文献情報
文献番号
200201407A
報告書区分
総括
研究課題名
うつ病を中心としたこころの健康障害をもつ労働者の職場復帰および職場適応支援方策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
島 悟(東京経済大学)
研究分担者(所属機関)
- 倉林 るみい(独立行政法人産業医学総合研究所)
- 秋山 剛(NTT東日本関東病院)
- 荒井 稔(日本私立学校振興・共済事業団東京臨海病院)
- 廣 尚典(日本鋼管病院鶴見保健センター)
- 毛利一平(独立行政法人産業医学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針(2000年旧労働省)」にのっとり、うつ病などのメンタルヘルス不全者の職場復帰・職場適応の促進のための重層的な支援システムの開発を目標とする。事業場においては、事業場規模など各事業場の特性に合わせて柔軟に取り組める支援ツールの開発を目指す。また、事業場外においては、医療機関、産業保健センター、EAPなど様々な支援サービス資源について、よりよい支援システムの検討を行い、職場と各資源との連携についての提言を行う。
研究方法
上記の目的を踏まえ、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」に即して、以下のように研究計画を位置づける。
1、セルフケア
職域ですでにうつ病などのメンタルヘルス不全を発症した労働者のセルフケアをはかり、援助していくためには、まず、そうした労働者の実態把握が必要である。質問紙調査・面接調査・事例研究などの方法により、以下の2点についての研究を行う。
(1) 治療途上労働者・復職者における職業性ストレスの把握
(2)うつ病など有病者のリハビリテーション過程の研究
2、ラインによるケア および 3、事業場内産業保健スタッフによるケア
事業場内における職場復帰支援および職場適応促進システムの現状と問題点の把握を行い、最終的には職場でのチェックリストなど支援ツールの開発を含めた支援システムの提唱をめざす。まずは、(1)管理職、(2)人事職制、(3)産業保健スタッフのそれぞれにおける職場復帰、職場適応の支援のありかたや、相互の連携、職場復帰に関する教育の現状をヒアリング調査や質問紙調査を通して把握する。
4、事業場外資源によるケア
事業場外における職場復帰支援および職場適応促進システムの現状把握と、よりよいシステムの提唱が目標である。うつ病等に罹患した労働者の復職や職場適応に関しては、医療機関との連携が重要と考えられる。ことに産業医のいない中小規模事業場において、どのような連携をはかり、どのように外部資源を利用していくかについて、以下の研究課題を通してモデルを提唱する。
(1)医療機関における支援のありかたの研究
1)医療機関における職場復帰援助プログラムの開発
2)リハビリ過程における医療機関と職場との連携
(2)産業保健推進センター、EAPなど様々な外部資源・通信手段による職場復帰支援・職場適応システムの開発
1、セルフケア
職域ですでにうつ病などのメンタルヘルス不全を発症した労働者のセルフケアをはかり、援助していくためには、まず、そうした労働者の実態把握が必要である。質問紙調査・面接調査・事例研究などの方法により、以下の2点についての研究を行う。
(1) 治療途上労働者・復職者における職業性ストレスの把握
(2)うつ病など有病者のリハビリテーション過程の研究
2、ラインによるケア および 3、事業場内産業保健スタッフによるケア
事業場内における職場復帰支援および職場適応促進システムの現状と問題点の把握を行い、最終的には職場でのチェックリストなど支援ツールの開発を含めた支援システムの提唱をめざす。まずは、(1)管理職、(2)人事職制、(3)産業保健スタッフのそれぞれにおける職場復帰、職場適応の支援のありかたや、相互の連携、職場復帰に関する教育の現状をヒアリング調査や質問紙調査を通して把握する。
4、事業場外資源によるケア
事業場外における職場復帰支援および職場適応促進システムの現状把握と、よりよいシステムの提唱が目標である。うつ病等に罹患した労働者の復職や職場適応に関しては、医療機関との連携が重要と考えられる。ことに産業医のいない中小規模事業場において、どのような連携をはかり、どのように外部資源を利用していくかについて、以下の研究課題を通してモデルを提唱する。
(1)医療機関における支援のありかたの研究
1)医療機関における職場復帰援助プログラムの開発
2)リハビリ過程における医療機関と職場との連携
(2)産業保健推進センター、EAPなど様々な外部資源・通信手段による職場復帰支援・職場適応システムの開発
結果と考察
1、文献調査
文献調査により、うつ病の職場復帰に関する研究は内外とも極めて限られていることが明らかになった。その中で、企業におけるうつ病の予後調査では21.9%が退職し、その中で36.4%は死亡退職であり、その多くは自殺であったという報告がある。復職後1年後の適応は56%という報告もあり、復職の成否に関わる要因としては、家族の支援、性格特性、病前機能水準などが挙げられている。
2、精神障害による休業者調査
精神障害により疾病休業を余儀なくされた労働者の実態を明らかにし、復職の成否にかかわる諸要因を検討した。調査対象は、10の企業において過去3年間に精神障害により1か
月間以上疾病休業した労働者108例である。結果は、対象者の大多数がうつ病であり、年齢層では30代が最も多いが、各年齢層に分布している。発症要因としては、業務外の要因に比べて業務上の要因が多く、その内容としては業務負荷、職場の対人関係、異動、昇進などとなっている。職場復帰において、良好な転帰は概ね2/3、不良な転帰は1/3であり、職場復帰支援体制を強化する必要性が示唆された。職場復帰転帰不良に寄与する要因は以下の通りである。すなわち、低い発症年齢、未婚・離別・死別、気分障害位以外の精神障害、非職場発症要因である。
3、産業保健スタッフを対象とした復職に関する調査
大企業の産業保健スタッフを対象としたヒアリング調査については、文献研究などから得られた復職過程の問題点のうち、「復職診断書の様式」、「主治医との連携」、「いわゆるリハビリ出勤」の3点を中心に聞き取りを行った。その結果、復職のプロセスは概ね共通していたが、上記3点に関しては、企業ごとにかなり多様性が見られた。いずれの対応方法をとるにせよ、対応の担い手として、事業所内に精神保健に精通した健康管理スタッフの存在が重要と考えられた。そうした人材を配置できない企業における復職促進方策が今後の課題である。
4、アルコール依存症の労働者の職場復帰および職場復帰支援に関する検討
産業医、看護職等に対する質問紙調査と産業医、精神科医および心理職に対して聴き取り調査を施行した。その結果、報告された事例は、計50例であったが、そのうち職場再適応をしている事例は、45.1%であった。アルコール専門治療機関の入院患者に多くみられるような重症例は少なく、プレアルコホリックとも呼ばれているような軽症例が多く含まれていると考えられた。したがって、アルコール依存症を早期に発見し適切な対応を行えば、回復率の向上が期待できよう。治療状況については、アルコール依存症の専門科以外で対応された例や未治療例が多かった。うつ病の併存は、36%にみられた。復職時の本人への注意、指導では、断酒、通院の指導に次いで、自助グループへの参加が多く、聞き取り調査でもその重要性が強調された。再適応のポイントは、家族の協力と職場の受け入れ状況がよいことが特に多くあげられた。
5、うつ病等のハイリスクグループとしての広汎性発達障害者等の就労支援に関する研究学習障害児(者)の就労後の転帰に関する疫学的追跡調査は国内では見当たらない。事例研究は比較的豊富だといえるが、学術的論文として存在するものは非常に限られているようである。海外の論文に関しては、教育過程における転帰を追跡したものは多いが、就労後の転帰となると情報は極めて限られる。注意欠陥多動障害については、非常に新しい概念であるため、内外を問わず就労後の転帰について検討した論文は極めて少ない。検索で得られた3つの文献では、いずれも対照群に比べると予後の悪いことが示唆されている。自閉症(高機能自閉症、アスペルガー症候群を含む)については、古くから認知されてきた障害であるためか、日本においても比較的大規模な集団での追跡調査の結果を報告した文献が散見される。一般の健常者に比べると社会的な予後が悪いことを指摘しているにとどまっている場合が多く、集団を対象として、就労前のどのような条件が予後をよいものにし、就労後のどのような介入が、より安定的な就労に結びつくのかといった検討は、皆無といってよい。
6、医療機関における職場復帰プログラムの試行
医療機関において新たに職場復帰プログラムを作成し、調査研究を行った。対象は、NTT東日本関東病院精神神経科の職場復帰援助プログラムを終了し、復職判定を申請した在職精神障害者44名である。就労継続分析の対象は、このうち、復職が認められた28名である。職場復帰援助プログラムは、精神科外来作業療法として行われ、「生活リズムの維持」、「作業能力」、「対人関係」への援助を行い、長期間休務している在職精神障害者の職場復帰準備性を改善し、職場復帰に伴う精神疾患の再発を防ぐことを目的としている。職場復帰支援プログラムからの脱落(休務または退職)したものは、5例見られた。脱落は3例が復職後3ヶ月以内、1例が6ヶ月以内、1例が1年以内に生じていた。復職後1年を経過した時点での就労継続率は82%であり、復職後平均就労継続期間は3.2~4.5年と推定された。就労予後に有意に関係した要因は、当該企業であった。
7、在職精神障害者リハビリテーションの意義と日本障害者雇用促進協会における試行事
業について平成14年度から、日本障害者雇用促進協会障害者職業総合センター職業センターにおいて、在職精神障害者に対する職場復帰支援プログラムが行われているが、この事業の対象者は復職の意思を有し、精神保健福祉手帳を所持しているか、長期に渡り職業生活に相当の制限を受けており、復職にあたって、事業場の人事・労務担当者及び産業医が、職業センターの専門的援助を受けることが適当と判断している者である。最長24週間を標準として、職業センターにおいて基礎評価を実施して、さらに個別カリキュラムに応じたプログラムを実施して、復職先事業場における職務及び職場への適応に関する支援を行っている。
文献調査により、うつ病の職場復帰に関する研究は内外とも極めて限られていることが明らかになった。その中で、企業におけるうつ病の予後調査では21.9%が退職し、その中で36.4%は死亡退職であり、その多くは自殺であったという報告がある。復職後1年後の適応は56%という報告もあり、復職の成否に関わる要因としては、家族の支援、性格特性、病前機能水準などが挙げられている。
2、精神障害による休業者調査
精神障害により疾病休業を余儀なくされた労働者の実態を明らかにし、復職の成否にかかわる諸要因を検討した。調査対象は、10の企業において過去3年間に精神障害により1か
月間以上疾病休業した労働者108例である。結果は、対象者の大多数がうつ病であり、年齢層では30代が最も多いが、各年齢層に分布している。発症要因としては、業務外の要因に比べて業務上の要因が多く、その内容としては業務負荷、職場の対人関係、異動、昇進などとなっている。職場復帰において、良好な転帰は概ね2/3、不良な転帰は1/3であり、職場復帰支援体制を強化する必要性が示唆された。職場復帰転帰不良に寄与する要因は以下の通りである。すなわち、低い発症年齢、未婚・離別・死別、気分障害位以外の精神障害、非職場発症要因である。
3、産業保健スタッフを対象とした復職に関する調査
大企業の産業保健スタッフを対象としたヒアリング調査については、文献研究などから得られた復職過程の問題点のうち、「復職診断書の様式」、「主治医との連携」、「いわゆるリハビリ出勤」の3点を中心に聞き取りを行った。その結果、復職のプロセスは概ね共通していたが、上記3点に関しては、企業ごとにかなり多様性が見られた。いずれの対応方法をとるにせよ、対応の担い手として、事業所内に精神保健に精通した健康管理スタッフの存在が重要と考えられた。そうした人材を配置できない企業における復職促進方策が今後の課題である。
4、アルコール依存症の労働者の職場復帰および職場復帰支援に関する検討
産業医、看護職等に対する質問紙調査と産業医、精神科医および心理職に対して聴き取り調査を施行した。その結果、報告された事例は、計50例であったが、そのうち職場再適応をしている事例は、45.1%であった。アルコール専門治療機関の入院患者に多くみられるような重症例は少なく、プレアルコホリックとも呼ばれているような軽症例が多く含まれていると考えられた。したがって、アルコール依存症を早期に発見し適切な対応を行えば、回復率の向上が期待できよう。治療状況については、アルコール依存症の専門科以外で対応された例や未治療例が多かった。うつ病の併存は、36%にみられた。復職時の本人への注意、指導では、断酒、通院の指導に次いで、自助グループへの参加が多く、聞き取り調査でもその重要性が強調された。再適応のポイントは、家族の協力と職場の受け入れ状況がよいことが特に多くあげられた。
5、うつ病等のハイリスクグループとしての広汎性発達障害者等の就労支援に関する研究学習障害児(者)の就労後の転帰に関する疫学的追跡調査は国内では見当たらない。事例研究は比較的豊富だといえるが、学術的論文として存在するものは非常に限られているようである。海外の論文に関しては、教育過程における転帰を追跡したものは多いが、就労後の転帰となると情報は極めて限られる。注意欠陥多動障害については、非常に新しい概念であるため、内外を問わず就労後の転帰について検討した論文は極めて少ない。検索で得られた3つの文献では、いずれも対照群に比べると予後の悪いことが示唆されている。自閉症(高機能自閉症、アスペルガー症候群を含む)については、古くから認知されてきた障害であるためか、日本においても比較的大規模な集団での追跡調査の結果を報告した文献が散見される。一般の健常者に比べると社会的な予後が悪いことを指摘しているにとどまっている場合が多く、集団を対象として、就労前のどのような条件が予後をよいものにし、就労後のどのような介入が、より安定的な就労に結びつくのかといった検討は、皆無といってよい。
6、医療機関における職場復帰プログラムの試行
医療機関において新たに職場復帰プログラムを作成し、調査研究を行った。対象は、NTT東日本関東病院精神神経科の職場復帰援助プログラムを終了し、復職判定を申請した在職精神障害者44名である。就労継続分析の対象は、このうち、復職が認められた28名である。職場復帰援助プログラムは、精神科外来作業療法として行われ、「生活リズムの維持」、「作業能力」、「対人関係」への援助を行い、長期間休務している在職精神障害者の職場復帰準備性を改善し、職場復帰に伴う精神疾患の再発を防ぐことを目的としている。職場復帰支援プログラムからの脱落(休務または退職)したものは、5例見られた。脱落は3例が復職後3ヶ月以内、1例が6ヶ月以内、1例が1年以内に生じていた。復職後1年を経過した時点での就労継続率は82%であり、復職後平均就労継続期間は3.2~4.5年と推定された。就労予後に有意に関係した要因は、当該企業であった。
7、在職精神障害者リハビリテーションの意義と日本障害者雇用促進協会における試行事
業について平成14年度から、日本障害者雇用促進協会障害者職業総合センター職業センターにおいて、在職精神障害者に対する職場復帰支援プログラムが行われているが、この事業の対象者は復職の意思を有し、精神保健福祉手帳を所持しているか、長期に渡り職業生活に相当の制限を受けており、復職にあたって、事業場の人事・労務担当者及び産業医が、職業センターの専門的援助を受けることが適当と判断している者である。最長24週間を標準として、職業センターにおいて基礎評価を実施して、さらに個別カリキュラムに応じたプログラムを実施して、復職先事業場における職務及び職場への適応に関する支援を行っている。
結論
3年間の研究の初年度に当たって、うつ病を中心としたこころの健康障害をもつ労働者の職場復帰および職場適応に関する諸問題を、文献研究、実態調査、復職プログラムの試行など各方向から検討を行った。次年度以降は、最終的な提言・プログラム作成に向けて、研究を収斂させていく予定である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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