アウトカムによるリハビリテーション病院の機能評価に関する研究開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201362A
報告書区分
総括
研究課題名
アウトカムによるリハビリテーション病院の機能評価に関する研究開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
木村 哲彦(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤高司(日本医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はQuality of Healthcareを客観的視点から評価することを第一の目的として開始された。Quality of Healthcareの客観的な評価アプローチ方法として、『構造』『過程』『結果』の3つが取り上げられている。この内、『構造』評価は、評価のための基準と適切な評価者が整えられることで比較的容易に実行できることから、米国における病院認定事業として運用されている。
一方、アメリカにおいても構造評価を中心とした病院評価とは別個にアウトカムに基づいて評価をする活動が展開しており、州によっては州政府による病院のパフォーマンス評価が心臓疾患などを対象として調査されている。
Quality of Healthcareに関するこのような経緯の中で、本研究の目的は大別して、(1)アウトカム評価の実行可能性を検証すると共に、方法論を確立すること、(2)スタンダードに基づく評価に関して、リハビリテーション病院評価のためのスタンダードを開発し、評価の実践を行うこと、の2点である。
これまでの2年間の研究において、アウトカム評価に関しては、①パイロットスタディーとして2病院での脳卒中リハビリテーションのデータベース作成し、このデータによるリスク調整アウトカム評価の分析試行を行った。②パイロットスタディーにおける試行を元に新規に4病院において脳卒中リハビリテーションのアウトカム評価用データベースの構築を開始した。③前向き調査による脳卒中データベース構築を開始、の3研究を行ってきた。スタンダード評価の開発に関しては、専門家委員会を組織し、デルファイ法に準じた意見集約方法でスタンダードを開発した。第二年度から第三年度にかけて3病院で行った病院訪問調査の経験を踏まえて、スタンダードの改訂を行い、改訂第二版を作成した。
研究方法
<Ⅰ.アウトカム評価> これまでの第一年度から第二年度までの調査と同様に、急性期の脳卒中を対象疾患として、急性期脳卒中リハビリテーションにおけるアウトカムデータベースを構築した。調査に協力した病院は、急性期医療を行っている総合病院のリハビリテーション科4施設である。パイロットスタディーの経験を踏まえ、今回は、新しい調査票を作成し、新規に脳卒中患者のデータベースを構築した。調査項目は、社会人口学的データ、入院時の神経学所見、ADL所見、リハビリテーションの支障となった合併症データ、画像所見、退院時のADLデータである。以上のデータからなるデータベースを構築した。アウトカム評価のための統計学的手法を開発するため、2001年に続いて、2002年もボストン大学経営学部に滞在し、Michael Shwartz教授との合同で脳卒中リハビリテーションにおけるアウトカム評価手法の開発を行った。このリハビリテーション・アウトカム評価法を用いて分析を行った。
<Ⅱ.アウトカム評価のための前向き調査>
前向き調査の目的は、次の4点である:①アウトカム評価が恒常的に行われるためには、リハビリテーションの現場で評価に必要なデータが、常に記録される必要がある。そのような臨床データを現場の医師が記録することが可能かどうかを検証する。②前向き調査においては、予め決まった書式に則ってデータが記録されることから、後ろ向き調査では収集不可能なデータを記録することが可能である。これまでの後ろ向きアウトカム調査で収集できなかった神経学的所見の内、四肢の筋力低下・麻痺に関する段階評価データをデータベース化することで、これらのデータがアウトカム評価の際に必要なデータとして残るかどうかを確認する。③前向き調査で構築したデータベースから、研究参加病院でのアウトカム評価を実行する。④以上の結果を総合して、リハビリテーションの診療における今後のアウトカム評価の実行可能性を検証する。アウトカム評価・前向き調査に参加したのは、社会福祉法人病院(静岡県)、医療法人病院(東京都)、市町村立病院(東京都)の3病院である。脳卒中で入院しリハビリテーションを受けた患者で主治医による調査票への記入がなされた。
<Ⅲ.評価スタンダード開発とその実践>
初年度、専門家委員会を組織し、デルファイ法に準じて「リハビリテーション病院機能評価スタンダード」を開発した。第二年度から第三年度にかけて行った3病院での病院訪問調査の経験を踏まえて、再びデルファイ法で評価スタンダードの改訂版作成を行った。
結果と考察
<Ⅰ.アウトカム評価>
これまでわが国おいては、病院のアウトカム評価の科学的な分析が行われてこなかった。また、病院のアウトカム評価がよく行われている米国においてもリハビリテーション病院のアウトカム評価は行われていない。米国のアウトカム評価の開発を行ったのはL. IezzoniとM.Schwartzである。本年再びボストン大学のM.Shwartz教授のもとに滞在し、本年のデータをもとに分析手法の開発を行った。その結果、脳卒中リハビリテーションのADLによるアウトカム評価においては、昨年度の分析方法であるロジスティック回帰分析よりは重回帰分析が妥当な分析方法であることが判明した。
4病院の脳卒中患者から収集したリハビリテーション アウトカム データベースは、375症例から構成された。私どもの研究では、退院時のBarthel index scoreをアウトカム指標としている。退院時のBarthel index scoreを従属変数、初期評価時のBarthel index score、社会人口学的データ及び神経学的所見を説明変数として、重回帰分析を行った。ステップワイズ法による変数選択で得られた説明変数は、「初期評価Barthel index score」「性別」「年齢」「脳出血」「入院前身体障害」「入院時体温」「左片麻痺」「無視(失認)」「失調」「痴呆」であった。得られた回帰式は急性期脳卒中のリハビリテーションの退院時ADLを十分に予測する能力を持つものと考えられた。病院のperformanceを示すため、この回帰式から、各患者の退院時ADL(Barthel index score)を求め、実際の退院時ADLとの比較を行い、その結果を病院ごとに集計した。病院;95%CI閾値(予測値)の形式で表すと、病院1;76.1~84.0(75.8)、病院2;46.1~54.3(57.1)、病院3;66.0~76.3(66.1)、病院4;63.6~71.7(68.2)。即ち、病院3と4は期待通りの成績で患者は退院している。病院1は、期待以上の成績で退院しており、病院2の退院成績は期待値以下である。リハビリテーションのアウトカム指標として、退院時のBarthel indexを取り上げることの適切性に関しては、検討されなけばならない。在院日数短縮のため、早期に回復期病院に患者を転院するための病院間連携ができている病院では、退院時のADLは他の病院に比べて低い数字となる。入院後2週間とか4週間といった定まった期間内のADLの改善を検討することが最も望ましいアウトカムデータであろうが、現在、そのような比較可能なデータは存在しない。従って、退院時のADLはアウトカム評価のための次善の指標であることを念頭において解釈されなくてはならない。
<Ⅱ.アウトカム評価のための前向き調査>
調査参加3病院において急性期脳卒中のリハビリテーション治療を受けた患者でデータベース構築できた数は、164例であった。後ろ向き調査と同様に、退院時のADLをアウトカム指標とする分析を行った。退院時のBarthel index scoreを従属変数、初期評価時の社会人口学的データ、神経学的所見、初期評価時Barthel index scoreを独立変数とする重回帰分析を行い、ステップワイズ法で変数を選択した。選択された変数は「初期Barthel index score」「年齢」「嚥下障害」「脳梗塞」「高脂血症」であった。病院;95%CI閾値(予測値)の形式で病院のperformanceを表示すると、病院1は81.7~91.2(68.2)、病院2は89.2~100.0(60.8)、病院3は51.4~61.3(62.0)であった。即ち、病院1、病院2は期待以上の成績で退院しているが、病院3は期待以下の成績で退院していた。ただし、病院3の平均在院日数が他の病院よりも有意に短いため、この結果が直ちに病院のperformanceの低さに繋がらないことに留意する必要がある。新規に調査票に取り入れたデータは、説明変数として残らなかった。しかし、今回の前向き調査では、主治医による調査票への記録は容易ではなく、病院2における記録は、調査員と主治医による分担記録とならざるを得なかった。
アウトカム評価に必要なデータを一般病院の医師が記録することは、一時的に行うことはできても、継続的に行うことは容易ではない。一方、リハビリテーションにおいては、患者の身体機能・ADLの定期的な評価は各セラピストによって日常行われている診療行為であることから、このようなデータに基づく評価を行うことは不可能ではない。特にわが国においては「(老人)リハビリテーション総合実施計画書」において、定期的な身体機能・ADL評価が行われていることから、データベース作成の素地があるといってよい。
<Ⅲ.評価スタンダード開発とその実践>
「リハビリテーション病院機能評価スタンダード version 1」の開発と訪問調査の経験を踏まえて専門家委員会のメンバーに改訂版作成のためのアンケートを行った。デルファイ法による意見集約を行い、改訂第2版が完成した。
Donabedianによる病院評価の3つのアプローチ法「構造」「過程」「結果」に示されているように、単独で病院の機能を示しうる指標はない。スタンダードによる評価もアウトカム評価と組み合わせることで、当該病院のQuality of Healthcareをより包括的に示すことができる。スタンダードに基づく評価で問題となるのは、評価者による評価の違い、即ち信頼性の問題である。このような理由から、JCAHOや(財)日本医療機能評価機構による認定のように、事業として展開する場合を除くと、第三者評価を行うことは必ずしも真の姿を示す評価方法とは言えない。
結論
急性期脳卒中のリハビリテーションの治療成績をアウトカム指標としてリハビリテーションのアウトカム評価を行うことが可能であることが示された。患者の身体機能評価・ADL評価が定期的に行われるリハビリテーション医療においては、アウトカム評価に必要なデータが恒常的に診療の現場で記録されているため、このデータを有効に記録することで、アウトカム評価を継続することが可能であることが示された。評価スタンダードに基づくリハビリテーション病院(科)の評価は、病院及び診療科の構造的評価に欠くべからざるものである。しかし、第三者評価としての実践は容易でないだけでなく、第三者評価の信頼性そのものの疑問と言わざるを得ない。評価スタンダードの実用的な応用を探るための検討が更に行われなければならない。

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