へき地・離島医療における診療支援システムの評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201317A
報告書区分
総括
研究課題名
へき地・離島医療における診療支援システムの評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小濱 啓次(川崎医科大学救急医学)
研究分担者(所属機関)
  • 滝口雅博(弘前大学医学部附属病院)
  • 吉新通康((社)地域医療振興協会)
  • 鈴川正之(自治医科大学)
  • 米倉正大(国立病院長崎医療センター)
  • 大田宣弘(島根県立中央病院)
  • 小濱啓次(川崎医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
へき地・離島医療の改善を合目的に行うための指標を客観的に評価する目的で「医療のへき地度」のスコア化を試み、その妥当性を求め、記載方法を改訂した。この算定表を用いて「医療のへき地度」をデータベース化し、全国各地において施行することにより、へき地の程度の基準化を図る。へき地・離島医療の確保と質の向上のためには、医療資源のより効率的な活用を目指したへき地医療情報ネットワークの確立が必要である。このことによって、情報の提供、医師間の交流支援、代診支援、診療支援(遠隔医療支援)、生涯教育支援などが可能となり、かつへき地医療支援機構の企画・運営・評価にも役立つものと思われる。へき地・離島に勤務する医師のあり方については、卒前教育、卒後教育カリキュラムの作成、研修を行う病院の設定が重要である。卒後研修に関しては都道府県でまちまちであり、統一した指針がない。特にへき地医療拠点病院等の研修病院で使用することを念頭におくことが現実的である。このことによって、医師研修の効果が得られ、研修カリキュラム自体や研修指導医などに対する評価判定も可能となる。へき地・離島における医療も、医療の連携が基本にならなければならず、特に重症な救急患者においては、患者搬送システムが最も重要な役割を果たすことはいうまでもない。このことは、各々へき地・離島での医療レベルをどこに置くかで変化する。へき地・離島においては、救急医療、高度特殊医療においては最後の砦となる総合病院への搬送を行わなくてはならない。各々地域に応じた総合的なコンセンサスを得ることが重要であり、このためには地域における各々疾患について重症度により、搬送方法とそれに要する時間などの地図を作成し、全国的に標準化していく必要がある。へき地・離島における診療支援体制(医療機関)については。各々支援対策の具体的な目標値に対してどれだけ実現できたかを第3者機関によって適切に評価していく必要がある。へき地・離島の現地調査によって、現状においては、二次医療圏単位のへき地医療体制の限界のあるところもあり、また、体制は出来ている地域においても、今後“質"の面からの改善が必要と思われる。このためには、へき地医療支援機構と密接に関係する総合病院を核に、教育体制、医師供給を検討していかなければならない。以上のように、この研究においては、今まで構築してきた種々の面からのへき地医療支援機構が行うべき立案・企画を標準化し、それらに対して実施された内容をどのように評価していくかを検討することを目的とする。このことにより、へき地・離島における総合的な医療の改善を図ろうとするものである。
研究方法
研究にあたっては下記の通り研究課題を分担した。分担研究者滝口雅博は「へき地・離島における医療のへき地度の評価に関する研究」を、分担研究者吉新通康は「へき地・離島医療における医療従事者にかかわる医療情報ネットワークの評価に関する研究」を、分担研究者鈴川正之は「へき地・離島に勤務する医師の研修とへき地医療支援機構の役割に関する研究」を、分担研究者米倉正大は「へき地・離島における患者搬送システムの評価に関する研究」を、分担研究者大田宣弘は「へき地医療支援機構及びへき地医療拠点病院の評価に関する研究」を、分担研究者小濱啓次は「へき地・離島における診療支援体制のあり方と評価に関する調査研究」を各々分担した。医療のへき地度に関する研究
については、改訂した医療のへき地度算定法により、多種多様のへき地・離島を比較検討するデータベースを作成し、医療のへき地度の妥当性を評価し、さらなる客観性を求め、へき地度と実際の地域の標準化を試みた。医療従事者にかかわるITを活用した情報ネットワークに関する研究については、へき地・離島の情報格差の是正のための情報システムとして利用され、へき地・離島医療に関する情報提供の窓口となり、へき地・離島に勤務する医療従事者がどのような情報を求めているか、代診支援・遠隔医療支援体制などについてどのように活用できるかを検討した。医師の研修システムの評価に関する研究については、へき地・離島へ勤務する医師の研修カリキュラムを作成したので、へき地医療支援機構が医師の卒後研修にどのようにかかわるべきかについて検討した。患者搬送システムの評価に関する研究については救急患者搬送システムを評価する基準を各々疾患毎に作成し、これをもとに全国標準化できる評価方法がないかを検討した。診療支援体制に関しては支援をうける地域及び医療機関からも評価できる方法を検討し、診療支援体制をとる医療機関の現状に即した評価法を研究した。現地調査においては、へき地医療支援機構やへき地医療拠点病院に求められているのは何か、またそれに対してどのように評価していけばよいかを検討した。以上、都道府県の地域保健医療計画及び現地調査を参考にし、実際的な面よりへき地・離島における医療の問題点と改善策を追求し、よりよいへき地・離島医療のあり方について検討した。各々の分担研究者は年数回の会議をもってお互いに意見交換し、具体的な評価指針を示した。
結果と考察
へき地・離島における医療の改善を合目的に行うために地域の「へき地の程度」を客観的に評価する目的で、本年度は本邦の無医地域にかかわる医療情報を調査したアンケート調査の結果を元にした6タイプの「無医地区」及び東北地方の37カ所の消防本部で搬送に最も時間を要する地域の「医療のへき地度」算定を行い、データベース化をした。また、インターネットを基盤とする「へき地医療情報ネットワーク」を通信や活動記録のデータベースとして構築し、各都道府県でのへき地医療の活動内容の紹介やへき地医療支援機構の評価といったへき地医療全体の交流・評価も可能となることを示した。本年度はコンテンツの充実、職業紹介、video-streaming等の検討を行った。
都道府県に対し、へき地医療支援機構の概要、へき地支援・医療職種の登録・医療職種に対する研修の現況、機構に対する評価の状況、今後の課題などについて郵送法によりアンケートを行い、34都道府県から回答を得、かなりの数の都道府県において十分な設備が整えられ、徐々にへき地医療の向上のための機能を果たしてきていることが判明した。しかし、教育・研修システムについては手がついておらず、現場の意見などを十分に反映する体制も不十分で、いまだ改善の余地があった。長崎県の上五島地区と対馬地区の医療機関を対象に小児の肺炎、急性心筋梗塞、慢性透析患者のカルテ調査を行い、対馬地区の方が、受診に要する時間が長く、施設の偏りが認められた。小児の入院は島内の小児科医のいる施設に限定されていた。急性心筋梗塞は、69%にintervention目的に転院もしくは緊急CAGが行われていた。慢性透析患者の受診時間は、対馬地区が1.9倍長かった。他の疾患などについても検討し、医療機関の配置など問題点を明らかにしていく必要がある。島根県で行っているへき地・離島医療支援対策に対して、各地域の医師はどのように評価しているか、県のへき地医療拠点病院となるべき病院の現状、及び全国の主立った自治体病院のへき地支援に対する状況を調査し、へき地医療支援機構及びへき地医療拠点病院の評価法の研究を試みた。
へき地・離島における診療支援システムの構築に何が求められているのかを明らかにすることを目的に、地域特異性のある山形県の広域山間へき地、北海道の広域豪雪へき地、岡山県の山間へき地・離島へき地、沖縄県の離島へき地を選んで、おのおの地域における通常医療と救急医療を中心にその実態と問題点について調査した。へき地・離島医療支援に関しては、医師を中心とした医療従事者の確保(長期、短期、代診)、搬送手段を含めた救急医療体制の整備、研修を含めた医学教育に対する支援策が基本である。今後は、さらなる高齢化社会を考慮した通常の医療体制と救急医療体制を構築していかなければならないと思われる。
結論
へき地・離島における医療をより充実させるためには、へき地医療支援機構が中心となって実行できるようなへき地・離島医療支援体制がとれることが望まれる。すなわち、へき地・離島医療支援に関しては、医師を中心とした医療従事者の確保(長期、短期、代診)、搬送手段を含めた救急医療体制の整備、研修を含めた医学教育に対する支援策が基本となる。

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