C型肝炎の自然経過および介入による影響等の評価を含む疫学的研究

文献情報

文献番号
200201388A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎の自然経過および介入による影響等の評価を含む疫学的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 浩司(広島大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 武田直和(国立感染症研究所)
  • 三代俊治(東芝病院)
  • 溝上雅史(名古屋市立大学大学院)
  • 鈴木一幸(岩手医科大学)
  • 長尾由実子(久留米大学)
  • 秋葉隆(東京女子医科大学)
  • 田中純子(広島大学大学院)
  • 三浦宣彦(埼玉県立大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 肝炎等克服緊急対策研究(肝炎分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
55,911,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.HCVキャリア対策策定のための疫学的調査、研究、2.透析医療施設におけるHCV感染防止対策策定のためのウイルス・血清疫学的研究、3.B型、C型及び非B~非C型肝炎の分子ウイルス学的研究、4.霊長類(チンパンジー)を用いた感染実験、の4項目の調査・研究を基礎医学、臨床医学、社会医学を担当する専門家の協力の下に行ない、得られた成果を迅速に社会に還元し、わが国の保健・医療の向上に寄与することを目的とする。
研究方法
研究目的に掲げた調査・研究を、3年計画で行なう。2年目にあたる本年度は上記目的を達するための調査・研究および基礎的検討を行なった。3年目も、調査・検討を継続すると共に、得られた成果をまとめ上げ、成果を社会に還元するための提言を行なう予定である。
結果と考察
1.HCVキャリア対策策定のための疫学的調査・研究関連
1)1995年1月から2000年12月までの6年間の全献血者のデータから初回献血者、計3,485,648例のデータを抽出し、出生年をもとに2000年時点の年齢に換算した10歳きざみの年齢階級別にHCVキャリア率を算出し、2000年国勢調査による当該年齢階級の人口をもとにHCVキャリア数を推計した。その結果、15歳から69歳の人口約9,300万人の中に88.5万人のHCVキャリアが潜在し、このうち40歳から69歳の年齢層の中に潜在するHCVキャリア数は75.9万人と推計され、全体の約86%を占めることが明らかとなった。同様に、15歳から69歳の年齢層の中に潜在するHBVキャリア数は96.8万人であり、このうちの約76%、71.4万人が40歳から69歳の年齢層に扁在することが明らかとなった。
2)市町村別にみた肝がんによる標準化死亡比
本年度は1996年から2000年までの5年間における全国市町村別の肝がん標準化死亡比の分布図(SMRベイズ推定量分布地図)を作成した。これを、既に報告した1971年から1995年までを5期間に分けて作成した分布図と比較した結果、この30年の間に、死亡率の急増とともに、駿河湾沿岸、大阪湾沿岸、中国地方の瀬戸内沿岸、九州北部に高死亡率市町村が集積し、西高東低の傾向が顕著になってきたという推移が2000年に至るまで継続していることが明らかとなった。
3)献血を契機に発見されたHCVキャリアの肝病態の推移
初診時の病態が把握できた920例のうち、5年以上(平均8.2年)経過観察が可能であった362例の肝病態の推移を解析した。その結果、初診時に慢性肝炎と診断された214例の中から5例が肝がんへ、また11例が肝硬変へ進展していた。一方、48例がHCVキャリア状態から離脱していたが、このうちの47例はインターフェロン治療によるものであり、1例は自然経過での離脱例であることが明らかとなった。
2.透析医療施設におけるHCV感染防止対策策定のためのウイルス・血清学的調査、研究関連
1999年11月から2002年5月までの約2年半にわたって、透析患者総計2,524例を対象として3ヶ月に1回の頻度で採血を行いつつ前方視的に追跡した。調査期間内におけるHCV感染の新規発生数は13例であり、いずれもキャリア化したことが確認された(HCVキャリアの新規発生率:100人年あたり0.372)。
また、この調査期間内に9ヶ月以上追跡が可能であったHCVキャリア283例の血中のHCVコア抗原量を測定したところ、血中のコア抗原量の変動は女性に比べて男性で、また40歳代以上の年齢層で目立つ傾向が認められた。
3.B型、C型及び非B~非C型肝炎の分子ウイルス学的研究関連
1)1920年代に日本住血吸虫症が蔓延したとされる広島、久留米、山梨の限定された地区において、同症の感染既往を有する41例のHCVキャリアの血清を用いて、HCV感染の拡散時期を推定した結果、日本住血吸虫症の感染既往者の多い広島、久留米の当該地区では、他の地域(名古屋、長野、東京)と比べると20年程度早い時期からHCV感染の拡散が始まっていることを示唆する成績が得られた。
2)HBVの遺伝子の変異と肝病態との関連
Lamivudine投与中に耐性を獲得し、急性増悪するB型肝炎(Breakthrough hepatitis:BTH)をおこした群では、Lamivudine投与前のHBV DNA量が有意に高く、HBV遺伝子のPre-S部分の欠損(Pre-S deletion)を認める症例が有意に多いことが明らかとなった。
3)HEV感染の血清疫学的調査、研究
北海道における急性肝炎33例中13例(39%)にHEV RNAが検出された。同様に新潟、埼玉からの症例では、それぞれ21%、18%にHCV RNAが検出された。また北海道において見出された輸血後E型肝炎(疑)の症例について、ドナーとレシピエントの両者から検出されたHEVの塩基配列を2つの異なる領域で比較したところ、両者は完全に一致することが明らかとなった。
4)E型肝炎ウイルスワクチン開発のための基礎的研究
組み換えバキュロウイルスで発現したHEVの中空粒子をカニクイザルに経口投与して経過を観察し、血中に誘導されるIgM、IgG、IgA型HEV抗体を指標としてHEVをチャレンジしたところ、感染防御あるいは発症阻止の効果が認められた。
4.霊長類(チンパンジー)を用いた感染実験関連
感染既往期(HCV抗体陽性、HCV RNA陰性)の献血者由来の新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma:FFP)とHCV感染のウインドウ期(HCV抗体陰性、HCV RNA陽性)の献血者由来のFFPを接種材料として、感染実験を行ない、次のことを明らかにした。1)HCV感染既往者由来のFFPをヒトと同一の条件で輸注してもHCVの感染はおこらないこと、2)HCV感染のウインドウ期のFFPに融解~再凍結の操作を各1回追加するだけで、感染価は少なくとも102 CID/・以上のオーダーで減弱すること、3)HCV感染価の減弱を最小限に抑えたHCV感染のウインドウ期の血清を接種材料とした場合、NATにより定量値として示されるHCV RNAの絶対量として10コピーオーダーのHCVを接種することにより感染は成立すること、4)ヒト型インターフェロンの投与はHCVに感染したチンパンジーのキャリア化阻止に有効である可能性があること。
結論
1.わが国の2000年時点における15歳から69歳の年齢層に潜在するHBVキャリア数、HCVキャリア数を算出した(HBVキャリア数:96.8万人、HCVキャリア数:88.5万人)。なお、HBVキャリアの約76.8%が、またHCVキャリアの約86%が40歳から69歳の年齢層に扁在することが明らかとなっている。
2.1996年から2000年までの5年間における全国市町村別の、男女別にみた肝がん標準化死亡比の分布図(SMRベイズ推定量分布図)を作成した。これと、既に報告した1971年から1995年までを5期に分けて作成した分布図を比較した結果、西高東低の傾向が顕著になりつつあることを明らかにした。
3.献血を契機に発見されたHCVキャリア、計362例を5年以上(平均8.2年)前方視的に追跡し、肝病態の推移を解析した。その結果、初診時に慢性肝炎と診断された214例の中から5例が肝がんへ、また11例が肝硬変へ進展する一方、48例がインターフェロン治療等によりキャリア状態からの離脱がおこっていることが明らかとなった。
4.透析患者、総計2,524例を約2年半にわたって前方視的に追跡した結果、HCVキャリアの新規発生例13例(100人年あたり0.372)を認めた。
5.過去に日本住血吸虫症の蔓延した地区におけるHCV感染の拡散は、対照とした他の地区に比べて20年程度早い時期におこったことを示唆する成績を得た。
6.Lamivudine耐性を獲得し急性増悪するB型肝炎(Breakthrough hepatitis:BTH)例に持続感染するHBVでは、Pre-S部分の欠損(Pre-S deletion)を認める例が多いことが明らかとなった。
7.わが国にも輸入感染例ではないE型急性肝炎が存在することが明らかとなった。
8.組み換えバキュロウイルスで発現したHEVの中空粒子の経口投与により、カニクイザルがHEVの感染防御能を獲得することを明らかにした。
9.HCVの感染既往者由来(HCV抗体陽性、HCV RNA陰性)の新鮮凍結血漿をヒトと同一の条件でチンパンジーに輸注してもHCVの感染は成立しないことが明らかとなった。
10.HCV感染のウインドウ期(HCV抗体陰性、HCV RNA陽性)の血清を接種材料とした場合、NATにより定量値として示されるHCV RNAの絶対量として10コピーオーダーのHCVを接種することにより感染は成立することが明らかとなった。

公開日・更新日

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