病院前救護体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
200201366A
報告書区分
総括
研究課題名
病院前救護体制の構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山村 秀夫((財)日本救急医療財団)
研究分担者(所属機関)
  • 小濱啓次(川崎医科大学)
  • 山中郁男(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)
  • 杉山貢(横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター)
  • 丸川征四郎(兵庫医科大学)
  • 美濃部嶢((財)日本救急医療財団)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病院前救護体制を有効に構築するため、各分担研究課題の目的を以下の通りとした。1)救急活動の指示、指導・助言を行う救急専従医や事後検証等を担う救急専従医の存在は不可欠である。これらのMedical Control(以下MC)に係わる救急専従医の役割を明確にし、あり方について検討した。2)MC体制構築は急務であり、救急救命士の業務のあり方等に関する検討会の中間報告においてMC体制の確立が救急救命士の業務拡大を行っていく上での前提であり、そのためには、医療行政と消防行政の緊密な連携によって必要な体制整備を図って行くことが必要で、各地域の特性を考慮して救急現場により即した現実的・機能的なMC体制を全国各地で構築することを目的とした。3)我々は前年度まで指令センターにおいて当センター診療圏で発生した胸背部痛ないし意識障害傷病者について緊急通報トリア-ジを行い、これによりピックアップされた事例に対して現場へドクターカーを派遣し、早期診断・治療、重症度による搬送先医療機関の選定を実施して医師の現場および指令センターへの参画が病院前救護体制の質の向上へ寄与する可能性を報告した。今回は特に後者に力点をおき、対象症候を広げ、期間を長くして同様に医師を救急現場参画させ、病院前救護体制の質の向上を目指した。4)年々増加する救急要請に対する医療資源の有効利用を可能とするMedical RegulationとTelemedicineを構築することを最終目標とし、現在、市販されている画像情報通信システムのうち救急隊員が現場活動で利用可能な機種を試験的に使用して検討を行った。5)AHAのCPR等へのガイドライン2000への普及・発展のために開発した教材の中から救命士の教材としてBLS for Healthcare Providerの日本語版の開発とその為の教材としてのvideoの開発を行った。
研究方法
1)救急医療・医学に係わる学会などでMCに係わる臨床研究を行っている有識者を集め、MCに係わる救急専従医の役割とあり方について検討し、MC体制に係わる救急専従医と各科医師の確保及び労働時間、MC体制と卒前救急医学教育、MC体制と卒後研修医教育、MC体制とACLS教育、外傷初療教育、MC体制とドクターカーの運用とドクターヘリの運用、MC体制と消防機関との連携、MC体制と医師の関与などについて検討した。2)救急救命士の業務拡大を行っていく上でMC体制の確立が前提となっている。「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」の中間報告において業務拡大の対象とされている除細動の包括的指示による実施、気管挿管、薬剤投与などについて、MCの観点から必要となる法的条件整備等について検討した。3)これまで同様、救急現場および指令センターに医師を派遣し、医師現場派遣を実施して質の高い病院前救護体制の構築を目指した。その結果、急性心筋梗塞2例、骨盤骨折1例の重症例を含む、44例にドクターカーを派遣して救急隊とランデブーし、現場での早期診断・治療、搬送先医療機関選定の助言などを行った。4)現在市販されている各種の画像情報通信システムのうち救急隊員が現場で救急活動をしながら手軽に利用できる機種として、画像情報通信が可能な携帯電話を選んだ。静止画像、動画画像ならびに音声情報を送信し、画像の評価と送信システムの問題点について分析した。5)心肺蘇生法の国際的窓口である日本蘇生法協議会(JRC)を通じて、AHAのBLS for Healthcare Provider及びその教材用のビデオの日本語版開発の交渉をAHAとの間でほぼ承認を得た。この内容を検討し、それぞれの項目を研究協力
者の専門分野に振り分けて日本語版の概要を作成した。
結果と考察
1)種々の観点からMC体制における救急専従医の役割とあり方について検討し、救急専従医の位置づけの重要性とMC体制との係わりについて提言した。救急医療体制に必要な要素、人的、物的な資源、救急医療をシステム化する機能(ソフト面)などについて。すでに都道府県単位あるいは各2次医療圏単位のMC協議会が立ち上げられているが、プロトコール検証作業の作成、研修会の実施、ドクターカー・ドクターヘリ事業の展開、病院実習の充実などMC体制を軌道して乗せるためには予算の裏付けが必要である。 2)業務拡大に伴う法制上の問題点として、消防法、消防組織法などの改正・解釈変更、認証制度の確立などが必要となる。MC体制の組織を検討、指示・指導助言及び教育・研修の検討、病院実習における法的問題点、インフォードコンセントについて 事後検証体制について点検・検証・評価に区別して実施する必要がある。医学的な観点からMCについても詳細な検討がなされているが、法的な観点から検討した本研究班の結論と見解を異にする点が看取される。3)指令センターに医師を参画させ、緊急通報トリア-ジにしたがって当センター診療圏で発生した胸痛・頭痛・意識障害・交通外傷・墜落症例をピックアップし、ドクターカー(医師3名、看護師1名)を現場派遣して救急隊とランデブーし、初期治療、重症度による搬送先医療機関の選定を行った。派遣総数は45回でその通報表現の内訳は、胸痛7例、頭痛1例、意識障害14例、外傷18例、その他5例であった。胸痛7例の中には急性心筋梗塞が1例あった。頭痛・意識障害例に急性心筋梗塞が1例含まれていた。外傷例には骨盤骨折、大腿骨骨折が1例ずつ存在した。当センターへの搬送は27例(60%)で、そのうち入院は13例(29%)、集中治療室入院は3例(7%)だった。15例(33%)が他院搬送例で、3例(7%)が非搬送例であった。専属の調整医と訓練された指令管制員という組み合わせによりさらに高度な指令体制を作って精度の高いテレメディスンを構築し、市民により質の高い救急医療を供給すると同時に財政負担を軽減する必要であると考える。4)指導医師が通常の臨床診療で行うと同じレベルで医学的判断を得ることを目的に、送信された画像を評価し問題点を受診した静止画像、動画画像およびシステムの操作性に付いて分析した。静止画像;事故現場の概略は把握できるが、現場の全体像が現場状況の詳細な観察は困難である。クローズアップ機能が不足、色調がいま一つ 動画画像はコマ送りで送信されるため、自発呼吸運動も把握が困難である。臨床的に重要な身体の動きを把握することは不可能であった。画像情報通信システムを中核としたTelemedicineに基づくMedical Regulationが医療資源の有効利用に貢献すると考えられた。日々進歩する情報通信技術を取り込み、改良を継続する必要があり、医療器械メーカーが医療界だけを対象にしたのでは十分な開発は困難であると考える。民間資金と公的な支援が不可欠である。5)AHAがCPRのガイドラインの教材としているものを検討し、BLS for Healthcare Providerの教材化を図り、同時にこれを普及させるためのvideo教材の日本語版の作成を検討した。我が国にはHealthcare Providerとなる職種はないが、救急隊員の現場到着が平均6分間であることはやはり現場対応として職場や公共の多数の人々が集まる施設などやスポーツ施設や特急列車などにおける緊急時の対応を図る必要があると考える。
結論
1)種々の観点からMC体制における救急専従医の役割とあり方について検討し、救急専従医の位置づけの重要性とMC体制との係わりについて提言した。2)救急救命士の業務拡大を行っていく上でMC体制の確立が前提となっている。「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」中間報告において、業務拡大の対象とされている除細動の包括的指示による実施、気管挿管、薬剤投与などについてMCの観点から必要となる法的条件整備等について検討した。3)質の高い病院前救護体制を構築するため、指令センターにおいて対象症候を心疾患・脳血管障害・意識障害・外傷に広げた
緊急通報トリアージを行い、急性心筋梗塞2例、骨盤骨折1例を含む44例にドクターカーを派遣して救急隊とランデブーし、現場での早期診断・治療、搬送先医療機関選定の助言などを行った。4)救急隊員と後方指導医師間の画像情報通信システムについて、市販の画像送受信が可能な携帯電話をもちいて、その問題点を明らかにし、理想的なシステムを提案した。画像情報通信システムを中核としたTelemedicineに基づくMedical Regulationが、医療資源の節約に貢献すると考えられた。この画像情報通信システムは、ライブ画像情報を扱うため救急現場だけではなく広く社会活動へ応用が見込まれる。5)救急救命士を含めたHealthcare Providerのための一次救命処置の日本語版とその教育用のビデオの日本語版の開発を行った。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)