文献情報
文献番号
200201332A
報告書区分
総括
研究課題名
Evidenceに基づく日本人脳梗塞患者の治療ガイドライン策定に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
福内 靖男(慶應義塾大学神経内科)
研究分担者(所属機関)
- 小川彰(岩手医科大学医学部脳神経外科教授)
- 小林祥泰(島根医科大学医学部第3内科教授)
- 篠原幸人(東海大学医学部神経内科教授)
- 東儀英夫(岩手医科大学医学部神経内科教授)
- 橋本信夫(京都大学医学部脳神経外科教授)
- 眞野行生(北海道大学大学院医学研究科リハビリテーション医学教授)
- 山口武典(国立循環器病センター名誉総長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、現時点で我々が収集しうる限りの治療に関する科学的情報(Evidence)に基づいて、脳梗塞の治療ガイドラインを策定し、患者数が多く、社会的にも極めて関心度の高い脳梗塞の診療に従事するすべての人々を支援することである。昨年度までに脳梗塞治療ガイドラインを作成した。本年度は、脳梗塞を広く一般の人に理解させるため、一般向け解説書の作成を試みた。
研究方法
EBMの理念に基づいたガイドライン策定のため国内外の脳梗塞の治療に関するあらゆるデータを収集し,これを基に昨年度までにガイドラインを作成した。脳梗塞に関する治療は、急性期の治療、慢性期の治療、リハビリテーションに分類した。さらに急性期の治療は一般的治療として、呼吸管理、循環管理、対症療法、安静と早期離床、輸液・栄養補給、合併症対策、特殊治療として抗脳浮腫療法、血栓溶解療法(経静脈的投与)、局所線溶療法、抗凝固療法、抗血小板療法、血液希釈療法、フィブリノーゲン低下薬、ステロイド療法、脳保護薬、低体温療法、高圧酸素療法、開頭外減圧術、緊急頸動脈内膜剥離術(CEA)、angioplastyとstenting、慢性期の治療は、危険因子の発見と予防、抗血小板療法、抗凝固療法、脳代謝賦活薬、脳循環改善薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、筋弛緩薬、向精神薬、睡眠導入薬、抗パーキンソン病薬、CEA、angioplastyとstenting、外頸動脈-内頸動脈バイパス術(EC-IC bypass)などに 細分化した。これをもとにして個々の治療法について推奨の強さを付記した。国内文献は、医学中央雑誌(1987-2002), 海外文献はThe Cochrane Library 2001, Issue 3, Medline(1966年-2002年)より脳梗塞関連の文献を抽出し、約17000件を収集した。本ガイドラインの個々の治療法の推奨の強さは、主にエビデンスレベルの高さを最も重要視したが、決定に際してはいくつかの要素を勘案して総合的に判断した。推奨の強さは4つのグレードに分類して表示した。「推奨の強さ」の分類は、グレード A 行うよう強く勧められる、グレード B 行うよう勧められる、グレード C 行うことを考慮してもよいが十分な科学的根拠がない、グレードD 行わないよう勧められる、とした。本年度は、このガイドラインをUMIN「大学病院医療情報ネットワークセンター」のホームページに掲載した。
本年度の一般向け脳梗塞解説書は、1. 脳梗塞とはどんな病気か 2. 脳梗塞はどんな人がなりやすいか 3. 脳梗塞は若い人に起こるか 4. 日本人の脳梗塞の変遷 5. 脳梗塞の症状6. 脳梗塞はどのように診断されるか 7. 脳梗塞はどのように対応するか 8. 脳梗塞発作後の早期の治療 9. 脳梗塞慢性期の管理 10. 脳梗塞慢性期の外科的治療 11. 脳梗塞の後の痴呆を防ぐには 12. 脳梗塞の予後 13. 脳梗塞のリハビリテーション 14. 脳梗塞後遺症患者の在宅・社会システム、に分類し記載した。
本年度の一般向け脳梗塞解説書は、1. 脳梗塞とはどんな病気か 2. 脳梗塞はどんな人がなりやすいか 3. 脳梗塞は若い人に起こるか 4. 日本人の脳梗塞の変遷 5. 脳梗塞の症状6. 脳梗塞はどのように診断されるか 7. 脳梗塞はどのように対応するか 8. 脳梗塞発作後の早期の治療 9. 脳梗塞慢性期の管理 10. 脳梗塞慢性期の外科的治療 11. 脳梗塞の後の痴呆を防ぐには 12. 脳梗塞の予後 13. 脳梗塞のリハビリテーション 14. 脳梗塞後遺症患者の在宅・社会システム、に分類し記載した。
結果と考察
結果=
本年度は、このガイドラインをUMIN「大学病院医療情報ネットワークセンター」のホームページに掲載した。
以下に昨年度までに作成したガイドラインの各項目別の推奨を示す。
01.急性期-呼吸管理
a. 脳卒中急性期で意識障害が進んでいる患者に対しては、気道確保や人工呼吸管理を考慮する(グレードB)。b. 低酸素症の患者に対しては酸素の投与が必要である(グレードB)。c. 軽症から中等症の脳卒中の患者に対して、ルーチンに酸素投与をすることが有効であるとする根拠はない(グレードC)。
02.急性期-循環管理
a. 脳梗塞急性期は、解離性大動脈瘤、急性心筋梗塞、高血圧性脳症などを合併していない限り原則的に降圧療法は推奨できない(グレードC)。b. 収縮期血圧220mmHg以上、または拡張期血圧121mmHg以上、または平均血圧130mmHg以上の過度の高血圧では点滴による降圧療法を考慮する(グレードC)。c. 血栓溶解療法を予定する患者では、一定のレベルまで降圧することが推奨される(グレードB)
03.急性期-対症療法
a. 脳梗塞に伴う頭痛は非ステロイド系消炎鎮痛薬の経口投与を行うことで対応できる。中等度以上の頭痛ではジクロフェナク坐薬やペンタゾシンなどを用いてもよい(グレードC)。04.急性期-安静と早期離床
a. 脳卒中急性期の治療とリハビリテーションなどを専門的に一体となって行う脳卒中ケアユニットは、急性期の治療に推奨される(グレードB)。
05.急性期-輸液、栄養補給
a . 高血糖または低血糖は是正すべきである(グレードB)。b. 低栄養が認められる例では、十分なカロリーや蛋白質を補給することが推奨される(グレードB)。
06.急性期-合併症対策
a. 脳卒中急性期のけいれん発作には抗てんかん薬を使用するが、長期投与の必要はない(グレードC)。脳卒中発症後14日以上経ってから初回のけいれんがおこった例では抗てんかん薬の継続投与が推奨される(グレードB)。b.下肢の麻痺がある症例では深部静脈血栓症、肺塞栓症の予防に低用量ヘパリン療法、または低分子ヘパリン療法が推奨される(グレードB)。c. デキストランは深部静脈血栓症予防に推奨できない(グレードD)。d. 段階的弾性ストッキングを静脈血栓症予防に行うことの有効性は証明されていない(グレードC)。e. 嚥下障害による誤嚥性肺炎の予防には、レボドパ、アマンタジン、ACE阻害薬(いずれも保険適応外)が有用である(グレードC)。f. 急性期から理学療法や深呼吸などを積極的に行うことは、肺炎の発症を少なくするために推奨される(グレードB)。g. 麻痺側の偽痛風を含めた無菌性関節炎の治療には非ステロイド系消炎鎮痛薬、またはステロイドの関節内投与や筋注が用いられるが、後者の方がより有用である(グレードB)。h. 重症例では特に消化管出血の合併に注意をし、抗潰瘍剤の投与が推奨される(グレードB)。i. 脳卒中急性期の中枢性高熱は治療すべきである(グレードB)。j. 感染症を合併した場合は、適切な抗生物質等で治療すべきである(グレードB)。k. 麻痺側の肩の痛みに対しては今のところ推奨される治療法に乏しい(グレードC)。l.脳卒中によっておこる痛みやうつ病、不安などは残存する事が多く、長期的な治療が必要である(グレードB)。
07.急性期-抗浮腫療法
a. 高張グリセロール静脈内投与は、頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳梗塞の急性期に推奨される(グレードB)。b. マンニトールは脳梗塞の急性期に有効とする明確な根拠はない(グレードC)。
08.急性期-血栓溶解療法(i.v.)
a. 組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA、保険適用外)の静脈内投与は、経験を積んだ専門医師が適切な設備を有する施設で、適応基準(脳梗塞発症3時間以内、CTで早期虚血所見がない、など)を十分に遵守して行う場合、脳梗塞急性期の治療法として有効性が期待される(グレードA)。ただし、上記の条件を満たさない場合、予後を悪化させる可能性があるため、その使用は専門的施設で行われるべきである。b. 低用量(60,000単位/日)ウロキナーゼの点滴投与は、急性期(5日以内)の脳血栓症患者の治療法として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。c. ストレプトキナーゼ(保険適用外)の静脈内投与は、脳梗塞の急性期に行わないよう勧められる(グレードD)。
09.急性期-血栓溶解療法(i.a.)
a. 神経脱落症状を有する中大脳動脈塞栓性閉塞においては、来院時の症状が軽症から中等症で、CT上梗塞巣を認めず、発症から6時間以内に治療開始が可能な症例に対しては遺伝子組み換え型プロウロキナーゼ(r-proUK: 未承認薬)による経動脈的な選択的局所線溶療法が推奨される(グレードB)。
b. しかし、上記の条件下であっても総頚動脈あるいは内頚動脈などの脳主幹動脈からの線溶剤の動注は考慮しても良いが十分な科学的な根拠がない(グレードC)。また、SPECT等での脳血流量を測定した場合、相対的残存血流量が35%未満の症例においては再開通後に脳内出血を形成する可能性があるため、線溶療法は推奨されない(グレードD)。
10.急性期-抗凝固療法
a. 発症48時間以内の虚血性脳卒中ではヘパリンが有用であるとする科学的根拠がない(グレードC)。b. 虚血性脳卒中急性期に低分子ヘパリン(保険適応外)、ヘパリノイド(未承認)は有用とする明確な科学的根拠はない(グレードC)。c. 発症48時間以内のアテローム血栓性脳梗塞に選択的トロンビン阻害薬のアルガトロバンが推奨される
(グレードB)。
11.急性期-抗血小板療法
a. アスピリン160~300mg/日の経口投与は、発症早期(48時間以内)の脳梗塞患者の治療法として推奨される(グレードA)。b. オザグレル160mg/日の点滴投与は、急性期(発症5日以内)の脳血栓症患者の治療法として推奨される(グレードB)。
12.急性期-血液希釈療法
a. 血漿増量剤を用いた血液希釈療法は、脳梗塞急性期の治療として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。b. 外循環を用いた血液希釈療法は、脳梗塞急性期の治療として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。
13.急性期-フィブリノーゲン低下薬
a. ancrod(未承認)の検討が進んでいるが、臨床に応用できる段階ではない。
14.急性期-ステロイド療法
a. 副腎皮質ホルモンは虚血性脳卒中急性期に有効とする明確な科学的根拠はない(グレードC)。
15.急性期-脳保護薬
a. 脳保護作用が期待される薬剤の投与は、脳梗塞急性期の治療法として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。
付記: エダラボン(抗酸化薬)の静脈内投与は、国内第III相試験において、脳梗塞急性期(発症72時間以内)患者の予後改善に有効性が示され、層別解析でより有効性が高かった発症24時間以内の脳梗塞患者の治療法として、本邦での使用が認可されている(社内資料、論文投稿中)。
16.急性期-低体温療法
a. 低体温療法は、脳梗塞急性期の治療法として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。b. 解熱薬を用いた平温療法は、脳梗塞急性期の治療法として行うよう勧め
るだけの根拠が明確でない(グレードC)。
17.急性期-高圧酸素療法
a. 虚血性脳卒中急性期患者に対して高圧酸素療法を勧めるだけの根拠がない(グレードC)。18.急性期-開頭外減圧術
◆小脳梗塞
a. 小脳梗塞においては意識が清明でかつ、CT所見でも水頭症や脳幹部への圧迫所見がない症例では保存的治療が推奨される(グレードB)。これに対しCT所見上、水頭症を認め、水頭症による混迷など中等度の意識障害を来している症例に対しては脳室ドレナージが推奨される(グレードB)。また、CT所見上、脳幹部圧迫を認め、これにより昏睡など重度の意識障害を来している症例に対しては減圧開頭術が推奨される(グレードB)。
◆中大脳動脈灌流域を含む一側大脳半球梗塞
a. 中大脳動脈灌流域を含む一側大脳半球梗塞においては70歳未満でかつ、抗浸透圧利尿剤および降圧剤など保存的治療を施行しても進行性の意識障害を有し、CT所見で明かな脳幹部への圧迫所見を認める症例に対しては、救命を目的とした時、発症24時間以内に硬膜形成をともなう外減圧術が推奨される(グレードC)。
19.急性期-緊急頸動脈内膜剥離術(CEA)
a. 急性期頸動脈内膜剥離術を推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例の特殊事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
20.急性期-angioplastyとstenting
a. transluminal angioplasty / stentingを推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例の特殊事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
21.慢性期-危険因子の発見と予防
(1) 高血圧
a. 脳梗塞の二次予防では、降圧療法が推奨される(グレードA)。
(2) 糖尿病
a. 脳卒中の一次予防では血糖値のコントロールよりも高血圧のコントロールが有効であるが、二次予防では報告はないが糖尿病のコントロールが推奨される(グレードC)。
(3) 高脂血症
a. 脳卒中の一次予防ではプラバスタチン、シンバスタチン、ゲムフィブロジルが有効であるが、二次予防では報告はないが高脂血症のコントロールが推奨される(グレードC)。
(4) 喫煙
a. 禁煙は、脳卒中の罹患率および死亡率の低下に有効である(グレードC)
(5) 心房細動
a. NVAFのある脳梗塞の二次予防では、ワルファリンが有効であり、INR 2.0-3.0が推奨される(グレードA)。b. わが国の70歳以上のNVAFのある脳梗塞またはTIAでは、INR 1.5-2.1が推奨されるが(グレードA)、出血性合併症を防ぐためINR 2.6を越えないことが推奨される(グレードB)。
(6) 卵円孔開存
a. 卵円孔開存による奇異性脳塞栓症には、ワルファリンを第一選択とする根拠はない(グレードB)。b. 卵円孔開存による奇異性脳塞栓症には、卵円孔開存の外科的閉鎖術が推奨される(グレードC)。
(7) 高ヘマトクリット血症
a. 高ヘマトクリット血症の治療を行うことを考慮してもよいが、勧めるだけの十分な再発予防の科学的根拠がない(グレードC)。
(8) 高フィブリノゲン血症
a. 高フィブリノゲン血症の治療を行うことを考慮してもよいが、勧めるだけの十分な再発予防の科学的根拠がない(グレードC)。
(9) 抗リン脂質抗体症候群
a. 抗リン脂質抗体陽性者の脳梗塞の二次予防に、ワルファリンを第一選択とする根拠はない(グレードB)。b. 抗リン脂質抗体陽性者の脳梗塞の二次予防においてSLE合併例では副腎皮質ステロイドが推奨される(グレードC)。
(10) 高ホモシステイン血症
a. 高ホモシステイン血症には、葉酸の使用が有用である(グレードC)。
(11) 無症候性脳梗塞
a. 脳梗塞の二次予防では、降圧療法が推奨される(グレードC)。
(12) 動脈解離
a. 動脈解離に対する治療を行うことを考慮してもよいが、勧めるだけの十分な再発予防の科学的根拠がない(グレードC)。
(13) 先天性血栓性素因
a. 先天性血栓性素因に対する脳梗塞の二次予防では、INR 2.0-3.0のワルファリン療法などそれぞれの素因に応じた様々な治療法を行うことを考慮してもよいが、勧めるだけの十分な科学的根拠がない(グレードC)。
22.慢性期-抗血小板療法
【アテローム血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞】
a. 非心原性脳梗塞の再発予防のため、抗血小板薬の投与が推奨される(グレードA)。
b. 現段階でアテローム血栓性脳梗塞の二次予防上最も有効かつ出血性合併症などの副作用が少ない抗血小板療法(本邦で使用可能なもの)は、1)アスピリン 75~150 mg/日、2)アスピリン 50 mg/日とジピリダモール徐放剤(保険適応外)400 mg/日の併用、3)チクロピジン(副作用として好中球減少、血栓性血小板減少性紫斑病、肝機能障害など)、または4)クロピドグレル(本邦未承認)、である(グレードA)。
c. シロスタゾール(保険適応外)は、ラクナ梗塞の二次予防に対してevidenceを持つ初めての抗血小板薬である(グレードA)。
【心原性脳塞栓症】
a. 心原性脳塞栓症の再発予防は、特に禁忌が無い限り原則として抗凝固薬(ワーファリン)が第1選択となる(グレードA)。b. 本邦の心臓弁膜症を伴わない心房細動を有する脳梗塞例、特に高齢者ではINR 1.5-2.1を目標としたワルファリン投与が推奨される。ただし特に高齢者では、INR 2.6を越えるべきではない(グレードA)。
23.慢性期-抗凝固療法
a. NVAFのある脳梗塞またはTIAの二次予防では、ワルファリンが有効であり、INR 2.0-3.0が推奨される(グレードA)。 b. わが国の70歳以上のNVAFのある脳梗塞またはTIAでは、INR 1.5-2.1が推奨されるが(グレードA)、出血性合併症を防ぐためINR2.6を越えないことが推奨される(グレードB)。c. 人工弁のある患者では、INR 2.5-3.5が推奨される(グレードA)。
24.慢性期-脳代謝賦活薬、脳循環改善薬
a. 従来脳梗塞後遺症の軽減に頻用された脳循環代謝改善薬は、再評価により適応薬剤が大幅に減少しまた適応症も一部変更となった。従来の薬剤でもmeta-analysisを行えば有効との結論は出ているが、今後は症例や薬剤を十分選択する必要がある。
付記: 再評価の結果、脳梗塞後遺症の諸症状に対して保険適応を有する脳循環代謝改善薬は、ニセルゴリン、イブジラスト、酒石酸イフェンプロジルのみとなった。
25.慢性期-抗不安薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、筋弛緩薬、向精神薬、睡眠導入薬
a. Post-stroke depressionに対して、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を含む抗うつ薬の投与が推奨される(グレードB)。
26.慢性期-頸動脈内膜剥離術(CEA)
a. 症候性頸動脈高度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードA)。b. 症候性頸動脈中等度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードB)。 c. 無症候性頸動脈高度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードB)。d. 症候性頸動脈軽度狭窄あるいは無症候性中等度乃至軽度狭窄における頸動脈内膜剥離術を推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例の特殊な事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
26.慢性期-頸動脈内膜剥離術(CEA)
a. 症候性頸動脈高度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードA)。b. 症候性頸動脈中等度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードB)c. 無症候性頸動脈高度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードB)。d. 症候性頸動脈軽度狭窄あるいは無症候性中等度乃至軽度狭窄における頸動脈内膜剥離術を推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例の特殊な事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
27.慢性期-angioplastyとstenting
a. transluminal angioplasty / stentingを推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例
の特殊事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
28.慢性期-EC-IC bypass
a. EC-IC bypass術に関しては脳虚血症状再発の面からは、症候性内頚動脈および中大脳動脈閉塞あるいは狭窄症など広い疾患範囲で検討するとEC-IC bypass術を施行することを考慮してもよいが充分な科学的な根拠はない(グレードC)。b. しかし、上記疾患でもアセタゾラミドに対する脳血流増加率が低下している症例やPET上、脳酸素摂取率が亢進している症例では、脳虚血症状再発が有意に多く(グレードC)、今後、EC-IC bypass術は上記疾患における脳循環代謝量を有意に改善する可能性が期待される(グレードC)。c. 脳虚血症状再発の面からは、症候性椎骨脳底動脈閉塞性病変に対してEC-IC bypass術(浅側頭動脈上小脳動脈吻合術)を施行することを考慮してもよいが充分な科学的な根拠はない(グレードC)。
29.急性期リハビリテーション
a. 臨床的に安定している場合で重度から中等度の機能障害を認める患者では早期から集中的なリハビリテーションプログラムを順次離床から自立へ進めることが推奨される(グレードA)。
30.慢性期リハビリテーション
(1) 運動障害
a. 歩行訓練: 慢性期において歩行能力を改善させるための下肢筋力強化と歩行訓練は推奨される(グレードA)。b. バイオフィードバック: 筋収縮や関節アライメントの再教育に筋電図バイオフィードバックあるいは角度バイオフィードバックを用いた訓練は推奨される(グレードA)。c. 機能的電気刺激: 重度の運動障害に対して通常の訓練に追加して機能的電気刺激を行うことは上下肢の筋力を増強し歩行能力や上肢運動機能を改善させるので推奨される(グレードA)。d. 痙縮: 痙縮に対してdantrolene sodiumは推奨される(グレードA)。また高頻度の経皮的電気刺激(TENS)を痙縮の抑制のために行うことは推奨される(グレードB)。局所神経ブロック療法としてフェノールブロックやアルコールブロックは推奨されるが十分な科学的根拠はない(グレードC)。さらにボツリヌス毒素(保険適応外)によるブロックは推奨される(グレードB)。顕著な痙縮に対してbaclofenの髄注(保険適応外)は推奨される(グレードB)。e. 上肢機能訓練:日常的に麻痺側上肢の使用を促すことや課題を含む積極的な訓練プログラムを繰り返すことは推奨される(グレードA)。
(2) 脳高次機能障害
a. 失語: 脳卒中後の失語でのコミュニケーション障害に対してコミュニケーション能力を改善する目的の訓練は推奨される(グレードB)。
b. 認知障害: 半側空間無視に対して視覚的cueを与えて訓練することや健側視野を遮蔽することあるいはフレスネルプリズムを使用することは推奨される(グレードB)。
(3) 嚥下障害
a. 嚥下障害を認める場合、機能を評価し患者や家族に対して嚥下指導を行うことは推奨される(グレードA)。b. 嚥下不能の場合、経皮内視鏡的胃瘻増設術(PEG)は経鼻胃管栄養より推奨される(グレードB)。
(4) 疼痛・浮腫
a. 肩関節の疼痛に対して通常の経皮的電気刺激(TENS)の効果に関して十分な科学的根拠がない(グレードC)。 b. 肩関節の疼痛に対してテーピングによる固定は推奨できない(グレードD)。 c. 肩関節の疼痛に対してステロイドの関節注射の長期的効果に関しては十分な科学的根拠がない(グレードC)。d. 上肢の浮腫に対して間欠的圧迫治療は推奨できない(グレードD)。
(5) リハビリテーション病棟
a. 中等度以上の機能障害を認める患者に対して一般病棟や老人病棟で治療するよりも脳卒中を中心としたリハビリテーション病棟で治療することが推奨される(グレードA)。
(6) 退院直後の在宅指導
a. 在宅訓練指導は外来訓練あるいはデイホスピタルでの訓練と同様に考慮することが推奨される(グレードB)。b. 介護者に脳卒中に関する情報を提供することは推奨される(グレードB)。
一般向け“脳梗塞とはどんな病気"と題する解説書を作成した。
章立ては、1. 脳梗塞とはどんな病気か 2. 脳梗塞はどんな人がなりやすいか 3. 脳梗塞は若い人に起こるか 4. 日本人の脳梗塞の変遷 5. 脳梗塞の症状6. 脳梗塞はどのように診断されるか 7. 脳梗塞はどのように対応するか 8. 脳梗塞発作後の早期の治療 9. 脳梗塞慢性期の管理 10. 脳梗塞慢性期の外科的治療 11. 脳梗塞の後の痴呆を防ぐには 12. 脳梗塞の予後 13. 脳梗塞のリハビリテーション 14. 脳梗塞後遺症患者の在宅・社会システム、であり、出来るだけ図、表を加えた。
考察=
現時点での脳梗塞治療に関するガイドライン、および一般向け脳梗塞解説書を作成することができた。
推奨に関しては、エビデンスレベルのみでなく臨床的有用性などの点も加味し記載した。このガイドラインは、複数の脳卒中治療・予防・リハビリテーションの専門家により推敲を重ねたものであるが、今後、さらに多くに臨床医により吟味・評価されより良いものに改訂される必要がある。
本年度は、さらに一般向け脳梗塞解説書も作成した。一般の方の脳梗塞理解の一助になれば幸いである。
本年度は、このガイドラインをUMIN「大学病院医療情報ネットワークセンター」のホームページに掲載した。
以下に昨年度までに作成したガイドラインの各項目別の推奨を示す。
01.急性期-呼吸管理
a. 脳卒中急性期で意識障害が進んでいる患者に対しては、気道確保や人工呼吸管理を考慮する(グレードB)。b. 低酸素症の患者に対しては酸素の投与が必要である(グレードB)。c. 軽症から中等症の脳卒中の患者に対して、ルーチンに酸素投与をすることが有効であるとする根拠はない(グレードC)。
02.急性期-循環管理
a. 脳梗塞急性期は、解離性大動脈瘤、急性心筋梗塞、高血圧性脳症などを合併していない限り原則的に降圧療法は推奨できない(グレードC)。b. 収縮期血圧220mmHg以上、または拡張期血圧121mmHg以上、または平均血圧130mmHg以上の過度の高血圧では点滴による降圧療法を考慮する(グレードC)。c. 血栓溶解療法を予定する患者では、一定のレベルまで降圧することが推奨される(グレードB)
03.急性期-対症療法
a. 脳梗塞に伴う頭痛は非ステロイド系消炎鎮痛薬の経口投与を行うことで対応できる。中等度以上の頭痛ではジクロフェナク坐薬やペンタゾシンなどを用いてもよい(グレードC)。04.急性期-安静と早期離床
a. 脳卒中急性期の治療とリハビリテーションなどを専門的に一体となって行う脳卒中ケアユニットは、急性期の治療に推奨される(グレードB)。
05.急性期-輸液、栄養補給
a . 高血糖または低血糖は是正すべきである(グレードB)。b. 低栄養が認められる例では、十分なカロリーや蛋白質を補給することが推奨される(グレードB)。
06.急性期-合併症対策
a. 脳卒中急性期のけいれん発作には抗てんかん薬を使用するが、長期投与の必要はない(グレードC)。脳卒中発症後14日以上経ってから初回のけいれんがおこった例では抗てんかん薬の継続投与が推奨される(グレードB)。b.下肢の麻痺がある症例では深部静脈血栓症、肺塞栓症の予防に低用量ヘパリン療法、または低分子ヘパリン療法が推奨される(グレードB)。c. デキストランは深部静脈血栓症予防に推奨できない(グレードD)。d. 段階的弾性ストッキングを静脈血栓症予防に行うことの有効性は証明されていない(グレードC)。e. 嚥下障害による誤嚥性肺炎の予防には、レボドパ、アマンタジン、ACE阻害薬(いずれも保険適応外)が有用である(グレードC)。f. 急性期から理学療法や深呼吸などを積極的に行うことは、肺炎の発症を少なくするために推奨される(グレードB)。g. 麻痺側の偽痛風を含めた無菌性関節炎の治療には非ステロイド系消炎鎮痛薬、またはステロイドの関節内投与や筋注が用いられるが、後者の方がより有用である(グレードB)。h. 重症例では特に消化管出血の合併に注意をし、抗潰瘍剤の投与が推奨される(グレードB)。i. 脳卒中急性期の中枢性高熱は治療すべきである(グレードB)。j. 感染症を合併した場合は、適切な抗生物質等で治療すべきである(グレードB)。k. 麻痺側の肩の痛みに対しては今のところ推奨される治療法に乏しい(グレードC)。l.脳卒中によっておこる痛みやうつ病、不安などは残存する事が多く、長期的な治療が必要である(グレードB)。
07.急性期-抗浮腫療法
a. 高張グリセロール静脈内投与は、頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳梗塞の急性期に推奨される(グレードB)。b. マンニトールは脳梗塞の急性期に有効とする明確な根拠はない(グレードC)。
08.急性期-血栓溶解療法(i.v.)
a. 組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA、保険適用外)の静脈内投与は、経験を積んだ専門医師が適切な設備を有する施設で、適応基準(脳梗塞発症3時間以内、CTで早期虚血所見がない、など)を十分に遵守して行う場合、脳梗塞急性期の治療法として有効性が期待される(グレードA)。ただし、上記の条件を満たさない場合、予後を悪化させる可能性があるため、その使用は専門的施設で行われるべきである。b. 低用量(60,000単位/日)ウロキナーゼの点滴投与は、急性期(5日以内)の脳血栓症患者の治療法として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。c. ストレプトキナーゼ(保険適用外)の静脈内投与は、脳梗塞の急性期に行わないよう勧められる(グレードD)。
09.急性期-血栓溶解療法(i.a.)
a. 神経脱落症状を有する中大脳動脈塞栓性閉塞においては、来院時の症状が軽症から中等症で、CT上梗塞巣を認めず、発症から6時間以内に治療開始が可能な症例に対しては遺伝子組み換え型プロウロキナーゼ(r-proUK: 未承認薬)による経動脈的な選択的局所線溶療法が推奨される(グレードB)。
b. しかし、上記の条件下であっても総頚動脈あるいは内頚動脈などの脳主幹動脈からの線溶剤の動注は考慮しても良いが十分な科学的な根拠がない(グレードC)。また、SPECT等での脳血流量を測定した場合、相対的残存血流量が35%未満の症例においては再開通後に脳内出血を形成する可能性があるため、線溶療法は推奨されない(グレードD)。
10.急性期-抗凝固療法
a. 発症48時間以内の虚血性脳卒中ではヘパリンが有用であるとする科学的根拠がない(グレードC)。b. 虚血性脳卒中急性期に低分子ヘパリン(保険適応外)、ヘパリノイド(未承認)は有用とする明確な科学的根拠はない(グレードC)。c. 発症48時間以内のアテローム血栓性脳梗塞に選択的トロンビン阻害薬のアルガトロバンが推奨される
(グレードB)。
11.急性期-抗血小板療法
a. アスピリン160~300mg/日の経口投与は、発症早期(48時間以内)の脳梗塞患者の治療法として推奨される(グレードA)。b. オザグレル160mg/日の点滴投与は、急性期(発症5日以内)の脳血栓症患者の治療法として推奨される(グレードB)。
12.急性期-血液希釈療法
a. 血漿増量剤を用いた血液希釈療法は、脳梗塞急性期の治療として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。b. 外循環を用いた血液希釈療法は、脳梗塞急性期の治療として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。
13.急性期-フィブリノーゲン低下薬
a. ancrod(未承認)の検討が進んでいるが、臨床に応用できる段階ではない。
14.急性期-ステロイド療法
a. 副腎皮質ホルモンは虚血性脳卒中急性期に有効とする明確な科学的根拠はない(グレードC)。
15.急性期-脳保護薬
a. 脳保護作用が期待される薬剤の投与は、脳梗塞急性期の治療法として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。
付記: エダラボン(抗酸化薬)の静脈内投与は、国内第III相試験において、脳梗塞急性期(発症72時間以内)患者の予後改善に有効性が示され、層別解析でより有効性が高かった発症24時間以内の脳梗塞患者の治療法として、本邦での使用が認可されている(社内資料、論文投稿中)。
16.急性期-低体温療法
a. 低体温療法は、脳梗塞急性期の治療法として行うよう勧めるだけの根拠が明確でない(グレードC)。b. 解熱薬を用いた平温療法は、脳梗塞急性期の治療法として行うよう勧め
るだけの根拠が明確でない(グレードC)。
17.急性期-高圧酸素療法
a. 虚血性脳卒中急性期患者に対して高圧酸素療法を勧めるだけの根拠がない(グレードC)。18.急性期-開頭外減圧術
◆小脳梗塞
a. 小脳梗塞においては意識が清明でかつ、CT所見でも水頭症や脳幹部への圧迫所見がない症例では保存的治療が推奨される(グレードB)。これに対しCT所見上、水頭症を認め、水頭症による混迷など中等度の意識障害を来している症例に対しては脳室ドレナージが推奨される(グレードB)。また、CT所見上、脳幹部圧迫を認め、これにより昏睡など重度の意識障害を来している症例に対しては減圧開頭術が推奨される(グレードB)。
◆中大脳動脈灌流域を含む一側大脳半球梗塞
a. 中大脳動脈灌流域を含む一側大脳半球梗塞においては70歳未満でかつ、抗浸透圧利尿剤および降圧剤など保存的治療を施行しても進行性の意識障害を有し、CT所見で明かな脳幹部への圧迫所見を認める症例に対しては、救命を目的とした時、発症24時間以内に硬膜形成をともなう外減圧術が推奨される(グレードC)。
19.急性期-緊急頸動脈内膜剥離術(CEA)
a. 急性期頸動脈内膜剥離術を推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例の特殊事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
20.急性期-angioplastyとstenting
a. transluminal angioplasty / stentingを推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例の特殊事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
21.慢性期-危険因子の発見と予防
(1) 高血圧
a. 脳梗塞の二次予防では、降圧療法が推奨される(グレードA)。
(2) 糖尿病
a. 脳卒中の一次予防では血糖値のコントロールよりも高血圧のコントロールが有効であるが、二次予防では報告はないが糖尿病のコントロールが推奨される(グレードC)。
(3) 高脂血症
a. 脳卒中の一次予防ではプラバスタチン、シンバスタチン、ゲムフィブロジルが有効であるが、二次予防では報告はないが高脂血症のコントロールが推奨される(グレードC)。
(4) 喫煙
a. 禁煙は、脳卒中の罹患率および死亡率の低下に有効である(グレードC)
(5) 心房細動
a. NVAFのある脳梗塞の二次予防では、ワルファリンが有効であり、INR 2.0-3.0が推奨される(グレードA)。b. わが国の70歳以上のNVAFのある脳梗塞またはTIAでは、INR 1.5-2.1が推奨されるが(グレードA)、出血性合併症を防ぐためINR 2.6を越えないことが推奨される(グレードB)。
(6) 卵円孔開存
a. 卵円孔開存による奇異性脳塞栓症には、ワルファリンを第一選択とする根拠はない(グレードB)。b. 卵円孔開存による奇異性脳塞栓症には、卵円孔開存の外科的閉鎖術が推奨される(グレードC)。
(7) 高ヘマトクリット血症
a. 高ヘマトクリット血症の治療を行うことを考慮してもよいが、勧めるだけの十分な再発予防の科学的根拠がない(グレードC)。
(8) 高フィブリノゲン血症
a. 高フィブリノゲン血症の治療を行うことを考慮してもよいが、勧めるだけの十分な再発予防の科学的根拠がない(グレードC)。
(9) 抗リン脂質抗体症候群
a. 抗リン脂質抗体陽性者の脳梗塞の二次予防に、ワルファリンを第一選択とする根拠はない(グレードB)。b. 抗リン脂質抗体陽性者の脳梗塞の二次予防においてSLE合併例では副腎皮質ステロイドが推奨される(グレードC)。
(10) 高ホモシステイン血症
a. 高ホモシステイン血症には、葉酸の使用が有用である(グレードC)。
(11) 無症候性脳梗塞
a. 脳梗塞の二次予防では、降圧療法が推奨される(グレードC)。
(12) 動脈解離
a. 動脈解離に対する治療を行うことを考慮してもよいが、勧めるだけの十分な再発予防の科学的根拠がない(グレードC)。
(13) 先天性血栓性素因
a. 先天性血栓性素因に対する脳梗塞の二次予防では、INR 2.0-3.0のワルファリン療法などそれぞれの素因に応じた様々な治療法を行うことを考慮してもよいが、勧めるだけの十分な科学的根拠がない(グレードC)。
22.慢性期-抗血小板療法
【アテローム血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞】
a. 非心原性脳梗塞の再発予防のため、抗血小板薬の投与が推奨される(グレードA)。
b. 現段階でアテローム血栓性脳梗塞の二次予防上最も有効かつ出血性合併症などの副作用が少ない抗血小板療法(本邦で使用可能なもの)は、1)アスピリン 75~150 mg/日、2)アスピリン 50 mg/日とジピリダモール徐放剤(保険適応外)400 mg/日の併用、3)チクロピジン(副作用として好中球減少、血栓性血小板減少性紫斑病、肝機能障害など)、または4)クロピドグレル(本邦未承認)、である(グレードA)。
c. シロスタゾール(保険適応外)は、ラクナ梗塞の二次予防に対してevidenceを持つ初めての抗血小板薬である(グレードA)。
【心原性脳塞栓症】
a. 心原性脳塞栓症の再発予防は、特に禁忌が無い限り原則として抗凝固薬(ワーファリン)が第1選択となる(グレードA)。b. 本邦の心臓弁膜症を伴わない心房細動を有する脳梗塞例、特に高齢者ではINR 1.5-2.1を目標としたワルファリン投与が推奨される。ただし特に高齢者では、INR 2.6を越えるべきではない(グレードA)。
23.慢性期-抗凝固療法
a. NVAFのある脳梗塞またはTIAの二次予防では、ワルファリンが有効であり、INR 2.0-3.0が推奨される(グレードA)。 b. わが国の70歳以上のNVAFのある脳梗塞またはTIAでは、INR 1.5-2.1が推奨されるが(グレードA)、出血性合併症を防ぐためINR2.6を越えないことが推奨される(グレードB)。c. 人工弁のある患者では、INR 2.5-3.5が推奨される(グレードA)。
24.慢性期-脳代謝賦活薬、脳循環改善薬
a. 従来脳梗塞後遺症の軽減に頻用された脳循環代謝改善薬は、再評価により適応薬剤が大幅に減少しまた適応症も一部変更となった。従来の薬剤でもmeta-analysisを行えば有効との結論は出ているが、今後は症例や薬剤を十分選択する必要がある。
付記: 再評価の結果、脳梗塞後遺症の諸症状に対して保険適応を有する脳循環代謝改善薬は、ニセルゴリン、イブジラスト、酒石酸イフェンプロジルのみとなった。
25.慢性期-抗不安薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、筋弛緩薬、向精神薬、睡眠導入薬
a. Post-stroke depressionに対して、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を含む抗うつ薬の投与が推奨される(グレードB)。
26.慢性期-頸動脈内膜剥離術(CEA)
a. 症候性頸動脈高度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードA)。b. 症候性頸動脈中等度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードB)。 c. 無症候性頸動脈高度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードB)。d. 症候性頸動脈軽度狭窄あるいは無症候性中等度乃至軽度狭窄における頸動脈内膜剥離術を推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例の特殊な事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
26.慢性期-頸動脈内膜剥離術(CEA)
a. 症候性頸動脈高度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードA)。b. 症候性頸動脈中等度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードB)c. 無症候性頸動脈高度狭窄では、抗血小板療法を含むoptimal medical careに加えて、手術及び周術期管理に熟達した施設において頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される(グレードB)。d. 症候性頸動脈軽度狭窄あるいは無症候性中等度乃至軽度狭窄における頸動脈内膜剥離術を推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例の特殊な事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
27.慢性期-angioplastyとstenting
a. transluminal angioplasty / stentingを推奨する根拠は明らかではなく、その適応は症例
の特殊事情に応じて検討すべきである(グレードC)。
28.慢性期-EC-IC bypass
a. EC-IC bypass術に関しては脳虚血症状再発の面からは、症候性内頚動脈および中大脳動脈閉塞あるいは狭窄症など広い疾患範囲で検討するとEC-IC bypass術を施行することを考慮してもよいが充分な科学的な根拠はない(グレードC)。b. しかし、上記疾患でもアセタゾラミドに対する脳血流増加率が低下している症例やPET上、脳酸素摂取率が亢進している症例では、脳虚血症状再発が有意に多く(グレードC)、今後、EC-IC bypass術は上記疾患における脳循環代謝量を有意に改善する可能性が期待される(グレードC)。c. 脳虚血症状再発の面からは、症候性椎骨脳底動脈閉塞性病変に対してEC-IC bypass術(浅側頭動脈上小脳動脈吻合術)を施行することを考慮してもよいが充分な科学的な根拠はない(グレードC)。
29.急性期リハビリテーション
a. 臨床的に安定している場合で重度から中等度の機能障害を認める患者では早期から集中的なリハビリテーションプログラムを順次離床から自立へ進めることが推奨される(グレードA)。
30.慢性期リハビリテーション
(1) 運動障害
a. 歩行訓練: 慢性期において歩行能力を改善させるための下肢筋力強化と歩行訓練は推奨される(グレードA)。b. バイオフィードバック: 筋収縮や関節アライメントの再教育に筋電図バイオフィードバックあるいは角度バイオフィードバックを用いた訓練は推奨される(グレードA)。c. 機能的電気刺激: 重度の運動障害に対して通常の訓練に追加して機能的電気刺激を行うことは上下肢の筋力を増強し歩行能力や上肢運動機能を改善させるので推奨される(グレードA)。d. 痙縮: 痙縮に対してdantrolene sodiumは推奨される(グレードA)。また高頻度の経皮的電気刺激(TENS)を痙縮の抑制のために行うことは推奨される(グレードB)。局所神経ブロック療法としてフェノールブロックやアルコールブロックは推奨されるが十分な科学的根拠はない(グレードC)。さらにボツリヌス毒素(保険適応外)によるブロックは推奨される(グレードB)。顕著な痙縮に対してbaclofenの髄注(保険適応外)は推奨される(グレードB)。e. 上肢機能訓練:日常的に麻痺側上肢の使用を促すことや課題を含む積極的な訓練プログラムを繰り返すことは推奨される(グレードA)。
(2) 脳高次機能障害
a. 失語: 脳卒中後の失語でのコミュニケーション障害に対してコミュニケーション能力を改善する目的の訓練は推奨される(グレードB)。
b. 認知障害: 半側空間無視に対して視覚的cueを与えて訓練することや健側視野を遮蔽することあるいはフレスネルプリズムを使用することは推奨される(グレードB)。
(3) 嚥下障害
a. 嚥下障害を認める場合、機能を評価し患者や家族に対して嚥下指導を行うことは推奨される(グレードA)。b. 嚥下不能の場合、経皮内視鏡的胃瘻増設術(PEG)は経鼻胃管栄養より推奨される(グレードB)。
(4) 疼痛・浮腫
a. 肩関節の疼痛に対して通常の経皮的電気刺激(TENS)の効果に関して十分な科学的根拠がない(グレードC)。 b. 肩関節の疼痛に対してテーピングによる固定は推奨できない(グレードD)。 c. 肩関節の疼痛に対してステロイドの関節注射の長期的効果に関しては十分な科学的根拠がない(グレードC)。d. 上肢の浮腫に対して間欠的圧迫治療は推奨できない(グレードD)。
(5) リハビリテーション病棟
a. 中等度以上の機能障害を認める患者に対して一般病棟や老人病棟で治療するよりも脳卒中を中心としたリハビリテーション病棟で治療することが推奨される(グレードA)。
(6) 退院直後の在宅指導
a. 在宅訓練指導は外来訓練あるいはデイホスピタルでの訓練と同様に考慮することが推奨される(グレードB)。b. 介護者に脳卒中に関する情報を提供することは推奨される(グレードB)。
一般向け“脳梗塞とはどんな病気"と題する解説書を作成した。
章立ては、1. 脳梗塞とはどんな病気か 2. 脳梗塞はどんな人がなりやすいか 3. 脳梗塞は若い人に起こるか 4. 日本人の脳梗塞の変遷 5. 脳梗塞の症状6. 脳梗塞はどのように診断されるか 7. 脳梗塞はどのように対応するか 8. 脳梗塞発作後の早期の治療 9. 脳梗塞慢性期の管理 10. 脳梗塞慢性期の外科的治療 11. 脳梗塞の後の痴呆を防ぐには 12. 脳梗塞の予後 13. 脳梗塞のリハビリテーション 14. 脳梗塞後遺症患者の在宅・社会システム、であり、出来るだけ図、表を加えた。
考察=
現時点での脳梗塞治療に関するガイドライン、および一般向け脳梗塞解説書を作成することができた。
推奨に関しては、エビデンスレベルのみでなく臨床的有用性などの点も加味し記載した。このガイドラインは、複数の脳卒中治療・予防・リハビリテーションの専門家により推敲を重ねたものであるが、今後、さらに多くに臨床医により吟味・評価されより良いものに改訂される必要がある。
本年度は、さらに一般向け脳梗塞解説書も作成した。一般の方の脳梗塞理解の一助になれば幸いである。
結論
脳梗塞の治療ガイドラインを、科学的情報を現時点での我々が収集しうる限り収集し、急性期治療、慢性期治療、リハビリテーションに大別し作成した。さらに、一般向けに脳梗塞解説書をガイドラインの内容を含め作成した。
公開日・更新日
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