職域の健康障害における作業因子の寄与と予防に関する研究

文献情報

文献番号
200201411A
報告書区分
総括
研究課題名
職域の健康障害における作業因子の寄与と予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
相澤 好治(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 和泉 徹(北里大学)
  • 高木繁治(東海大学)
  • 谷口初美(産業医科大学)
  • 森永謙二(大阪府立成人病センター)
  • 佐藤敏彦(北里大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
14,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
職業性疾病や作業関連疾患など職域における健康障害が、作業環境や作業条件などの作業因子を改善することにより、どの程度予防できるかを推定し、産業保健施策に有用な情報を提供することを本研究の主たる目的とした。
研究方法
作業因子を改善することにより予防しうる疾病負担の算出する方法については、世界保健機関(WHO)が2002年度世界保健報告において用いた方法を検討し、それに準ずるものとした。但し、疾病負担の指標としては総合健康指標の一つとしてWHOが採用しているDALY(障害調整生存年数)だけではなく、その他の休業日数などの労働損失指標や、医療費や労働損失などを金額に換算した経済損失指標も適宜用いることとした。
作業関連疾患に含まれる疾患は多々あるが、日本の労働衛生統計の推移で示された背景から、本班での平成15年度の課題を次のように設定した。
1)循環器疾患、2)脳血管疾患、3)気管支喘息と慢性閉塞性肺疾患、4)歯科技工作業における健康影響、5)睡眠時無呼吸症候群、6)低用量曝露症候群(シックハウス症候群)、7)騒音性難聴、8)職域の健康障害における微生物の寄与と予防である。これらの疾患や災害によるわが国の労働人口の全健康損失を算定し、さらに作業因子を改善することにより、減少しうる損失の推定を行うために必要なデータを実際の臨床例と文献レビューにより個別に検討を行った。
結果と考察
1)職域の健康障害における作業因子の寄与推定法の検討
佐藤敏彦分担研究者は、作業要因と複数の生活要因が発症に関連する作業関連疾患において、作業要因の寄与分を推定する方法を検討した。WHOで採用されている危険因子による疾病負担の推定方法をレビューし、今後の研究遂行にあたり適切な方法を検討した。作業因子寄与分推定には、①作業因子が寄与している疾病の決定、②その性・年齢別罹患率の把握、③予後・経過のモデル化、④疾病負担指標の決定、⑤作業因子の数値化、⑥危険因子と対象疾患の疫学モデルの作成、⑦作業因子による疾病発生リスクの推定、⑧不適作業因子の人口寄与分画の算定、⑨予防しうる疾病負担の算出、の各ステップが必要であることを明らかにし、このステップに従って今後の作業を進めるために必要なデータの洗い出しを行った。
2)職域データを用いた健康障害における作業因子の寄与推定
職域における健康障害の作業因子の寄与分を推定するためには、作業因子と疾病との関連についてモデル化を行う必要がある。三宅 仁研究協力者は、不適作業因子が循環器疾患の発生に、どのように寄与するかを、健診データ、医療費データ、勤労関連データを用いて検討した。その結果、不適作業因子として超過勤務時間を指標とすることが適切と考え、今後超過勤務時間を減少させることにより循環器疾患の発生の削減がどの程度期待できるかを推定するための研究計画を作成した。
3)労働衛生統計からみる作業関連疾患研究の必要性
相澤好治主任研究者らは、業務上疾病および健康診断結果の統計を平成元年から現在まで俯瞰して、作業関連疾患研究の必要性を検討した。業務上疾病の発生は減少傾向を示しているが、災害性腰痛など負傷に起因する疾病の減少がその減少に寄与しており、化学的要因による疾病の発生は横ばいである。また一般健診だけでなく特殊健診の有所見率も上昇している。特殊健診有所見率の上昇には、環境要因だけでなく、加齢や生活習慣などの諸要因が関与している可能性があると考えられ、詳細な検討が必要と考えられた。
4)循環器疾患
心疾患患者の心事故再発に関する要因については未だ不明な点が多いので、和泉 徹分担研究者らは、当該患者の運動耐容能、筋力およびQOLを検討した。65歳未満の壮年群と65歳以上の高齢群に分けると、QOLは、高齢者群では退院時と回復期の間に差を認めなかったが、壮年期ではconfidenceとself-esteemの2項目が回復期に有意に改善した。今後、これらの結果を用いて、わが国の労働人口における心疾患罹患による疾病負担の推定を試みることとした。
5)脳血管障害
脳血管障害が労働者の健康に及ぼす障害度と作業関連因子の関与の程度を明らかにするため、高木繁治分担研究者は、大学病院に入院した急性期脳血管障害患者73人を対象として疫学的研究を行い、脳出血は発症時の活動状況、危険因子の面から作業因子の関与が大きいと推察した。また脳出血はdisease burdenが大きいことがわかった。今後、これらの結果を用いて、わが国の労働人口における脳血管障害罹患による疾病負担の推定を試みることとした。
6)気管支喘息と慢性閉塞性肺疾患
中館俊夫研究協力者は気管支喘息と慢性閉塞性肺疾患の発症や増悪に対する作業因子の寄与を推定する実現可能な方法について検討した。その結果、症例対照研究、断面研究および文献調査を組み合わせることによって、作業因子による相対危険と、一般人口内での作業因子保有率を推定し、その二つから人口寄与割合として、作業因子の寄与を疫学的に推定することが可能であると推察された。
7)歯科技工作業における健康影響
森永謙二分担研究者は、10年以上の経験年数を有する歯科技工士216人の受診者での胸部レントゲン撮影検査で、じん肺有所見者(1/0以上)が8人(3.7%)に観察でされたと報告した。死亡者181人の死因解析の結果では、有意の過剰死因はなかったが、悪性胸膜中皮腫による死亡が1例みられた。
8)睡眠時無呼吸症候群
不眠や日中の極度な眠気を主症状とする睡眠時無呼吸症候群は、交通事故の原因や作業効率を低下させる原因として、労働の場でも問題視されてきたが、阿部 直研究協力者が作業関連性についての文献調査を行ったところ、本症の増悪因子である肥満の成因に、職場環境でのストレスによる摂食が関与する可能性が示唆された。
9)低用量曝露症候群(シックハウス症候群)
シックハウス症候群は、新築の住宅、改築・改装した住宅などに引っ越した後に発症する例が多いが、職場環境においても、新しいオフィスに移動、改装、OA機器の導入などを契機に発症することがある。坂部 貢研究協力者による本年度の研究は、職場におけるシックハウス症候群の現状について、症例提示をして臨床環境医学的立場から検証した。
また相澤好治主任研究者らはシックビル症候群における作業関連性に関する文献を総説した論文の翻訳を行った。シックビル症候群は、換気量を減じたビルで働くオフィス作業者にみられた不定愁訴を主体とする病態であり、本邦で命名されたシックハウス症候群と類似している。シックビル症候群の発生には、オフィス作業者、建物の環境、仕事内容の三つの重要な要因が関与していると考えられる。
10)騒音性難聴
騒音性難聴はc5dipを特徴とするが、騒音職場でc5dip以外の聴力型の場合は、他の病態との鑑別が困難である。岡本牧人研究協力者らは、騒音職場従事者でc5dip以外の聴力型を呈する者を検討した結果、4kHzの聴力はc5dip型の者と同程度であるが、250Hzから2kHzおよび8kHzでは有意に悪い結果をえた。
11)職域の健康障害における微生物の寄与と予防
廃棄物処分場で働く作業者の健康リスクの一つに、微生物が一要因と予想される硫化水素などの有害ガスの産生が挙げられる。谷口初美分担研究者らは、硫化水素ガスが発生して1年後の不法投棄現場土壌の理化学的検査と微生物検査および遺伝学的検査を適用するための実験を行った。その結果、深度の高い土壌で硫酸還元菌が多く、従来の培養法と遺伝学的手法による微生物叢の解析では、その菌種に大きな違いがあることが明らかになった。
結論
職域における健康障害には作業要因を主とする職業性疾病と、作業要因が種々の割合で関与する作業関連疾患があるが、疾患発生に伴う健康損失における作業要因の寄与割合を推定することは、適切な労働衛生対策を実施する上で重要であると考えられる。今年度の研究では、寄与割合を算出する理論的基盤を検討すると共に、循環器疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患、シックハウス症候群、騒音障害、廃棄物処理場における健康障害について各論的な研究課題を取り上げ、研究の方向性を定めた。

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