泌尿器科領域の治療標準化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201336A
報告書区分
総括
研究課題名
泌尿器科領域の治療標準化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大島 伸一(名古屋大学大学院医学研究科病態外科学講座泌尿器科学)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場志郎(北里大学医学部泌尿器科学)
  • 平尾佳彦(奈良県立医科大学泌尿器科学)
  • 西澤 理(信州大学医学部泌尿器科学)
  • 内藤誠二(九州大学医学部泌尿器科学)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部公衆衛生学)
  • 小野佳成(名古屋大学大学院医学研究科病態外科学講座泌尿器科学)
  • 後藤百万(名古屋大学大学院医学研究科病態外科学講座泌尿器科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年度厚生科学研究費補助金で作成した前立腺肥大症に対する診療ガイドライン及び平成12年度厚生科学研究費補助金で作成した女性の尿失禁に対する診療ガイドラインの有用性を明らかにする目的で実際にこれらのガイドラインの使用に同意した前立腺肥大症、及び女性の尿失禁患者を対象としてプロスペクティブに、実際に行われた診断検査法や治療法とガイドラインからの指示された診断法、治療法との適応度、また、そのアウトカムを治療効果、医療費、治療効果対経済効率から検討した。
研究方法
前立腺肥大症に対する診療ガイドラインの検討では、プロスペクティブに平成13年4月より平成14年12月までに全国の9施設の前立腺肥大症患者720例を対象にガイドラインの適応度、治療効果、医療費、治療効果対経済効率等を調査した。
女性尿失禁に対する診療ガイドラインについては、全国15施設において女性尿失禁診療ガイドライン導入の効果についてプロスペクティブな検討を行った。診断評価法、治療選択、治療成績、治療の費用対効果について検討し、平成13年度に行ったガイドライン導入前の診療状況検討結果と比較した。なお、治療効果対経済効率については、理学療法、理学・薬物併用療法、薬物治療、外科的治療について、尿失禁改善率とQOL改善率に関して検討した。
治療効果対経済効率については平成13年度厚生科学研究補助金・医療技術評価総合研究事業で明らかにした累積効果対経済指標すなわち、一定期間内の症状改善累積値でそれに要した総医療費を除して得た値で検討した。
倫理的配慮=インフォームド・コンセントを得られた患者を対象として研究を行った。また、研究についてはすべて施設毎の番号と記号を用いて行い個人情報が漏れないように配慮した。
結果と考察
研究結果=前立腺肥大症については、ガイドラインで分類された重症度は軽症22例、中等症421例、重症233例、不明44例であり、診断における適応度は93.9%、治療における適応度は73.7%であった。治療効果は手術治療(TUR-P)例で治療開始3ヶ月後でIPSSスコア6、QOLスコア1.6、最大尿流率22ml/sec、残尿25mlとなったのに対し、薬物治療例ではそれぞれ9.8、2.8、12ml/sec、24mlであった。
また、医療費では、薬物治療例では1例20ヶ月あたり平均149,760円、手術治療(TUR-P)例では758,810円、経過観察例では19,830円であった。
医療効果対経済効率については、1年間にわたりIPSSスコアを1下げるに必要な医療費でみると重症で手術治療(TUR-P)例では45,199円、薬物治療例で11,980円、また、中等症ではそれぞれ91,834円、21,900円であった。
女性尿失禁については、ガイドライン導入後の診断評価項目では、必須検査として推奨された検査項目の施行頻度が増加した。治療効果については、尿失禁治癒率の増加、不変率の減少が得られた。薬物治療については、ガイドラインに提示された適応からはずれる、いわゆる不適切な薬剤の使用頻度が、ガイドライン導入前の32.4%から導入後3.4%へと顕著に減少した。
医療効果対経済効率については、治療開始から3ヶ月間の平均の総医療費は、手術治療:211,641円、薬物治療:52,152円、理学療法:25,936円、理学・薬物併用療法:55,126円と手術治療が最も高額で、他治療の3.8~8.2倍であった。他方、QOL改善からみた費用対効果では、QOLスコア改善(KHQ質問票における総QOLスコア1点の改善に要する医療費)に対する医療費を指標として検討したところ、外科的治療600.9円、薬物治療519.4円、理学的治療430.1円、理学・薬物併用療法485.7円と外科的治療が最も高額ではあるものの、各治療法間の差は外科治療の1.2~1.4倍以内に縮小した。
結論
考察=前立腺肥大症患者ではガイドラインに従って、重症に分類された症例で手術治療を忌避して薬物治療を選択することが多く、これがガイドラインの治療における適応度を低下させる原因となっていた。しかし、治療効果でみる限り手術治療と薬剤治療でかなりの差があるため、本ガイドラインで重症例での治療選択は現状の手術治療とあるいは最小侵襲治療で妥当と考えられ、更なる患者への証明努力を払う必要性が示唆された。
女性尿失禁に対する診療ガイドラインは、その導入により、診断評価方法、治療選択の適正化をもたらすことが示され、さらに治療成績の向上も得られることが示唆された。また、費用対効果を評価するにあたり、医師側からみた治療成績のみならず、患者側のQOL改善は重要な指標であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-