職域における健康診断と精度管理のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201408A
報告書区分
総括
研究課題名
職域における健康診断と精度管理のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 治彦(中央労働災害防止協会)
研究分担者(所属機関)
  • 徳永力雄(関西医科大学)
  • 和田攻(埼玉医科大学)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
  • 久代登志男(駿河台日本大学病院)
  • 曽根修輔(長野県厚生農業協同組合連合 会安曇総合病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
9,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
職域における健康診断は、労働環境の有害要因による健康異常の早期検出、有害要因曝露量の推定、作業関連疾患の早期発見、労働環境に必ずしも関連を持たない健康障害の早期発見、健康度の把握等、さまざまな目的で実施されてきた。今後はさらに、事業者による自主的な労働衛生管理の重要性がますます高まること、また職域健康管理を労働者個人の生涯に渡る健康管理との関連において位置付けるべきことなどの理由で、ますます高い効率性が求められ、実施に当たって有効性を示す根拠も必要となっている。
本研究では、従来の健康診断のあり方を一歩進め、より効果的に労働者の健康維持、増進に資するためには、健康診断の測定および判定における精度の向上がきわめて重要であるとの認識に立ち、各種健康診断における精度管理の現状を把握し、今後のあり方を検討することを第一の目的とする。その際、基本的に健康者を中心とする集団である職域の労働者に対する健康診断のあり方が、地域あるいは臨床の場面における一般人口集団に対する健康診断のあり方と異なる点があることを念頭において検討を行う。
また今後、職域、地域、などで得られる健康診断情報を一元化し個人毎の時系列データを有効に活用することが徐々に進められる機運にあるが、職域における健康診断に限っても、個人の時系列データの活用はきわめて重要である。そこで本研究では、時系列データを有効に活用するために必要とされる精度管理のあり方について研究することを第二の目的とする。
研究方法
分担研究者 櫻井と徳永は、職域健康診断および地域保健・医療における健康診断で実施されている臨床検査に関する精度管理について、国際的動向、およびわが国の状況を文献により調査し、現在までの到達点と今後の問題点を明らかにし、主要な課題への対策手法を研究する。分担研究者 和田は、職域健康診断で実施されている労働衛生検査の現状と各検査項目の精度管理について、国際的動向、および我が国における状況を文献により調査し、現在までの到達点と今後の問題点を明らかにし、主要な課題への対策手法を研究する。上記分担研究者らは、初年度に文献的研究を行い、明らかにされた問題点への対策手法について次年度以降に実証的研究を行う。分担研究者 吉田は、健康診断による時系列健康診断データの有効利用を目的とし、数箇所の大規模事業場に蓄積されている健康診断データベースを利用し、追跡可能なコホートを把握し、コホート内の個人の時系列健康診断データ変動とその後の健康異常出現の関係を解析する。それにより時系列データにおけるどの程度の変動が早期健康異常のマーカーとして利用できるかを明らかにする。またその変動を検出するのに必要な測定精度、判定精度を明らかにし、精度管理の目標を数値化する。検討する検査項目は、血液性化学的検査(TC,TG,HDL,GOT,GPT,γGTP,BS,HbA1c,UA)および血液学的検査(RBC,Hb,Ht,WBC,Plt)とする。初年度に既存のデータベースによる検討の実施および異なる地域に所在する事業場のデータベースを追加する準備を行う。次年度以降にはより広範な年齢層、地域を包含する大規模データベースにより、地域、年齢層が異なっても使用できる時系列変動の検出、判定基準を明らかにし、そのための精度管理のレベルを数値化する。それにより現在到達しているこれらの検査の精度を評価し、必要な改善点を明らかにする。分担研究者 久代は、健康診断情報の効果的利用による循環器疾患スクリーニング手法の改善を目的とし、日本大学医学部総合健診センターおよび本研究に協力可能な数箇所の全国労働衛生団体連合会精度管理事業参加健診施設の受診者(2万人程度)をコホートとし、統一した問診、診察技法による情報、ならびに血圧、胸部レントゲン撮影、安静時心電図、血清脂質、血糖の検査データを用いて、循環器疾患発症リスクを予測し、その後3年間にわたり経過を観察することにより、これらの健診情報の時間断面データおよび時系列データの有効性を明らかにし、必要な健診情報精度を検討する。分担研究者 曽根は、健康診断における胸部放射線診断がエックス線からCR(Computed tomography)に移行しつつある状況に鑑み、CRについての国内における利用やその性能に関する現状調査、職域健康診断での利用に向けた条件整備、標準化や精度管理のための問題点の洗い出し、解決法の検討、ガイドラインの作成、および時系列画像データ之収集、保管、最利用法について検討を行う。また、肺がんやじん肺に対する胸部健診へのCTの利用に関する国際的状況の調査、問題点の抽出およびその解消に向けた技術開発を行う。初年度は主として文献調査を行い、次年度以降には、長野県内あるいは全国的に協力機関を求めて、各種CRシステムの利用法の標準化を試み、これによって生じる問題点の確認とその解消法を開発し、肺がん・じん肺健診について、CRとCTの性能比較、データ保管法、ディジタル画像データの取扱いの標準化を検討する。
結果と考察
分担研究者櫻井は共同研究者中とともに、わが国で臨床検査の精度管理のために標準化されている偶然誤差(精密さ)と系統誤差(正確さ)の確認法、および職域における健康診断を実施している施設が参加している主な精度管理調査の現状と問題点につ
いて調査を行い系統的、総括的にまとめた。その結果、既に標準化された基本的な考え方と蓄積された多くのデータをベースにして、職域健康診断および地域医療でなければなし得ない臨床検査の信頼性の保証と長期維持の具体的な方法論の確立と実践が望まれること、及びその具体的な方向性について明らかにした。分担研究者徳永は、職域健康診断における臨床検査のあり方と臨床検査を実施する検査機関を対象とした外部精度管理に伴う諸課題の検討を目的に、全国労働衛生団体連合会臨床検査精度管理調査における職域健康診断の臨床検査項目(総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、AST、ALT、γ-GT、血糖、ヘモグロビンA1c、尿糖、尿蛋白、ヘモグロビン、赤血球)のデータを解析した。精度管理参加機関180機関の6年間の調査結果を、機関総合評価点、機関別検査項目別評価点、参加機関所在地域別評価点及び実測値について分析して以下の結果を得た。1.精度管理調査参加機関の約60%は最近6年間をとおして満足すべき高水準にあると考えられた。2.約10%の機関は測定技術その他の問題があり、残り約30%の機関はより高水準になるよう今後の努力が期待された。3.機関所在地域別の成績を比較した結果、機関別総合評価点は地域差を認めたが、実測値については地域差がなかった。このため、実測値を評価点に換算する方法に問題がある可能性が示唆された。分担研究者和田は、職域健康診断における労働衛生検査について、わが国における精度管理、特に外部精度評価を調査し概説した。我が国では平成元年より全衛連による精度管理が行われている。毎年1回、8項目の労働衛生検査について10濃度中6濃度のブラインドサンプルが送付され、各参加機関は測定結果を全衛連に報告し、全衛連はその測定値をもとに参加機関に評価点を与える。現状の参加数は96から99%以上であり、ほとんどの検査機関をカバーしている。また各機関の評価点は、ごく一部を除き、非常に高い。成績の悪い機関には労働衛生検査技術向上研修会で技術指導を行っている。このように、我が国の外部精度評価は、労働衛生検査の「品質管理」に優れた実績をあげていると考えられた。ただし、併せて調査した諸外国のシステムと比較すると、我が国の外部精度評価は、同じ物質の検体サンプル濃度数が多く、また異常値を定める基準が厳格である一方、1年あたりの調査回数が少なかった。したがって、調査方法の簡略化と実施回数の増加が、今後の検討課題になりうるものと考えられた。分担研究者吉田は、健診データに関し時系列的データ評価、多項目評価、生活習慣介入評価、個人に分かりやすい表示方法の検討を目的とし、本年度は準備作業として解析データの入手、コンバート/リファイン作業を行い、時系列的データ評価についても一部研究を実施した。解析対象データは、某製造業種企業の健診データ(退職者を含む)1982年~2001年まで、1人最大13回分の健診データである。整理した情報は、BMI、 sBP、 dBP、 TC、 TG、 HDL-C、 GOT、 GPT、 γGTP、 BS、 HbA1c、 RBC、 Hb、 Ht、 UAである。 全レコード件数は49,522件、個人毎の受診回数の件数は11~12回受診している人が約1,300名であった。 基準値と反復切断法(臼井法)との比較では、母集団に対し、臨床診断上でよく使用されているといわれる反復切断法(臼井法)によりデータを収斂させる処理を行った。疾病者や有所見者が含まれているため、反復切断法による基準値範囲(±1.96SD 95%信頼区間)は広くなっており、疾病者を除いた比較や、年代格差の評価方法を検討する必要があることがわかった。基準値の施設間比較では、施設によって変動がみられることが示された。 NCCLSと反復切断法(臼井法)との比較では、NCCLSの手法が労働衛生機関に影響を及ぼし、施設による基準値の格差となって現れたものと考えられた。分担研究者久代は、循環器疾患の効率的なスクリーニングと一次予防のための職域健診のあり方について検討することを目的として、初年度は、日本大学医学部総合健診センター受診者8,165例、およびPL東京健康管理センター受診者37,233例について、安
静時心電図所見の虚血性心疾患関連所見(ST異常、T波異常、異常Q波)、心房細動、左室肥大所見(ミネソタコード(MC)準拠)と心血管系疾患危険因子(年齢、血圧、心拍数、Body mass index:BMI、空腹時血糖、HbA1c、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、尿酸、ヘマトクリット)との関連について、ロジスティック回帰分析により検討した。日本大学医学部総合健診センター受診者の5,180例、PL東京健康管理センター受診者の23,488例を合わせ、最終的に選択された26,554例について解析した。虚血性心疾患関連異常所見(ST・T、異常Q)には年齢、BMI、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、LDLコレステロール、中性脂肪、尿酸、ヘマトクリットが有意な説明変数となり、左室肥大所見には年齢、BMI、心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧、ヘマトクリットが有意説明変数となった。心房細動には有意な説明変数を認めなかった。この結果から、循環器疾患の効率的なスクリーニングと予防のためには、受診者の現在と将来における循環器疾患罹患リスクを層別した上でリスクに応じた指導と検査を行う必要があること、リスク評価は自覚症状、家族歴、生活習慣などの問診情報、および血圧、代謝異常など検査所見を統合して行なう必要があることがわかった。今回のデータは、虚血性心疾患に関連する安静時心電図異常には、従来の心血管系疾患危険因子が関連していることを示しており、次年度以降に心電図異常例に対する精査結果成績と一定の方式による問診情報を加味すれば、職域健診における受診者のリスク層別と高リスク受診者の抽出が効率的に行なうことが期待されると考えられた。分担研究者曽根は、第1にCR(computed radiography)についての国内における利用やその性能に関する現状調査とこれの保健予防医学面での利用に向けた条件整備、標準化や精度管理のための問題点の洗い出しを行った。特にCRについてはその使用における可能性、フレキシビリティーの大きさから、逆に使用法の多様化故の今後の精度管理の困難性が予測された。今年度の研究では特に現在国内で市販され、急速にハードとソフト面で性能向上がはかられている複数メーカーからのシステムについて、その使用時の可能性、選択される多様なパラメータの存在を確認し、その意義や有用性の考察、その有効利用の方法について検討した。このなかで、一般の使用を考えた場合の使用法のガイドライン化、使用者のための横並びの解説や整合性を考慮したマニュアルの作成の必要性、その緊急性がうかがわれた。CR画像システムの内容から、その解説が文章のみでは困難であり、具体的CR画像の表示とともに説明が行われるべきことが指摘され、これは今後の課題とした。さらには検診事業などでは継年的、時系列画像データの効率的収集、保管、再利用法についての配慮も重要であり今後の検討課題とした。第2に肺癌やじん肺に対する胸部検診への CT(computed tomography)の利用に関する国内的、国際的進展状況を調査した。肺癌の早期発見に本法が有用視されていること、しかしこれを従来の胸部X線写真法に置き換えるために、ハードとソフト面の不足、準備の必要性が認識された。とくにその普及面では処理能力の向上、検診の診断精度についての精度管理、実施に際してのX線曝射低減、経費削減、至適受診対象者の選定法、効果的経済的受診回数の確定などが重要と思われた。さらに今後の課題としてCAD(comuter assisted diagnosis)の開発導入をはかる必要を指摘した。
結論
職域健康診断及び地域医療における臨床検査のあり方と精度管理に関する研究(櫻井、徳永)においては既に標準化された基本的な考え方と蓄積された多くのデータをベースにして、職域健康診断および地域医療でなければなし得ない臨床検査の信頼性の保証と長期維持の具体的な方法論の確立と実践が望まれること、及びその具体的な方向性について明らかにした。また全国労働衛生団体連合会臨床検査精度管理調査における職域健康診断の臨床検査項目のデータを解析し、精度管理調査参加機関の約60%は最近6年間をとおして満足すべき高水準にある
こと、約10%の機関は測定技術その他の問題があり、残り約30%の機関はより高水準になるよう今後の努力が期待されること、機関別総合評価点には地域差を認めたが、実測値については地域差がないあことがわかった。このため、実測値を評価点に換算する方法に問題がある可能性が示唆された。職域健康診断における労働衛生検査のあり方と精度管理に関する研究(和田)では、わが国における精度管理、特に外部精度評価を調査し概説し、各機関の評価点は、ごく一部を除き、非常に高いこと、成績の悪い機関には労働衛生検査技術向上研修会で技術指導を行っていること、我が国の外部精度評価は、労働衛生検査の「品質管理」に優れた実績をあげていると考えられことを示した。ただし、併せて調査した諸外国のシステムと比較すると、我が国の外部精度評価は、同じ物質の検体サンプル濃度数が多く、また異常値を定める基準が厳格である一方、1年あたりの調査回数が少なく調査方法の簡略化と実施回数の増加が今後の検討課題になりうることを指摘した。健診データの時系列解析と精度管理に関する研究(吉田)においては、健診データに関し時系列的データ評価、多項目評価、生活習慣介入評価、個人に分かりやすい表示方法の検討を目的とし、本年度は準備作業として解析データの入手、コンバート/リファイン作業を行い、時系列的データ評価についても一部研究を実施し、次年度以降の研究の基礎となるデータベースの構築、および若干の解析成績を得た。循環器疾患の効率的なスクリーニングと一次予防のための職域健診のあり方に関する研究(久代)においては、循環器疾患の効率的なスクリーニングと一次予防のための職域健診のあり方について検討することを目的として、2健診機関の受診者45398例について、安静時心電図所見の虚血性心疾患関連所見、心房細動、左室肥大所見と各種心血管系疾患危険因子との関連について、ロジスティック回帰分析により解析し、虚血性心疾患関連異常所見(ST・T、異常Q)には年齢、BMI、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、LDLコレステロール、中性脂肪、尿酸、ヘマトクリットが有意な説明変数となり、左室肥大所見には年齢、BMI、心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧、ヘマトクリットが有意説明変数となることを示した。心房細動には有意な説明変数を認めなかった。この結果から、循環器疾患の効率的なスクリーニングと予防のためには、受診者の現在と将来における循環器疾患罹患リスクを層別した上でリスクに応じた指導と検査を行う必要があること、リスク評価は自覚症状、家族歴、生活習慣などの問診情報、および血圧、代謝異常など検査所見を統合して行なう必要があることがわかった。職域健康診断における胸部放射線診断のあり方とその精度管理に関する研究(曽根)においては、第1にCR(computed radiography)についての国内における利用やその性能に関する現状調査とこれの保健予防医学面での利用に向けた条件整備、標準化や精度管理のための問題点の洗い出しを行い、今年度は特に現在国内で市販され、急速にハードとソフト面で性能向上がはかられている複数メーカーからのシステムについて、その使用時の可能性、選択される多様なパラメータの存在を確認し、その意義や有用性の考察、その有効利用の方法について検討した。このなかで、一般の使用を考えた場合の使用法のガイドライン化、使用者のための横並びの解説や整合性を考慮したマニュアルの作成の必要性、その緊急性が明らかになった。第2に肺癌やじん肺に対する胸部検診への CT(computed tomography)の利用に関する国内的、国際的進展状況を調査し、肺癌の早期発見に本法が有用視されていること、しかしこれを従来の胸部X線写真法に置き換えるために、ハードとソフト面の不足、準備の必要性があることを明らかにした。とくにその普及面では処理能力の向上、検診の診断精度についての精度管理、実施に際してのX線曝射低減、経費削減、至適受診対象者の選定法、効果的経済的受診回数の確定などが重要であること、さらに今後の課題としてCAD(comuter assisted diagnosis)の開発導入をはかる
必要を指摘した。

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