歯と咬合の長期的維持管理に関する予防・治療技術の評価についての総合研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201360A
報告書区分
総括
研究課題名
歯と咬合の長期的維持管理に関する予防・治療技術の評価についての総合研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
石橋 寛二(岩手医科大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 坂東永一(徳島大学歯学部)
  • 相馬邦道(東京医科歯科大学大学院医歯学研究科)
  • 宮武光吉(鶴見大学歯学部)
  • 廣瀬康行(琉球大学医学部)
  • 寺岡加代(東京医科歯科大学大学院医療経済分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
17,962,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢に至るまで歯と咬合を適正に維持する方策を総合的に検討し、歯列崩壊の予防および健全な咬合の維持管理方法を確立することが、現在のわが国の歯科保健に強く望まれている課題の一つである。本研究においては、人のライフサイクルを軸に、科学的根拠による歯と咬合の長期的維持管理を達成するための指針を打ち出すことを目的とする。得られた結果は、補綴物の維持管理期間をより長期に設定すること、および長期的維持管理を行うために必要な診査項目の見直しを行う上で寄与しうる貴重なデータになるものと考えられる。
研究方法
平成14年度は、平成13年度に各分担研究で収集したデータ数を増やし分析を行った。その概要としては、
①補綴処置後の長期的な維持管理方法
5年以上経過したブリッジ装着者323人(男性146名,女性177名,平均年齢54.7歳)を対象に行った口腔内清掃状態とブリッジの機能状態の調査と口腔清掃方法に関して行ったアンケート調査の結果を集計し、患者の主観的なブリッジに対する評価に関与する因子とブリッジの機能の有無に関与する因子を分析した。
②補綴診断における電子情報の臨床応用
40歳以上60歳未満の235人(男性94人、女性141人、平均年齢49.3±5.5歳)を対象に、残存歯数、歯周組織を含めた口腔内の状態と摂取食品ならびに咀嚼機能に関するアンケート調査結果から、各パラメータ間の関連を詳細に分析した。説明変数である年齢、性別、残存歯数、咬合支持域数、前歯咬合支持の有無、咬合力、咬合力の左右バランス、咬合接触面積、前歯部歯周疾患程度、臼歯部歯周疾患程度の10個のパラメータ間における相関、共線性を調べ、昨年度に導いた結論を検証し、さらに今回用いた咬合診断分析システムによるデジタルデータ評価の有用性を確認した。
③咬合治療に対するEBMに基づく評価
顎関節症患者に対する咬合治療をEBMに基づき評価するため、咬合治療を行う群と行わない群に無作為に分けて、その効果を調べる実験計画を立案した。本研究では顎関節症状を主症状とする顎関節症患者を対象として、咬合接触を変化させるスタビライゼーションスプリントと、患者の持つ咬合接触を変化させない咬合面をくりぬいたスプリントの2種類を一定期間ずつ装着することにより、咬合異常が顎関節症状に関与しているか否か、スプリントの効果が咬合改善によるのか否かなどを客観的評価に基づいて検討した。
④歯列不正と咀嚼機能障害の関連評価
永久歯列を有する25歳以下の正常咬合者60名と不正咬合者143名を対象に、形態指標と咀嚼機能指標との間で線形判別分析関数を用いた判別分析法による評価を行った結果、咀嚼機能指標に咬合力関連項目を用いた場合、正常咬合者群と不正咬合者群における判別的中率を求めた。また、正常咬合者群と不正咬合者群で咬合力、咬合接触面積、平均咬合圧、ガム主咀嚼パターン比較を行った。
⑤学童期の口腔内状態が成人の口腔内環境に及ぼす影響
高校生445名(男子337名,女子108名)および女子短期大学生177名を対象に、顎関節の異常についての疫学調査を行い、自覚症状と診査所見との関連性について検討した。また、質問紙により、学童期における口腔内の状況と、青年期の口腔内の状況との関連についても併せて分析した。
⑥診療情報の適切な共有と提供の方策
各種の歯科診療情報、特に歯と歯との関係や歯と補綴物との関係を電子的に記述するための汎用的な記述書式を考案・開発した。開発手法としては、ontology的な発想と表現形式に留意しつつobject modelingにて概念整理し、最終的な記述書式はXML Schemaによるdocument modelingを行うこととした。
⑦歯科医療におけるクリニカルインディケ―タの開発に関する研究
歯科医療の質評価を目的として、755歯科診療所(1都1道23県)に調査票を郵送し、上顎臼歯部麻酔抜髄に関する実態調査を行い、技術評価のクリニカルインディケ―タを検討した。
結果と考察
①補綴処置後の長期的な維持管理方法
調査した323名の患者で調査対象になる5年以上前に装着したブリッジは444装置で、平均装着期間は9.6年あった。その内、現在も機能しているブリッジは372装置,機能していないブリッジは72装置で機能率は83.8%であった。ロジスティック回帰分析をおこなった結果,定期的な歯科受診と患者のブリッジに対する主観的な機能評価の関係が示された。すなわち、リコールされなくても進んで定期的に検診を受けているグループでは、ブリッジの評価が高く、リコールもなく定期的な検診も受けていないグループつまり歯科受診を定期的にしていないグループでは、ブリッジの評価が低くなっていた。また、ブリッジの機能の有無を目的変数とし、ロジスティック回帰分析を行った結果、オッズ比がリコールの有無で2.79となりついで歯間ブラシの指導、咬合支持域という結果になった。すなわち、歯科医師がリコールを行っていると答えた患者に装着されているブリッジは、リコールを行っていないと答えた患者に装着されているブリッジよりも機能を維持しているという結果を得た。
②補綴診断における電子情報の臨床応用
分析対象となった被験者235名の平均年齢は49.3歳であり、平均残存歯数は24.5本であった。目的変数、説明変数の12のパラメータ間の相関関係を調べた結果、咀嚼満足度と残存歯数でSpearmanの順位相関係数が0.434であったが、他のパラメータでは、0.4未満と低い値であった。また、食品摂取スコアおよび咀嚼満足度による目的変数間のSpearmanの順位相関係数は0.463であった。咬合力の左右の咬合バランスがとれている「良」と判定された被験者が127名で全体の54.0%であったが、このことは4か所の咬合支持域が確保されていたケースが145名61.7%であったことを反映した結果といえる。
③咬合治療に対するEBMに基づく評価
治験を完結した患者数は8名と当初の予定を下回った。スプリント装着3週間後の比較では、疼痛VAS値および最大開口量などについて、両タイプのスプリント間で統計的有意差は認められなかった。被験者数が少ないこと、夜間のブラキシズムが症状の増悪因子になっていると思われる被験者が少なかったことなどが、このような結果に関係していると思われる。なお、患者の感想として、咬合型の方が具合が良かったと感じたものが8名中6名であったのに対して、非咬合型の方が良かったと答えたものは一人もいなかった。咬合接触状態を客観的に評価する目的で用いたアド画像の各パラメータのうち、咬合接触歯数、咬合接触点数、咬合接触面積、咬合接触域指数のパラメータは咬合接触状態を客観的に評価するうえで有用であると思われた。
④歯列不正と咀嚼機能障害の関連評価
得られた資料より判別分析法を実施した結果、Y値と咬合力項目について、全咬合力・右咬合力・左咬合力との間ではそれぞれ88.7%・86.7%・89.7%、咬合接触面積では86.2%、平均咬合圧では73.4%の判別的中率が得られた。形態指標であるY値と咀嚼機能指標の2変数についてプロットした場合、正常咬合者群と不正咬合者群における分布型がある程度異なっており、特に咬合力関連項目についてその違いが比較的大きく、判別的中率に反映されているものと考察された。今回の結果から正常咬合者群においては不正咬合者群に比較して咬合接触面積が大きく、平均咬合圧が減少していることから、咬合接触面積の小さい不正咬合者群においては何らかのフィードバック機構が作用することにより単位面積あたりの咬合力(平均咬合圧)を上昇させることで全体の咬合力を補償するような働きが行なわれているものと推察された。
⑤学童期の口腔内状態が成人の口腔内環境に及ぼす影響
高校生の有症者率は37.3%、女子短期大学生の有症者率は23.7%であり、ともに20~30%の者に顎関節に症状がみられた。改良した11項目からなる質問紙を用いて、女子短期大学生について再度調査を行った。有症者率は38.5%であり、有症者の割合は前回よりも多かった。前回同様、質問項目と診査結果をクロス集計したところ、6項目の質問に有意差を認め、そのうち1項目以上「はい」と回答した者の陽性適中率は74.6%、敏感度は76.9%、特異度は83.7%と、前回よりも信頼性が向上した。質問項目を少なくしたことにより、より回答しやすくなったために信頼性が向上したものと考えられる。高校生においては、顎関節の異常と学童期の状況とはやや高い関係がみられたが、歯の治療経験とはあまり関係がないようであった。これらのことから、青年期は、心理的な要因も関係してくることから、過去の口腔内の状態を、質問紙を用いて調査することは困難であることが推察された。
⑥診療情報の適切な共有と提供の方策
歯式、ならびに、歯式と傷病名とが関係付けられた情報塊の電文形式の策定ができた。歯式と所見とが関係付けられた情報塊の電文形式の策定ができた。歯式または歯の詳細情報と保存補綴修復物とが関係付けられた情報塊の電文形式の策定ができた。将来的には、改善点・応用可能性・考察を礎にメタ構造の完成度を向上させつつ、歯科用電子カルテの設計と試作そして実装実験を行いたい。
⑦歯科医療におけるクリニカルインディケ―タの開発に関する研究
再麻酔と歯科医師属性、患者属性、重症度、治療
内容との関連性:再麻酔は歯牙属性にも関係するが、歯科医師の臨床経験年数との関連性が最も強いことが示された。再麻酔と有意な関連性が認められたの根管形態、患者年齢、根管数であった。さらにこれらリスク因子に関してハイリスク群を検討したところ、「根管狭窄・彎曲あり、50歳以上、4根管以上」であった。以上の結果から「根管狭窄・彎曲あり、50歳以上、4根管以上」のハイリスク群に対しては高度の臨床技術が要求されることから、今後の技術料評価における基礎資料になると考えられる。
結論
調査による分担研究では、平成13年度に収集したデータにさらにデータを追加し、最終的なデータ収集ならびに分析を終えた。また、情報の伝達手段、医療経済学的観点等も含めた総合的な見地から様々な問題を捉えることができた。若年者から中高年齢層を対象に、それぞれの世代で最も関心が深いと思われる歯科に関するテーマをとりあげて研究を行った結果を基に、咬合の長期的な維持管理に寄与する方策を策定できるものと思われる。歯科治療を処置中心から予防・管理を主体とする良質な医療を提供することによって国民の利益に寄与できるものと考える。

公開日・更新日

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