肺癌診療におけるバーチャルホスピタル構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201300A
報告書区分
総括
研究課題名
肺癌診療におけるバーチャルホスピタル構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
磯部 宏(国立札幌病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年原発性肺癌の死亡数は急激に増加しており、1998年胃癌の死亡数を上回った。さらに罹患数も上昇しており、いずれ胃癌の罹患数を越えるのも明らかである。従って肺癌対策は重要な社会問題である。しかし北海道は広域であり、かつ肺癌診療の専門施設は少なく、また放射線治療施設はさらに限られている。このため患者が特定の施設に集中し入院待機期間が延びたり、専門施設でないため標準的な治療を受けられないことも起こりうる。従って検診施設、一般病院、肺癌専門施設等のネットワーク構築が重要であり、これにより良質な医療サービスの提供、すなわち現時点での標準的治療を生活基盤のあるその地域で受けることができるようになる。特に検診施設と肺癌専門施設とのネットワーク化は人的資源の省力化、効率化につながり、在宅支援施設とのネットワーク化は社会資源の有効利用につながる。本研究は通信網を利用して北海道の肺癌診療施設(検診施設、一般病院、肺癌専門病院、在宅支援施設、緩和医療施設)の情報交換を密にし、各施設を一つの病院の中の一つの病棟ような機能を持たせるバーチャルホスピタルを構築することを目的としている。すなわち、施設完結型ではなく、病病・病診連携を有効に活用した地域完結型の肺癌診療システムの構築である。特に広域で、専門施設が都市部に集中している北海道においては極めて必要性の高い研究と考える。本研究の成果としては各施設のネットワーク化が成されることにより、患者側の利便として、1)検診から精査までの時間が短縮される。2)標準的治療をその地域で受けられる。3)特殊な治療施設へ容易に転院できる。4)訪問看護制度や緩和医療施設を適切に利用できる、等があり、良質で安心した医療サービスを受けることができるようになる。また病院施設としては、1)社会資源を有効に利用できる他、2)病病あるいは病診連携を進められる。3)患者の分配により各施設の効率化がはかれる。4)患者の集積による治療成績の向上や臨床研究の充実がはかれる、等があり、医療資源の適切な配分と科学的根拠の構築に役立つと考えられる。さらにバーチャルホスピタルの構築には患者側への配慮も必要である。すなわち、継続医療に関するインフォームドコンセントや、施設変更に対する不安感解消が重要である。このためには連携クリティカルパスの応用が有益と考えられ、施設間で使用可能なクリティカルパスの開発を行う。
研究方法
肺癌診療のネットワーク構築においては1)診療情報としての画像情報の共有化、2)転院等に関するインフォームドコンセントの充実や患者の不安解消のシステム構築が必要である。まず本研究の推進に当たり、各施設での画像転送システムの構築を検討した。各施設では専用パーソナルコンピューターを専用の画像送信集積装置とすることとし、電話回線、画像取り込み方法、画像送信方法等のシステムにつき検討した。これらの結果を基に、各施設間でのネットワークを構築し、運用面での問題点について検討した。その上で複数の施設と患者で共有する連携クリティカルパスを作成・応用し、その有用性について検討開始する。
結果と考察
ネットワーク構築に必要な電話回線、画像取り込み方法、画像送信方法等につき検討した。電話回線は当初インターネット回線によるネットワーク化を考慮した。しかし、まだインターネットの整備されていない施設の存在やセキュリティへの配慮から、各施設では専用パーソナルコンピューターを専用の画像送信集積装置として用いた、直通電話回線によるネットワークの構築に変更した。また電話回線には速度等よりISDN回線を採用した。将来光ファイバー通信等が主流になると考えられるが、現
システムの3画像のみの通信においては、ISDN回線で十分であると考えられた。但し、検診施設との大量のデータ通信においては、通信速度等に問題の生じる可能性があり、検討課題であった。画像取り込み方法は当初はスキャナ方式を検討したが、大角フィルムを取り込みする大型のスキャナは高価である点、また設置場所に制約があり、不適切と考えられた。近年デジタルカメラの改良が進み、デジタルカメラにて撮影した画像を使用したところ、画像ネットワーク上は十分使用できることが判明し、各施設ともデジタルカメラでの画像取り込み方法とした。さらに画像送信・集積ソフトはファイルメーカー社のFileMaker Pro 5.5Jを採用した。これらにより臨床的には十分耐えられる画像転送システムが構築された。また、個人を特定できない範囲での患者背景と、画像所見3枚の添付であるが、通信速度等も含め、特に運用上の問題はなかった。各施設でISDN電話回線を設置する必要があるが、それ以外に大きな設備上の制約や改修工事等は必要なく、画像転送システムとして十分運用可能と考えられた。現在までのところ、国立札幌病院呼吸器科を中心に、国家公務員共済組合連合会幌南病院呼吸器科と恵佑会札幌病院呼吸器外科の札幌市内の肺癌診療施設でネットワークを構築し実地上の研究を行っている。また国立療養所西札幌病院呼吸器科とのネットワークを準備中である。今後は参加施設を拡大して運用上の問題点、すなわちソフト上の問題点について検討し、臨床への応用を計る。さらに、臨床応用の一環として、ネットワーク上で現時点での標準的治療法の確認や研究的治療法の検討を行う症例検討会の開催や、画像所見の電子化保存による教育的資料の集積の可否を模索する。なお、各施設での患者情報は各施設内で匿名化した上で配信するものとする。またネットワークは直通電話回線を使用し、各施設のパーソナルコンピューターは専用機とし、既存のインターネットとは切り離すことにより、第三者からのアクセスを防ぎ患者情報の保護を行う。これらは画像情報の共有化であるが、もう一方で重要なのは、患者が安心して受けられる医療システムの構築である。効率的なネットワークは患者に様々な社会資源の活用という恩恵を与えるが、転院等の施設変更に伴う精神的ストレスを及ぼす恐れがある。この解決のためには、インフォームドコンセントの充実が重要であり、複数の施設と患者で共有できるクリティカルパスの応用、すなわち連携クリティカルパスが有益と考えられる。最終年度はこの連携クリティカルパスについて検討を進める。以上により医療機関の連携を推進し、良質な医療を効率良く提供できる体制を築くと共に、患者の満足度を上げ安心した医療を提供できるようにする。
結論
肺癌診療のネットワーク構築における画像情報の共有化のため画像転送システムの構築を検討した。デジタルカメラで撮影した画像情報を電話回線を用いて専用のコンピューターシステムにて送信集積することは、比較的安価であり、また施設上の制約もほとんどなく、十分臨床に応用できるものと考えられた。今後複数の施設間での臨床応用、すなわち運用上のソフト面での問題点について検討する。また、患者の不安解消のため、連携クリティカルパスの開発が必要と考えられた。

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