C型肝炎ウイルス等の母子感染防止に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201385A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルス等の母子感染防止に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
白木 和夫(鳥取大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 神崎晋(鳥取大学医学部)
  • 日野茂男(鳥取大学医学部)
  • 森島恒雄(名古屋大学医学部)
  • 藤澤知雄(防衛医科大学校)
  • 戸苅創(名古屋市立大学医学部)
  • 松井陽(筑波大学臨床医学系)
  • 木村昭彦(久留米大学医学部)
  • 田尻仁(大阪府立病院)
  • 大戸斉(福島県立医科大学医学部)
  • 稲葉憲之(獨協医科大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 肝炎等克服緊急対策研究(肝炎分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)C型肝炎ウイルス(HCV)母子感染に関連する各種要因を明らかにし、母子感染率を低下させる方策を探り、将来開発されるワクチンなどによるHCV母子感染防止の対象となるべきhigh risk groupを明確にする。2)HCV母子感染児の長期経過を明らかにする。慢性C型肝炎小児について、interferonなどの治療への反応と成長などへの影響を明らかにする。3)HCVに感染している妊産婦への指導指針を作成する。4)本研究に平行して調査可能な他の肝炎ウイルスの母子感染の実態を明らかにする。
研究方法
1)主任研究者、分担研究者、研究協力者の各施設において、HCV感染妊婦にインフォームドコンセントを得た後、それら妊婦のHCVのウイルス学的検査を行い、その新生児を定期的に診察・検査し、母子感染の有無を調査すると共に、感染児についてウイルス学的検査、肝機能検査を行い、長期間にわたりウイルスの動態を含めた予後調査を行った。本研究に関しては鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を受けた。2)上記の前方視的調査を通じて母子感染に関係する各種要因の検討を行い、母体のHCVのgenotype、変異などウイルス学的検索、妊娠・出産時合併症、分娩様式、分娩時間など産科的要因、母乳哺育の関与などを検討した。3)母子感染によりHCV RNA持続陽性となった小児の一部では生後3、4年の間に血中HCV RNAが検出されなくなる。感染児についてそのウイルス動態の経過を長期間追跡調査し、感染状態を脱する症例と持続する症例についてその差が生じる要因を検索した。HCVの超可変領域の変異を追跡調査し、肝障害との関連を調べた。Interferonに対する反応性と成長など長期的な影響について調査した。4)全国16施設に対してアンケート調査を行い、後方視的にHCVキャリア妊婦から生まれて母子感染した児としなかった児のコントロールスタディを行った。
結果と考察
本研究においてHCV RNA陽性妊婦からの出生児への母子感染率は、分担研究者の施設毎にかなり異なり、7.3%-12%であったが、各施設の症例を集計した395例では9.4%の母子感染率となり、これが現在のわが国のHCV母子感染率といえよう。これは従来の報告に比べ高いように見えるが、これまでの報告がHCV抗体陽性妊婦を母数にしているものが少なくなかったためでもあろう。HCV RNA陰性でHCV抗体のみ陽性の妊婦からの母子感染は起こっていない。HCV母子感染の要因として、各分担研究者でほぼ一致を見たのは出産時における妊婦の血中HCV RNA量であった。殆ど全ての感染児の母のHCV RNA量は10の6乗copies/ml以上で、これ以下の場合にはほとんど感染がおこっていなかった。すなわち母のHCV RNA量が10の6乗copies/ml以上の場合は母子感染のハイリスクであることが明らかとなった。但し母子感染が起こっているのは10の6乗copies/ml以上の群の全部ではないことから、母体のHCVウイルス量以外の要因が存在することは明らかである。母体血中の高HCVウイルス量以外の要因として、最も疑われるのは分娩様式である。HCV母子感染の場合、感染児の多くで臍帯血にごく少量のHCV RNAが検出され、児がHCV RNA陽性になるのも生後1カ月以内が多く、遅くも3カ月以内であることを考えると、分娩時に母から新生児にウイルスが伝播したと考えるのが妥当である。HCV母子感染の頻度に関して、これまで帝王切開分娩と経腟分娩とで差がなかったとする報告が多いが、帝王切開
出生児で感染頻度が低かったとする報告もある。今回の研究で各分担研究者の症例では、一施設(鳥取大学)を除き分娩様式による母子感染の頻度に有意差が認められず、全ての症例を合計しても有意差は見られなかった。今回の各施設での分析では、帝王切開症例の多くが緊急帝王切開であった。そのため経腟分娩の場合と母子移行血液量には差がなく(Kaneda et al. J.Pediatr.130:730,1997)、したがって感染率にも差が見られなかったものと考えられる。鳥取大学症例で高ウイルス量妊婦で検討すると経腟分娩児の感染率が有意に高いという結果になったのは、帝王切開の多くが予定帝切であったためではないかと推測され、今後更に検討が必要である。母乳哺育と母子感染率の間にはどの施設でも全く関係が見られず、全症例を集計しても有意差は認められなかった。母乳哺育期間との関係で見てもヒト成人T細胞性白血病ウイルスの母子感染で見られるような有意な差は認められなかった。これは前述の如く、感染の時期が出産時と考えられることからも納得でき、HCVキャリアである母からその児への母乳哺育を禁ずる必要がないことが明らかとなったといえよう。HCV母子感染児の追跡調査で、生後6カ月以上持続感染となった児でも生後3、4歳までに血中からHCV RNAが検出されなくなる症例が、全施設を通じて約30%存在したことは予想外であった。成人ではHCVに感染すると高率に持続感染となり、自然にウイルスが消失することはほとんどないとされることに比べ、大きな違いである。その原因をウイルスの変異との関連で引き続き検索中であり、また持続感染が続く症例とそれから脱する症例との違いを更に追跡調査する予定である。小児の慢性C型肝炎に対するinterferonの効果は成人と同程度ないしそれ以上であり、短期的副作用も重篤でないことは我々の先行研究で明らかになっているが、今回、それらの症例の長期予後を調査したところ、長期的な成長にも悪影響がないことが明らかとなった(Shiraki et al. Eur J Ped, 161:629, 2002)。前述の如く、HCV母子感染例にはウイルス自然消退例があることが明らかになったことより、何歳の時期に、どの様な症例に対して積極的治療を開始するかを決定するため、母子感染例の自然歴がさらに明らかにされる必要がある。HCVキャリア妊婦に対する指導においても、母子感染の要因のみならず、出生児が感染した場合の予後を明確にすることにより、的確な情報を与えて不安を軽減させる効果が期待できる。
結論
1)わが国におけるHCV RNA陽性妊婦からのHCV母子感染率は施設により差が大きく7.3%-12%であり、平均9.4%であった。 2)母子感染の要因に関して各分担研究者でほぼ一致したのは妊婦の高ウイルス量のみであった。但し高ウイルス量であっても母子感染が起こらなかった症例も多く、他の要因の存在が示唆された。緊急帝切を含んだ帝切分娩と経腟分娩とでは児の感染率に差がなかったが、1施設では帝切児で感染が全く起こらず、経腟分娩児との差が有意であった。妊婦のウイルス量以外に分娩様式の差が感染に関与することが示唆された。母乳哺育の有無、HCV genotypeなどによる差は認められなかった。 3)HCV母子感染児のうち生後4年以内に感染状態を脱する症例が全施設平均して33%あることが明らかになった。その要因についてウイルス変異を含めて検索しているがまだ結論に達していない。 4)持続感染児の多くはtransaminaseの上昇を示し、肝生検でも慢性肝炎と診断された。interferon投与症例で、発育には長期的にも悪影響が認められなかった。

公開日・更新日

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