慢性C型肝炎に対する治療用ヒト型抗体の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201386A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性C型肝炎に対する治療用ヒト型抗体の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 善治(大阪大学微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 森石恆司(大阪大学微生物病研究所)
  • 石井孝司(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 肝炎等克服緊急対策研究(肝炎分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
34,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国には二百万人以上ものHCVのキャリヤーが存在すると推定され、HCV感染と肝癌発症の相関も血清学的に証明されている。本研究事業では、これまでに得られたHCVエンベロープ蛋白質に対するヒト型モノクローナル抗体の in vivoでのウイルス排除活性をHCVに持続感染しているチンパンジーを用いて検討する。チンパンジーで良好な成績が得られれば、これらのヒト型抗体の慢性C型肝炎に対する抗体医薬としての道が開けるばかりでなく、この中和抗体をプローブとして治療用ワクチンの開発も可能となる。さらに、これまでに開発した手法と抗体を駆使すれば、HCVリセプターの同定も夢ではなく、悲願であった信頼できるHCVの細胞培養系や小型実験動物の開発、そしてワクチンや治療薬の開発が急展開することが期待でき、社会的貢献度も極めて高いものと思われる。
研究方法
1)抗E2ヒト型抗体のHCV持続感染チンパンジーでの活性評価:精製E2蛋白質が細胞表面のCD81分子に結合するのを阻止できる抗体(NOB抗体)を保持し、慢性C型肝炎から自然治癒された方からインフォームドコンセントを得た後、血液を採取した。この末梢リンパ球から抗体遺伝子のcDNAライブラリーを作製し、ファージディスプレイ法を用いて、NOB活性を持ったヒト型モノクローナル抗体を得た。このヒト型抗体を精製し、安全性が担保された抗体をHCVに持続感染しているチンパンジーに3mg/kgと10mg/kgの用量で各2頭ずつ、計4頭に1週間隔で9回、静脈内にInfusion pumpを用いて投与した。抗体投与後のウイルス価と肝機能の動き、抗体の半減期、さらに、抗ヒト抗体の産生の有無について検討した。2)シュードタイプウイルスのHepG2細胞への感染様式とHCVレセプターの解析:これまでの成績から、HepG2細胞にHCVのエンベロープ蛋白質による細胞融合ならびにエンベロープ蛋白質を持ったシュードタイプウイルスの感染を担うヒトCD81分子以外の蛋白因子の存在が示唆される。そこで、シュードタイプウイルスのHepG2細胞への感染様式を詳細に検討するとともに、HepG2細胞膜上に存在すると思われるHCVレセプターの同定を進めた。3) E1及びE2蛋白質をERに発現させるためにtissue plasminogen activatorのシグナル配列との融合蛋白質としてそれぞれ発現するプラスミドを構築した。7カ所の糖鎖結合配列に部位特異的変異を導入した7種の変異体を作製し、変異体の電気泳動度の変化を観察した。元の結合配列以外に糖鎖結合配列を新たに導入するglycosylation-scanning mutagenesisを行い、同様に解析した。
結果と考察
1)NOB活性を持ったヒト型モノクローナル抗体のHCV持続感染チンパンジーでの抗ウイルス活性は、一過性なものであり、ウイルスを生体から排除するのは難しいと思われる。NOB活性は精製したE2蛋白質が細胞表面のCD81分子に結合するのを阻止するものであり、HCV感染における関与は依然として否定的な意見が多い。しかし、精製E2蛋白質と強いアフィニティーを示すことから、ウイルスの侵入には直接関与しなくても、結合によりシグナルを細胞に入れて、HCVの感染に必須な分子の誘導や肝炎病態に関与している可能性も充分考えられる。今後、本抗体によるE2とCD81の結合阻害による肝炎病態の改善の可能性も検討してゆきたい。2) HCV研究の最重要課題は、信頼できる細胞培養系の開発である。我々が開発したHCVシュードタイプウイルスは、これまでの精製エンベロープ蛋白質を用いた結合アッセイやPCRでようやくウイルスの複製が検出できる細胞培養系に比べ、吸着ならびに侵入のステップを定量的に解析できる点で優れている。今回、ヘパ
リン、FGFそしてヒト血液成分がHCVシュードタイプウイルスの感染に重要な役割を演じていることが示された。今後これらの領域を詳細に検討してゆきたい。また、HCV受容体がクローニングされれば、発現細胞株を樹立し、細胞融合やシュードタイプウイルスで活性を評価する。もしも活性が認められれば、"生" のHCV感染(信頼できる系は未だに無いが・・・)を調べてゆきたい。また、今回用いたヒト肝細胞に対するモノクローナル抗体は、細胞融合活性を中和するがHCVシュードタイプウイルスを中和できなかった。今後さらにHCVシュードタイプウイルスを中和できるモノクローナル抗体を準備し、HCVリセプターのクローニングを根気強く続けたい。3) E1蛋白質のトポロジーモデルは以前にフランスのグループによって提案され、他の研究者もそのモデルを基に研究を進めている。しかし、そのモデルでは細胞質側領域がほとんど存在せず、コア蛋白質や E2蛋白質と相互作用し得ない。一方で、E1がコアやE2と相互作用するという証拠は蓄積してきている。本研究で詳細に証明したトポロジーモデルでは、比較的大きな細胞質ループがある。このループ領域がコア蛋白質と相互作用しているとのデータも出ている。従って、本研究で新たに提出したモデルは多くの知見と合致しており、他のHCV研究者にも有用な情報を提供できるであろうと期待される。ウイルス粒子の形成過程は、いずれのウイルスについても全容が明らかになっていない。HCVに関しては、細胞培養による効率の良い増殖系がないこともあり、更に立ち後れている。構造蛋白質の構造情報は、ウイルス粒子の形成過程を考える上で必須である。コア蛋白質やE2蛋白質については次第に情報が集まりつつあるが、E1蛋白質の構造情報はほとんどない。本研究結果は、HCVの粒子形成を探る上で重要な知見となるばかりでなく、HCVワクチンや治療薬開発につながると考えられる。
結論
1) 抗E2ヒト型モノクローナル抗体の抗ウイルス活性をHCVに持続感染しているチンパンジーを用いて評価した。抗体投与により一過性にウイルス価の減少が認められたものの、1週間後には元ウイルス価に戻った。4頭中2例に於いて、肝機能の改善傾向が認められた。2) HepG2細胞の細胞膜画分を抗原としてマウスを免疫し、細胞融合やシュードタイプウイルスの感染を中和できるモノクローナル抗体を作製した。これらの抗体が認識する分子がいくつか同定された。3) 新たにE1蛋白質のトポロジーモデルを提出した。このモデルは、HCVのコア蛋白質がE1蛋白質と相互作用するという事実とも合致する。しかし、別の研究グループは細胞質ループ領域が無いトポロジーモデルを提唱しており、我々の研究結果とは異なっている。

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