高度総合診療施設における電子カルテの実用化と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201312A
報告書区分
総括
研究課題名
高度総合診療施設における電子カルテの実用化と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
井上 通敏(国立大阪病院)
研究分担者(所属機関)
  • 楠岡英雄(国立大阪病院)
  • 是恒之宏(国立大阪病院)
  • 東堂龍平(国立大阪病院)
  • 岡垣篤彦(国立大阪病院)
  • 秋山昌範(国立国際医療センター)
  • 武田裕(大阪大学医学部附属病院)
  • 松村泰志(大阪大学医学部附属病院)
  • 石川澄(広島大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
18,242,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
電子媒体による診療記録の保存(いわゆる「電子カルテ」)は、現在、多くの医療機関において使用されつつあるが、いずれも試行的な要素が大きく、高度・多機能な診療を行う高度総合診療施設での完全実用は未だ行われていないのが現状である。しかし、今後の医療の動向を見ると、診療記録の開示や診療費用の軽減化のために、電子カルテの実用化・普及は是非とも必要である。電子カルテの普及を妨げる要因に、極めて高価であり、また、その入力が煩雑であることが指摘されており、病院経営や診療現場になじみにくいとする意見もある。本研究は、診療録の電子保存の必要条件を満たし、かつ、廉価で使いやすい電子カルテシステムの仕様・要件の設計、並びに、他の電子カルテとの相互機能評価を可能とするシステムの開発を目的としている。
研究方法
本研究は、大きく分けて2つの部分よりなる。第1は、高度総合診療施設での実用を目指した電子カルテシステムの開発であり、その焦点は、利便性と経済性にある。すなわち、現在実用されているシステムも含め、これまで提案されたシステムは、当院でのこれまでの評価では利便性に乏しく、診療現場での実用に耐えられないと判断されている。また、システムの導入・運用・保守管理に要する費用は極めて高額であり、経済面から実装化が妨げられている。本研究では、当院での産科電子カルテの経験をふまえ、利便性・経済性に優れたシステムの開発を目標としている。第2は、電子カルテの相互機能評価システムの開発である。今後、多くのベンダーにより種々の電子カルテシステムが提案されると予想されるが、現状ではその機能を評価する基準がなく、定性的・主観的な評価に終始している。本研究では、異なった電子カルテ間での定量的・客観的な機能評価を可能とするシステムの構築を行う。
第一の目的の利便性・経済性に重点を置いた電子カルテシステムの開発は、当院が中心となり、ベンダーとの協力により行う予定であったが、交付された研究費が申請額の約25%であったため、申請にあった電子カルテの新規開発は行わず、改良のみとしている。平成13年度(初年度)においては、電子カルテ導入科と未導入科での連携を図るためのWeb機能を用いた支援機能の開発に向けた設計を行った。また、当院の電子カルテの特徴である「カード型カルテ」方式を内分泌内科等で使用するための拡充を行った。平成14年度(第2年度)においては、高度総合診療施設での実用化を考慮に入れ、内分泌内科などの複数の診療分野を対象に、電子カルテの適用を拡大すべく、その設計を行う予定であった。その結果、総合内科における複数の疾患診療外来に向けた画面の構成を行い、実用化した。
第2の電子カルテの相互機能評価システムの開発は、国立大阪病院、国立国際医療センター、大阪大学医学部附属病院医療情報部、広島大学医学部附属病院医療情報部との共同研究により行っている。平成13年度(初年度)においては、相互機能評価に必要な項目の調査を行った。平成14年度(第2年度)では、評価項目の確定とそれに基づく模擬症例データベースの構築を開始する予定であった。しかし、日本医療情報学会より電子カルテの定義が行われることとなったため、今年度においては、共同研究を行っている、当院、大阪大学医学部附属病院、広島大学医学部附属病院の3病院における電子カルテの特徴的機能の比較検討を行うにとどめた。
結果と考察
利便性・経済性に重点を置いた電子カルテシステムの仕様・要件の設計は国立大阪病院が中心となって行い、その一部の実施はベンダー(富士通)との協力により行った。その実施に当たっては、当院で試用中の電子カルテの特徴である「カード型カルテ」方式をより一層充実させ、完成させる方針で行った。今年度では、国立大阪病院の総合内科における専門別外来用の電子カルテの実用化を目指し、糖尿病、脳血管障害、腎疾患の診療領域を中心に内科外来に電子カルテの適用を図るべく、表示画面を作成し、導入・実施した。
綜合内科における対象疾患は、腎疾患、糖尿病、脳血管障害、血液疾患、高血圧、呼吸器疾患とその他の疾患である。初診用入力画面としては、糖尿病、脳血管障害には専用画面を作り、他の領域は共通の画面とした。再診用としては、糖尿病以外は共通の画面構成であるが、SOAP部分において症候記載の効率化のためにあらかじめ設定した慣用語句については腎疾患、糖尿病、脳血管障害、高血圧について独自の用語集を用いる形となっている。詳細は分担研究者・東堂の分担研究報告に記載されている。また、これらの作成画面を資料として添付した。
国立大阪病院のように電子カルテ導入科と未導入科が混在する施設では、通常の病院情報端末では電子カルテを参照することができないため、未導入科でのカルテ参照に支障が存在する。そこで、電子化されたカルテの一部を病院情報システム端末に搭載されたWeb機能を用いて参照させることにより、電子カルテ導入科と未導入科での連携を図ることとした。昨年度に行った基本設計に基づき、今年度においてシステムの実現を行った。
電子カルテの相互機能評価システムの開発は、国立大阪病院、大阪大学医学部附属病院医療情報部、広島大学医学部附属病院医療情報部との共同研究により行っている。しかし、日本医療情報学会より、平成15年2月に「電子カルテの定義に関する日本医療情報学会の見解」が出さたため、今後、この見解に沿った検討が必要となった。このため、今年度においては、共同研究を行っている、国立大阪病院、大阪大学医学部附属病院、広島大学医学部附属病院の3病院における電子カルテの特徴的機能の比較検討を行うにとどめた。
国立大阪病院で独自に開発した「カード型電子カルテ」は、現在、産科・循環器科に加え総合内科においても運用し、日常診療に役立っている。本研究は、実用に供されている電子カルテを発展させ、あらゆる診療科においても日常診療を妨げずに使用できる電子カルテを実現しようとするものである。そのためには、医療従事者、特に実際に診療を担当する医師らが、自ら、画面の構成、システムの運用を考える必要があると共に、その意見が忠実かつ迅速にシステムの反映される必要がある。しかし、これまでにベンダーにより提供されてきた電子カルテシステムは、その機能のわずかな修正においてもベンダー側の作業に頼らざるを得ないものであったために、必ずしも医療側の要求を忠実に反映したものとはならず、またその変更に時間を要することが通常であった。今回、我々が使用している電子カルテは、基盤部分はベンダーの提供したものであるが、新たにインターフェス層を開発した。このインターフェスは、ファイルメーカーなどの広く使われており医師等にもなじみの深いソフトウェアで開発された入出力部分を、本体の電子カルテシステムと結合するためのものである。その結果、医師等の意図する修正は、独力で随時ファイルメーカー等を用いて行うことが可能であり、また、その修正は直ちに電子カルテシステムに反映される。この手法により、医療者が自己の意図を正しく、かつ、速やかに電子カルテシステムに反映させることが可能となっている。
また、これまで、電子カルテの機能を定量的に評価する手法はなく、これまでのシステム評価も主観的であったと言わざるを得ない。本研究では、ベンダーの異なる電子カルテシステム間でその機能を評価するためのシステムを開発し、国立大阪病院・国立国際医療センター・大阪大学医学部附属病院・広島大学医学部附属病院の4医療機関において、システムの性能比較を行うことも目的としている。今年度は時間的制約と日本医療情報学会での動きを見ていたため、3病院それぞれの電子カルテシステムの特徴を明らかにしたことで終わったが、来年度においては順調に進捗させ得るものと考える。
本研究が目指す使いやすく、かつ他システムとの相対評価のなされた電子カルテが作成されれば、病院経営を圧迫することなく、かつ、日常臨床での使用も容易であることから、電子カルテの本邦での普及が急速に拡大することが期待できる。さらに、その結果、医療の質の向上とインフォームド・コンセントの形成を通じ、我が国の医療の発展に大きく寄与するものと予想される。
結論
国立大阪病院で独自に開発した「カード型電子カルテ」は、性格の異なる複数の疾患領域の日常診療においても問題なく稼働することが確認された。このシステムは医療者が自ら創る電子カルテシステムとして有用と考えられる。
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