中毒医療における教育のあり方と情報の自動収集・自動提供、 公開ネットワークの構築に関する研究

文献情報

文献番号
200201314A
報告書区分
総括
研究課題名
中毒医療における教育のあり方と情報の自動収集・自動提供、 公開ネットワークの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 敏治(大阪府立病院救急診療科部長)
研究分担者(所属機関)
  • 吉岡 敏治(大阪府立病院救急診療科部長)
  • 遠藤 容子(財団法人日本中毒情報センター施設次長)
  • 真殿かおり(財団法人日本中毒情報センター係長)
  • 波多野弥生(財団法人日本中毒情報センター係長)
  • 池内 尚司(大阪府立病院救急診療科医長)
  • 堀  寧(新潟市民病院薬剤部)
  • 黒木由美子(財団法人日本中毒情報センター施設長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、わが国と先進諸外国の中毒教育の現状を調査し、わが国の現状に合わせた教育のあり方を提言することと、その教育が実現可能となるよう、マニュアルやデータ・ベースを整備することである。教育の方法には、学部学生教育、卒後教育セミナー、講演などもあるが、インターネットを介した広報・啓発も現代社会における大きな手段である。化学物質が氾濫しており、中毒事件等が多発している現代社会ではこれを考慮した研究は必須である。
研究方法
今年度は、すべての医学部医学科(80校)、薬学部・薬系大学(46校)、獣医学部・獣医学科(16校)の中毒に関するカリキュラムを調査するなど、前述の目的に沿って、以下の7課題の検討を行った。
1.中毒医療における臨床教育と集団化学災害教育
2.中毒事故の発生状況等の分析と市民教育
3.カテゴリー別クリニカルパスの作成
4.中毒症例のデータベース化
5.吸入毒診断補助システムの開発
6.薬毒物分析の教育と精度管理-薬毒物分析支援データベース(農薬編)の開発
7.中毒情報センターのホームページのあり方
結果と考察
結果および考察=1.中毒医療における臨床教育と集団化学災害教育:中毒医療の現場に深くかかわる三職種(医師、薬剤師、獣医師)を養成する学部において臨床中毒学の教育がどのように行われているかを現状調査した。回収率は医学部94%(76/80校)、薬学部86.9%(40/46校)、獣医学部100%(16/16校)であり、大部分から回答が得られた。実態は、大学ごとに異なるが、三つの学部に共通した特徴は、臨床中毒学として独立した教科目をもつ大学は少数であり、複数の教科目がそれぞれに関係した部分について断片的な中毒教育を行っていることであった。しかし、少数校ではあるが、分野の異なる教員が協力・分担する統合型の独立科目として実施されていた。中毒に関しては未だ一貫した教育理念のもとではなされておらず、中毒学のテキストの策定とともに、各講座が協力して行う統合型教育が望まれる。
2.中毒事故の発生状況等の分析と市民教育:5歳以下の小児の事故88,030件の受信記録を対象に、中毒起因物質と年齢、事故の発生時期、発生状況等を検討した。その結果、タバコは生後6ヶ月から急増、洗剤類は1歳前後で、2歳前後から解熱鎮痛薬等の医薬品、乾燥剤などの被害事故が多発していた。春には防虫剤、動植物事故が、夏には殺虫剤や外皮用薬が多く、発生時刻は、いずれも午前7時から9時と午後5時から8時の間にピークがある2峰性を示した。保護者への教育活動では、個々の起因物質の危険性を認識させる一方、年齢や季節によって事故が発生しやすい起因物質が異なることを伝える必要がある。
3.カテゴリー別クリニカルパスの作成:保有する膨大な中毒情報データベースを教育と医療の標準化に活かすため、カテゴリー別(医薬品、農薬、工業用品、家庭用品、自然毒)に代表的な中毒起因物質を選定し、クリニカルパスを作成することが最終目標である。今年度は選定した17起因物質のうち、グルホシネート、エチレングリコール、フッ化水素、テトロドトキシンについて診療プロトコールを作成した。
4.中毒症例のデータベース化:昨年の研究で試作した「中毒症例提示データベース」に、入力・メンテナンスのための専用画面を新たに作成して、49品目155症例を入力した。このシステムは、「曝露物質分類」「曝露物質」「曝露経路」「患者年齢層」「中毒症状」「処置」「転帰」の7項目に関して、かけ合わせ検索を行うことが可能で、「農薬の吸入例で意識障害を起こした高齢者の死亡例」というように症例の検索ができるようになった。今後どのくらい収載症例数を増やせ得るかが、大きな課題である。
5.吸入毒診断補助システムの開発:わが国におけるミストを含む吸入による化学災害事例より、主たる起因物質17種類を選定し、物質ごとに臨床症状や異常臨床検査結果に0~9点の重みづけを行った。これをもとに、File Maker Proを用いて臨床症状から起因物質を推定するシステムを試作した。次年度開発予定の経皮毒診断補助システムが完成すれば、既に開発した経口毒診断補助システムと合わせて臨床現場での鑑別診断の有力な武器となる。
6.薬毒物分析の教育と精度管理-薬毒物分析支援データベース(農薬編)の開発:農薬は同じ有機リン系でも製剤の性状、含有する成分、溶剤の種類が多様で、分析に際してはこれを特定するのが困難であった。そこで、製剤の商品名、性状、含有成分の組成、成分の化合物名、成分のCAS番号、分子量、構造式、製剤の都道府県別の出荷量等の情報を調査し、加えて質量分析による相対保持時間とフラグメントイオン(EI法)を実験的データから収集して、分析対象物を絞り込むための情報提供ツールを開発した。
7.中毒情報センターのホームページのあり方:昨年のアンケート調査で要望が多かった医師向け中毒情報データベースの新規掲載、解毒剤情報の追加改訂、認証画面の改善などを行った。昨年に引き続いて賛助会員を対象に、収載項目別にその有用性や今後の開発項目の要望に関する調査を行った。各項目ともかなりの評価が得られたが、特に新着情報、医師向け中毒情報データベースと解毒剤情報は高い評価が得られた。ホームページを通じての医療支援、教育は中毒情報センターの永続する事業であるが、インターネットが急速に普及したとは言え、医療従事者の教育ツールとしてはまだ良く認識されているとは言い難い。会員向けホームページの利用者の拡大が今後最も重要な課題である。
結論
中毒医療の現場にかかわる三つの職種(医師、薬剤師、獣医師)を養成する学部教育の現状を調査した結果、中毒に関しては未だ一貫した教育理念のもとではなされておらないことが明らかになった。臨床中毒学のテキストの策定とともに、各講座が分担・協力して行う統合型の教育が望まれる。5歳以下の小児の事故88,030件の受信記録を対象に、中毒起因物質と年齢、事故の発生時期、発生状況等を検討した。その結果、タバコは生後6ヶ月から急増、洗剤類は1歳前後で、2歳前後から解熱鎮痛薬等の医薬品、乾燥剤などの被害事故が多発していた。その他季節性、発生時刻等にも特徴があり、保護者への教育活動では、個々の起因物質の危険性を認識させる一方、年齢や季節によって事故が発生しやすい起因物質が異なることを伝える必要がある。
中毒情報データベースを中毒医療の教育と標準化に活かせるよう、カテゴリー別に選定した17起因物質のうち、グルホシネート、エチレングリコール、フッ化水素、テトロドトキシンについて診療プロトコールを作成した。一方、昨年の研究で試作した「中毒症例提示データベース」に、49品目155症例を入力した。このシステムは、「曝露物質分類」「曝露物質」「曝露経路」「患者年齢層」「中毒症状」「処置」「転帰」の7項目に関して、かけ合わせ検索を行うことが可能で、「農薬の吸入例で意識障害を起こした高齢者の死亡例」というように症例の検索ができるようになった。
わが国におけるミストを含む吸入による化学災害事例より、主たる起因物質17種類を選定し、物質ごとに臨床症状や異常臨床検査結果に0~9点の重みづけを行った。これをもとに、File Maker Proを用いて臨床症状から起因物質を推定するシステムを試作した。また分析に際しては、これを特定するのが困難であった。そこで、製剤の商品名、性状、含有成分の組成、成分の化合物名、成分のCAS番号、分子量、構造式、製剤の都道府県別の出荷量等の情報を調査し、加えて質量分析による相対保持時間とフラグメントイオン(EI法)を実験的データから収集して、分析対象物を絞り込むための情報提供ツール「薬毒物分析支援データベース(農薬編)」を開発した。
中毒情報センターのホームページのあり方に関する調査研究では、賛助会員を対象に、収載項目別にその有用性や今後の開発項目の要望に関する調査を行った。各項目ともかなりの評価が得られたが、特に新着情報と新しく収載した医師向け中毒情報データベース、解毒剤情報は高い評価が得られた。

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