E-PASS scoring systemを用いた外科治療水準の評価と外科入院治療費の予測

文献情報

文献番号
200201352A
報告書区分
総括
研究課題名
E-PASS scoring systemを用いた外科治療水準の評価と外科入院治療費の予測
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
芳賀 克夫(国立熊本病院)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内仁司(国立岩国病院)
  • 木村 修(国立米子病院)
  • 和田康雄(国立姫路病院)
  • 古谷卓三(国立下関病院)
  • 石川正志(国立高知病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、施設間の医療技術水準に関する関心は高まっており、その客観的評価法の確立が望まれている。特に、外科手術は侵襲が大きく、その技術水準の開示を求める声は大きい。病院間の外科技術水準を評価するには術式別に術後死亡率を用いるのは一見妥当ではあるが、ハイリスク患者を多く扱う病院や拡大手術を多く行う病院では死亡率が高くなるのは当然であり、これらの施設の技術水準が過小評価される可能性がある。従って、患者のリスクと手術の質を病院ごとに標準化した上で、死亡率を比較する必要がある。我々は患者の予備能と手術の大きさを定量化することにより、手術後のリスクを評価するscoring systemを開発した(E-PASS)。多施設から得た5,212例の検討では、E-PASS の総合リスクスコア(CRS)が増加するに従い、術後死亡率が上昇した(CRS<0で0% [N=2,238]、0≦CRS<0.5で0.75% [N=2,137]、0.5≦CRS<1.0で6.0% [N=686]、1.0≦CRS<1.5で15.1% [N=126]、CRS≧1.5で44.0% [N=25])。また、CRSは術後合併症の重症度および入院治療費、在院日数と有意な正の相関を示した。CRSは患者の生理機能と手術の大きさを総合的に表すことから、上記目的で術後死亡率を標準化するのに有用と考えられる。我々は多施設でE-PASS の外科技術評価法としての有用性を、イギリスで開発された外科技術評価法POSSUM2)およびその改訂版であるP-POSSUMと比較検討したので、報告する。
研究方法
当研究班に所属している6施設で行った予定消化器外科手術症例1,934例について、E-PASSの10項目(年齢、体重、PS、ASA class麻酔リスク、糖尿病の有無、重症心疾患の有無、重症肺疾患の有無、出血量、手術時間、手術切開創の範囲)、POSSUM、P-POSSUMの18項目(年齢、心不全兆候、呼吸兆候、胸写所見、最高血圧、脈拍、Glasgow scale、心電図所見、血中ヘモグロビン値、末梢血白血球数、BUN、血清Na、血清K、手術の大きさ、30日以内に施行した手術の回数、手術の様態、腹水の性状、悪性新生物の進行度)2),3)と術後経過、入院治療費、術後在院日数をprospectiveに調査した。但し、癌の非切除症例(単開腹、バイパス、等)は術後合併症以外の死亡(癌死)が多くみられることから、検討から除いた。E-PASS 、POSSUM、P-POSSUMの3つのscoring systemから、予測死亡率を下記の式により算出し、実死亡率/予測死亡率の比(OE ratio)を外科治療水準の指標とした。但し、E-PASS およびP-POSSUMの予測死亡率は、在院死亡率を予測するものであるから、実際の在院死亡率と比較した。一方、POSSUMの予測死亡率は30日死亡率を予測するもの2)であるから、実際の30日死亡率と比較した。
1)(E-PASSの予測在院死亡率)= -0.465 + 1.192(CRS) + 10.91(CRS)2
2)POSSUMの予測30日死亡率(R):ln[R/(1-R)] = -7.04 + (0.13×physiological score) + (0.16×operative severity score)
3)P-POSSUMの予測在院死亡率(R): ln[R/(1-R)] = -9.37 + (0.19×physiological score) + (0.15×operative severity score)
連続変量間の相関関係は、単回帰分析で解析し、分散分析法で有意差検定を行った。
結果と考察
1)予測死亡率の精度: 各scoring systemの予測死亡率で全症例にリスク順位をつけ、そのリスク順位ごとに予測死亡率と実死亡率を求めた。その結果、E-PASS、POSSUM、P-POSSUM の予測死亡率はすべて、実死亡率と有意な正の相関を示した(E-PASS R=0.996, N=5, P=0.0003; POSSUM R=0.989, N=5, P=0.0014; P-POSSUM R=0.922, N=5, P=0.026)。しかし、E-PASS scoring systemの予測死亡率が実死亡率の1.5倍であったのに対し、POSSUM scoring systemは21.8倍、P-POSSUMは5.8倍と過大に死亡率を予測した。
2)各scoring systemによる外科治療技術水準の評価
各施設で、それぞれのscoring systemの実死亡率/予測死亡率の比(OE ratio)を求め、外科治療技術水準の指標とした。scoring systemにより技術評価の判定に差があるかを調べるために、scoring system間でOE ratioを比較した。その結果、E-PASS はPOSSUMおよびP-POSSUMのOE ratioと有意な正の相関を示すことが判明した(E-PASS vs. POSSUM R=0.865, N=6, P=0.0263; E-PASS vs. P-POSSUM R=0.929, N=6, P=0.0075)。外科の技術水準を客観的に評価し、公開することをsurgical auditと呼ぶが、1991年Copelandらはsurgical auditの基準として18の変数から成るPOSSUM scoring systemを開発した。しかし、WhiteleyらはPOSSUMが術後死亡率を過大に予測することを指摘し、その式の訂正版を発表した。この式はP-POSSUMと呼ばれ、一般外科手術や血管外科手術での有用性が報告されている。POSSUMとP-POSSUMの優劣については、現在論争中である。今回の検討では、POSSUM、P-POSSUMが我々の症例の実際の死亡率より過大に死亡率を予測することが判明した。この原因の一つとしては、我が国の外科医とイギリスの外科医の技術差が考えられる。過去の論文をみると、我が国の術後死亡率は、欧米より低いことが示唆される。また、今回の対象症例が待機手術のみであったこともPOSSUM、P-POSSUMの過大予測の原因になった可能性がある。本来、POSSUM、P-POSSUMは緊急手術と待機手術の双方を対象としているが、我々が開発したE-PASS は待機手術のみを対象としている。POSSUM、P-POSSUMでは死亡率が高い緊急手術も対象に含めて死亡率の予測式が算出されているため、待機手術のみで予測死亡率を計算すると、過大な予測値になる可能性がある。いずれにしても、POSSUMおよびP-POSSUMを我が国の技術評価に適用するには無理があると考えられる。本研究成果で注目すべきことは、E-PASS 、POSSUM、P-POSSUMによる外科技術評価の指標(OE ratio)が高い相関を示したことである。POSSUM、P-POSSUMの変数は18項目あり、E-PASS の変数は10項目であるが、これらの中で一致するのは、年齢と出血量のみである。従って、今回の結果は、異なる観点から行った評価法がほぼ同じ判定を下したことを意味し、それぞれの判定の信頼性が高いことを示唆している。また、E-PASS の調査項目が10項目とPOSSUM、P-POSSUMより少ないことは、調査実施の面から考えると有利である。E-PASS の調査項目は、麻酔科医が術前あるいは術後にルーチンにチェックしている項目である。従って、麻酔科医のみで、外科医の技術評価を客観的に行うことが可能である。
結論
E-PASS が我が国の外科技術評価に適した信頼しうる評価法と考えられる。

公開日・更新日

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