文献情報
文献番号
200201374A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルス等の標準的治療困難例に対する治療法の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
八橋 弘(国立病院長崎医療センター)
研究分担者(所属機関)
- 石橋大海(国立病院長崎医療センター)
- 古賀満明(国立病院長崎医療センター)
- 袖山健(国立療養所中信松本病院)
- 林茂樹(国立病院東京災害医療センター)
- 酒井浩徳(国立病院九州医療センター)
- 加藤道夫(国立大阪病院)
- 原田英治(国立療養所東京病院)
- 竹崎英一(国立病院呉医療センター)
- 肱岡泰三(国立大阪南病院)
- 室豊吉(国立大分病院)
- 渡部幸夫(国立相模原病院)
- 小松達司(国立横浜病院)
- 正木尚彦(国立国際医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 肝炎等克服緊急対策研究(肝炎分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
47,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班では、C型慢性肝炎、B型慢性肝炎に対する各種治療法の実態、問題点を明らかにした上で、標準的治療困難例を明確に定義し、難治例、治療困難例に対する新たな治療法を開発することを目指す。3年間の研究期間内にEvidence-based Medicine(EBM)に基づいて、ウイルス肝炎の治療法を確立させ体系化することを目標とする。
また2002年には、E型肝炎ウイルス(HEV)の国内感染例、重症化例の発生が報道され社会問題化した。従来から、本研究班の構成施設である国立病院・療養所肝疾患ネットワーク参加施設では、過去23年間以上にわたって本邦の急性肝炎の発生状況、疫学調査を継続しておこなってきた。本年度は、最近13年間の国内でのE型急性肝炎の発生頻度、発生状況を明らかにする為に、本研究班でも検討をおこなった。
また2002年には、E型肝炎ウイルス(HEV)の国内感染例、重症化例の発生が報道され社会問題化した。従来から、本研究班の構成施設である国立病院・療養所肝疾患ネットワーク参加施設では、過去23年間以上にわたって本邦の急性肝炎の発生状況、疫学調査を継続しておこなってきた。本年度は、最近13年間の国内でのE型急性肝炎の発生頻度、発生状況を明らかにする為に、本研究班でも検討をおこなった。
研究方法
C型慢性肝炎IFN治療とB型慢性肝炎ラミブジン治療がおこなわれた患者の症例登録をおこない、治療効果、副作用、治療の問題点を明らかにする(症例登録)。短期間に症例の解析をおこなう必要があることから、政策医療として既に組織が編成され活動をおこなっている全国22施設からなる国立病院・療養所肝疾患ネットワーク参加施設をフィールドとして多施設共同研究をおこなう(多施設共同研究)。情報の集積、解析方法としては、インフォームド・コンセント取得済み登録患者の診療情報自動集積システムを利用した肝疾患ネットワーク(L-net)を用いて患者情報の集積をおこなう。得られた情報は、データ収集型、仮設検証型に加えて知識生成型解析システム:データマイニングを駆使して統計解析をおこなう(IT化と新たな情報処理システム)。また、国立病院・療養所内でネットワーク研究システムを構築するために、肝疾患死亡調査および自己免疫性肝炎、急性肝炎に関する調査も平行して行う。
倫理面に関する配慮では、本研究は、主に日常診療で得られた患者情報をもとにデータの収集解析をおこなうが、個人情報の扱いに関しては、患者のプライバシーを厳守し、患者に不利益が生じないように細心の注意をはらう。また診療情報自動集積システムを利用した肝疾患ネットワーク(L-net)を用いての情報の集積、解析では、個々の患者に説明をおこない、書面でインフォームドコンセントを取得した上でおこなう。また、C型慢性肝炎IFN治療、B型慢性肝炎ラミブジン治療、急性肝炎疫学調査に関する臨床研究は、診療情報をもとに分析をおこなうが、この3研究課題に関しては、倫理委員会での審査承認後に解析を開始した。臨床試験、治験に関する部分は、随時、各所属施設の倫理委員会、治験審査委員会の承諾を得ておこなう。
倫理面に関する配慮では、本研究は、主に日常診療で得られた患者情報をもとにデータの収集解析をおこなうが、個人情報の扱いに関しては、患者のプライバシーを厳守し、患者に不利益が生じないように細心の注意をはらう。また診療情報自動集積システムを利用した肝疾患ネットワーク(L-net)を用いての情報の集積、解析では、個々の患者に説明をおこない、書面でインフォームドコンセントを取得した上でおこなう。また、C型慢性肝炎IFN治療、B型慢性肝炎ラミブジン治療、急性肝炎疫学調査に関する臨床研究は、診療情報をもとに分析をおこなうが、この3研究課題に関しては、倫理委員会での審査承認後に解析を開始した。臨床試験、治験に関する部分は、随時、各所属施設の倫理委員会、治験審査委員会の承諾を得ておこなう。
結果と考察
(1)C型慢性肝炎のIFN治療成績
2000年1月1日から2002年12月31日までの3年間の期間に22の施設において、1182例のC型慢性肝炎症例にIFN治療が導入された。治療効果は、治療終了後6カ月目の時点でアンプコアHCV-RNA定性検査でHCV-RNA陰性をSVR:Sustained Viral Response(ウイルス学的著効)と判定した。2002年12月31日の時点では、登録症例1182例中492例(42%)に効果判定が可能で、その内201例41%がSVRであった。IFN単独治療法の治療成績を明らかにする目的で、2000年1月1日から2001年12月31日までの期間に治療がおこなわれたIFN単独治療(コンセンサスIFNを除く)症例中、治療前HCV-RNA量、HCV genotypeともに判明している428例(効果判定不能、drop out37例を含む)においてSVR率を算出した。治療前HCV-RNA量は、アンプリコア法で100KIU/ml、分岐DNAプローブ法で1Meq/mlを境界として、低ウイルス群と高ウイルス群に区分した。またHCV genotypeは、日本に多いとされる1b群とそれ以外のnon-1bの2群に区分した。この2因子をそれぞれ組み合わせて4群に層別して、各々のSVRを算出したところ、初回治療例、再治療例ともHCV genotype 1b高ウイルス群では9%と4%と低いSVRであり、本対象群は標準的治療法では治癒させることが困難な難治例と考えられた。一方、初回治療例においてはHCV genotype 1b高ウイルス群以外の群では46-70%の確率で著効が期待されることから、HCV genotype 1b高ウイルス群以外の群ではIFN単独治療を一度は試みてよい。HCV-RNA量、HCV genotypeにより治療効果が異なること、また治療前に、これらの因子を測定することでC型慢性肝炎のIFN治療効果予測が可能な点は、肝臓専門家以外の一般医家および多くのHCV感染者にも広く認識してもらうべき事柄と思われる。
一方、今までの疫学調査、臨床研究報告では、わが国のHCV感染者の50%以上は60歳以上の高齢者に分布し、またC型肝炎からの肝癌合併も60歳以上の高齢者に多いことが明らかとなっている。本研究班登録症例でのIFN治療導入症例の年齢分布を調べたところ、1182例中50歳以上は840人(71%)で、実際60歳代を中心とする高齢者に多く治療がおこなわれていた。また、従来のIFN単独治療法に比較して、より抗ウイルス効果が強いと言われているIFNとリバビリンとの併用療法は、いわゆる難治例や再治療症例に対する治療法として期待されているが、本研究班登録症例中、治療開始6カ月以上経過したIFNとリバビリンとの併用療法319症例の解析では、60歳以上の症例では高度の貧血の為に過半数(60歳代52%、70歳代73%)の症例でリバビリン減量ないし中断が必要であった。高齢者に対するリバビリン併用療法は、その適応、投与量に関して今後、別途検討すべきと思われた。
(2)B型慢性肝炎ラミブジン治療成績
2000年1月1日から2002年12月31日までの3年間の期間、20施設において310例のB型慢性肝炎に対してラミブジン治療が導入された。1年以上投与した症例の治療成績は、治療前HBe抗原陽性の対象例では、HBe抗原の陰性化29%、HBV-DNAの陰性化(400copies/ml以下)42%、YMDD変異出現率31%であった。治療前HBe抗原陰性の対象例では、HBV-DNAの陰性化(400copies/ml以下)67%、YMDD変異出現率24%であった。HBe抗原陽性ではALT値が高いほど治療効果が高いも、HBe抗原陰性では、むしろ逆であった。HBe抗原陽性ALT高値例でのHBe抗原の陰性化率は台湾では80%と報告されているのに対し本研究班解析症例では28%と低く、登録対象例の94.5%が治療抵抗性を示すと言われるHBV genotype Cであったことが、その原因のひとつと考えられた。
(3)E型肝炎の発生頻度と感染状況
1980年から2002年までの期間の散発性急性肝炎3643例中、いわゆる原因不明と分類されるnonABC型の発生頻度は、911例 25.0%であった。1990年から2002年の期間に発生した311例のnonABC型急性肝炎患者中のE型急性肝炎例は9例(2.9%)であった。この9例中5例には海外渡航歴がなく国内での感染が考えられた。E型急性肝炎の発生年と発生頻度に注目すると、1990年から1999年の期間には242例中4例(1.7%)であったが、2000年から2002年の期間には69例中5例(7.2%)と増加しており(P<0.05)、最近2-3年の間に、E型肝炎感染が流行しはじめている可能性は否定できない。また、既往の感染と考えられる対象者が15%前後存在することから、E型肝炎は、かつてわが国にも常在し流行していた可能性も考えられる。わが国のE型肝炎感染状況に関しては、今後さらなる調査と研究をおこなう必要がある。
2000年1月1日から2002年12月31日までの3年間の期間に22の施設において、1182例のC型慢性肝炎症例にIFN治療が導入された。治療効果は、治療終了後6カ月目の時点でアンプコアHCV-RNA定性検査でHCV-RNA陰性をSVR:Sustained Viral Response(ウイルス学的著効)と判定した。2002年12月31日の時点では、登録症例1182例中492例(42%)に効果判定が可能で、その内201例41%がSVRであった。IFN単独治療法の治療成績を明らかにする目的で、2000年1月1日から2001年12月31日までの期間に治療がおこなわれたIFN単独治療(コンセンサスIFNを除く)症例中、治療前HCV-RNA量、HCV genotypeともに判明している428例(効果判定不能、drop out37例を含む)においてSVR率を算出した。治療前HCV-RNA量は、アンプリコア法で100KIU/ml、分岐DNAプローブ法で1Meq/mlを境界として、低ウイルス群と高ウイルス群に区分した。またHCV genotypeは、日本に多いとされる1b群とそれ以外のnon-1bの2群に区分した。この2因子をそれぞれ組み合わせて4群に層別して、各々のSVRを算出したところ、初回治療例、再治療例ともHCV genotype 1b高ウイルス群では9%と4%と低いSVRであり、本対象群は標準的治療法では治癒させることが困難な難治例と考えられた。一方、初回治療例においてはHCV genotype 1b高ウイルス群以外の群では46-70%の確率で著効が期待されることから、HCV genotype 1b高ウイルス群以外の群ではIFN単独治療を一度は試みてよい。HCV-RNA量、HCV genotypeにより治療効果が異なること、また治療前に、これらの因子を測定することでC型慢性肝炎のIFN治療効果予測が可能な点は、肝臓専門家以外の一般医家および多くのHCV感染者にも広く認識してもらうべき事柄と思われる。
一方、今までの疫学調査、臨床研究報告では、わが国のHCV感染者の50%以上は60歳以上の高齢者に分布し、またC型肝炎からの肝癌合併も60歳以上の高齢者に多いことが明らかとなっている。本研究班登録症例でのIFN治療導入症例の年齢分布を調べたところ、1182例中50歳以上は840人(71%)で、実際60歳代を中心とする高齢者に多く治療がおこなわれていた。また、従来のIFN単独治療法に比較して、より抗ウイルス効果が強いと言われているIFNとリバビリンとの併用療法は、いわゆる難治例や再治療症例に対する治療法として期待されているが、本研究班登録症例中、治療開始6カ月以上経過したIFNとリバビリンとの併用療法319症例の解析では、60歳以上の症例では高度の貧血の為に過半数(60歳代52%、70歳代73%)の症例でリバビリン減量ないし中断が必要であった。高齢者に対するリバビリン併用療法は、その適応、投与量に関して今後、別途検討すべきと思われた。
(2)B型慢性肝炎ラミブジン治療成績
2000年1月1日から2002年12月31日までの3年間の期間、20施設において310例のB型慢性肝炎に対してラミブジン治療が導入された。1年以上投与した症例の治療成績は、治療前HBe抗原陽性の対象例では、HBe抗原の陰性化29%、HBV-DNAの陰性化(400copies/ml以下)42%、YMDD変異出現率31%であった。治療前HBe抗原陰性の対象例では、HBV-DNAの陰性化(400copies/ml以下)67%、YMDD変異出現率24%であった。HBe抗原陽性ではALT値が高いほど治療効果が高いも、HBe抗原陰性では、むしろ逆であった。HBe抗原陽性ALT高値例でのHBe抗原の陰性化率は台湾では80%と報告されているのに対し本研究班解析症例では28%と低く、登録対象例の94.5%が治療抵抗性を示すと言われるHBV genotype Cであったことが、その原因のひとつと考えられた。
(3)E型肝炎の発生頻度と感染状況
1980年から2002年までの期間の散発性急性肝炎3643例中、いわゆる原因不明と分類されるnonABC型の発生頻度は、911例 25.0%であった。1990年から2002年の期間に発生した311例のnonABC型急性肝炎患者中のE型急性肝炎例は9例(2.9%)であった。この9例中5例には海外渡航歴がなく国内での感染が考えられた。E型急性肝炎の発生年と発生頻度に注目すると、1990年から1999年の期間には242例中4例(1.7%)であったが、2000年から2002年の期間には69例中5例(7.2%)と増加しており(P<0.05)、最近2-3年の間に、E型肝炎感染が流行しはじめている可能性は否定できない。また、既往の感染と考えられる対象者が15%前後存在することから、E型肝炎は、かつてわが国にも常在し流行していた可能性も考えられる。わが国のE型肝炎感染状況に関しては、今後さらなる調査と研究をおこなう必要がある。
結論
C型慢性肝炎に対するIFN治療では、HCV genotype 1b高ウイルス群は標準的治療法では治癒させることが困難な難治例である。高齢者に対するIFNとリバビリン併用療法は、その適応、リバビリンの投与量に関して別途検討すべきである。
本邦のB型慢性肝炎に対するラミブジン治療では、諸外国と比較して全般的に難治である。
E型急性肝炎の発生頻度はnonABC型急性肝炎の2.9%と低いものの、最近2-3年の間に増加している可能性は否定できない。
本邦のB型慢性肝炎に対するラミブジン治療では、諸外国と比較して全般的に難治である。
E型急性肝炎の発生頻度はnonABC型急性肝炎の2.9%と低いものの、最近2-3年の間に増加している可能性は否定できない。
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