血液透析施設におけるC型肝炎感染事故(含:透析事故)防止体制の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200201383A
報告書区分
総括
研究課題名
血液透析施設におけるC型肝炎感染事故(含:透析事故)防止体制の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山﨑 親雄(社団法人日本透析医会)
研究分担者(所属機関)
  • 内藤秀宗(社団法人日本透析医学会)
  • 鈴木満(医療法人松圓会東葛クリニック病院)
  • 秋澤忠男(和歌山県立医科大学血液浄化センター)
  • 鈴木正司(社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院)
  • 吉田豊彦(医療法人社団誠仁会みはま病院)
  • 秋葉隆(東京女子医科大学腎臓病総合医療センター)
  • 渡邊有三(春日井市民病院)
  • 篠田俊雄(社会保険中央総合病院)
  • 中井滋(名古屋大学大幸医療センター)
  • 杉崎弘章(府中腎クリニック)
  • 宇田眞紀子(日本腎不全看護学会)
  • 川崎忠行(社団法人日本臨床工学技士会)
  • 大平整爾(医療法人社団札幌北クリニック)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 肝炎等克服緊急対策研究(肝炎分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主任研究者らは、厚生科学特別事業の成果として、「透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」と「透析医療事故防止のための標準的透析操作マニュアル」を提示した。しかしながら、ウィルス性肝炎の院内感染はなお存在し、透析医療事故についても、経験的には減少しているとは思えない。
そこで今回の研究は、従来のマニュアル提示を中心とする防止対策とはまったく視点の異なる防止システムの構築を目的として研究を開始した。
研究は、1.C型肝炎院内感染の実態調査と防止策の提示、2.透析医療事故の実態調査と防止策の提示、3.安全(感染防止と事故対策)を考えた透析システムの提示とし、3.については、1)安全を考えた施設基準の提示、2)安全を考えた適正スタッフ数の提示、3)限られた地域での感染・事故モニター制度の確立により、透析施設におけるC型肝炎院内感染および事故防止を目的とした。
研究方法
研究方法と結果=1.C型肝炎院内感染実態調査
①愛知県下8施設の透析患者について、凍結保存血清を用いた5年間にわたる追跡調査を実施し、新規HCV抗体陽転率および感染率を調査した。
<結果> 新規抗体陽転率は、2,892人・年の追跡で5人(0.173%人・年)であり、追跡開始時のHCV-RNAが陽性であった1人を除き、新規感染率は、0.131%人・年であった。この新規感染例のうち3例は、比較的短期間にHCV-RNAが陰性化した。
②日本透析医学会統計調査を用い、患者年齢別・透析歴別・地域別・患者数別・施設設立立母体別などとHCV抗体陽転率の関係を明らかにする研究を実施した。
<結果> 60,234人について2001-2002年の1年間追跡調査で2.1%にC型肝炎新規感染が見られた。施設特性などとの相関は、今後の検討である。
2.透析医療事故の実態調査
①重篤な事故についての全国アンケート調査を実施し、平成12年度調結果との比較検討を行った。
<結果> 重篤な事故は553件/年が報告され、これは40.4件/100万透析にあたる。最も頻度の高い事故は、自己抜針も含め穿刺針抜針事故で、166件であった。また、透析との関連が不明なものも含め、18例の死亡事故が報告された。
②各施設でさまざまである事故の分類と、報告制度について調査した。
<結果> 各施設で事故取り扱いについては、同じ例でも、施設によってはインシデントとしたりアクシデントとしたり、あるいは事故として報告しないなど、事故の
扱いは様々であった。しかし、多くの医療機関では、患者に害を与え、何らかの処置が必要であったとするレベル3以上をアクシデントとしていた。
③事故対策マニュアルの遵守についての調査を実施した。
<結果> マニュアルで強調された事故防止策のうち、空気返血を実施する施設は24%から7.7%に減少し、ルアロックの使用施設は40%から95%へ増加していた。
3.安全を考えた透析医療システムの策定
1)施設基準に関する研究
①透析施設の自己医療機能評価票を作成し、全国アンケート調査を実施した。
<結果> この調査のうち、安全に関する項目についての分析結果は、感染防止対策・事故対策ともに、「普通」または「よくできている」とする回答が80%以上を占めたが、特に診療所より病院、透析ベッド数が多いほど、透析患者が多いほど、「よくできている」の比率は高くなっていた。
2)スタッフの適正配置に関する研究
①透析看護度調査票を開発し、7透析施設の透析看護度調査を実施した。
<結果> 独自に開発した調査票を用いたパイロット調査の結果は、施設によって様々であった。
3)地域における感染・事故モニター制度の確立
①愛知県内で、地域を限定した市民病院を中心とする7透析施設で、ウィルス性肝炎感染新規発生届出と、スタッフの研修を目的としたシステムを立ち上げた。また、
愛知県透析医会研修委員会により、事故届出と定期研修会を準備中である。
結果と考察
考察=1.透析室におけるC型肝炎院内感染実態調査
1)愛知県におけるHCV抗体陽転率が比較的低値であったことと、日本透析医学会集計に基づく全国的な集計ではなお高値であることを考え合わせると、限られた施設で陽転率が高い可能性が推測される。
2)愛知県の調査では、C型肝炎新規発生例のキャリアー化は1/4例であり、従来の報告に比し低値であった。これは感染に際して体内に入ったウィルス量による差とも考
えられ、感染経路の解明とあわせた今後の検討が必要である。
2.透析医療事故の実態調査
1)平成12年の調査に比較して重篤な事故は減らないばかりか、増加する傾向にあることは、患者の高齢化や長期化、合併症による重症化などが原因とも考えられる。ま
た前回にはなかった新しい事故が見られ、新規技術の導入が事故報告を増やす一因となったかもしれない。また、施設での登録制度などが充実したことや、事故分類が変
更されたために、報告が増加した可能性もある。今後の詳細な分析が必要である。
2)事故を生じた施設の解析からは、忙しくて、受け持ち透析回数の多い施設でむしろ事故頻度は少ないという結果で、前回の調査でも指摘されている。経験した事故例が集積され、防止策が適切であるとも考えられる。反対に、多くの透析を経験する機会の少ない小規模施設にこそ、重点的な事故情報および対策を提示する必要があると考えられる。
3)ルアロック普及率の上昇は、多くはメーカーが対応した回路とダイアライザ接合部分についてかもしれない。回路と穿刺針が外れる事故は、減少しているもののかなり
の頻度を占める。この部分のルアロック使用は穿刺針の変更を伴うことがあり、施設によってはこれに抵抗があるかもしれない。
4)なお透析終了時に空気返血を用いる施設があるが、死亡事故でもこれが原因となった例が過去にも報道されており、早急の対応を強く勧告する。
3.安全を考えた透析医療システムの策定
1) 施設自己医療機能評価調査の結果より、感染防止や事故防止策が不十分と考えられる施設は、小規模施設に多い傾向がある。情報やマンパワーの不足によると推測されるため、より多くの事故や感染に関する情報の提供、マニュアルのより具体的な実施方法の提示、院内マニュアルの見本の提示などが必要と考えられ、後述する地域内での情報交換会などへの参加が望まれる。
2)安全を考えたスタッフの適正配置に関する研究と地域における感染・事故モニター制度の確立は研究が緒に就いたばかりで、今後の研究の発展を検討したい。
結論
1.透析室におけるC型肝炎院内感染については、今回の研究では、透析医療機関のHCV抗体陽転率は低値であったが、献血リピータに比べればはるかに高率である。より適切な防止対策の提示が必要である。
2.透析医療事故は、報告された重篤な事故件数が増加したことから、その背景について詳細な分析が必要なことと、より適切な対策が必要となっている。
3.安全を考えた透析医療システムについては、安全を考えた施設基準やスタッフの適正配置を、職能集団自らが提示することは意義深いし、患者に対する責任でもある。今後一層の研究の発展が必要である。また、限られた地域における感染・事故データの収集と具体的な検討や、スタッフを含めた研修は感染防止や事故防止の限界をブレークスルーするかもしれない。特に患者を通じた透析施設間の連携は、他の医療では見られない濃厚なものである特徴からも期待される。

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