病院からの医療事故関連情報の集積に向けた方法の確立とその分析による効果的な事故防止策の実施に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201326A
報告書区分
総括
研究課題名
病院からの医療事故関連情報の集積に向けた方法の確立とその分析による効果的な事故防止策の実施に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大道 久(財団法人日本医療機能評価機構)
研究分担者(所属機関)
  • 今中雄一(財団法人日本医療機能評価機構)
  • 寺崎仁(財団法人日本医療機能評価機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
25,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療事故の報道はなお続いており、医療への信頼を確保するためにも、事故防止に向けた有効な施策が強く求められている。多くの病院から医療事故情報や警鐘的な事例の提供を受け、それらの経験を病院間で共有するとともに、その分析に基いた効果的な防止策を検討する必要が指摘されている。
本研究は、医療の質を確保する上での基本である安全な医療を実現するために、病院における医療事故および警鐘的事例報告を集積する体制を構築し、集積された事例についての要因分析等から得られた効果的な事故防止策を医療の現場に還元して、病院における医療事故防止の徹底を図ろうとするものである。
日本医療機能評価機構は、学術的・中立的立場から病院機能の評価と改善支援の事業を展開している公益法人であり、医療事故関連情報を集積・分析し、有効な防止策を病院に還元して事故防止に貢献する役割を担うのに適当な組織といえる。医療の質向上に積極的に取り組んで同機構から認定証を取得した病院はすでに850余に達しており、さらに毎月増加している。本研究においては、まずこれらの認定病院の理解と協力を得て、医療事故または警鐘的事例についての情報提供を受けて、各々の事故の背景要因や根本原因を分析して有効な事故防止策を提示しようとするものである。このシステムが有効に機能すれば、認定病院以外からの参画も期待でき、国民の医療への信頼の確立に大きく寄与するものと考えられる。
研究方法
日本医療機能評価機構が認定した病院の中から、医療事故防止に熱心に取り組んでいる48病の管理者(病院長)と医療安全担当の実務責任者の2名が研究協力者の参画を得て「認定病院患者安全推進協議会」を組織した。また、この協議会の下に実務責任者による「実務者部会」を置いて実務的な検討の場とした。
本年度は5回の実務者部会と患者安全推進協議会総会1回が開催され、実務者部会では毎回小グループに分かれて課題ごとの検討が行われた。また、これらの部会・協議会の間に「専門部会」が会合を持ち、協議事項の調整や専門的事項の検討を適宜行った。この「専門部会」は、協議会で熱心な活動を展開する6病院から、医師・看護師・薬剤師のメンバーが参加し、医療安全の専門家、および日本医療機能評価機構の担当者が加わって構成された。本年度に、これらの部会で協議された事項は下記のとおりである。
1. 昨年度報告書の承認と当面の活動方針
・患者安全情報提供書と患者安全推進提案書による情報提供の開始
・小規模病院における患者安全の確保
・患者の安全確保の院内体制と標準医療安全マニュアルの作成について
2. 患者安全推進提案書の受け入れについて
・機構内担当部署の明確化と情報管理者の配置による情報システムの運用
・提案書の送付または情報通信の当面の方法と取りまとめの時期と方法
3. 専門部会の設置について
・構成員と運営の方法・手順について
・患者情報提供書の受け入れと相談・助言の方法について
4. 患者安全推進提案書の検討について
・提案書の提供状況とその構成
・個別課題の検討・協議の手順と取りまとめの方法
・「患者安全情報提供書」の扱いについて
5. 患者安全推進ジャーナルの発行
・経験の共有と情報還元の方法について
・当協議会の機関誌発行の必要性
・ジャーナルの編集方針と構成について
6. 患者安全推進協議会の今後の活動
・研究終了後の活動継続と提供された情報の法律的位置づけについて
・日本医療機能評価機構による事業化の必要性と活動の基盤について
・今後の事業計画案について
以上のような協議事項の検討を進める中で、次のようないくつかの具体的な活動の方向が明確になってきた。すなわち、①提供された各病院からの医療安全マニュアルなどを踏まえて「標準患者安全推進マニュアル」を取りまとめること、②提供された「患者安全推進提案書」・「患者安全情報提供書」の検討と分析、③「患者安全推進ジャーナル」の発行などによる情報の還元と経験の共有、④研究終了後に「患者安全推進事業」として活動を継続する場合の枠組みを示すこと、などである。ここでは、この4点について、それぞれの成果の概要を報告することにする。
この他に、小規模病院の医療安全の現状の把握、諸外国における医療事故報告システムなどの現況、医療事故関連情報の外部集積に伴う諸問題などの課題を検討する必要があると考えられたので、分担研究者と研究協力者から、それぞれの課題の検討結果について報告することにした。
結果と考察
当初から、医療事故に関連した情報を院外に提供することは、なかなか困難であることが見込まれていた。それは、事故情報が本来守秘性の高いものであり、その情報が事故の責任の判定や証拠として利用されることも危惧されたからである。しかし、「患者安全推進協議会」における参画病院の対応は情報提供に積極的であったということができる。
協議会においては、認定病院は医療の質について一定の水準を保持すべきであるとの観点から、医療事故を起こした場合には、審査組織に報告することは責務であるとする意見が出されるとともに、現実に医療事故を抱えて、患者・家族との対応に苦慮している事例が少なくない状況があり、病院の立場から妥当で円満な解決を図ろうとしても、相談すべき適切な機関がないことも背景にあるものと思われる。
医療事故に関する情報の集積による経験の共有は、事故防止に向けた効果的な予防策を知りたいという意向と、現に直面している医療事故に関する問題について的確な解決を図りたいとする要望も背景にあって、協議会や部会の活動が活発に行われ、ジャーナルの発行にまでに至ったと考えられる。
医療事故の経験を共有するためには、必ずしも個別の事例に即した情報を提供する必要はなく、これまでの経験を総括して、事故の発生場面の類別・種別に応じた「患者安全推進提案書」による情報提供が有効であることが明らかになったことは一つの成果である。また、対応に苦慮している事例や適切な助言を必要としている場合を含めて、個別の事例についての「患者安全情報提供書」もかなり寄せられたことは、医療安全の問題が深刻であるとともに、病院への適切な支援が強く求められていることを示していると考えられた。
本研究における活動を通じて、日本医療機能評価機構が、医療事故に関する情報を集積して、その原因を分析して広く病院に還元することにより事故防止を図ることについては、おおむねの合意と賛同が得られたものと考えられる。ただし、最近になって病院における医療事故の報告を規則により義務化することの論議が改めて行われており、今後の動向が注目される。報告先を第三者組織とすることや、報告することによる免責の是非などが論点となっているが、いずれにせよ、情報提供や報告が医療安全の確立のために適切に活用され、患者安全の推進を図ることが何より重要であることを確認しておきたい。
一方、病院から医療事故に関連したさまざまな問題について相談を受け、助言をすることについては、一定の要望があったが本活動が研究的側面を残しているところから今後の課題とされた。相談に直接対応するのは「専門部会」になるが、引き続いて具体的な相談・助言の体制の整備を充実して行くことが必要と考えられる。また、平成15年度より、国の事業として各都道府県に医療安全に関する相談窓口を設置し、患者・国民の側からの相談を受け入れることも開始されようとしており、今後は相互の適切な連携が図られる必要があろう。
本研究における取り組みで、患者安全推進協議会は「患者安全推進ジャーナル」を中心に情報の還元を行うことを試みたが、同ジャーナルを要望する声は認定病院のみならず、他の病院にも及んでいる。それぞれの病院で経験された改善策等の情報を共有することの重要性は明らかであるが、それぞれの病院においては安全管理上の様々な条件があり、提案された方策が他の病院でも同じような効果を発揮するとは限らない。重要なことは、ジャーナルで得た情報についてそれぞれの病院で改めて検討し、自院に有効に役立つように工夫を重ねて患者安全の推進に努めることであろうと思われる。
「患者安全推進協議会」の活動が、2年弱の研究期間を経て、日本医療機能評価機構の事業の一環として継続されることになったことは、本研究の第一の成果であるといってよい。患者の安全の確保は医療の質の基本を保証することであり、安全を脅かす要因は医療の質を確保する観点からも徹底して排除されなければならない。医療の質向上を第一義とする日本医療機能評価機構が、患者安全の推進に取り組むのは当然のことであり、医療事故関連の情報の集積とその分析による成果を病院に還元することを事業化したことは必然的な流れであろう。今後、多くの認定病院が協議会に参画して、患者安全推進に寄与することが期待される。
医療の質向上に向けた実証的な取り組みの中で、診療録や看護記録などの医療記録の点検と検証はもっとも基本的かつ本質的な方法である。医療の質向上を図る上での問題点を明らかにし、医療事故または有害事象の発生状況を把握する上でも、医療記録を検証することが必須となる。患者安全の推進を図るためのこれまでの検討においてもこの課題が認識されており、新たな研究課題として対応が求められつつある。事業化された後の「認定病院患者安全推進協議会」の研究的課題として、医療記録の点検と検証を掲げているのも、このような考え方があるためである。
結論
医療の質を確保する上での基本である安全な医療を実現するために、多くの病院で経験された医療事故および警鐘的事例に関する情報の提供を受け、その要因分析等から得られた効果的な事故防止策を病院に還元して医療事故防止に資するための体制の構築を図った。
日本医療機能評価機構の認定病院から、医療事故防止に熱心に取り組んでいる48病院の管理者(病院長)と医療安全担当の実務責任者の2名が研究協力者として本研究に参画し、「認定病院患者安全推進協議会」と実務責任者による「実務者部会」を置いて具体的な検討の場とした。
医療事故および警鐘的事例に関する情報の提供については、経験された医療事故から得られた教訓についての「患者安全推進提案書」135例、個別の事例に沿った情報である「患者安全情報提供書」40例について、手術・薬剤・検査などの基本区分とともに、発生場面を想定した類別化・種別化を行って、協議会の下の実務者部会におけるグループ討議に供された。また、協議会の下に、当協議会のなかの適任者、医療安全に関する専門家などにより構成される「専門部会」を設置し、提供された情報の分析と評価を行った。
情報の分析と評価の結果は、情報提供病院に報告・助言を行うとともに、「患者安全推進ジャーナル」を定期的に刊行して、認定病院のみならず広く一般の病院にも還元することとした。「認定病院患者安全推進協議会」の活動は、その意義と有効性が認められ、平成15年度より日本医療機能評価機構の事業として継続されることになった。認定病院は、今後は申請により協議会の会員病院となることができ、課題に応じた部会に参加して患者安全の推進に寄与することが期待されている。

公開日・更新日

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