C型肝炎ウイルスの感染による肝炎・肝硬変及び肝がん発生等の病態の解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201387A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルスの感染による肝炎・肝硬変及び肝がん発生等の病態の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
林 紀夫(大阪大学)
研究分担者(所属機関)
  • 下遠野邦忠(京都大学)
  • 加藤宣之(岡山大学)
  • 小原道法(東京都臨床医学総合研究所)
  • 岡本宏明(自治医科大学)
  • 坪内博仁(宮崎医科大学)
  • 岡上武(京都府立医科大学)
  • 森脇久隆(岐阜大学)
  • 小池和彦(東京大学)
  • 金子周一(金沢大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 肝炎等克服緊急対策研究(肝炎分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
55,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)は持続感染をきたし、慢性肝炎、肝硬変を経て高率に肝癌を引き起こす。わが国におけるHCV感染者は200万人以上と推定されており、年間約3万人の新規肝発癌が認められている。C型慢性肝炎に対する現在最も有効な治療はIFNとリバビリンの併用療法であるが、C型慢性肝炎の約1/3はこれらの治療法にも抵抗性であり、現行のIFNを中心としたC型肝炎の治療のみでは限界があると言わざるを得ない。かかる現状から、今後本邦にて急増が予想される肝癌の発生を抑止するためには、C型肝疾患に対する新しい治療戦略の開発が急務となっており、このためにはHCV感染がもたらす各種病態の詳細な分子機構を解明することが重要である。本研究は、C型肝疾患の病態を多面的に解明することにより、C型肝炎ならびに肝発癌に対する新しい治療戦略を提唱することを目的としている。
研究方法
A)培養細胞でのHCV増殖システムとHCV関連蛋白の機能解析。遺伝子型2aのレプリコンRNAを作製しHuh7に導入した。HCVの部分ゲノムが効率よく自己複製する細胞株を用いて、ウイルス蛋白質の細胞内局在を検討し、界面活性剤処理後にin vitroの検討を行った。昨年度に開発したマイクロサテライト不安定性を測定できる実験系を用いて、コア蛋白質がDNA修復系に与える影響を解析した。B)HCVによる肝炎および肝発癌の動物モデルの作製とその解析。HCVコア遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを用いて、肝発癌のメカニズムを解析した。HCVの全長cDNAクローンから再構成したウイルスをツパイに感染させ、感染の様態と病原性の評価を行った。C)C型肝炎における遺伝子発現プロファイルの解析。正常肝組織、HCV感染慢性肝炎、HCV関連肝細胞癌、HBV感染慢性肝炎、HBV関連肝細胞癌についてRNAを調整し、SAGE法を用いて解析した。D)C型肝炎における樹状細胞機能の解析。IFN/Riba療法を行ったC型慢性肝炎患者について治療開始1ヶ月、3ヶ月後のHCV RNA陰性化に影響を与える因子について検討した。C型慢性肝炎患者の末梢血よりlineage markerおよびHLA-DRを用いて、DC1、DC2を同定し、FACS解析およびsortingにより機能解析を行った。末梢血の単球分画よりGM-CSFおよびIL-4を用いて樹状細胞を誘導した。各種刺激の上、MICA/Bの発現をFACS解析し、NKG2D陽性のヒト末梢血NK細胞を用いて、活性化能を検討した。E)その他。ヒト肝癌細胞株を用いてレチノイドレセプターの一つであるRXR?のErkによるリン酸化、およびその機能におよぼす非環式レチノイドの効果を解析した。免疫沈降法およびHCV RNA定量測定法を用いて、HCV感染回復期血清中のHCV粒子に対する抗体の測定法の特異性について検討した。HCV抗体陽性T町住民1,083名を追跡調査し、肝機能持続正常者群と持続異常群に分けて、年齢、性、HCVコア抗原量、HCV群別およびHCVコア領域のquasispeciesの比較を行った。
結果と考察
結果と考案=A)培養細胞でのHCV増殖システムとHCV関連蛋白の機能解析。遺伝子型2aのHCVレプリコンの作成に初めて成功した。劇症肝炎患者から作成したレプリコンは高効率に複製したが、慢性肝炎患者から作製したものは複製効率が不良であった。今回作成したレプリコンは、今後1b型と2a型の増殖機構の差異を検討するために有用であり、また高効率なレプリコンと効率の悪いレプリコンの差異を検討することにより2a型の増殖に重要な遺伝子配列を明らにすることができると
考えられる。ウイルス蛋白質の複製複合体は小胞体膜状に局在しており、細胞膜を界面活性剤で処理して細胞質の可溶性画分を除いても複製が効率よくおこることを見出した。また、HCVコア蛋白が核内受容体依存的な転写を活性化することを明らかにした。HCVコア蛋白質によるマイクロサテライト不安定性の増強効果を測定できる実験系がレプリコン細胞などにおいても可能であるかどうかを検討し、培養細胞を用いた塩基除去修復活性を測定できる実験系の構築を行った。B)HCVによる肝炎および肝発癌の動物モデルの作製とその解析。HCVコアトランスジェニックマウスでは?酸化の障害とともに肝細胞からのVLDLの分泌障害が認められた。また、コア蛋白はRXR?と結合し、その機能を修飾していた。本モデルはC型肝炎コア蛋白、肝脂肪化、そして発癌の密接な関連を個体レベルで解析していく上で極めて有用であると考えられる。HCVの全長cDNA cloneから再構成したウイルスをツパイに感染させることにより、長期にわたってウイルス血症が持続し、慢性肝炎から肝硬変へと進展した。本モデルはHCVの持続感染機序や病態形成を解明する上で、有用なモデルとなることが期待される。C)C型肝炎における遺伝子発現プロファイルの解析。SAGEを用いて正常肝、HCVおよびHBV感染慢性肝炎および関連肝細胞癌の包括的な発現遺伝子プロファイルを作成した。HCVとHBVは、臨床的には慢性肝炎あるいは肝硬変を引き起こし、肝細胞癌を合併するが、その過程で発現している遺伝子は異なっていたことから、発癌にいたる機序も異なっている可能性が示唆された。本研究により、今後HCV発癌に関連する遺伝子を解析するためのデータベースが整備された。D)C型肝炎における樹状細胞機能の解析。IFN/Riba投与開始1ヶ月後にHCV RNAが陰性化した症例では陰性化しなかった症例に比べて1st phase、2nd phaseのHCV RNAの半減期は有意に短かった。 IFN/Riba投与24時間後のHCV RNA量の1 log以上の減少は1ヶ月後、3ヵ月後のHCV RNA陰性化の予測に有用であった。IFN/Riba療法中のTh1/Th2バランスの変化は、1ヶ月後、3ヵ月後のHCV RNA陰性化および、3ヵ月後陽性の3群間で明らかな差を認めなかった。C型肝炎患者ではDCの数と機能が健常者に比し低下していた。また、単球より誘導した樹状細胞を用いて、CD4陽性T細胞をin vitroで刺激しIFN?の産生によりTh1誘導能を検討すると、C型肝炎患者では健常者に比し樹状細胞のTh1誘導能が明らかに低下していた。このTh1誘導能の低下はIFN添加では改善しなかったが、IFNとRibaの添加により正常者と同レベルまで改善した。今後、Th1/ThバランスとIFN治療効果との関連をより詳細に解析する必要があると考えられる。ヒトの単球分画より誘導した樹状細胞は1型IFNの刺激によりMICA/Bを発現し、これがNK細胞に発現しているNKG2Dを活性化することを見出した。C型慢性肝炎患者では1型IFNによるMICA/Bの発現が特異的に欠損していた。これはC型慢性肝炎患者にみられる樹状細胞機能の低下の分子機序の一端をはじめて示したものであり、今後この機序を解明することによりC型肝炎でみられるIFN低反応性を回復する治療法の開発につながることが期待される。E)その他。肝癌においてはRXR?がErkによりリン酸化されており、dominant negativeに作用していた。非環式レチノイドはRas/Erk系の活性を阻害することによりRXR?のリン酸化を抑制し、機能を回復させた。さらにこれによりRXR/RARの下流にあるSTAT1の転写誘導を回復させ、IFNに対する反応性を回復させた。以上のことより、非環式レチノイドはレチノイド不応性となった肝細胞癌のレチノイド感受性を回復させることにより治療効果を発揮することが示唆された。HCV感染回復期血清中に、HCVのE2蛋白超可変領域(HVR)のアミノ酸配列を担うペプチドと反応する抗体が存在すること、そして回復期血清より精製したHVR抗体がHCV粒子と結合し得ることを免疫沈降法および免疫電顕法により証明した。このようなことから、免疫沈降法によるHCV粒子に対する抗体測定法は特異的であることが示唆された。HCVによる肝細胞障害の要因として、男性、HCV群
別のグループ1が関与すると考えられたが、ウイルス量や年齢は影響しなかった。
結論
HCVコア蛋白は核内受容体のmodulation、DNA修復機構や?酸化の抑制を介して多彩な細胞機能に影響を与えることが示された。また、新たなHCV増殖システムとして遺伝子型2aのレプリコンおよびツパイにおける感染系を樹立した。C型肝炎においては樹状細胞機能の多彩な変調が認められ、その一つのメカニズムとして1型IFNによるNKG2D活性化リガンドMICA/Bの発現欠損が関与していることが示された。また、IFN/Riba治療効果とHCV RNA dynamicsとの間には密接な関連があることが示された。肝癌については、遺伝子発現プロファイルの比較検討により、C型肝炎からの発癌はB型肝炎からの発癌とメカニズムが異なることが示された。肝癌ではRXR?のリン酸化がおこっており、これがdominat negativeに働くことにより、レチノイドに対する反応性を低下させ、発癌に関与していることが示唆された。

公開日・更新日

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