核・生物・化学物質毒災害及び関連する災害に対する多面的な対応体制の確立を目指して

文献情報

文献番号
200201319A
報告書区分
総括
研究課題名
核・生物・化学物質毒災害及び関連する災害に対する多面的な対応体制の確立を目指して
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
原口 義座
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木憲次(警視庁公安機動捜査隊)
  • 津金 正彦(警視庁公安機動捜査隊)
  • 小川 弘行(東京消防庁特殊災害課)
  • 友保 洋三(国立病院東京災害医療センター)
  • 山本 保博(日本医科大学)
  • 岩本 愛吉(東京大学付属医科学研究所)
  • 吉岡 敏治(日本中毒情報センター)
  • 大橋 教良(日本中毒情報センター)
  • 石原 哲(全日本病院協会)
  • 白濱 龍興(自衛隊中央病院)
  • 箱崎 幸也(自衛隊中央病院)
  • 練石 和男(放射線影響研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
18,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、意図的・非意図的を問わず、人為災害、特に核・生物毒・化学物質災害(NBC災害)対策が重視されてきている。本研究は、核・生物毒・化学物質災害および関連する災害(NBC災害)に対する総合的医療対応を確立する目的で行った研究である。なお関連災害として、核物質・化学物質を含めた爆発事故・事件、およびテロリズムによる災害(すなわち意図的なもの)への医療対応も重要と考え当初より加えてきた。
研究方法
以下、研究の実施経過と実施研究項目を示す。
①精神的な対応に関して、
前年度の研究結果(ワークショップ、サリン事件follow-up、他)も踏まえ、また本年度の検討結果を加えたうえで、報告集・記録集を作成した(別冊添付)。 早期よりの精神科面からの対応への体制確立の一歩とした。
②2次災害としての2次汚染予防
安全性を高めるための基本的な災害訓練を確立する研究と実施として、具体的に数回の活動を行い、ゾーニングの必要性とその限界、汚染患者対応への養生の方式、除染の技術的面に関してほぼ確立できた結果、暫定的なまとめとしての意味も兼ねて、ガイドライン作成に取りかかることとした。
③CWAP等の災害弱者への対応の現状を、各専門家に依頼して、資料収集した。
④同じく、各公的な専門機関・施設毎の特徴の資料収集により、現時点での(最新の)データがえられ、消防・警察・自衛隊・その他の公的機関・行政的部門、準公的専門機関の各々単独、あるいは従来の協力体制のみでは、ある程度限界があることが、明らかとなり、相互補填の観点からの役割分担の再確認が必要であるとの視点から、各々の役割のシェーマ化を行った。
⑤厚生労働省主催の化学テロ国際会議(G7+Global Health Security Action Group)を当臨床研究部も中心となって開催に携わり、国際的な化学災害時の対応のあり方を検討した。
なお、具体的な医療対応としては、想定される患者対応の流れとして、①現場→②簡易除染→③救命処置・救急処置→④緊急搬送→⑤医療施設での再度の同様の対応(②必要に応じ本格除染→③処置→④院内搬送・検査)を想定し、これに基づいた訓練をほぼくまなく行った。その結果をビデオ等による記録・報告集として作成した。
(倫理面への配慮)
基本的には、災害医療訓練を中心とした研究であり、実際の個人の倫理面に関しては、大きな問題はないと考える。
また災害における心理面でのアンケート(東京地下鉄サリン事件被災者)は、原則として電話での本人への依頼、その後、書面での自由回答の形で依頼したが、ほとんどの患者から好意的・感謝を含めた回答が得られており、また十分なprivacyの保護等に関しての配慮も行った。
研究結果=研究結果の概要を示すと、各災害の特徴を洗い出すことから始めた。
その結果、まずこれらの災害には、基本的に多くの重要な共通点がある反面、異なった対応を要する面があることが本研究で明らかにされ、更に系統的な分類が必要と考えられた。
共通項目に関しては、共通の対応体制の確立の必要性を基礎に更に各専門的な対応体制を加味してゆくという両面作戦・研究が必要であることも明らかとなり、そのための研究を行った。
前者の「共通する研究項目」の代表的なものとして被災者の汚染時の除染方法の研究、2次災害としての医療従事者も含めた2次汚染予防の準備の研究、汚染を免れた多数の人々・住民に対する不安・精神的な対応、共通項目へ対応マニュアル作成の研究、更には、周辺の環境への汚染拡大を防止する観点も含めた極めて幅広い、総合的に考えた上での医療面の対応の研究とした。またこのために必要となる基本的な災害訓練・研修を確立する研究等の項目に関しても幅広い視野で研究を行った。
これらの結果は、別個に印刷する準備段階であるが、例えば汚染患者の身体の除染方法に関しても幾つかの分類を行い、これに基づいた対応の選択を考えた。身体除染の分類を提示すると、大項目として、1)汚染対象者の規模・特徴からみて、2)身体汚染範囲・部位的特徴からみて、3)除染の手技として、4)基本的方法論として、に分類でき、更に小分類がなされた。詳細は、報告書を参考のこと。
すなわちこれらの分類にしたがって、除染対応を使い分ける必要が指摘できた。
各分野毎の研究成果をフィードバックする形で、整理・統合を行いつつある。
後者の「異なった対応を要する面」における研究としては、災害の種類別・発生時期、認識・判定・診断方法別の詳細な分析が必要であり、また被害が明確になった際における専門分野別の役割分担・状況把握体制の研究を行った。例えば感染症では、いわゆるサーベイランスの意義があげられる。平成13年度には、複数の専門家を米国より招へいし、バイオテロリズムに焦点をあてたシンポジウムを施行し、各地の専門家を交え意見交換・情報収集を行ったことなどがあげられる。
これらの研究の最終段階としては、実際に対応できるような体制に至るための種々の災害のシミュレーションの作成と合理的、かつ具体的な災害別の訓練の施行に繋げ、対応能力の向上を確認できる段階にまで進めるものであるが、
既に初年度の本年度よりNBC災害を想定した災害医療訓練も並行して行い、その問題点を洗い出した。また教育・検討用の記録ビデオも作成した(ビデオ・CD Rom 添付)。
これらの研究は、NBC災害以外にも自然災害後の2次災害の軽減(例えば、大地震発生後の食中毒、アスベスト等を含む有毒物質による被害対応等)にもFeed backできる点も有意義と考えられる。
その研究成果に関しては、詳細を次項に提示するが、概容としては、各論的なテーマとして、①精神的な対応に関しての報告集作成、②汚染患者への直接の対応と周囲への汚染拡大防止のための養生の方式の確立、③CWAP等の災害弱者へのNBC災害時の対応、④各専門機関・施設毎の特徴、など、また総括的な視点として、①複数の機関同士の相互連携、②医療施設内におけるNBC災害対策への総合的な取り組み、③各職種別の視横のネットワーク体制の現状分析に基づく今後の方向性の提示などである。
結果と考察
今回の研究で得られた成果としては、
①「共通する研究項目」として
1)訓練としての放射能汚染・化学物質毒汚染、生物毒汚染に対する除染方法、患者・医療スタッフ・周辺住民への2次災害、2次汚染予防対策を研修・訓練・机上シミュレーションを通して具体的に検討し、ゾーニングの必要性とその限界、除染の技術的面も含めた方法論を訓練でき、実際の応用がほぼ可能となったこと。
2)各論的なテーマとして
①精神的な対応に関してはH13年度に行った災害における精神的患者対応のワークショップおよび東京地下鉄サリン事件後7年を経過した時点でのPTSDの現状についてアンケート調査、CISD(Critical Incident Stress Debriefing)への実際の参加経験も含めたその概容に関する記録の報告集を作成した(別冊を貼付)。すなわち、精神的な対応としては、精神科の側からの対応のありかた(早期から、どう対応するべきか)に関しては、各災害原因別に個別の対応を確立すべきことが明らかとなった他、サリン患者に関しては、いまだ精神面での影響が残存する例も少なくないことからも早期からの対応開始の必要性が認められた。
②汚染患者対応とその汚染拡大防止目的の養生の方式に関しては、信頼性・簡便性・privacyの保護等の観点から充たすものがほぼ確立できた、
しかし、③CWAP等の災害弱者への対応として、特にNBC災害時の対応は、現状では不備であることが明らかとなり、今後の検討が必要であることが指摘できた、
④各公的な専門機関・施設毎の特徴としては、1)消防・警察・自衛隊の各々の利点・限界がある程度明らかとなり、相互補填の観点からの役割分担の再確認が必要である、2)準公的専門機関(日本中毒センター等)も含め、それ以外の公的機関・行政的部門(政府内の各省庁、地方自治体、保健所、衛生研究所、等)とは、連携上今まで以上に密にする必要と法的・慣習的問題がのこされていること、それらの問題を乗り越えるための各機関等の立場を考慮した協力モデルの作成(多様化したもの)の必要性が明らかとなったこと、などであった。このためのプロトタイプのモデルを作成した。
この問題に関して、見方を変え、被災・汚染患者の流れの観点からみると、例えば、想定される一例を示すと、受傷後、①現場→②簡易除染→③救命処置・救急処置→④緊急搬送→⑤医療施設での再度の同様の対応(②除染→③処置→④院内搬送・検査(種別・規模等により若干の順番の変更はありうる)と対応されると考えられる。
これを的確に行うには、多施設(消防・救急、警察、自衛隊、行政機関、保健所、放射線医学総合研究所、日本中毒センター、等)と医療施設との密接な協力が必要であり、また建物・搬送用手段(主に救急車・ヘリコプター)への養生、関連する全ての人(周辺住民も含む)への防護体制の確立が必要である。
このためには、平時より統一的な横のつながり・意見の基本的な一致をえておく必要があり、これには災害訓練の施行による実際的な検討が最も好ましく、総合的連携訓練・技術的な面を中心とした基礎訓練・机上シミュレーションにより、合理的な訓練のあり方を確立できる見込みがえられたと考えている。また別の意味で(指揮系統等の問題も含め)従来、多施設の参加に困難さを感じることもしばしばみられたが、徐々に理解をえてきており、これには、当方が中心となって行っている従来の活動(災害医療研修会や各種の資料・テキストブック配布)が効果的であると考えられる。
しかしながら、更にレベルアップをし、信頼性を高いものとするには、訓練を繰り返す必要がある。この考えに基づき、1)新たなガイドライン、マニュアルの作成・充実、2)総合的視点から見た災害医療テキストブックの作成(各項目別のものは比較的多くみられるが、総合的見地から広い視野で災害医療を取り扱ったものは、国立病院東京災害医療センター臨床研究部作成のテキストブックがある程度であり、これをバージョンアップがベストと考える)、3)教育・研修・訓練用の記録ビデオ作成(各種の視点・立場から作成)に力を入れる必要がある(ビデオ・CD Rom 添付)。
②「異なった対応を要する面」として
1)生物毒災害としては、まず平時におけるサーベイランスとその上での医療施設のスタッフに対する教育・訓練の徹底の重要性を提示できた。
2)化学物質災害に関しては、大規模な災害への準備も重要であるが、極めて多種類の危険物質がある現状では、できごととしては、一見小さな中毒事件も見落とさず、その特色・問題点を集積し、十分熟知した上での、教育・訓練、多施設との協力体制の充実の必要性が認められる。
1)放射性物質災害に関しては、原子力災害に加え、放射性物質搬送中の事故、医療施設での事故に加え、爆弾テロとも同時に起こされうるdirty bombも想定した、平時よりの教育による知識集積、データ収集と訓練、そのためのマニュアルの充実が確認された。
これらを全体を俯瞰するものとして、院内においても各専門職種別(薬剤部、看護部、検査部、臨床工学部、放射線科、中央検査部、栄養科、事務部門全て、その他)においての対応の現状も評価した。その結果の一部を資料として、提示した。
以上をまとめ、更に今後の研究の進める計画として、以下のものに取りかかっている。
①NBC災害対策時の対応を期待される諸分野・機関からみた医療情報連携・治療協力モデルの作成(完成版)。
その基本的な医療面からの情報連携・治療協力態勢を全分野からの視点別に確立し、ガイドラインとして、実際に利用できるものとする。同時に、その限界・問題点・将来への提言も行う。
②災害時の精神面でのsupport体制を幅広い視点から(単に精神科医のみでなく)準備する。すなわち、災害専門医、行政等との協力体制として確立する。
③汚染防護のレベルの整合性の確立:各体制・部門の取り組み方の違いを減らし、整合性をとる。
④災害弱者としての視点からは、いわゆるCWAP、慢性疾患患者への対応を考えているが、NGOの協力も期待できる項目と考えている。
⑤2次災害を最小限とするための系統的なマニュアル作成(現在、諸家により異なった意見がみられ、統一されていない。
⑥総合的視点から見た災害医療テキストブックの作成(既に上記の国立病院東京災害医療センター 臨床研究部としての作成済みのものを改訂する予定)、教育・研修・訓練用の記録ビデオを各種の視点・立場から更に充実、
⑦災害種別を念頭に置いたロボット化(現在のところ、NBCの早期detection・診断用のものの開発が可能性が高いと考えている)の研究
⑧NBC汚染患者(2次汚染も含めて)の搬送システム(ネットワーク)の確立へ向けての研究
⑨一般市民への伝達体制(情報収集も含めて)の充実・知識の啓蒙:信頼関係の醸成へ向けての努力
もNBC災害の特殊性を考慮すると重要と考えられる。
以上のごとく、極めて多岐にわたる内容となる。このために分担研究者・研究協力者として、あるいはオブザーバーとして、感覚器障害・慢性疾患への対応の専門医(耳鼻科・眼科医・透析関係専門家等)、こころの健康管理の専門家(精神科医、臨床心理士、看護師等)、放射能災害専門家(医師、放射線技師)、NGO関係、検査部門・臨床工学部門、ロボット学者、獣医部門、マスコミ部門、社会情報学者、自衛隊、旅行医学部門の関係者、内閣危機管理室・外務省・経済産業省(旧、通産省)、文部科学省等のメンバーにも加わっていただきたいと考えている(一部、既に加わっていただいている)。
また、本報告書の末尾に各研究協力者からの検討結果の概容を添付している。
結論
以上、過去2年間に行った研究を述べたが、今後更に、NBC災害対策時の全分野型の医療情報連携・治療協力モデルの作成(完成版)、限界・問題点・将来への提言、災害時の精神面でのsupport体制の確立、汚染防護のレベルの整合性の確立、災害弱者対策、2次災害防止の系統的なマニュアル作成、総合的視点から見た災害医療テキストブックの作成、災害対策に対するロボット化、NBC汚染患者の搬送システム、一般市民への啓蒙・信頼関係の醸成へ向けての研究として、一定程度の結論をだす所存である。

公開日・更新日

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更新日
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