臨床研修指定病院における研修医向けリスクマネジメント教育システムの研究開発

文献情報

文献番号
200201328A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床研修指定病院における研修医向けリスクマネジメント教育システムの研究開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 廸生(横浜市立大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山美知子(厚生労働省看護研修研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療安全推進のための教育・研修システムの開発研究として、本研究は、主に研修医と看護師の研修・教育に利用できる教育ツールを開発方策を検討するのが目的である。また、より広範に医療安全教育のあり方について検討する目的で、医療安全教育の現状について、米国の看護職教育とわが国における医歯学教育カリキュラムの現況について調査を行い、医療安全教育のプログラムについて検討する(橋本班)。また、看護基礎教育に適した看護・医療事故予防のために、シミュレーション教材の開発、およびその教材を用いた教育方法の効果を明らかにする(丸山班)。
研究方法
研修医、看護師を対象とした医療安全教育用の教材(教育用ツール)は、ソフトウェア開発に精通した事業者との協力を得て開発を行うプロセスのなかでその基本的な方策について検討した。臨床研修医の医療安全教育の要点と医療安全管理上配慮すべき点についての調査については、卒前教育として医学部・歯学部において医療安全教育・リスクマネジメント教育がどの程度実践されているか検討する。またアメリカの看護教育についても検討し、これらの結果に基づいて医療安全教育のプログラムについて検討する(橋本班)。看護基礎教育における事故予防のためのシミュレーション教材の開発とその効果の検証については、シミュレーション教材をまず試案し、教材を用いた教育方法について検討する。効果の検証は、実験群と対照群の2群に分けた4施設の看護学生を対象として、実験的にシミュレーション教材を用いた授業を計画し、その効果について、臨地実習体験前後の認知調査により検証する。
結果と考察
研修医の研修に役立つ教材開発については、人工呼吸管理・人工呼吸器の教育ツールの開発方策を検討することとし、教育用ツールの基本コンセプトを検討し、設計・開発(試作段階)を行った。医学部の医療安全教育の卒前教育の取り組みの現況については、平成13年度から継続して調査を行っている。今年度は更に、歯学部、看護学科を対象としたカリキュラムなどに関するアンケート調査を実施し、医療専門職の卒前教育で取り組むべき課題を明らかにした。また、卒前教育の先進的な実践を行っている医学部の教育方法の事例を紹介し検討した。札幌医科大学医学部では、2001年より、リスクマネジメントの卒前教育を実施している。内容は、リスクマネジメントに関する基本知識の講義と、臨床現場でのグループワークとから構成されており、リスクマネジメントのメソッドの体得を目標としていた。海外の医療安全教育については、米国におけるリスクマネジメント、特に患者安全(patient safety)をキーワードとして、看護におけるmalpracticeに関する研究や継続教育について事例を集め、先進的な取り組みが明らかにされた。研修医の医療安全教育のプログラムについては、上記の調査結果やヒアリングをもとに、プログラム構成の基本的な考え方を中心に、研修医が学ぶべき基本的な知識および技術、研修を進めていく上での留意点が抽出された(橋本班)。
看護学生に適したシミュレーション教材としては、「転倒・転落」の事故事例を取り上げた。看護学校養成所3年課程、2年生を対象として、学生のレディネスに合わせ具体的な事故要因や事故発生過程を設定し、模擬患者を用いたシミュレーションとして開発した。このシミュレーション教材を用いた教育方法は、シミュレーション・リフレクション体験のために必要な事故予防に関する知識の獲得、ヒヤリ・ハット、事故のシミュレーション、リフレクション(シミュレーション体験の振り返り)の一連からなり、時期・内容・方法など具体的な展開について明らかにした。開発した教育方法の効果の検証は、SRを体験した実験群(16名)と体験しない対照群(18名)の比較によっておこなった。認知レベルにおける効果の比較は質問紙による調査によっておこなった。行動レベルにおける効果の検証は、「シミュレーション教材を用いて学習した看護学生は、実習環境に潜む事故要因及び対処方法について予測をもって察知でき、事故を起こさないように行動をコントロールできる」という仮説を設定しておこなった。この仮説の検証は、臨地実習における事故対処行動に関する自己モニタリングの様相についての参加観察及び面接調査によって実施した。認知調査の結果では、事故要因・事故発生時の対処行動に関する記述数は、両群において有意差はなかった。しかし、実験群の記述内容には、具体的に患者要因が記述されている、患者の行動を予測して事故要因を予測している、事故発生時の看護者としての心理状況が具体的にイメージされているなどの特徴があった。臨地実習における調査結果では、患者の移動、移乗の援助場面において、看護学生が事故要因を予測・判断して対処行動がとれているかについて両群に有意差が認められた。つまり、実験群は、事故予防についての自己モニタリングが働いており、危険因子を排除する行動をとっていることが明らかになった。この結果により、設定した仮説は検証され、開発したシミュレーション教材を用いた教育方法は看護学生の事故予防にとって有効であることが明らかになった(丸山班)。
結論
安全な医療提供のための実践的な研修・教育に有効な教育用ツールの開発では、人工呼吸器・呼吸管理の教育ツールを開発する際の基本コンセプトを検討し、設計・開発(試作段階)を行った。また、国内外の医療安全教育の現状を調査し、平成16年度からの臨床研修の必修化に向けて、研修医向けの医療安全教育のプログラムについて検討した。研修医が学ぶべき基本的な技術や、研修を進めていく上での留意点を抽出し、研修医に対する標準的な医療安全教育プログラムについて検討した。より具体的な研修内容(実習やロールプレイの内容)については、更に詳細に検討する余地があるが、実効性のある研修医向けの医療安全プログラム整備の一助となるであろう(橋本班)。
看護基礎教育における事故予防のためのシミュレーション教材の開発とその効果の検証については、シミュレーション教材をまず試案し、教材を用いた教育方法について検討した。その結果、認知調査の結果では、事故要因・事故発生時の対処行動に関する記述数は、実験群(SR体験群)と対照群で有意差はなかった。しかし、実験群の記述内容には、具体的に患者要因が記述されている、患者の行動を予測して事故要因を予測している、事故発生時の看護者としての心理状況が具体的にイメージされているなどの特徴があった。臨地実習における調査結果では、患者の移動、移乗の援助場面において、看護学生が事故要因を予測・判断して対処行動がとれているかについて両群に有意差が認められた。つまり、実験群は、事故予防についての自己モニタリングが働いており、危険因子を排除する行動をとっていることが明らかになった。この結果により、設定した仮説は検証され、開発したシミュレーション教材を用いた教育方法は看護学生の事故予防にとって有効であることが明らかになった(丸山班)。

公開日・更新日

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