プリオン病の診断技術の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200201399A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病の診断技術の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
品川 森一(帯広畜産大学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内基広(帯広畜産大学)
  • 北本哲之(東北大学)
  • 小野寺節(東京大学)
  • 毛利資郎(九州大学)
  • 堂浦克美(九州大学)
  • 田村守(北海道大学)
  • 高橋秀宗(国立感染症研究所)
  • 岡田義昭(国立感染症研究所)
  • 西島正弘(国立感染症研究所)
  • 菊池裕(国立医薬品食品研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 肝炎等克服緊急対策研究(牛海綿状脳症分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
34,875,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液製剤、医薬品、畜産食品、生体材料を対象に免疫生化学的手段及びバイオアッセイによってプリオンの検出あるいは疾病に付随する蛋白を検出して診断・摘発する方法の改良と、高感度化及びと実用化を図り、プリオン病のヒトへあるいはヒト間の伝播、遷延を未然に防ぐことを目的とする。
研究方法
1)PrPScの免疫学的検出法
a) 開発済のサンドイッチELISA系を基に、反応性のよい抗体の組み合わせを選び、反応系を再検討し、ELISAキットを完成させた。
b) 擬陽性反応が低い試料調製法を開発した。
c) ウエスタンブロット法の迅速化を図るために、試料調製段階アルコール類の添加によるPK消化の影響を調べた。さらにSDSポリアクリルアミドゲル組成とサイズおよび泳動条件、ブロティング条件を検討した。
d) 細胞株T98Gの産生するPK抵抗性のPrPの産生最適条件とPK抵抗性の程度を明かにした。
2)バイオアッセイによるPrPScの検出
a) 全ヒト型PrP遺伝子をノックインにより導入したマウスに各種ヒトプリオンの感染を行い、PrP遺伝型及びプリオン型と潜伏期の関係を検討した。
b) シロオリックスPrP遺伝子発現Prn0/0マウスの各種組織のPrPCの発現を検討した。
3)非侵襲的なプリオン・バイオイメージング法の基礎研究
モデルとして、プリオン病感組織を用いて、Congo・red関連化合物より優れた化合物を探索するため、脳への移行性が優れ、半減期の短いたindene環化合物を選んでプリオン蓄積を描出できるか検討した。
4)CJDの補助診断として14-3-3蛋白定量法を確立し、有用性を検討した。
5) プリオンの新規で高感度診断法開発のため、蛍光相関分光法(FCS)を検討した。
6) 血液中のプリオン運搬ベクター検出のため、神経と免疫を繋ぐ因子の検討を行った。
結果と考察
PrPScの免疫生化学的検出
1)BSEスクリーニングELISA法の実用化:試料調製法:酵素処理時間、処理条件を検討し、非特異反応を抑え、時間の短縮を図った。捕捉抗体44B1, 検出用抗体72-5の組み合わせで、72-5をFabとして酵素標識し、反応時に試料と抗体を同時に加えて迅速化をはかった。本キットの感度は現在我が国でスクリーニングに使用されているPLATERIAと同等の感度で、スクリーニング検査で陰性と判定された894検体は本キットでも全例が陰性と判定された。非特異反応の少ない実用的キットを完成し、現在、審査を受けている。極近い将来、国産のキットによる検査も可能となろう。また正式報告に間に合わなかったが、化学発光系に変えるだけで感度が10倍は上昇することを確認している。
2) ウエスタンブロット法の迅速化:5%の2ブタノール添加でPrPCは最もPKによる分解がおきた。また、ブタノール添加でPrPScの過剰分解も無かった。一方、新規ゲルは400-500Vの高電圧を用いることができ、電気泳動に15分、転写に18分と従来の電気泳動システム(泳動60分、転写60分)に比べて検査に要する時間を大幅に短縮することが可能であった。ゲルを換えて高電圧を使用することにより、迅速化が図れ、ELISA法に近い迅速な確認検査が期待できる。
バイオアッセイシステム
1)作製したキメラヒト型PrP遺伝子ノックインマウスの評価:キメラヒト型PrP遺伝子ノックインマウスはMM1, MV1及び MM1SタイプでPrPタイプ1のCJDでは潜伏期150日と感受性が高かったが、同じPrPタイプでもMM1Pは潜伏期が700日以上でも発症せず、感受性が低かった。PrPタイプ2の場合は100%発症するわけではなく、潜伏期も400日以上であった。MM2タイプでは発症に300日以上を要した。VV2は600日を超しても発症していない。すなわち今回のマウスは多様なヒトプリオン病すべてに感受性が高いわけではなく、複数種の遺伝子改変マウスが必要なことが判った。腹腔内接種によりFDCに蓄積するプリオンを指標に早期診断が可能なことが明らかになった。
2)シロオリックス(Or)PrP遺伝子導入マウスTg(ORPrP+/+) Prmpo/o :o-Prnpホモのマウスの脳、筋肉、心臓、にRT-PCRによってmRNAも該蛋白も検出された。また30週齢より心筋の一部に変性が観察された。
ヒト型遺伝子改変マウスを用いたバイオアッセイにより、ヒトプリオン病の種の壁が解消したと考えられたが、プリオンの型によっては解消されないことも明らかとなった。さらなる遺伝子改変マウスの作製が必要である。残念ながら、シロオリックスPrP遺伝子導入マウスの実用性を研究期間内に明らかにできなかった。
3)非侵襲的なプリオン・バイオイメージング法の開発の基礎研究:GSS脳切片を用いて76種の置換indene環化合物を調べたところ、27種の化合物がクルー斑に一致して斑状の強い蛍光シグナルを発したが、sCJD患者脳の灰白質に見られる瀰漫性の微細顆粒状の異常プリオン蛋白沈着に一致する蛍光シグナルは観察されなかった。マウススクレイピー脳切片ではGSSのクルー斑を描出した置換indene環化合物は、粗大顆粒状の異常プリオン蛋白沈着を描出した。今回までは、アミロイド斑の検出に止まった。シナップスに沈着するような、より微細なプリオンの凝集体とも結合する化合物の探索が必要であろう。
4) 蛍光相関分光法(FCS)を用いた高感度プリオン検出の基礎研究:抗プリオン抗体に蛍光ラベルし、プリオン蛋白との抗原-抗体反応を計測を行い、プリオン蛋白質の液相での直接検出が可能であることを確認した。更に、蛍光ラベルの改良点、抗体の力価等についても予備的検討を行い、実用化が可能であると結論した。
5)プリオン病の補助診断として脊髄液中の14-3-3蛋白の定量系の開発:脊髄液中14-3-3蛋白は脳挫傷後4日目の700 ng/mlが、1ヶ月で正常値(15 ng/ml)に戻った。しかし、CJD患者では回復しなかった。上昇が認められた場合、時間を経て再度測定することにより、CJDの診断精度を上げることも可能となった。
6)イムノ磁気ビ-ズと標識抗体を用いたプリオン検出法の開発:PrPcの発現は神経系由来の細胞株に比べ血球系細胞株は非常に弱いが、その中でB細胞系の株が比較的強かった。磁気ビ-ズを用いた培養上清からの検出では、PrPcの量は細胞の発現量に一致した。PEGの3%から8%濃度でPrPcが沈澱した。プリオン運搬のベクターの存在を探るため、神経系と免疫系を繋ぐ因子を調べ、SDF-CXCR4系の可能性が示唆された。
7)蛋白質分解酵素抵抗性プリオン蛋白質の調製:T98G細胞の産生するPrPresの発現機構を調べた。3回継代後38日培養でも、3回継代後に150日間培養しても10 μg/mlのPKに抵抗性を示さなかった。13回継代後39日培養では、10-20 μg/mlのPKに抵抗性のPrPが産生された。T98G細胞のPK抵抗性PrPをPNGase すると分子量は18 kDaを示した。T98G細胞のコドン129はMet/Valであった。長期間の継代後に細胞を液体窒素中に保存し、解凍後にPrPresの産生を調べた。T98G細胞subclone104株を3回の継代後に36日間培養すると、250 μg/mlのPK処理にも耐性を示した。また、培養36日間後の細胞を新たに播種すると、4日後の細胞もPrPresを産生した。現在、各種プリオン検査の陽性対照として、合成ペプチド、組み替えプリオン蛋白あるいは不活化したマウス馴化プリオンが用いられている。プリオン非感染細胞からマーカーとして利用可能なPK抵抗性のプリオン蛋白が得られることが判り、検査の標準化に利用する期待がもたれる。
結論
1)BSE検査に対応できる我が国初めての実用的なELISAキットが開発できた。また、
ウエスタンブロット法も格段の迅速化が図られた。2)蛍光相関分光を用いた超高感度プリオン検出系開発の可能性が出てきた。3)完成したヒトプリオンの極く短時日で判定可能なバイオアッセイ系は、全てのヒトプリオン病には対応しているわけではないことが判った。動物プリオン病のバイオアッセイ系の有用性の判定は終了しなかった。4)14-3-3蛋白検出によるCJDの補助診断の精度が高くなった。5)非侵襲的なプリオン・バイオイメージング法の実用化のために、シナップスタイプの異常プリオンと結合する化合物の探索が必要である。6)プリオン非感染細胞からマーカーとして利用可能なPK抵抗性のプリオン蛋白が得られることが判り、検査の標準化に利用する期待がもたれる。

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