肝炎対策としての肝がんの研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201393A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎対策としての肝がんの研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小俣 政男(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田晴彦(東京大学)
  • 加藤直也(東京大学)
  • 金井文彦(東京大学)
  • 横須賀收(千葉大学)
  • 荒川泰行(日本大学)
  • 西口修平(大阪市立大学)
  • 山田剛太郎(川崎病院)
  • 佐田通夫(久留米大学)
  • 藤山重俊(熊本大学)
  • 石橋大海(国立病院長崎医療センター)
  • 村松正明(ヒュービットジェノミクス)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 肝炎等克服緊急対策研究(肝炎分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
42,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では毎年3万人以上が肝癌のために亡くなっているが、肝癌の約8割はC型肝炎ウィルス(HCV)感染が原因である。本研究の主任研究者および分担研究者の多くは、旧厚生省「がん克服戦略研究事業発がんの高危険度群を対象とした予防研究」において、肝臓の組織学的検査を行った3000名を超えるC型慢性肝炎・肝硬変患者を対象とするコホート研究を行い、インターフェロン療法が肝癌の発生を有意に抑制すること、ならびに、インターフェロン療法によってHCVが駆除された場合に、肝硬変の解消を含む肝組織像の改善がみられることを示した。また、昨年度は21世紀型医療開拓推進研究事業として、インターフェロン療法により患者生命予後が改善することを示した。これらの検討で明らかとなったことの中で最も重要な点は、HCV感染者において肝癌のリスクは一様ではなく、線維化の進行度に基づいて、ほとんど発癌のない群から、年間7%の高発癌率を呈する群(肝硬変)まで、肝癌リスクが大きく異なることであり、これは治療戦略の検討において常に念頭に置く必要がある。本研究の目的は、HCV感染の病態多様性について、コホート研究においてその実態を解析し、治療戦略の検討を行うとともに、その病態多様性の原因について、ウィルス側および宿主側の両面から、遺伝子レベルでの解析を含めて解明することである。最終的には、個々の患者について、生涯肝発癌リスクを精密に評価し、それに応じてテーラーメード化された最適な治療を行えるようにすることを目指している。本年度は、コホート調査を継続し、生存解析を詳細に行うとともに、あらたな視点からの検討も行なった。また、ウィルス側要因および宿主側要因の病態との関連について検討を行い、いくつかの知見を得た。
研究方法
コホート研究としては肝生検施行C型慢性肝炎・肝硬変患者約3000名について、分担研究者の属する8施設において肝癌発生および生存に関する追跡調査を継続し、今年度は生命予後に関する解析をまとめた。また、肝機能の改善についても検討した。また、個別研究として吉田・加藤・金井はC型肝炎患者274名および健常者55名から文書によるインフォームドコンセントを得た上で炎症性サイトカイン遺伝子に関するSNP解析を行った。西口は肝癌細胞における細胞周期関連遺伝子のメチル化について検討した。山田はC型慢性肝炎・肝硬変における血清および肝組織中の酸化ストレス状態について解析した。荒川は血中HGF値と肝癌発生の関連についてprospectiveに検討した。村松はSNP解析を効率的に行う遺伝子解析プログラムを検討した。
結果と考察
インターフェロン療法による生命予後改善についてデータを集積し今年度論文化した。非投与群の本邦一般人口に対する標準化死亡比は1.9(95%信頼区間:1.3-2.8)、インターフェロン投与群のそれは0.9(信頼区間:0.7-1.1)であり、インターフェロン療法による生命予後改善が明らかとなった。わが国では、2001年末にインターフェロンとリバビリンの併用療法が保険収載され、現在、これがC型慢性肝炎治療の主流となっている。また、近い将来にペグ化インターフェロン製剤が使用可能となる見込みであり、C型慢性肝炎の治療法は現在転換期にあるといえる。この状況を鑑み、当研究班としても新しい治療法の成績に関しての検討も行なっていくこととなった。コホート研究によって、インターフェロン療法の発癌抑止、生命予後改善が
実証されたわけであるが、新しい治療法の導入による選択肢の拡大もあって、治療法の選択にあたっても、個々の患者の発癌リスクの評価がますます重要となる。このような視点から、肝炎の進行や発癌のメカニズムに関する基礎的検討が行われた。炎症性サイトカインIL-1β遺伝子プロモータ領域の一塩基多型解析を行い、肝癌患者では非発癌患者と比べてT/Tの割合が有意に高いことが示された。また、細胞周期調節遺伝子のメチル化がC型発癌の機序に関連している可能性があること、血中および肝組織中酸化ストレスが肝線維化の進行した症例で強いこと、HGF高値例は肝発癌リスクが高いことなどが示された。また、連鎖不平衡ブロックの長さの検討から、一塩基多型解析にあたっては候補遺伝子法が効率的であることが示された。本研究ではインターフェロン療法によりC型慢性肝炎・肝硬変からの肝癌発生が抑制され、生命予後を改善することを明らかとしてきた。しかし、肝癌のリスクが患者によって大きく異なることも事実である。説明因子としての肝線維化の進行度により発癌リスクが大きく変わることは広く知られているが、同じ線維化ステージF1であっても、60歳の患者と30歳の患者では生涯発癌リスクは大きく異なる。近年、リバビリンとの併用によりインターフェロンの著効率は向上したが、副作用も小さいとはいえず、生涯発癌リスクに応じて最適な治療を選ぶことが今後ますます重要となる。また、ウィルスを駆除できない症例が残ることも予想され、そのような症例に対する治療を検討するうえでも、発癌リスクを評価すると同時に、コホート研究を継続して予後の実態を明らかにしていく必要がある。
結論
C型慢性肝炎に対するインターフェロン療法は肝癌死を減少させ、患者集団の生命予後を有意に改善した。今後、個々の患者の生涯発癌リスクを評価することにより、治療の適応を選び、インターフェロン療法をテーラーメード化して、より効率の高い治療とすることが重要になる。このため、宿主側およびウィルス側要因について遺伝子レベルの検討を行った。

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