看護ケアの質評価・改善の管理体制づくりに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201372A
報告書区分
総括
研究課題名
看護ケアの質評価・改善の管理体制づくりに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
上泉 和子(青森県立保健大学)
研究分担者(所属機関)
  • 粟屋典子(大分看護科学大学)
  • 内布敦子(兵庫県立看護大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成14年度の本研究の目的は、①看護ケアの質評価・改善の管理体制モデルとして、第三者評価者、内部エージェント(リンクナース)、外部エージェントの3者の働きによって、効果を生む方式の有効性について実験的に検証すること、②自己評価表の妥当性を洗練し、管理体制モデルへの導入を検討することである。
研究方法
研究協力への承諾を得た特定の病棟(1病棟)を用いて、前年度までに提案された看護ケアの質改善のための管理体制モデルを適用し、その効果を測定する。効果の測定は、これまで本研究班が開発洗練してきた、看護ケアの質第三者評価(看護QIプログラム)を用いた。質改善のための管理体制モデル導入にさきがけ事前に看護ケアの質評価を実施しリコメンデーションを当該施設に送付した。その結果を用いて看護ケアの改善すべき点を、当該病棟の管理者、内部エージェント=リンクナース(修士号を持つ看護師)、外部エージェントとしての研究者によって検討し、改善プログラムを計画し実施した。外部エージェントしての研究班メンバーは、内部エージェントと連絡をとりながら改善プログラム実施を支援した。また、リンクナースの主たる活動は、改善プログラム作成への参画、事例検討会の開催と推進(ファシリテーターとしての役割)、看護ケア実践の場での実践的コンサルテーション、医師や他の職種との連携や調整の支援、看護スタッフへのエンパワーメント、ケア改善の推進などであった。
結果と考察
質評価・改善モデル導入の対象となった施設は企業立の一般病院で病床数は230床、当該病棟は内科の37床、病床稼働率は86%であった。平均在院日数は28.85日で、看護師数は19名であった。対象の選定は、看護ケアの質サーベイを希望している病院に対して研究の依頼を行い、承諾の得られた施設を対象とした。管理体制モデルの適応過程としては、まず事前に評価の枠組みや考え方、ならびに評価の方法・評価の項目について病院看護管理部と当該病棟の師長、主任、内部エージェント(Master Prepared )に対して説明をおこなった。さらに、第三者評価のあと、改善プログラムを実行する段階では、研究班を外部エージェントとして、内部エージェントと連絡をとりながら、実施することについて了解を得た。次に第三者評価ツール(看護QIプログラム)を用いて事前評価を実施した。その結果は、過程、構造評価については、「患者への接近」領域で充実しており患者の状態をよく把握できている状態であったが、「内なる力を強める」領域の評価が低く、患者情報を持っていても説明などに十分活用できていない状況が伺われた。総合的に看護介入に意図性が見られない結果であった。これらのリコメンデーションの内容については、施設側は納得のいく内容であったと述べている。アウトカム評価の結果は患者・家族満足度は、全国平均を下回っていたが、大きな差は出ていなかった。転倒の発生率が全国平均よりも高率に発生していた。これらの評価結果をふまえて、病院の看護管理者、病棟師長、内部エージェントと研究班との合同会議によるディスカッションの結果、「内なる力を強める」と「インシデントを防ぐ」に絞り、事例検討会やリンクナースの介入を実施することとした。リンクナースは病棟を訪問し患者について担当ナースに状況を尋ねながら示唆を与えかつ医師とのコミュニケーションをとることをエンパワーするように働きかけた。第三者評価ツール(看護QIプログラム)による事後評価の結果では、「内なる力を強める」領域では構造面で改善が見ら、過程面では患者のおかれている状態や状況を看護の視点で説明するという改善が
見られていた。また家族に対して意図性をもた看護ケアにおいて改善が見られていた。「直接ケア」領域では構造評価で改善されていた反面、過程面は看護ケアの個別性や、ケアの妥当性についての分析判断が難しい状況であり、事前調査時よりも低い評点となった。アウトカム評価の結果では、患者家族満足度は、比較的高く維持されていたが、インシデントは、介入期間は、減少していたが、調査期間になり、転倒が多発し、事前調査よりは、転倒発生件数が減少しているが、全国平均を大きく上回る結果となった。以上の結果から、患者家族満足度が高く維持されており、全体的に、改善がみとめられていたことより、看護ケアの結果は良いが、ケアをする根拠や、事実に基づく判断という点と、現在変革の過渡期にあることがインシデント結果に結びついていると考えられた。リスクの見極める看護師の能力が向上したことは、病棟看護師が実感しており、質改善活動は、一定の効果を上げたことが認められた。転倒の件数に改善が見られなかったのは、病棟の構造的要因(重症患者が増えたこと、看護師の欠員が生じたこと)が大きく関与しており、質が低下したとは判定しにくい旨、フィードバックを行った。さらに、病棟看護師が質改善に積極的に取り組み、努力を惜しまなかったことについては、高く評価した。看護師に対する信頼が高まり、重症患者が増えたり、業務基準の見直しやパンフレットの作成など付加的な仕事が急増したことは、「変革に伴う、インシデントの急増」と解釈できるのではないかと伝えた。病院看護部は、管理の側面から、サポートする方略を模索していたが、研究班も適切なリコメンデーションを提示することができず、管理的サポートについては、今後改善の余地があるものと思われる。看護ケアの質評価自己評価表については、看護ケアの質評価を普及することを目的に、看護ケアの質第三者評価表(看護QIプログラム)を自己評価型に修正し洗練した。最終的に、質改善モデルの中にどのように導入するかを検討した。自己評価表において改善の課題となっていたのは、①自己評価表の使用方法を特定すること、②評価項目数が指標によって差があることによって指標の点数の重みが異なること、③評価得点が質問によって異なること、④自己評価表記載後の点数化とリコメンデーション作成に時間がかかること、⑤リコメンデーションのボリュームの多さ、⑥リコメンデーションフォームの改善、などであった。自己評価ツールの精錬については、質評価の専門家と研究者によるグループディスカッションによって、その妥当性、利便性など検討した。これらの課題を検討した結果、自己評価表、評価尺度の改訂、評価結果の得点票、リコメンデーションフォーム等を改訂し、これらを用いて質評価するための自己評価マニュアルを作成した。看護ケアの質自己評価の手順としては、まず病院内の質評価班(委員会等)が自己評価を企画し、構造、過程の各評価を看護職に依頼する。依頼された看護職は構造、過程評価を自己チェックチェックし質評価班に送付する。アウトカム評価は患者家族への満足度調査であるため、質評価班が企画し、必要応じて評価対象病棟の依頼して調査を行う。質評価班のメンバーは、評価が済んで評価表が提出されたならば、評価結果の集計、点数化、リコメンデーションの作成を行う。
質評価班はさらにケアの改善をめざし、質改善プログラムを実施する。リコメンデーションに従って質改善のプロジェクトを病棟単位で組織し、必要に応じてリンクナースを中心にしながら看護ケア改善への取り組みを支援する。
結論
看護ケアの質自己評価表を用いた評価と改善モデルの導入について述べてきた。リンクナースを仲介にしたモデルは実践的レベルのケア改善に有用であることがわかった。このような評価・改善の一体型システムを導入するためには、評価担当者組織化とともに、評価担当者の訓練プログラムが必須となる。また、アウトカム評価の集計やリコメンデーションの作成には、蓄積されたデータが必要であり、質評価を担当する組織が必要と考える。

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