に係わる業務上外の診断指針に関する通達が出され、一般に職務に関連するストレス等がうつ病等の精神障害になることが周知されつつあり、過労自殺が業務上として認定される例が増えつつある。また、長期間続く不況を反映して、平成10年度より自殺者数が3万人を超えるようになり、社会的にも自殺が注目されるようになった。
平成13年自殺防止対策事業の一環として、厚生労働省安全衛生部は、職場及び家庭において、労働者の自殺防止のために活用できる知見の収集を直接の目的とし、労働者の自殺の危険因子、高危険群、周囲の者が把握していた前兆、自殺にいたる経過、思いとどまる要因(未遂の場合)、連鎖自殺防止のために必要な知見等の調査研究を開始した。我々は、自殺の原因調査およびその情報提供を目的に、現在まで蓄積した自殺事例、自殺予防関連文献及び図書データベースを拡充し、これに基づいた文献情報についてインターネットを介して公開する。さらに、職種ごとの自殺の実態およびその予防対策について、国内外の文献的調査、特に医師の自殺に関する実態および予防対策の具体的内容についてアンケートおよび聞き取り調査を実施し、職種に対応した自殺予防対策を検討する。また、主に中小事業場の自殺予防対策や自殺の原因を含む実態を把握するために、全国の嘱託産業医を対象にアンケートおよび聞き取り調査を実施する。一方職域では把握困難な事例や情報については、精神科領域の事例を調査することにより、自殺の原因となる抑うつ状態・うつ病の発生要因などを調査し、職域における自殺予防対策に有用な情報提供を実施する。
平成13年自殺防止対策事業の一環として、厚生労働省安全衛生部は、職場及び家庭において、労働者の自殺防止のために活用できる知見の収集を直接の目的とし、労働者の自殺の危険因子、高危険群、周囲の者が把握していた前兆、自殺にいたる経過、思いとどまる要因(未遂の場合)、連鎖自殺防止のために必要な知見等の調査研究を開始した。我々は、自殺の原因調査およびその情報提供を目的に、現在まで蓄積した自殺事例、自殺予防関連文献及び図書データベースを拡充し、これに基づいた文献情報についてインターネットを介して公開する。さらに、職種ごとの自殺の実態およびその予防対策について、国内外の文献的調査、特に医師の自殺に関する実態および予防対策の具体的内容についてアンケートおよび聞き取り調査を実施し、職種に対応した自殺予防対策を検討する。また、主に中小事業場の自殺予防対策や自殺の原因を含む実態を把握するために、全国の嘱託産業医を対象にアンケートおよび聞き取り調査を実施する。一方職域では把握困難な事例や情報については、精神科領域の事例を調査することにより、自殺の原因となる抑うつ状態・うつ病の発生要因などを調査し、職域における自殺予防対策に有用な情報提供を実施する。
研究方法
織田班:職種ごとの自殺の実態およびその予防対策について、国内外の文献的調査を継続し、全国臨床研修病院に対し産業保健活動やメンタルへルス対策の実態および今後の取り組みについてアンケートおよび聞き取り調査を実施した。
東班:自殺文献情報によるデータベースを作成し、それらをホームページ上にて公開することにより、自殺防止に関わる健康保健専門職を対象とした、体系的な学術情報サポートを行う。
中村班:現在までに集積した全国の精神科受診中の自殺306例について、生物-心理-社会的側面から国内外で報告されている自殺の危険因子についてその出現頻度を調査した。精神の健康状態と生活習慣および生活習慣病との関連や都道府県別の自殺率に関連する要因(職業、地理的・経済的)との関連を調査することにより、自殺の関連要因および予防対策を検討する。
以上、国内外の自殺関連文献データベースを基に、職域からドロップアウトしがちな(ただし連関性の高い)例や大きなインパクトを与える医療職自身の自殺をはじめとする職域ごとの自殺を掘り下げて解析を行う。さらに、自殺事例を多く経験する精神科医と協力することにより、職域での自殺予防対策のより効果的な方法を検討する。
東班:自殺文献情報によるデータベースを作成し、それらをホームページ上にて公開することにより、自殺防止に関わる健康保健専門職を対象とした、体系的な学術情報サポートを行う。
中村班:現在までに集積した全国の精神科受診中の自殺306例について、生物-心理-社会的側面から国内外で報告されている自殺の危険因子についてその出現頻度を調査した。精神の健康状態と生活習慣および生活習慣病との関連や都道府県別の自殺率に関連する要因(職業、地理的・経済的)との関連を調査することにより、自殺の関連要因および予防対策を検討する。
以上、国内外の自殺関連文献データベースを基に、職域からドロップアウトしがちな(ただし連関性の高い)例や大きなインパクトを与える医療職自身の自殺をはじめとする職域ごとの自殺を掘り下げて解析を行う。さらに、自殺事例を多く経験する精神科医と協力することにより、職域での自殺予防対策のより効果的な方法を検討する。
結果と考察
織田斑:平成14年度は、全国711臨床研修病院に対し、研修医に対するメンタルへルス対策現状調査を実施し、218病院から有効回答を得た(回収率31.4%、有効回答率97.8%)。82.0%が安全衛生委員会を実施していたが、毎月実施は36.2%であり、さらに、メンタルへルス委員会を開催している病院は2.5%に過ぎなかった。また、ストレス調査は7.5%に実施しており、そのうち56.2%は健康診断時に行っていた。メンタルへルス教育は32.3%の病院で実施していた。若手医師のストレス対策として、研修医のメンタルへルス問題を実際に経験している病院は20.1%であり、指導医にメンタルへルス教育を受講させていたのは6.6%に過ぎなかった。研修医に対してメンタルへルス教育を実施しているのは5.8%であった。また、研修医を対象にストレス対策委員会や準備委員会のある病院は1.0%であり、今後設置を予定しているのは13.9%であった。
さらに、平成14年度は3つの臨床研修病院から聞き取り調査を実施した結果、平成16年度からの臨床研修の必修化に向けて、早急に臨床研修医および指導医に対するストレス調査およびメンタルへルス教育、メンタルへルス対策委員会の設置などを実現することが必要である。
東斑:平成14年度は一定のフォーマットに従い、74の英語文献について日本語のデータベースを作成した。またホームページには文献以外にも、自殺に関連した重要事項(年齢、性別、人種・民族・文化的側面、職業・経済、家族、社会的側面、自殺手段、精神医学的側面、身体疾患、アルコール・薬物依存、攻撃性・暴力的行為、倫理・宗教・哲学、法的側面、治療・予防、事後介入)につき、COMPREHENSIVE TEXTBOOK OF SUICIDOLOGY(Maris,Berman,Silverman著:The Guilford Press 2000年)の成書をもとに各3,000字程度の概要を掲載し、それに関する文献を参照できるように工夫した。
中村斑:自殺の原因調査として、
1)都道府県別の自殺率に関連する要因の検討:職業、地理的・経済的な要因との関連
年間自殺率の予測因子として、第一次産業人口比率、年間総日照時間、年間平均気温、年間個人所得、年間失業率を検討した結果、第一次産業における職業的要因は自殺に影響を及ぼし、加えて、年間日照量や年間失業率が自殺に関連している可能性があることを示した。
2)精神科患者における自殺調査:2次調査
精神科患者における自殺に注目し、精神科受診中に自殺した症例を対象にした2次調査を行った結果、104施設中63施設から回答があり(回収率60.6%)、自殺症例数は全体で306例であった。本調査では、生物-心理-社会的それぞれの側面から国内外で報告されている自殺の危険因子についてその出現頻度を調査した。自殺症例の精神科的診断については、統合失調症(精神分裂病)・統合失調症型障害・妄想性障害120例(39.2%)、気分障害109例(35.6%)が多数を占めた。
自殺症例における危険因子の出現頻度では、無職(69.6%)、精神科入院歴(69.0%)、絶望感(52.9%)、配偶者なし(51.9%)と半数以上にみられ、自殺企図歴が43.5%であったことは注目しなければならない。
3)某医療機関における健康診断結果の解析:1994年と2001年の某機関の健康診断時GHQ得点が揃っている674人を対象に、両時点で血清コレステロールが150mg/dl以下の14名と両時点で150mg/dlを超えていた542名を比較し、低コレステロール群の方が1994年におけるうつの頻度が高く、2001年ではさらにその差が有意に拡がった。以上より、低コレステロール血症がうつの原因の一つになりうる可能性が示唆された。
さらに、平成14年度は3つの臨床研修病院から聞き取り調査を実施した結果、平成16年度からの臨床研修の必修化に向けて、早急に臨床研修医および指導医に対するストレス調査およびメンタルへルス教育、メンタルへルス対策委員会の設置などを実現することが必要である。
東斑:平成14年度は一定のフォーマットに従い、74の英語文献について日本語のデータベースを作成した。またホームページには文献以外にも、自殺に関連した重要事項(年齢、性別、人種・民族・文化的側面、職業・経済、家族、社会的側面、自殺手段、精神医学的側面、身体疾患、アルコール・薬物依存、攻撃性・暴力的行為、倫理・宗教・哲学、法的側面、治療・予防、事後介入)につき、COMPREHENSIVE TEXTBOOK OF SUICIDOLOGY(Maris,Berman,Silverman著:The Guilford Press 2000年)の成書をもとに各3,000字程度の概要を掲載し、それに関する文献を参照できるように工夫した。
中村斑:自殺の原因調査として、
1)都道府県別の自殺率に関連する要因の検討:職業、地理的・経済的な要因との関連
年間自殺率の予測因子として、第一次産業人口比率、年間総日照時間、年間平均気温、年間個人所得、年間失業率を検討した結果、第一次産業における職業的要因は自殺に影響を及ぼし、加えて、年間日照量や年間失業率が自殺に関連している可能性があることを示した。
2)精神科患者における自殺調査:2次調査
精神科患者における自殺に注目し、精神科受診中に自殺した症例を対象にした2次調査を行った結果、104施設中63施設から回答があり(回収率60.6%)、自殺症例数は全体で306例であった。本調査では、生物-心理-社会的それぞれの側面から国内外で報告されている自殺の危険因子についてその出現頻度を調査した。自殺症例の精神科的診断については、統合失調症(精神分裂病)・統合失調症型障害・妄想性障害120例(39.2%)、気分障害109例(35.6%)が多数を占めた。
自殺症例における危険因子の出現頻度では、無職(69.6%)、精神科入院歴(69.0%)、絶望感(52.9%)、配偶者なし(51.9%)と半数以上にみられ、自殺企図歴が43.5%であったことは注目しなければならない。
3)某医療機関における健康診断結果の解析:1994年と2001年の某機関の健康診断時GHQ得点が揃っている674人を対象に、両時点で血清コレステロールが150mg/dl以下の14名と両時点で150mg/dlを超えていた542名を比較し、低コレステロール群の方が1994年におけるうつの頻度が高く、2001年ではさらにその差が有意に拡がった。以上より、低コレステロール血症がうつの原因の一つになりうる可能性が示唆された。
結論
職種と自殺との関連では、臨床研修病院の産業保健活動の実態と医師に対するメンタルへルス対策の現況を明らかにした、また、自殺関連文献のデータベースの作成し、自殺に関連するキーワード(例えば、性、年齢、職業、経済等)について概説などをインターネット上のホームページで公開可能とした。自殺の原因調査としては、精神科医による自殺事例について、精神科疾患の診断やその他の危険因子について自殺との関連、さらには健康診断時の問診情報と自殺の危険因子であるうつの出現頻度を報告した。
今後は、これらの成果等を踏まえ、実際の健康診断時の問診情報による自殺予防の介入および自殺に関する情報提供について産業医等にアンケート調査をすることによりその効果を検討する。
今後は、これらの成果等を踏まえ、実際の健康診断時の問診情報による自殺予防の介入および自殺に関する情報提供について産業医等にアンケート調査をすることによりその効果を検討する。
公開日・更新日
公開日
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