病院内総合的患者安全マネジメントシステムの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201324A
報告書区分
総括
研究課題名
病院内総合的患者安全マネジメントシステムの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 辻 寧重(日鋼記念病院)
  • 原 洋子(亀田総合病院)
  • 近藤厚生(小牧市民病院)
  • 飯田修平(財団法人東京都医療保健協会・練馬総合病院・外科)
  • 堺 秀人(東海大学医学部)
  • 河北博文(河北総合病院)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
  • 宮崎久義(国立熊本病院)
  • 武者廣隆(国立千葉病院)
  • 相馬孝博(国立保健医療科学院)
  • 児玉安司(三宅坂総合法律事務所)
  • 武澤純(名古屋大学大学院)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部)
  • 河原和夫(東京医科歯科大学大学院)
  • 吉田道雄(熊本大学教育学部)
  • 平尾智広(香川医科大学)
  • 古田一雄(東京大学大学院)
  • 筧 淳夫(国立医療・病院管理研究所)
  • 加藤尚子(国際医療福祉大学)
  • 小出大介(国際医療福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
20,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1999年2月の横浜市立大学患者取り違え事件以来、医療事故が注目を浴びている。大きな課題であったが、この事件以降相次ぐ報道に、もはや国民的課題の観さえある。これは医療界ならびに関連のあらゆる業界が全力をあげて取り組むことによって、医療界が再び信頼を回復するための緊急の課題といえよう。事実関連のステーキホルダー(利害関係者)は次々とこの課題に反応し、活動を高めつつある。供給者である国立病院が1999年に事件直後既にリスクマネジメントマニュアルをまとめ、次いで国立大学病院グループ、全日病、日病、他の病院協会ほか多くの自治体病院がそれに続いている。専門家集団も医師会や看護協会を筆頭に薬剤師会、病院薬剤師協会等、それぞれの職種の立場からこの問題に提言を寄せている。教育が専門家の質や安全性に大きく影響することから大学や専門学校の養成機関の役割は大きい。薬品や医療機器等、これまでは物そのものの安全性が問われていた分野でも、さらに踏み込んだヒューマンファクターとの関係においてその安全性の見直しの必要性が問われている。法曹界においても安全性や損傷を受けた患者の権利の保護といった観点から、法制度の根本的な見直しが問われている。他産業においてもその品質管理・安全管理のノウハウを医学会に適用する動きが始まりつつある。なかでも日本政府は厚生労働省を中心に患者安全対策の戦略的策定から始まって規制の強化、診療報酬制度の改定、法制度の整備、患者安全研究の推進、情報の普及等、いわゆるPatient Safety Action(患者安全活動)のキャンペーンを展開しつつある。各関係者がそれぞれの場所で安全性に寄与し、実際にサービスを提供する施設や専門家の支えること、つまり国全体としての“安全文化"の醸成が必要といえる。中でも政府の役割は重要で、経済活動を規制緩和すればするほど社会的規制は強化する必要があるいわれている。ここでは、これらの課題への対策のため、理論的、実証的研究を行っていく。さらに研究の成果を「院内安全構築マニュアル」のかたちでまとめることを目的とする。
研究方法
1.総論-まず、研究の前段階として医療事故の実態の観察、法制度のあり方など今日の医療事故、そして医療安全をめぐるわが国の状況、世界の現状を整理する。さらに、同時に「リスク」や「エラー」の管理のために現在提起されているアイディアを紹介する。2.「院内安全構築マニュアル」作成準備-重要な危険領域として誤薬・輸血・院内感染・人工呼吸器・出産・手術・転倒・麻酔・ICUにつき、分担グループを立ち上げ、「安全構築マニュアル」のための工程表を作成する。3.国外調査-調査対象国を特定し、かつ重要な論点に関してこれまでのデータを元に分析を行った。またアメリカ、オーストラリア、フランス、シンガポール、台湾、WHOなどにおいて現地調査を行い、各国ごとの政策上の論点をより明確にする。
結果と考察
1.総論-まずは公的病院も含めて所有と経営の分離が必要である。経営と所有と
分離することによって、まずは権限が現場に移行され、従って経営責任が発生する。その経営責任の元に各病院は経営戦略を策定することによって初めて経営が可能となるといえよう。そして、従来の自然発生的な診療の単位や、庶務課・会計・医事課といった事務部門を横に統括するマトリックス的な組織として、企画・連携・質と安全といった組織が必要となるのではなかろうか。大きな観点からいくと院内安全システムの構築は、いわば病院の経営を根本的に変えるための戦略的な入り口、突破口となりうるのではなかろうか。院内安全構築総論としては、基本構想として、院内患者安全システム構築を三段階でとらえ、これを病院首脳部及び安全対策部門に徹底すべくマニュアル作成中である。すなわち事故及びニアミス事例の報告をもとに、根本原因分析法により、根本原因を究明し、次回の事故を防止する第一段階、事故頻度の高い危険領域をいくつか策定し、失敗モード影響分析法により、(想定された)事故を未然に防ぐ第二段階、さらにこれらを医療の質の要素と考え、統合的マネジメントを行う第3段階である。経験をつむに従い、第1段階の比率は相対的に低下するがなくなることはない。また、この第3段階の背景として、医療安全の世界的潮流の研究とともに、概念と用語の定義も併せて詳述している。各論の研究に際して、危険領域として、誤薬、輸血、出産、手術、麻酔、転倒、院内感染、人工呼吸器を選択し、それぞれ小班を立ち上げた。誤薬は支持者からの(患者への)執行者で距離があり複雑であり、各分析法による事例分析をもとに(事故予防のための)システム構築に必要な要素を分類・整理した。これをマニュアルの叩き台として協力病院による試問と評価を計画中である。輸血は、事例分析がほぼ終了に向かい、輸血学会後にマニュアル化すべく検討が進められている。出産は、経営工学専門家の参画により、失敗故障モード影響分析が綿密に行われ、さらに重み付けを加える最終段階に近づいている。手術は工程一覧を明らかにして、経営工学専門家の参画する段階を迎えつつあるが工程を一本化か複数化にするかによって、完成時期が異なってくる。麻酔はチーム選定中である。転倒は患者/システム・環境の因子に分け、原因が多岐にわたるため前者はチームを複数化し、後者については当院施設科学部にて検討中である。2.「院内安全構築マニュアル」-各分担グループを固定したあとで、グループごとの研究を行った。最も頻度が高い誤薬については、米国医薬安全研究所の最新成果を踏まえ、より安全性の高い誤薬予防システムを導入できるようにマニュアル化が進め、パイロットテストスタディに着手した。輸血・院内感染は,総括作業に入り、パイロットテストに向けた活動をおこなっている.出産・手術は,主としてFMEAを用いた分析手法による研究が進んでおり、転倒は、さらに施設環境とヒューマンファクターの小班に分けて研究を行った。3.国外調査-2年目の国外調査として、前年度の13カ国調査により、明確になった論点に関する、より詳細な検討を行った。特に世界各国の中でもとくに英、米、豪三カ国における医療安全対策の政策に関する詳細な比較検討を試みた。とりわけ医療事故報告制度、第三者機関のあり方、医療事故防止のためのIT技術の活用、医療事故に関する苦情処理のあり方、補償制度などであり、これらの論点に関して検討を行った。また現地調査としてオーストラリア、アメリカ、フランス、シンガポール、台湾およびWHOにおいてより詳細な調査をおこなった。海外の医療事故疫学調査の現状に関しては医療サービスに伴う有害事象に関する調査方法は、1.カルテなどの記録のレビュー、2.前向き観察(民俗誌的観察)、3.既存のデータ、ルーチンに収集されるデータの分析、4.インタビューや調査票を用いたサーベイ、5.報告システムの5つあり、米国、豪州、NZ、英国で行われた調査はいずれも後ろ向きレビューで現段階のゴールドスタンダードとなっており、最近フランスで行われた3法の比較研究では、コストは4割増しながら前向きレビューが最も効果的と結論付けられている
ことが判明した。さらに米国AHRQによって示された、安全指標の分析とその妥当性を検討しかつ日本での応用可能性を検討した。
結論

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研究報告書(紙媒体)

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