看護有資格者の就業動態とその影響要因の地域性と一般性に関する研究

文献情報

文献番号
200201322A
報告書区分
総括
研究課題名
看護有資格者の就業動態とその影響要因の地域性と一般性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
前田 樹海(長野県看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 太田勝正(長野県看護大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療の担い手となる若年世代人口の減少化傾向を背景として、平成4年12月に告示された「看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」では、看護職不足を新規養成だけで解決するには限界があり、離職防止対策や再就業促進対策が重要であるとの考え方が示されている。しかしながらわが国の看護師等に関する統計は従事者を対象とした静態調査であるため、看護有資格者の離就職にかかわる就業動態を把握・評価することは困難である。加えて、看護職として働いていない看護有資格者(以下潜在有資格者)については、そもそもそのような集団にアクセスする方法すらなく、潜在有資格者のキャリアスタイルの実態はおろか、離職防止対策や再就業促進を把握・評価する仕組みがないという不都合がある。本研究の目的は、潜在有資格者のキャリアスタイルの特性を記述することである。
すでに、平成13年度の当該研究事業にて、長野県内2医療圏で購読されている全新聞に潜在有資格者を対象とした調査票を折り込み、回答者の近況および連絡先に関する情報を得た(n=132)。平成14年度研究事業として行なったもののうち、1)これら潜在有資格者の詳細な就業履歴の分析および、2)折り込みチラシ調査1年後のフォローアップ調査、3)1年ごとの免許更新によって看護有資格者の就業動態に関するデータ収集を行なっているカナダ国オンタリオ州におけるヒアリング調査の結果について報告する。
研究方法
1)調査対象は新聞折り込みチラシ調査において、詳細な就業履歴調査に対して協力の意思表示の得られた115名。調査内容は、学歴、職歴等に関していつからいつまで、どこでどのような身分であったかなど、履歴書に準じた内容。マークシート式の調査票に記入後、料金受取人払郵便の封筒で返送してもらった。回答は厳封して個別郵送方式とし、個人情報の保護に努めた。
2)1)のマークシート調査で追跡調査に協力してもよいと回答した潜在有資格者83名に対し、研究班の活動報告やいままでの研究の成果などを記したA4版8ページのニュースレターとともに、はがき大の調査票を同封し、連絡先変更の有無、現在の就業状況、勤務場所、前回の調査以降ここ1年間の就業状況の変化についてファクスもしくは料金受取人払郵便にて返信を依頼した。
1)2)のいずれの調査においても、返送された調査票は、研究者により厳重に管理され、データの入力などもすべて研究者自らが実施するなどの倫理上の配慮を行なった。分析には統計解析パッケージJMP5.0.1J for Macintoshを使用した。
3)オンタリオ州の看護免許の登録・管理を行なっているCNO(College of Nurses of Ontario)およびオンタリオ州の看護人的資源の問題について政府のプロジェクトとして継続的に研究を実施しているNRU(Nursing Effectiveness, Utilization, and Outcome Research Unit)において、オンタリオ州の看護免許管理制度とそれに伴う登録情報の活用状況を中心としたヒアリング調査を実施。
結果と考察
1)115名中、91名(79%)から回答を得た。回答者の年齢は平均37.3±10.5歳、範囲は21歳から69歳であり、30歳代をピークとする単峰型の年齢分布を示した。看護有資格者としての期間は平均17.3±10.5年であり、看護職としての就業期間は平均10.5±7.8年であった。教育背景はレギュラーコース64名、准看学校のみ13名、進学コース14名であった。回答者91名中90名が看護職としての経験があった。就業経験のある90人について、各回答者が看護職として働き始めて以降、年齢を重ねる中で看護の仕事とどのようにかかわっているかを把握するために、各人の過去の各年齢において看護従事者として働いたことがあるか否かを解析した。看護職としての就業開始年齢は平均21.0±1.3歳で20代前半に集中していた。調査時点直近のブランク期間は平均6.6±7.6年、最小0年最大35年と大きくばらついたものの、それ以前の最大のブランク期間は0年(78人)、1年(4人)の者で全体の9割を占めた。これは調査時点で潜在看護有資格者であった者のほとんどが、最初に看護職として働きはじめてから看護の仕事と継続的にかかわった実績を持つことを示している。また、看護有資格者としての期間に占める看護職従事期間の割合を調べたところ、平均64±26%であり、きわめて高いばらつきが見られた。この看護従事期間割合を目的変数、年齢、看護職就業年齢、有資格者期間、看護職就業期間、最終離職年齢、最大のブランク期間、直近のブランク期間、ブランクの回数を説明変数として決定木分析を行なったところ、直近のブランク期間が6年未満か6年以上かで従事期間割合の大小による2つのグループに大別された。前述した直近のブランク以前の高い就業継続性を考慮すると、ブランクがある程度大きくなると看護職としてカムバックしにくい実情が推測された。
2)有効回答数は56件(67%)であり、宛先不明、転送先不明等で戻ってきたものはなかった。回答者はすべて女性、平均年齢は36.7歳(SD=9.8)であった。前回調査時点から今回のフォローアップに至るここ1年間の連絡先の変化については、全体の18%にあたる10名が変化ありと回答した。変化ありと回答した者の年齢分布は平均35歳、最頻値32歳であり、範囲は30歳から44歳であった。うち6名が県内の転居であった。現在の就業状況について回答のあった55名中18名(33%)が看護職として勤務していた。内訳は常勤9名、非常勤9名であった。勤務地は病院7、診療所3、その他施設8であった。本研究の対象となった非就業有資格者は1年間で3分の1が看護職として復職していることが明らかとなった。以上より、1年というスパンであれば個別郵送による潜在有資格者のフォローが可能であること、潜在有資格者は停滞している集団ではなく、看護サービスの供給において重要なリソースであることが示された。
3)CNOにはオンタリオ州の約14万の看護有資格者が登録されている。ナースとして働くためにはもちろんCNOに登録している必要があるが、ナースとして実際に従事していない有資格者でもCNOに会費を払い登録を継続していなければ、ナースの名称の使用やナースに許されている医療行為をすることはできない。CNOのメンバーシップを継続するためには、免許の更新が必要である。免許更新には年会費CAD125(日本円で約1万円)の支払と、基本的にセルフレポートであるQA Program(Quality Assurance Program)への参加が必要である。免許更新時にCNOに提出するフォーム(annual payment form)には、住所、電話番号などの個人情報、メンバーシップ継続の意思、看護への従事状況、看護実践状況などを記述しなければならない。更新時に収集された情報は、CNOから2次資料として公開されるほか、政策立案や看護人的資源の研究に有効利用されている。
結論
潜在有資格者の特性について次の特性が明らかになった。
・潜在有資格者のほとんどは看護職としての経験がある。
・従事開始時から継続的に看護に従事してきた実績があるという特性を持っている。
・ブランク期間がある程度長くなると復職しにくい可能性がある。
・潜在有資格者は停滞している集団ではなく、看護サービスの供給において重要なリソースである。
・仮に、看護免許更新制度ができたとしても、1年というスパンであれば個別郵送による潜在有資格者のフォローが可能である。
また、オンタリオ州でのヒアリングより次の点が確認された。
・オンタリオ州の免許システムは、看護有資格者の就業状況まで把握できるようになっていた。わが国の従事者届と比較すると、ナースとして働いている有資格者をナースと見なすのか、有資格者であることでナースと見なすのかという意識の違いがみられた。
・オンタリオ州の免許更新においては、セルフレポートに代表される自己管理精神に大きな特色が見られた。仮にわが国で免許更新制度を取り入れるのであれば、会費納入やフォームという形だけを真似ることではなく、看護有資格者自らのプロフェッションを自己管理・自律していくというフィロソフィーが重要なポイントであろう。

公開日・更新日

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