緩和医療提供体制の拡充に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201364A
報告書区分
総括
研究課題名
緩和医療提供体制の拡充に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
志真 泰夫(国立がんセンター東病院 緩和ケア病棟)
研究分担者(所属機関)
  • 恒藤 暁(大阪大学大学院人間科学研究科)
  • 森田達也(聖隷三方原病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,950,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
終末期ケアにおけるアウトカムは機能、苦痛・安楽、および、満足が主な指標となる。また、緩和ケアにおけるケアの対象は患者のみに限らないため、患者、家族、そして、遺族のそれぞれについての評価が必要である。そこで本研究では、第1に「ホスピス・緩和ケア病棟のケアに対する評価尺度」を作成し、それが妥当性と信頼性を持ったもの、標準的な評価の道具として簡便に使用可能であるかどうかを検討することを目的とした。さらに、その尺度を使用し、ケアに対する遺族の評価に関連する遺族背景因子を同定することを第2に目的とした。第3に、遺族の報告に基づき、希死念慮の訴えと積極的安楽死の要求の背後にある「理由」を明らかにし、さらに、患者の全人的苦痛を軽減するため既存の緩和ケアプログラムをこの先どのように向上させるため知見を得ることを最終的な目的とした。
研究方法
2000年12月末日における緩和ケア病棟承認届出受理施設(協議会A会員、81施設)を対象とし、まず研究の趣旨説明書と同意書を送付した。次に、同意を得られた70施設に対し、基準に適合する対象者と除外理由の一覧を事務局へ送付するよう依頼した。施設から送付された一覧に基づき、3339名分の研究の趣旨説明書と同意書(調査依頼書一覧を参照)を各施設に送付し、遺族への転送を依頼した。調査対象は、郵送により同意書が返送された遺族1225名とし、後ろ向きに1回同定した。なお、本研究の倫理的・科学的妥当性は、各病院の審査委員会によって承認を受けた。
【遺族の選択基準】
本調査の対象者の適格基準と除外基準は以下の通りであった。 
適格基準
・ 調査日からさかのぼって4ヶ月前から10ヶ月前(6ヶ月間)に死亡した患者の遺族
・ 死亡退院患者のキーパーソン、または、身元引受人(1名)
・ 年齢20歳以上
除外基準
・ 精神的に著しく不安定なために研究の施行が望ましくない
・ 痴呆、精神障害、視覚障害などのために調査用紙に記入できない
結果と考察
1) ホスピス・緩和ケア病棟のケアに対する評価尺度
Development調査のデータについて、回答分布が歪んだ項目、非常に類似した項目を分析から取り除いた。その他、統計学的手続きにより合計24項目が削除され、56項目が分析対象になった。56項目を対象にSPSS10.0を用い探索的因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行った。探索的に因子数を設定し因子分析を行ったところ、最大限因子数で解釈可能な構造としては8因子で解釈することが妥当であると考えられた。第1因子は内容から「説明・意志決定」と解釈されたが、当初想定されていた構造は「医師から患者さんへの説明について」と「医師からご家族への説明について」の二因子であった。第1因子は、この6項目、2因子構造を採用した。第2因子は内容から「身体的ケア」と解釈されたが、当初想定されていた構造は「医師の対応について」と「看護婦の対応について」の2因子であった。そこで第2因子は、この6項目、2因子構造を採用した。次に、第3因子~第8因子に関しては、因子ごとに一因子構造の妥当性を確認し、適合度指標で統計的に妥当である項目候補を選定した。その結果、最終的に28項目が選定された。Validation調査のデータを用いて、各下位尺度を構成する項目の中で、最も因子負荷量の高い項目をその下位尺度の代表項目として抽出した。その結果、10項目からなるケアに対する評価尺度の短縮版が構成された。これらの項目と下位尺度の尺度得点の相関係数を求めたところ、ほとんどの項目で相関係数が0.9を超える値が得られた。これら10項目の平均点を求めたところ、M = 79.6(S.D. = 12.3)となった。またこのスコアと28項目版全体のケアに対する評価得点との級内相関係数を求めたところ、非常に高い値が得られた(r = 0.97)。
2)入院中のケアに対する評価と遺族背景因子との関連
入院中の実際の状態として設定した8事象(身体的苦痛、精神的苦痛、日々の生活、療養環境、希望する医療、介護負担、経済的負担、希望した場所)と遺族背景因子との関連について重回帰分析を行った。重相関係数は「精神的苦痛」「日々の生活」「経済的負担」において1%水準で有意であった。背景因子ごとに1%水準で有意な関連を見ていくと、遺族の年齢が高いほど、「療養環境」は良好であった。ソーシャルサポートを多く認識している遺族ほど、「日々の生活」と「希望した場所」は良好であった。介護時の健康状態が良かった遺族ほど、「介護負担」の状態は良好であった。介護時の経済状況が良かった遺族ほど、「経済的負担」の状態は良好であった。
ケアに対する評価尺度とCES-D得点の相関関係について検討した。その結果、「説明・意思決定」「説明・意思決定(家族)」「精神的ケア」「設備・環境」「介護負担軽減」、そして「ケアに対する評価」は、CES-D得点は1%水準で有意な負の相関関係にあった。すなわち、これらの評価が高い遺族ほど、抑うつの程度が小さいことが示された。ただし、相関係数は-0.20~-0.14であり、それらの関連性は決して高くはなかった
3)希死念慮の訴えと積極的安楽死の要求 
290名の遺族のうち、62名(21%)が、患者の家族や医師・看護師に対する希死念慮の訴えを報告している。このうち、家族にだけ訴えたのは29名、医師・看護師にだけ訴えたのは5名、家族と医師・看護師の双方に訴えたのは28名であった。
遺族の報告に基づく患者が希死念慮を訴える理由、ならびに積極的安楽死を要求した理由は、全身倦怠感、将来の苦痛に対する懸念、他者への負担、痛み、死期のコントロール願望などである。希死念慮を訴える患者のうち39%以上の患者にとっては、他者の負担になること、全身倦怠感、依存、痛みが主要な理由になっていた。積極的安楽死を要求した患者のうち38%以上の患者にとっては、全身倦怠感、将来への懸念、他者の負担になること、痛みが主要な理由になっていた。
結論
一連の調査により、「ホスピス・緩和ケア病棟ケアに対する評価尺度」は信頼性・妥当性のある尺度であることが示された。まず、検証的因子分析を行った結果、適合度の観点から非常に妥当な構造を持つ因子構造が得られた。これは、1次因子から3次因子までの3層の構造を持つものであり、本尺度が持つ、階層性と多面性を示している。今回の調査において評定したケアに対する期待度・満足度との相関分析の結果から、ケアに対する評価は、満足とは関連はするけれども、異なる概念である可能性が示唆された。
ホスピス・緩和ケア病棟入院中に受けられた医療に対する満足度に関しては、年齢が高いほど、多くの側面で満足度が高いことが示された。総合満足度の結果から、年齢が高く、介護時の経済状況が良好で、ソーシャルサポートを多く得ていて、死別からの経過期間が長い遺族ほど、ホスピス・緩和ケア病棟での医療に対する満足度が高いと思われる。本研究では、ホスピス・緩和ケア病棟でのケアに対する評価と、遺族の抑うつとの関連についても検討した。今回の調査では、両者の関係はさほど強くはないが、相関関係があり、ケアに対する評価が高い遺族ほど、抑うつの程度が低いことが示された。このことは、ホスピス・緩和ケア病棟に入院中の患者・家族へのケアが、死別後の遺族に対しても影響を及ぼす可能性を示唆するものである。
緩和ケア病棟に入院していた終末期がん患者のうち、希死念慮を訴えた患者の割合は21%、積極的安楽死を要求した患者の割合は10%であった。こうした希死念慮を訴える、また積極的安楽死を要求する理由は複数の要因を持ち、その中には身体的症状や、心理・実存的苦痛が含まれる。また、希死念慮を訴えたり、積極的安楽死を要求した患者のうち、耐え難い身体的症状を有していない患者は30%にのぼった。そこで、緩和ケア病棟で働くスタッフは、次の点でより一層の努力が求められる。第一に、終末期にみられる著しい全身倦怠感や痛み、呼吸困難に対し、より有効な症状コントロールを行うこと、第二に、他者への負担となっているという患者の思いや、無価値感、将来の苦痛に対する懸念を軽減するためのより効果的な心理・実存的アプローチを確立することである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-